【日々是好日】三國青葉『母上は別式女 3』と「飛ぶ教室 第80号」

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今日読みたい本|『母上は別式女 3』|三國青葉|講談社文庫

母上は別式女 3

日々是好日(ひびこれ・こうじつ)」という言葉があります。調べてみると、中国・宋代に成立した禅宗の公案集『碧巌録(へきがんろく)』に収録された、唐代の禅僧・雲門禅師の言葉だそうです。目の前の出来事だけで「良い悪い」を判断せず、晴れの日も雨の日も、楽しい日も辛い日も、すべてがかけがえのない「良い日」であるという意味です。そんな気持ちで、毎日を少しでも前向きに過ごしていきたいと思います。

十数年来の「推し」の作家である三國青葉(みくに・あおば)さんより、2025年10月刊行の新刊『母上は別式女 3』と、児童文学誌「飛ぶ教室 80(2025年冬号)」をご恵贈いただきました。ありがとうございます。

『母上は別式女 3』は、別式女(べっしきめ)という、藩主の子女の警護を担う役目に就く万里村巴(まりむら・ともえ)を中心に、夫の音次郎、息子の誠之助、父の源蔵といった家族を描く江戸ホームドラマです。

武芸に秀でているものの料理はまったくダメな巴と、雨城(うじょう)藩の賄い方に「助(すけ)」として出仕し、食べ歩きが趣味で料理上手な音次郎。役割が逆転したような二人と、食いしん坊で物怖じしない誠之助、婿の音次郎と何かと張り合う源蔵。そんな愉快な家族が織りなす物語は1話完結の連作形式で、読むと心がほっこり温かくなります。

第3巻では、十二歳の娘と暮らす新任の馬廻役・村野小平太の家に招かれた万里村一家の出来事を描く「第一話 酉の市」、雨城藩の藩主の息女・由利姫が町歩きに出かけ、そこで起こる事件を描いた「第二話 師走」、そして、ある日音次郎が帰宅せず、巴が探し回ることになる「第三話 新春」を収録。年の暮れから新春へ移ろう江戸の町の風情も楽しめます。

飛ぶ教室 80号(2025年 冬)

「飛ぶ教室」は、教科書出版社・光村図書が刊行する季刊の児童文学誌です。ドイツの作家エーリッヒ・ケストナーの名作『飛ぶ教室』から誌名を取っており、「児童文学の冒険」というキャッチフレーズが掲げられています。
第80号(2025年冬)の特集は「午後3時のものがたり」。放課後やお昼寝、帰り道、おやつの時間など――昼と夜のあいだの、永遠のような時間に生まれる物語がテーマです。

三國さんは「おやつどき」という時代小説の短編を寄稿しています。家族が営む小さな飯屋でお使いを手伝う十一歳のお鶴と、同じ寺子屋に通う同い年の平吉。おやつをめぐる、二人の淡い恋を描いた佳編です。『母上は別式女』の誠之助にも通じますが、著者は少年少女を描く筆にも定評があり、本作でもその魅力が十分に感じられます。

『飛ぶ教室』第80号の表紙装画と特集の扉絵は、agoera(アゴエラ)さんが手がけており、特集の雰囲気にぴったりです。
agoeraさんは、歴史時代小説『火山に馳す 浅間大変秘抄』(赤神諒著・KADOKAWA)や『エクアドール』(滝沢志郎著・双葉社)の装画も担当されており、その独自の筆致から強いイマジネーションを喚起されます。

今回取り上げた本



書誌情報

『母上は別式女 3』
三國青葉
講談社・講談社文庫

2025年10月15日第1刷発行
カバー装画:丹地陽子
カバーデザイン:鈴木久美

目次
第一話 酉の市
第二話 師走
第三話 新春

本文215ページ/文庫書き下ろし