今日読みたい本|『犬飼ですが、猫しか診ません』|伊多波碧|小学館文庫
作家の伊多波碧(いたば・みどり)さんより、新刊『犬飼ですが、猫しか診ません』(小学館文庫)をご恵贈いただきました。本書は時代小説ではありませんが、豪雪で閉じ込められた避難所を舞台に、人と動物たちの交流を描く心温まる現代小説です。
著者について
著者は、2023年に時代小説「名残の飯」シリーズで第12回日本歴史時代作家協会賞シリーズ賞を受賞した実力派作家です。
「名残の飯」シリーズは、隅田川の上流・橋場の渡しにある飯屋を営む母娘を中心に、店を訪れる旅人や土地の人々との交流、四季の風景を鮮やかに描いた市井人情小説の名作です。
時代小説に加えて、朝ドラのモデルとなった人物の生涯を綴ったノンフィクションノベル『裁判官 三淵嘉子の生涯』『やなせたかいの素顔 のぶと歩んだ生涯』(ともに潮文庫)や、『父のおともで文楽へ』『生活安全課防犯係 喫茶ひまわり』(ともに小学館文庫)といった現代小説も手がけています。
大きな事件や派手な展開はありませんが、生きづらさを抱えながらも誠実に今日を生きようとする人々に寄り添い、読者を励ましてくれる温かさに満ちており、読後にはやさしい余韻が残ります。
あらすじ
「犬はお断りだ」――具合の悪いチワワのチーちゃんを動物病院に連れてきた厚子は耳を疑った。獣医の犬飼はまさかの塩対応。さらには「ぼくは獣医じゃない。いわば通訳だ、猫の」とまで言い放つ。幼馴染で市役所職員の綾乃によれば、有能な猫専門医だというが……。
大雪のため避難所に設置された仮設動物病院で、アメショーのモモちゃん行方不明事件、ミックス錆猫タッちゃん誘拐など、次々と不思議な出来事が起こる。猫を偏愛し、人間とのコミュニケーションが苦手な犬飼が、戸惑う周囲を巻き込みながら事件解決に奔走する。猫と人が心を通わせる瞬間に、思わず涙がこぼれるハートウォーミングな物語。
(『犬飼ですが、猫しか診ません』カバー裏の紹介文より、抜粋・編集』
ここに注目!
本作の舞台は、松本市郊外にある信濃大学(信州大学がモデル)に隣接した避難所内の仮設動物病院です。冬の松本の日常の何気ない描写が
生活費が尽き、アパートを夜逃げした厚子は、豪雪による避難所へ愛犬チーちゃんとともに向かいます。ところが、バスの中でチーちゃんの具合が悪くなり、避難所に併設された動物病院へ連れて行くと、獣医の犬飼倫人(いぬかい・のりと)から診療を断られてしまいました。結局、別の獣医に診てもらい、車酔いと判明して症状は落ち着き、住む家をなくした厚子も避難所で生活することになります。
猫を偏愛し、コミュニケーションが苦手で周囲と衝突しがちな犬飼。そんな彼をそっと支える幼馴染の綾乃、避難所で起こるペット絡みの事件をともに解決する警察官の桐山、そして犬飼と何かとぶつかるチーちゃんの飼い主・厚子。登場人物のキャラクターが丁寧に描き分けられており、物語に自然と引き込まれました。
人へのまなざしのやさしさに加え、保護猫の飼い主でもある著者ならではの深い猫愛も随所に感じられ、読んでいて幸せな気持ちになりました。
今年の春、我が家でも保護猫を迎えようと家族で盛り上がりましたが、直前に叶わず残念な思いをしました。それでも、やはり機会があればもう一度迎えたいと改めて思いました。
今回取り上げた本
書誌情報
『犬飼ですが、猫しか診ません』
伊多波碧
小学館・小学館文庫
2025年12月10日初版第一刷発行
カバーデザイン:五十嵐徹
カバーイラスト:双森文
目次
第1章 「犬はお断り」
第2章 「奇跡のモモちゃん」
第3章 「ハクのこと」
第4章 「だから猫しか診ない」










