刀嫌いの剣豪×刀剣蒐集の美女。名刀が騒ぐ、大正ノワール

『帝都の用心棒 血刀数珠丸』|馳月基矢|小学館時代小説文庫

帝都の用心棒 血刀数珠丸馳月基矢(はせつきもとや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『帝都の用心棒 血刀数珠丸』(小学館時代小説文庫)を入手しました。

著者は、2020年、デビュー作の『姉上は麗しの名医』で、第9回日本歴史時代作家協会文庫書き下ろし新人賞を受賞し、本書が待望の第2作となります。
今回は大正に時代を移し、名刀と呼ばれる日本刀が次から次へと登場する刀剣ミステリーです。

「妖刀が人を斬っている」と噂を聞いた帝大教授の山川健次郎は、真相を突き止めてほしいと、加能碧一(かのうへきいち)と行成光雄に依頼した。梁山泊屋敷に出入りする用心棒で、刀嫌いの剣術遣い碧一と、全身に武器を仕込む光雄は、早速、刀剣蒐集家ウィルソンの邸へ赴く。彼が蔵する名刀四谷正宗こと、源清麿が血染めになっていたらしいのだ。拵えの装飾には蜘蛛が施されていたというが、近頃富裕層を取り込みつつある謎の組織〔蜘蛛の会〕を主宰し、異常な力を使うと言われる妖女、多摩峰トワ子が関係しているのか? 藤田五郎翁も助太刀するが……。大正ノワール日本刀アクション!

(カバー裏面の説明文より)

大正二年春の夜、藤田五郎翁は、血の匂いを嗅ぎ、刀を手に裏戸から飛び出しました。ごく近い場所、本郷区真砂町の人通りのない坂道で、人が斬られているのを見つけました。
頭も体も暗色の襤褸で覆われている巨漢が、血染めの太刀を携えていました。

 人力車が横倒しになっている。首のない車夫が車輪の下でひしゃげている。客の男は道端に投げ出されていた。身なりのよい男だ。袈裟懸けに斬られている。車夫の首は男の傍らに転がっている。
 五郎翁は刀を構えた。
「何奴だ」
 巨漢は答えず、ただ唸りを上げた。襤褸の内側にくぐもる声は、まるで獣の喉から放たれるかのようだ。さもなくば鬼か。もののけか。
 
(『帝都の用心棒 血刀数珠丸』P.8より)

夜、路上で人が斬り殺される事件が連続して発生し、犯行を予告するように血染めの刀と数珠玉が発見され、死体のそばにも数珠玉が転がっていたことから、三文雑誌は妖刀のしわざだと書いています。

東京帝国大学教授の山川健次郎は、よろず請負屋・梁山泊屋敷の用心棒、加能碧一と行成光雄に、血染めの刀の目撃者で刀剣オタクの帝大生・中村泉助の護衛し、彼とともに妖刀事件を解決するように依頼しました。

刀嫌いながら剣の遣い手で戦闘員の碧一と、隠密術が得意で全身に武器を仕込む光雄。
外見も性格も役割も対照的な二人が活躍する、大正ノワール(暗黒小説)です。デビュー作に次いで、本書も、バディ小説としても楽しめます。

旧幕時代に京都で佐幕派の剣客として知られた藤田五郎翁に、会津白虎隊出身の山川健次郎に加え、刀剣蒐集する謎の美女・多摩峰トワ子、梁山泊屋敷の令嬢・水城千鶴子など、実在・架空の人物が入り乱れて、謎に満ちた物語を彩っていきます。

本書の読みどころの一つは、日蓮上人の護刀であった数珠丸をはじめ、名刀が物語の展開にあわせて登場し、それぞれの日本刀の魅力やうんちくが随所に描かれていくことです。読み味がよいせいか、日本刀に詳しくなくても物語に引き込まれ、自然と日本刀に興味が湧いてきます。

帝都の用心棒 血刀数珠丸

馳月基矢
小学館 小学館時代小説文庫
2021年1月9日初版第1刷

カバーイラスト:慧子
カバーデザイン:鈴木俊文(ムシカゴグラフィクス)

●目次
一、妖刀
二、鋭鋒
三、虎穴
四、邂逅

本文314ページ

文庫書き下ろし。

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『姉上は麗しの名医』(馳月基矢・小学館時代小説文庫)
『帝都の用心棒 血刀数珠丸』(馳月基矢・小学館時代小説文庫)

馳月基矢|時代小説ガイド
馳月基矢|はせつきもとや|時代小説・作家 1985年、長崎県五島列島生まれ。 京都大学文学部卒、同大学院修士課程修了。 2019年、小学館第1回日本おいしい小説大賞に、「ハツコイ・ウェーブ!」(氷月あや名義)で最終選考に残り、デビュ...