今川、武田、北条、徳川…戦国興亡の舞台、静岡の城の物語

『アンソロジー しずおか 戦国の城』

アンソロジー しずおか 戦国の城“歴史小説イノベーション”を掲げ作家集団、操觚の会(そうこのかい)に所属する気鋭の作家による、歴史・時代小説アンソロジー、『アンソロジー しずおか 戦国の城』(静岡新聞社)を紹介します。

静岡県出身の鈴木英治さん、永井紗耶子さん、蒲原二郎さんをはじめ、谷津矢車さん、坂井希久子さんら若手実力派まで、旬の歴史時代作家が終結し、書き下ろしで挑んだ注目のアンソロジーです。

徳川、武田、今川、北条……群雄が割拠した時代。
静岡には駿河、遠江、伊豆の三国があった。
要衝に築かれた幾つもの城――。
そこは武門の意地と誇りがぶつかる最前線だった。

(本書カバー帯の紹介文より)

静岡県は、戦国時代、伊豆・駿河・遠江の三国に分かれていました。
本書では、静岡県内にある下記の十の城を描いています。

伊豆国:山中城、韮山城、下田城
駿河国:蒲原城、今川館、諏訪原城
遠江国:懸川(掛川)城、高天神城、堀川城、曳馬城(後の浜松城)

巻頭に掲載された地図を見ると、静岡全県に散らばっていることがわかります。
そのためか、山中城や掛川城、浜松城など、名城と呼ばれる城ばかりでなく、知る人ぞ知るというマニアックな城も取り上げています。

戦国の静岡というと、中心は今川家。
今川義元は、桶狭間の戦いで、織田信長の急襲を受けて討死しましたが、領国を拡大し、治世を安定させ、文化を保護したことなどから、近年、再評価されています。

本書で面白いのは、その嫡男で、戦国大名今川家が滅亡した愚君といわれることもある、今川氏真を好意的に描いている点にあります。快男児ぶりは、読み味を良くしています。

「笑止。世の安寧を破り、民を戦火で苦しめておるのは家康殿でござらぬか。今川は三河を攻める気など毛頭なかった。求めるのは天下の静謐のみ。三国同盟が保たれておれば、この東海にあと百年は平和な世が続いたはずだ」
「恐れながら、それが戦国の世の習いとうものでござりまする」
 家成が改めて両手を床についた。
「糞喰らえだ」

(『しずおか 戦国の城』「最後の城」P.272より)

懸川城に籠城する氏真に、徳川家家臣石川日向守家成が家康の使者として目通りをして、開城を促す場面など、その好漢ぶりが見られます。

さて、本書に収録した各編は、年代順に並んでおらず、それぞれの話が有機的に反応し合っています。

が、少し込み合っているので、年表をもとに整理すると、下図のとおりです。

「アンソロジー しずおか 戦国の城」関連年表

10編は、3つのグループに分けることができ、それぞれ今川家、武田家、北条家の滅亡が描かれているのがわかります。

全10編からなる、個々の短編は、それぞれの作家の特徴が読み取れて面白い作品ばかりですが、とくに見事なのは、書き手を変えながらも、本格的な歴史小説の骨格を持ち、ひとつのテーマに向かって収斂していく、その構成力にあります。

これは、志を持ったグループのメンバーによる、書き下ろしのアンソロジーだからできたことと思われます。

静岡県内居住の城や歴史の研究者がお城にまつわるコラムを執筆し、地元メディアの静岡新聞社からの出版、静岡県内の書店を巻き込んだ展開など、オール静岡のプロモーションも目を瞠るものがありました。

歴史時代小説で地元にゆかりの歴史上の人物を取り上げて、地域振興を図るというのは、いくつかの試みがありましたが、本書は、その成功事例の一つと言えそうです。

操觚の会には、ぜひ「戦国の城」の第二弾をやってほしいと願っています。
それは、日本を代表する「お城県」の兵庫県の城がいいなと密かに期待しています。

アンソロジー しずおか 戦国の城

芦辺拓・永井紗耶子・谷津矢車・坂井希久子・杉山大二郎・蒲原二郎・彩戸ゆめ・鈴木英治・早見俊・秋山香乃
静岡新聞社
2020年9月16日初版発行

書き下ろし

装幀:坂本陽一(mots)
装画・挿画:塚田雄太

●目次
地図「作品に登場するしずおかの城」
年表「しずおかの城をめぐる攻防と情勢」

『時満つる城――堀川城語り』(堀川城) 芦辺拓
『梅花の鏡』(諏訪原城) 永井紗耶子
『意地は曲がらず』(韮山城) 谷津矢車
『紅椿』(曳馬城) 坂井希久子
『残照』(蒲原城) 蒲原二郎
『風啼きの海』(下田城) 彩戸ゆめ
『最後の城』(掛川城) 杉山大二郎
『井川の血』(今川館) 鈴木英治
『返り咲きの城』(山中城) 早見俊
『老将』(高天神城)秋山香乃

あとがき

本文439ページ

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『アンソロジー しずおか 戦国の城』(芦辺拓・永井紗耶子・谷津矢車・坂井希久子・杉山大二郎・蒲原二郎・彩戸ゆめ・鈴木英治・早見俊・秋山香乃・静岡新聞社)

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