『もゆる椿』|天羽恵|徳間文庫

天羽恵(あまう・めぐみ)さんによる時代小説、『もゆる椿』(徳間文庫)をご紹介します。
著者について
天羽恵さんは、2022年に「日盛りの蝉」で第6回大藪春彦新人賞を受賞されました。
女郎のおさきが、敵持ちの若い侍・藤岡と仮初めの夫婦を演じる物語で、紙書籍では未刊ながらKindle版で読むことができます。
本作『もゆる椿』は、2023年に発表されたデビュー作であり、2024年第13回日本歴史時代作家協会賞新人賞の候補作にも選ばれました。惜しくも受賞は逃したものの、高い評価を受けた注目作です。
最新作『誓いの簪』(徳間書店)も刊行されており、天羽さんは実力派の新進時代小説家として注目を集めています。
あらすじ
旗本の次男坊・真木誠二郎(まき・せいじろう)は、裏目付の佐野からある御役目を言い渡される。 それは、尊王攘夷派の黒幕を誅殺するため、刺客の供をして江戸から京まで同行せよという任務だった。 しかし誠二郎は、生まれつきの臆病者。鬼のような刺客と聞いて震え上がるが、現れたのは年端もいかない少女・美津だった。 悲しい過去を背負う彼女を守るため、誠二郎は死力を尽くすことを心に誓う。 謀略と陰謀が渦巻く仇討ちの旅が、今、幕を開ける――。
(『もゆる椿』カバー裏紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
刺客の少女・お美津と、人を斬れない臆病な武士・誠二郎。
正反対の二人がバディを組み、江戸から京へと旅をする――その構図が本作の大きな魅力です。
誠二郎は、下級旗本の次男坊で二十歳の青年。
小野派一刀流の目録を得た剣の達人でありながら、真剣勝負は怖く、血を見ることも苦手という臆病な性格です。
裏目付の佐野から十両の支度金を渡されて屋敷を出て、長屋での暮らしを始めます。
刺客の目付役として京まで同行するという重い任務に怯えつつも、一人暮らしの中で始めた料理に小さな楽しみを見出すという、人間味のある青年です。
一方、お美津は奇妙な京言葉を話す十二歳のあどけない少女。
しかし、その出自は幕府配下の“里の者”――多摩の外れに潜む刺客の一族で、幼くして修羅の道を歩んできました。
壮絶な過去を抱えながらも、誠実で優しい誠二郎に亡き兄の面影を重ね、次第に心を開いていきます。
誠二郎もまた、お美津を妹のように思い、守ろうとしますが……。
可憐な少女がおそるべき刺客へと変貌するギャップが鮮烈で、二人の旅のやり取りには思わず引き込まれます。
東海道を舞台に、剣と情が交錯するロードムービーのような展開は、一気読み必至の幕末エンターテインメントです。
旅の果てに、二人を待ち受ける運命とは――。
また、文庫版には単行本未収録の書き下ろし短編「鬼姫」が収録されており、物語の後日談を楽しむことができます。ファンにはうれしい特典です。
今回取り上げた本
書籍情報
もゆる椿
天羽恵
徳間書店・徳間文庫
カバーイラスト:洵
カバーデザイン:大武尚貴
2025年10月15日 初刷
目次
もゆる椿
鬼姫
解説 吉田伸子
本文325ページ
「もゆる椿」(徳間書店、2023年10月刊)
「鬼姫」書き下ろし







