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剣から大砲、連発短銃へ―波濤の時代の防人

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佐伯泰英さんの『海戦 交代寄合伊那衆異聞』を読む。信州伊那谷千四百十三石の旗本・交代寄合衆座光寺家の若き当主・座光寺藤之助為清が活躍するシリーズ第11弾である。相変わらず快調なペースで著作を続けられている。

海戦 交代寄合伊那衆異聞 (講談社文庫)

海戦 交代寄合伊那衆異聞 (講談社文庫)

前話で、藤之助は領地の信州伊那谷の山吹陣屋を訪ね、さらに老中首座堀田正睦の命により下田港に急行し、日米和親条約の修補条約締結に立ち会った。今回は、江戸に戻り、幕府講武所の教授方に加わるかたわら、堀田の命を受けて、講武所訓練補助帆船のヘダ号に相談役として乗り込み、外洋演習の司令官を務めることになる。

下田湊で大破したロシアの旗艦ディアナ号の乗組員たちと戸田の船大工が協力して建造された国産洋式帆船ヘダ号での航海が物語の大部分を占めるために、その操船シーンが圧巻。また、主人公・藤之助が敵と対決シーンでは、スミス・アンド・ウエッソン三十二口径リボルバー、ホイットニービル・ウォーカー四十四口径リボルバーから連発式三挺鉄砲、アームストロング砲まで、銃器が駆使され、いろいろな銃器が一気に日本に入ってきた幕末を感じさせる。

「剣はもはやなんの役にも立たぬか」と嘆息する千葉栄次郎に、藤之助は答える。

「確かに剣は大砲や連発短銃に敵うものではございません。ですが、われらが幼い頃より学んできた剣は技の習得のみに非ず、恐れに耐える力や肚の据わり具合をも、知らず知らずに学ぶものと考えます。巨大な破壊力を持つ砲弾が飛び交う近代戦になればなるほど、歴戦の猛者でも戦いの場から逃げ出したくなるほど恐怖心は大きくなると言います。そのとき、剣の修業で得た恐怖への克己心が大事になろうかと存じます。それがしがわずかな経験で得た感想にございます」

(『海戦』P.153より)