「三河雑兵心得」「北近江合戦心得」に続く、戦国三部作、開幕

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『真田武士心得(一) 右近純情』|井原忠政|文春文庫

真田武士心得(一) 右近純情 (文春文庫)

井原忠政(いはら・ただまさ)さんによる文庫書き下ろし時代小説、『真田武士もののふ心得(一) 右近純情』(文春文庫)をご紹介します。

「三河雑兵心得」、「北近江合戦心得」に続く、〈井原戦国三部作〉の掉尾を飾るシリーズ「真田武士(もののふ)心得」が、ついに幕を開けました。

徳川家康の天下統一を描いた「三河雑兵心得」、豊臣秀吉の合戦を描いた「北近江合戦心得」に対して、「真田武士心得」では、秀吉・家康の時代に“表裏比興者ひょうりひきょうのもの”と呼ばれた戦国随一のくせ者・真田昌幸率いる真田家に焦点を当てています。

いわば、これまでの二作で描かれた時代を「第三極」から見た構図となっており、戦国ファンにとっては、井原戦国ワールドをさらに深く味わえる、魅力あふれるシリーズの誕生といえるでしょう。

あらすじ

叔父の裏切りによりすべてを失った鈴木右近。彼の胸にあるのは、ただ一つ――両親の無念を晴らす復讐の誓いでした。孤児となった右近を拾い、温かく見守ったのは主君・真田信幸夫妻。 主への忠義と仇討ちの狭間で揺れながらも、己の信義を貫くために野太刀を振るう若者。激動の戦国時代を駆け抜ける男の熱き魂の成長物語が、今、幕を開けます。 (『真田武士心得(一) 右近純情』カバー裏紹介文より抜粋・編集)

ここに注目!

本作の面白さの第一は、主人公・鈴木右近(幼名・小太郎)のキャラクター造形にあります。
六歳のとき、名胡桃城代であった父・鈴木主水もんどと母・志野が、城を奪われた責めを負って自裁(名胡桃城事件)し、孤児となった小太郎は、老臣・高橋主計に連れられて真田家に引き取られます。真田信幸のもとで小姓として仕えながら成長していきます。

名胡桃城事件の張本人は、父の実弟であり、小太郎の叔父にあたる中山九兵衛です。彼は謀反を起こし、沼田城から繰り出した北条の兵を名胡桃城に入れて奪取しました。さらに、九兵衛には母・志野と通じていたという噂まであり、幼い小太郎は彼を仇として生きることを誓うのです。

外様の身でありながら、信幸・小松殿夫妻に寵愛されたため、家中の反感を買い、同僚からのいじめにも耐える日々。小太郎は不満を胸に秘め、剣の名手・九兵衛を討つために、重い木剣を振る鍛錬を重ねていきます。

八年後の慶長三年(1598)四月、十五歳となった小太郎は、名を「左近」と改め、北条家滅亡後に小早川家に仕える九兵衛を討つため、真田家を離れる決意をします。

右近の特徴は、まずその「デカさ」です。身の丈百八十六センチの筋骨隆々たる体格で、剣の師・柳生宗章から「柳生熊五郎」の名を授かるほど。

しかし、性格はムッツリで喜怒哀楽を表に出さず、人間不信のため友もいません。憎まれ口や不平を口にしては、人からは不快に思われる存在。明朗快活な主人公が多い時代小説の中では、きわめて異色の“純情ヒーロー”といえるでしょう。

「お前は殿様と私以外、誰も信用しないという。人の世が世知辛いのは認めるが、お前はまだ若い。 そう頑なにならず、一人また一人と信頼できる人物をゆっくり増やしていきなさい。 そのような生き方をお前にすすめます」 (『真田武士心得(一) 右近純情』P.95より)

かつて小松殿からかけられたこの言葉を胸に、右近はどのような活躍を見せ、いかにして成長していくのでしょうか。

2025年11月に発売予定の第2巻『関ケ原純情』では、右近が宿命の関ケ原へと向かい、さらなる戦いに挑みます。
右近の戦国成長譚は始まったばかりですが、早くも大きなヤマ場を迎えようとしており、次巻への期待が高まります。

井原戦国三部作の比較

今回取り上げた本



書籍情報

真田武士心得(一) 右近純情
井原忠政
文藝春秋・文春文庫

装画:岡田航也
デザイン:征矢武

2025年10月10日 第1刷

目次
序章 そもそもの始まりは聚楽第
第一章 本丸御殿の孤児
第二章 右近、右往左往する
第三章 犬伏の別れ
第四章 己が城を攻める――第二次上田合戦
終章 長躯、関ケ原まで

本文275ページ
本書は文庫書き下ろし