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逆玉婚か?繁盛の切り札か? 大店仕出屋の婿どのの役目とは

『婿どの相逢席』|西條奈加|幻冬舎

婿どの相逢席西條奈加さんの連作時代小説、『婿どの相逢席(むこどのあいあいぜき)』(幻冬舎)を紹介します。

本書は、2021年、心淋し川(うらさびしがわ)』で第164回直木賞を受賞した著者が贈る、仕出料理屋を舞台にした、連作形式の人情時代小説です。

今回は、Amazonでポイント50%還元キャンペーンをやっていたので、Kindle版を入手して読みました。

小さな楊枝屋の四男坊・鈴之助は、相思相愛のお千瀬の生家、大店の仕出屋『逢見屋』へめでたく婿入り。誰もが羨む逆玉婚のはずだったが……。
料理が取り持つ情けと縁。くすっと笑って、ほろりと泣ける感動の夫婦奮闘記!

(『婿どの相逢席』カバー帯の紹介文より)

鈴之助は二十五歳、築地の南小田原町にある、小さな楊枝屋の四男坊。
新橋加賀町にある、老舗の仕出屋『逢見屋(おうみや)』の長女お千瀬から、半年前に婿入りの話を打ち明けられました。

「相手は三人姉妹の長女であるのだろう? ゆくゆくはおまえが店を継ぐということか」
「男ながらに、玉の輿ではないか!」
「そんなうまい話が、この世にあるとはな。おれもぜひ、あやかりたいものだ」

(『婿どの相逢席』 P.5より)

鈴之助は、心悸の病のごとく胸がばくばくと脈打ち、息がうまく継げずに倒れそうになりながらも、喉が裏返りとんでもない声になりましたが、「喜んで!」と快諾し、今日、遂に婚礼の日を迎えました。

料理を作って届けるのが仕出しですが、料理人が出向いて客先で仕上げることも多く、また仕出屋となっていますが、料理屋のように貸座敷を有してそこで料理を供することもありました。

大店仕出屋の家付き娘としがない小店の四男坊で釣り合いが取れないところで、お千瀬の婿入りの申し出に誰よりも驚いたのは鈴之助でした。否も応もなく承知を伝えましたが、自分に逢見屋の若主人が務まるのか、不安はいまも拭えません。

婚礼の日の翌朝、鈴之助は逢見屋の婿の役目を、大女将でお千瀬の祖母お喜根と女将で母のお寿佐から告げられました。

逢見屋は代々、女が家を継ぎ、女将として店を差配してきました。つまり、大女将と女将、そして若女将のお千瀬がこの家の主人で、婿の役目は子作りに励み、女の子を生すことのみと。

祝言の翌日に、隠居を申し渡されたようなものです。
さほど物事を深刻にとらえない性分の鈴之助にとっても応えました。天にも昇るような心持から、一気に地上に落とされて、勢いで地中に深くめり込んだ心地になりました。

義母から取柄もなく才もなく、意気地なしの凡庸な男と言われた鈴之助ですが、逢見屋の商いを変えたいと考える妻で若女将お千瀬の思いを知り、料理屋の商いを学び始めました。

逢見屋の若主人となるべく、まず、新しい身内となった祖母、義父母、ふたりの義妹との関わりを持ちたいと動く鈴之助ですが……。

逢見屋の身上は、家族や縁者が集う場を仕立て、美味しいものを食べながら、くつろいでもらうこと。新婚の二人も、知己や縁者が、互いに会う……相逢う席、相逢席を取り持つことを目指します。

競合の料理屋からの嫌がらせなど、困難にぶつかり、戸惑いながらも情を持って、人の縁を大切にして、しなやかに乗り越えていく主人公が好ましく、何とも読み味のよい作品です。

婿どの相逢席

西條奈加
幻冬舎
kindle版
2021年6月30日発売

装幀:鈴木久美
装画:はぎのたえこ

●目次
第一章 逢見屋の婿
第二章 閻魔の休日
第三章 井桁の始末
第四章 初午の災難
第五章 菱に片喰
第六章 墨堤・花見の宴
第七章 宇奈月の宵
第八章 落ち奪き
第九章 悲喜交々
第十章 因果応報

本文339ページ

初出:岩手日報 函館新聞 室蘭民報 北日本新聞 十勝毎日新聞 山口新聞 日本海新聞 大阪日日新聞 釧路新聞 秋北新聞 福島民友新聞 紀伊民報 福井新聞に連載された作品を加筆修正したもの。
単行本『婿どの相逢席』を底本に作成

■Amazon.co.jp
『婿どの相逢席』Kindle版(西條奈加・幻冬舎)

西條奈加|時代小説ガイド
西條奈加|さいじょうなか|時代小説・作家 1964年、北海道生まれ。東京英語専門学校卒業。 2005年、『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞で大賞を受賞してデビュー。 2012年、『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞...