第8回書評家細谷正充賞授賞式の開催レポート

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第8回書評家細谷正充賞・第6回書架の細充賞 授賞式 ――多彩な物語世界を称える一夜

日本出版クラブホール|2025年11月19日(水)|一般社団法人文人墨客

第8回細谷正充賞受賞者のみなさんと担当編集者のみなさん
2025年11月19日(水)、東京・神田神保町の出版クラブホールにて、「第8回書評家細谷正充賞」および「第6回書架の細充賞」の授賞式が開催されました。

「時代小説SHOW」の中の人(理流)も、メディアとして、授賞式に招待いただきました。
授賞式の様子をレポートします。

「書架の細充賞」とは、細谷正充賞を受賞した作品の担当編集者に贈られる賞で、作品誕生における編集者の尽力を称えるものです。
著者だけでなく編集者の仕事に光を当てる取り組みは意義深く、会場全体に温かな共感が広がっていました。

当日は、作家、編集者、著作権エージェント、出版関係者などが来場し、文学の「現在」を祝う和やかなひとときとなりました。

■ 開会あいさつと賞の概要

司会を務めた三宅あみさんの進行により、両賞の授賞式の開会が告げられました。

続いて、主催である一般社団法人文人墨客の岩田健太郎理事より、開会宣言がありました。
その後、書評家・細谷正充氏のプロフィールおよび「書評家細谷正充賞」の趣旨・選考方針の紹介が行われ、いよいよ講評の時間へと進みました。

■ 第8回書評家細谷正充賞 受賞作と講評

講評を話される星谷正光氏今回の受賞作は以下の5作品です。

・ 『我、演ず』 赤神諒あかがみりょう氏(朝日新聞出版)
・ 『エレガンス』 石川智健いしかわともたけ氏(河出書房新社)
・ 『目には目を』 新川帆立しんかわほたて氏(KADOKAWA)
・ 『死んだら永遠に休めます』 遠坂八重とおさかやえ氏(朝日新聞出版)
・ 『口出し屋お貫』 中島要なかじまかなめ氏(祥伝社)

細谷氏は登壇し、一作ごとに丁寧な講評を行い、選考理由を含め、その魅力をわかりやすく紹介しました。

我、演ず●『我、演ず』 赤神諒氏

戦国時代、上杉・北条という大国の狭間に位置する佐野家の生き残りを描いた作品です。
歴史小説ではあまり注目されてこなかった佐野昌綱という人物を掘り起こし、領主になる前も後も魅力的なキャラクターとして描き切った点が高く評価されました。

細谷氏は「歴史の狭間で埋もれがちな人物に光を当て、その生きざまを立体的に描いた」と述べ、人物造形と物語構成の巧みさを称賛しました。

エレガンス『エレガンス』 石川智健氏

東京大空襲を背景としたミステリー。
“吉川線”の発見者・吉川澄一と、東京大空襲を撮影した写真家・石川光陽という実在人物が、連続事件に挑む構成となっています。

細谷氏は「ミステリーとしての謎解きと、巨大な権力との対峙が密接につながり、娯楽性と社会性が高い次元で両立している」と評価しました。
空襲場面で文体を変えるなど、テーマを描くための工夫にも触れ、その構成力の高さを称えました。

目には目を●『目には目を』 新川帆立氏

少年犯罪をテーマにした社会派ミステリー。
少年院出身者が複数登場し、取材を基にしたリアリティある姿が鮮烈に描かれています。

細谷氏は「新川さんはキャラクターを描き分ける力に優れており、五人の少年がそれぞれ“意外な現実”を背負っている」と述べました。
エンタメ性と社会的意義を併せ持つ点が高く評価されました。

