2020年文庫書き下ろし時代小説ベスト10、公開

帰省代わりに望郷酒場に行こう

森まゆみさんの『望郷酒場を行く』(PHP新書)を読んでいる。東京にある47都道府県を代表する酒場を紹介する楽しい企画。『「懐かしの昭和」を食べ歩く』の姉妹編といったところ。レポートの達人である筆者の筆と、涎が垂れてきそうなビビッドな写真を通じて、故郷の味が、県民性とともに伝わってきて、TVの「秘密のケンミンSHOW」に通じる面白さがある。

「望郷酒場」というと、地方出身者が集う酒場(郷土料理屋、居酒屋、小料理屋)で、なんとも昭和の香りがして、ノスタルジーを感じる。千昌夫さんの歌にあるようだ。本では、南の沖縄から順に、1県1酒場ずつ紹介されている。しかし、単なる酒場紹介本ではなく、その店の歴史や故郷の味、特産品、県民性などに触れられていく。東京にありながら、上質な紀行文のようである。

「私は死んでいった人の世話をしたんだから、あなたは生き残った人たちのお世話をしなさい」という言葉から生まれた、特攻隊の母、鳥浜トメさんのお孫さん店「薩摩おごじょ」(鹿児島)の紹介記事を読んでいて、不覚にも目頭が熱くなってしまった。

郷土料理の店というと、他県出身者には敷居が高い感じで、今までほとんど行ったことがなかった。長年タウン誌を編集発行されてきた筆者ならではのツボを押さえた酒場紹介で、紹介された店に行ってみたくなる。店のオーナーやゲスト(その店ゆかりの地方出身者)から取っておきのエピソードや人柄を引き出されているので、この本を読んでいれば初めて行っても温かく迎えてもらえそう。

今年の夏も終わりに近づいてきた。仕事や家族旅行を優先して、帰省をしていないのが心苦しい。望郷酒場に出かけて故郷の味とことばに浸ってみるのもいいかもしれない。

 望郷酒場を行く (PHP新書)

 「懐かしの昭和」を食べ歩く (PHP新書)

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