『みこころ 風の市兵衛 弐』 『でれすけ 常陸の鬼・佐竹義重』 『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』 『兄思い 風烈廻り与力・青柳剣一郎』『完本 二十六夜待』
祥伝社文庫の2025年10月新刊5冊をご紹介いたします。
時代小説の魅力を存分に味わえる、バラエティ豊かなラインナップです。
辻堂魁(つじどう・かい)さんの『みこころ 風の市兵衛 弐』は、人気シリーズ「風の市兵衛」の第35巻となります。
箕輪諒(みのわ・りょう)さんによる新シリーズ第2弾、『でれすけ 常陸の鬼・佐竹義重』は、医療と謎解きを融合させた時代ミステリーです。
2014年に急逝された直木賞作家山本兼一(やまもと・けんいち)さんの代表シリーズの一つ、『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』は、装いも新たに復刊されました。
さらに、小杉健治(こすぎ・けんじ)さんによる2冊も刊行されています。『兄思い 風烈廻り与力・青柳剣一郎』は第68巻という長寿シリーズの最新刊であり、『完本 二十六夜待』は傑作短編捕物小説集の復刊です。
『みこころ 風の市兵衛 弐』

辻堂魁
祥伝社・祥伝社文庫
カバーデザイン:芦澤泰偉
カバーイラスト:卯月みゆき
ここに注目!
文政九年(1826年)、芝新網町代地の長屋に住む陰陽師・うしな秋蔵が、胸を刺された死体で発見されました。
岡場所で下女奉公をする十三歳の娘・みつぐは、道で遊女屋の女将に折檻されているところを、呉服太物所の女将・婉(えん)に助けられます。ところが、しばらくしてある夜、偶然にも婉の秘密を知ってしまいます。
婉がよからぬことに巻き込まれたのではと案じたみつぐは、渡り用人を生業にする唐木市兵衛に助けを求めます。
婉はなぜ秘密を抱えていたのか――。市兵衛が探索を進めるうちに、婉の意外な過去が明らかになります。
一方、秋蔵から手紙を受け取った京の陰陽師たちは、仇討ちのため江戸に乗り込み、暗躍を始めます。
貧しくも純粋な少女・みつぐ。やがて女郎として生きざるを得なくなる運命を前に。
市兵衛は親友に、「依頼人の許しがなければ話せぬことがある。たとえ十三歳の娘の頼み事でもな」と語ります。
法度を守ることは正義でありながら、その正義によって苦しむ者もいる――。
市兵衛の誠実さと優しさが胸に深く響く一作です。
あらすじ
江戸のかくれ切支丹をほのめかす手紙を残して、三田の陰陽師・うしな秋蔵(ときぞう)が殺された。 一方、近くの岡場所で下女奉公するみつぐは、道で折檻されていたところを呉服太物所の女将・婉(えん)に救われる。 偶然にも婉の秘密を知ってしまったみつぐは、唐木市兵衛を頼る。 異変を察した市兵衛が探索を進めると、秋蔵殺しの復讐に燃える陰陽師一派もまた動き始める――。 (カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次
序章 異教徒
第一章 試煉
第二章 おらしょ
第三章 踏絵
第四章 いんへるの
終章 福音
2025年10月20日 初版第1刷発行
本文323ページ
文庫書き下ろし
今回取り上げた本
『でれすけ 常陸の鬼・佐竹義重』