死んだら永遠に休めます●『死んだら永遠に休めます』 遠坂八重氏

ブラック企業で追い詰められる主人公を描く衝撃作。
読む側が息苦しくなるほどの追い込み描写が続きます。

細谷氏は「ここまでヒロインを追い詰めた小説は稀」と驚きを示しつつ、その徹底した描写姿勢を高く評価しました。
ミステリーとしての構成も緻密で、読後に強い余韻が残る作品です。

口出し屋お貫●『口出し屋お貫』 中島要氏

江戸の口入れ屋を舞台に、おせっかいで口出し好きな女性・お貫が活躍する時代小説。
前作『吉原と外』とつながる物語で、登場人物の“その後”が意外な形で結実します。

細谷氏は「声高な主張をせず、“わかる人にはわかる”描き方をする作家」と述べ、さりげない筆致によって江戸の女性たちの生きざまが立ち上がる点を高く評価しました。

■ 表彰式と副賞の贈呈

細谷正充氏から受賞者の石川智健氏に賞状が授与される>講評に続き、授賞式が行われました。
受賞者と担当編集者が壇上に進み、細谷氏から表彰状が読み上げられ、贈呈されました。

表彰を受ける『エレガンス』の担当編集者の辻純平氏と協力編集者の関根享氏書架の細充賞の賞状と副賞は、岩田健太郎理事より、受賞作の担当編集に授与されました。
副賞には、防災グッズが用意されました。
「物語が読者の心の備えになれば」という願いが込められており、会場からは温かな拍手が送られました。

授賞後は、受賞者と編集者が並んでの記念撮影も行われ、華やかなフォトセッションとなりました。

著者の想いがダイレクトに伝わった、受賞者スピーチ

受賞者の赤神諒氏■ 赤神諒氏(『我、演ず』)

赤神氏は開口一番、
「以前からぜひいただきたいと思っていた賞なので、本当に光栄です」
と率直な喜びを語り、会場から温かな笑いがこぼれました。

続けて、戦国の小国を描いた本作について、こう語りました。
「地方からでも、日本の歴史や物語に貢献できるはずだ――そんな思いで書きました」
現在は、地元の新聞社と組んで“小説による町おこし”に取り組んでおり、
書道や絵を学ぶ高校生に、連載小説の題字や挿絵を依頼しているとのこと。

地元の若者と作品をつないでいく姿勢には、
「地方の歴史や文化への愛着が創作の原動力になっている」
という氏の言葉が、そのまま体現されていました。

受賞者の石川智健氏■ 石川智健氏(『エレガンス』)

石川氏は、マイクを握るなり、
「あれこれ考えていたのですが、赤神さんのお話を聞いていて、話したいことを全部忘れてしまいまして……」
と会場を笑わせながらスピーチを始めました。

東京大空襲という重い題材を扱いながら、
エンターテインメントとして成立させる苦心について触れ、
「ミステリーだからこそ描ける歴史の一面があると思って書きました」
と語りました。

「書く前から、書いている途中も、ずっとしんどかった」と明かしつつ、
「それでも読者に届いたことが嬉しい」と、受賞の喜びを噛みしめるように話されました。

また、スピーチの後、
「昭和史を書いたのは初めてで、歴史作家の皆さんにどう受け止められるか、実は戦々恐々でした」
という本音もこぼれ、さらに親近感が湧いてきました。

受賞者の新川帆立氏■ 新川帆立氏(『目には目を』)

新川氏は、細谷賞を次のように位置づけました。
「書き手にとって“別の軸から前へ進んでいる”と教えてくれる賞です」
商業的な売上とは別に、作品そのものが評価された喜びを強調し、
「技術的にはデビュー時から書ける題材。でも、ずっと書かなかった理由は“依頼されなかったから”なんです」
と、率直すぎるほどストレートな言葉も。

そして今回の執筆を後押ししたKADOKAWAの編集者に向けて、
「この作品が生まれたのは、私よりも“こういう作品を出そう”と決めてくださった編集者のおかげです」
と繰り返し感謝を述べ、会場はやわらかな温かさに包まれました。

