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疲れを癒す、木戸番小屋

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北原亞以子さんの『夜の明けるまで 深川澪通り木戸番小屋』を読む。「深川澪通り木戸番小屋」シリーズの4作目で、著者は本書で第39回吉川英治文学賞を受賞している。深川中島町の澪通りにある木戸番小屋に住む笑兵衛とお捨の夫婦のもとに、痛みを抱えた人たちが次々と訪れる。『夜の明けるまで』は、表題作を含む、一話完結の8つの短編で構成されている。

夜の明けるまで 深川澪通り木戸番小屋 (講談社文庫)

夜の明けるまで 深川澪通り木戸番小屋 (講談社文庫)

木戸番小屋のある深川澪通りは、物語の中で次のように紹介されている。

 黒江川、大島川、仙台堀からの枝川と、三方を川でかこまれている深川中島町の木戸番小屋と町の自身番屋は、大島川沿いの俗に澪通りと呼ばれている道の西の隅にある。

(『夜の明けるまで』「第三話 こぼれた水」P.80より)

しかし、物語の主人公は、木戸番小屋の夫婦ではなくて、傷みや傷をもって木戸番小屋にやってくる人たちである。

家事と子育て、舅姑の世話に忙殺されていた母に反発して、江戸に出てきたおもよ(「第一話 女のしごと」)。実家を救うために意に副わぬ結婚をした末に、婚家を飛び出したおしず(「第二話 初恋」)。藩主の覚えめでたい前途有望な若い武士の代わりに、火事で命を救われた老婆おせい(第四話 いのち」)。材木問屋を潰し、妾腹の娘を捨てた老人・駒右衛門(「第六話 絆」)。などなど。

いずれも不幸な体験をし、人生の辛酸を舐め、人間不信に近い状態で、笑兵衛やお捨と出会い、再生していく。読者側でも、共感できる部分もあり、読み終わった後に、仕事や人生の疲れの部分が癒されていくように感じられる。個人的には、最後に収録された「ぐず」の話が好きだ。快い読後感が残る。