箕輪諒
祥伝社・祥伝社文庫
カバーデザイン:かとうみつひこ
カバーイラスト:中野耕一
ここに注目!
佐竹家は清和源氏・源義光(源頼義の三男)の子孫にあたる名門の一族です。第18代当主の佐竹義重は、鬼神のように勇猛な戦いぶりから「鬼義重」と呼ばれた武将で、豊臣秀吉、石田三成、徳川家康といった天下の実力者たちと渡り合いながら、家を守り抜いた人物として知られています。
しかし、時代小説で描かれることは意外と少なく、その名を知る人も多くはありません。私自身も本書に出会うまでは、義重という人物についてほとんど知りませんでした。
本書は、戦国の世を駆け抜けた義重とその子・義宣の姿を活写した歴史長編です。佐竹家がいかにして激動の時代を生き延びたのか、その軌跡が丹念に描かれています。
さらに、著者は文庫オリジナルの特別付録として「佐竹義重略伝」を収録しています。作品を通して義重や佐竹家に興味を持った読者が、その生涯や当時の時代背景をより深く知ることができる構成になっています。
あらすじ
かつて“鬼”と恐れられた荒武者・佐竹義重。子の義宣に家督を譲り隠居の身となった義重に、天下統一を果たした豊臣秀吉から常陸平定の命が下る。悲願の成就へと乗り出す義重だったが、義宣から届いたのは御家存続を揺るがす報せだった。終焉へ向かう戦国の世で、変化に戸惑う義重と、己の信念で権力と渡り合う義宣。名門佐竹家を護り抜いた父子の絆を描く歴史小説。 (カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次
第一章 平定
第二章 東は東
第三章 花散る里
第四章 冢中の枯骨
第五章 巴渦
第六章 その香りは童心にも似て
第七章 鬼骨は折れず
文庫版特別書き下ろし 佐竹義重略伝
2025年10月20日 初版第1刷発行
本文355ページ
『でれすけ』(徳間書店・2017年8月刊行)を大幅に加筆修正したもの。
今回取り上げた本
『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』

山本兼一
祥伝社・祥伝社文庫
カバーデザイン:bookwall
カバーイラスト:丹地陽子
ここに注目!
山本兼一さんは、2004年に『火天の城』で第11回松本清張賞を受賞し、2009年には『利休にたずねよ』で第140回直木賞を受賞しました。歴史小説家としてさらなる活躍が期待されていた中、2014年2月に57歳の若さで急逝されました。
本書は、2008年に単行本として刊行され、第139回直木賞候補にもなった作品です。2010年に文春文庫より文庫化され、今回、祥伝社文庫で15年ぶりの復刊となりました。時代小説ファンにとって、再び手に取れるのはうれしい朗報です。
さらに、第2巻『ええもんひとつ』(2025年12月刊行)、第3巻『赤絵そうめん』(2026年2月刊行)、第4巻『利休の茶杓』(2026年4月刊行)と、隔月での連続刊行も予定されています。しばらくの間、このシリーズを楽しめそうです。
本作は、わけありの夫婦が営む京の道具屋「とびきり屋」を舞台に、曰く付きの客や品々が次々と登場する連作形式の物語です。
幕末を背景に、近藤勇、土方歳三、芹沢鴨、高杉晋作、坂本龍馬、武市半平太ら歴史上の人物が顔を見せ、ゆずと真之介の夫婦もその時代の渦に巻き込まれていきます。
人情と商いの妙を描きながら、歴史の面白さにも触れられる魅力あふれるシリーズです。
あらすじ
京で屈指の茶道具商「からふね屋」の愛娘・ゆずは、二番番頭の真之介とかけおち同然で夫婦となり、三条木屋町に道具屋「とびきり屋」を開いた。 元は旅籠だった店には、近藤勇や高杉晋作、坂本龍馬など、幕末の名だたる面々が訪れる。騒然とした時代の荒波の中で、次々と起こる難題を“目利き”と“度胸”で乗り越えていく二人。痛快で心温まる夫婦の物語です。 (カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次
千両花嫁
金蒔絵の蝶
皿ねぶり
平蜘蛛の釜
今宵の虎徹
猿ヶ辻の鬼
目利き一万両
解説・内藤麻里子
2025年10月20日 初版第1刷発行
本文444ページ
初出
千両花嫁 『オール讀物』2004年12月号
金蒔絵の蝶 『オール讀物』2005年4月号
皿ねぶり 『オール讀物』2005年10月号
平蜘蛛の釜 『オール讀物』2006年4月号
今宵の虎徹 『オール讀物』2006年10月号
猿ヶ辻の鬼 『オール讀物』2007年1月号
目利き一万両 『オール讀物』2007年12月号
『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』(単行本:2008年3月、文藝春秋刊、文庫:2010年11月、文春文庫刊)
今回取り上げた本
『兄思い 風烈廻り与力・青柳剣一郎』