この日は、新川氏が所属する作家集団の「ケルンの会」の全員が出席。
華やかな連帯感が会場を盛り上げました。

受賞者の遠坂八重氏■ 遠坂八重氏(『死んだら永遠に休めます』)

遠坂氏は、まず作品誕生の経緯をこう明かしました。
「実は“ブラック企業ものを書きたい”と思っていたわけではなく、編集者から声をかけられたのがきっかけでした」

書き進めるうちに、
「ブラック企業やパワハラは、ミステリーと非常に親和性の高いテーマだと気づきました」
と語り、デビュー作から続く“仕事観・労働観”とのつながりも振り返りました。

ラストは凛とした語り口で、
「しんどくても、目を背けられないテーマを、これからも物語として書いていきたいです」
と締めくくられました。

また、後の交流会で伺った執筆スケジュールの話が印象的でした。

フルタイム勤務、覆面作家。
会社勤めのかたわらで、どうやって時間を捻出するかに関心があり、ご本人にうかがったところ、
「通勤電車でスマホのWordに原稿を打ち込む」。
帰宅後にそれを整理する。
という驚きの執筆術に、思わず「すごい……」と声を上げるとともに、納得しました。

受賞者の中島要氏■ 中島要氏(『口出し屋お貫』)

中島氏は、穏やかな笑顔でこう切り出しました。
「この賞ができたときから、いつか呼んでいただきたいと思っていました。本当に嬉しいです」

自身の作品について、
「私の書くヒロインは、たいてい一筋縄ではいかない女性ばかりです」
と語り、会場が笑いに包まれる中、江戸期の女性たちの厳しい立場に話が及びました。

「守ってくれるはずの身内に、かえって人生を縛られてしまう女性たち。
そんな彼女たちを書いてきました」

主人公“お貫”の名前にも、
「どんな状況でも“意志を貫く”女性であってほしい」
という願いを込めたと語られました。

さらに、ご自身の母の強さに触れ、
「母から受け継いだ“芯の強さ”が、時代小説を書く原点になっています」
という言葉には、会場も深く頷いていました。

最後には、
「親の介護で執筆ペースを落としていましたが、来年からは少し上げたいと思います」
と未来への前向きな決意を述べ、温かな拍手に包まれました。

式典を終えて

受賞者の新川帆立氏と「ケルンの会」の仲間たちこうして第8回書評家細谷正充賞の授賞式は、終始なごやかな雰囲気のうちに進行しました。
多様なジャンル――戦国もの、歴史ミステリー、社会派ミステリー、ブラック企業もの、江戸時代小説――が並び立つラインナップは、日本の物語世界の豊かさと広がりを改めて感じさせるものだったと言えます。

授賞式の後にはフォトセッションが行われ、その後は交流の時間へ。
作家と編集者、書店員、読者が垣根なく語り合い、新たな出会いや企画の種があちこちで芽を出していました。

文学を愛する人々が一堂に会し、「面白い本」によってつながる――。
第8回書評家細谷正充賞・第6回書架の細充賞の授賞式は、そんな書物の祝祭にふさわしい、あたたかな一夜となりました。

本日のおみやげ

第8回細谷正充賞のおみやげ名アンソロジスト・細谷正充さんが編纂された時代小説アンソロジー3冊と、重版祈願の霊験ある代々木八幡のお守り、非常食品をおみやげとしていただきました。

・細谷正充編『おやつ 〈菓子〉時代小説傑作選』(PHP文芸文庫)
・細谷正充編『アジト人情 食の時代小説傑作選』(中公文庫)
・細谷正充編『東海道綺譚 時代小説傑作選』(ちくま文庫)
・代々木八幡宮のお守り
・ホリカフーズ「レスキューフーズ一食ボックス シチュー&ライス」
・井村屋 えいようかん 煉 2本
・伊藤園 おーいお茶 PURE GREEN 緑茶

今回ご紹介した本