いずみ光さんの文庫書き下ろし時代小説の新シリーズ、『用心棒無名剣 だんだら染』がコスミック・時代文庫より刊行されました。
手甲脚絆、白の鉢巻きにたすき掛けという仇討ちの様相の、武家の女と若党は、街道沿いのの草むらに身を潜めて、仇が乗っている一挺の辻駕籠を停めた。ところが、駕籠から降りたのは、長身の黒紋付に黒の袴の身形の浪人だった。五尺七寸はあろうかという長身で、襟元から厚い胸板が覗いている。手にしていたのは豪剣、同田貫。人違いとわかり丁重に謝ろうとした武家の女の前で、若党が奇声を発して浪人に斬りかかった。浪人は苦もなく若党の刃をかわしながら、拳の一撃で若党を昏倒させた……。
仇と間違われた浪人は、旅を一緒に続けている若侍の海津七郎太、僧侶の抜山とともに、武家の妻女と若党の仇討ちに関わることになります。とはいえ、颯爽と助太刀をつとめるというのではなく、仇討ちの立会人として結末を見届けるという役回りです。
「あの妻女、どこか楽しげに話していたな、達観しておる」
抜山が表情を硬くした。
「あの妻女が助太刀を頼まぬ理由がわかった気がします」
七郎太が顔を曇らせた。
「死ぬ覚悟ができているのだ。つまり、あの女にとって、これまで続けてきた旅は生きるための旅ではない……そういうことだろう」
浪人がそう応じた。
(『用心棒無名剣 だんだら染』第一話「旅の終わり」P.60より)
著者のいずみ光さんは、『北町南町かけもち同心』シリーズや、『ぶらり笙太郎江戸綴り』シリーズなど、人情味ある、佳き時代劇のような美点を備えた作品で活躍している新進気鋭の作家です。。
本書では、名前も過去も明かさない無名の旅の浪人が、二人の仲間とともに、この世に蔓延る悪に苦しむ者たちに、正義の豪剣を振るいます。一話完結の連作形式で全四話収録され、第四話の「だんだら染」には新選組が登場し、話の行方が気になります。
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『用心棒無名剣 だんだら染』
『北町南町かけもち同心』
『さきのよびと ぶらり笙太郎江戸綴り』