小杉健治編
祥伝社・祥伝社文庫
カバーデザイン:芦澤泰偉
カバーイラスト:浅野隆広
ここに注目!
「風烈廻り与力・青柳剣一郎」シリーズの第1巻『札差殺し』が刊行されたのは2004年9月。
そして、2025年10月に刊行された本作『兄思い』は、実に第68巻となります。
20年以上にわたって読者を魅了し続けるこのシリーズの魅力は、何よりも主人公の人間味にあります。
南町奉行所の風烈廻り与力・青柳剣一郎は、火災防止のため市中を巡回するのが本来の職務ですが、年番方与力の宇野清左衛門に才を見込まれ、難事件の探索を任されることもしばしばです。
私利私欲のために弱者を陥れる者、やむを得ぬ事情から悪事に手を染めてしまう者――。
青柳剣一郎は、身分や表面に惑わされることなく、その眼力と信念で事件の真相を見抜き、悪を討ちます。
得意とする柳生新陰流の剣で悪を一刀両断する場面には、勧善懲悪の爽快さがあふれています。
本書でも、女中殺しを自供した男に不審を抱き、その裏に潜む真実を探る剣一郎の慧眼が光ります。
信念と優しさを併せ持つ主人公の姿に心を打たれる、読みごたえ十分の人情時代小説です。
あらすじ
深川万年橋の下で、料理屋の女中・お仲の亡骸が見つかった。 喉を斬られた姿に、将来を誓い合った行商人の政次は慟哭する。 しかし、小間物商の仲間の死を知るや、政次はお仲殺しを自供。 経緯に不審を覚えた青柳剣一郎は、吟味方与力・横尾左門らと共に再探索を開始する。 政次が大店の木綿問屋を勘当された過去、そして美しい妹の存在が次第に浮かび上がる――。 与力たちの温かな人情が胸に沁みる物語です。 (カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次
第一章 自白
第二章 辻褄合わせ
第三章 寮の小部屋
第四章 嘘と真
2025年10月20日 初版第1刷発行
本文324ページ
文庫書き下ろし
今回取り上げた本
『完本 二十六夜待』

小杉健治
祥伝社・祥伝社文庫
カバーデザイン:芦澤泰偉+明石すみれ
カバーイラスト:遠藤拓人
ここに注目!
「二十六夜待(にじゅうろくやまち)」とは、旧暦の1月と7月の26日の夜に月の出を待って拝む風習のことです。
月の光の中に阿弥陀・観音・勢至の三尊が現れるとされ、拝むことで幸運を授かるという信仰がありました。
中でも高輪や品川の海岸は多くの人で賑わい、料理屋や屋台が立ち並び、歌や芸が響く華やかな夜だったと伝えられます。
本書は、罪を負う者や岡っ引きたちを描いた七つの短編を収めた作品集です。
それぞれに異なる人間模様と職業観を持つ岡っ引きが登場し、後ろ暗い過去を抱えながら市井に生きる人々と交わります。
「罪を憎んで人を憎まず」という言葉の意味を深く考えさせられる、心に沁みる人情捕物帳です。
表題作「二十六夜待」では、十六年前の事件で道を分かつことになった二人の男が、再び二十六夜待の夜に再会します。
一人は堅気の鉋職人・勘助として生き、もう一人は紙屑買いの十蔵としてさまよいながら、二人を追い続ける岡っ引き・市兵衛がその運命を見届けます。
静かに、しかし力強く人の罪と赦しを描く、良質な市井人情物語です。
そういえば、辻堂魁さんの『みこころ 風の市兵衛 弐』でも、事件が起こったのは二十六夜待の夜でした。偶然ながら、興味深い響き合いを感じます。
あらすじ
七月二十六日の夜。岡っ引きの市兵衛は、人気のない神社で語り合う二人の男を見つめていた。 鉋職人の勘助と紙屑買いの十蔵。久々の再会を果たした二人だが、市兵衛にはその縁を断ち切らねばならない理由があった。 十六年前、ある太物商の火事に二人は関わっていた――。 事件は、勘助が抱える亡き妻や一人娘への想い、そして秘めた過去へとつながっていく。(「二十六夜待」) (カバー裏の説明文より抜粋・編集)
目次
二十六夜待
螢火
献身
逢引
囲い者
島帰り
形見
2025年10月20日 初版第1刷発行
本文341ページ
『二十六夜待』(祥伝社文庫、2005年12月刊行)に、著者自身が加筆修正した「完本」です。
今回取り上げた本
















