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漱石・鴎外・乃木大将…、傑作医術時代小説集

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篠田達明さんの『にわか産婆・漱石』は、新人物往来社からの単行本の初版が1984年、文春文庫版が1989年というから20年前になる。医術時代小説5編を収録した短編集は、以前から気になっていて読みたいと思っていた。

表題作「にわか産婆・漱石」での漱石像が新鮮。医師である作者らしく、出産シーンが圧巻。

「大御所の献上品」は、家康の後ろ盾で明の宮廷との橋渡しに入れ歯づくりに向かう口中医・杉山玄三郎の話を描いた快作。歯科治療中の自分としては共感できる。

「本石町長崎屋」は、江戸の眼科医・土生玄碩(はぶげんせき)にまつわる話。シーボルト事件に絡め、当時の江戸知識人・学者・役人たちの実像を風刺を含めて描く。

「乃木将軍の義手」では、日露戦争で両腕を失った若い兵士が、乃木将軍が発明した義手をドレスデンでの万国衛生大博覧会で披露することになる…。ここでの乃木将軍像が興味深い。

「平手打ち鴎外」は本文庫版で新たに加わった一編。新聞記者と取っ組み合いの喧嘩をした鴎外。文人と軍人(音はよく似ているが…)のどっちつかずだった鴎外がこの事件で吹っ切れる。作品集の表題作と対になる作品。

NHKで『坂の上の雲』の放映が始まり、明治という時代に興味を持ち始めたところだっただけに、この作品集はそういった志向にも合い、面白く読めた。