私塾塾頭を主人公とした時代小説

牧南恭子(まきなみやすこ)さんの『三冬塾ものがたり 秋のひかり』を読む。牧南さんの作品を読むのは、深川を横断する小名木川沿いに住む人々を描いた短篇集『女泣川花ごよみ』以来、2作目になる。『秋のひかり』の主人公は、尾張出身で昌平校で学び、「三冬塾(さんとうじゅく)」の塾頭の瀬川多聞である。

多聞は四十をいくつか越え、塾頭として数百人の弟子を輩出し、書物も著し、それなりに声望もあった。弟子三人に、娘二人にも手伝わせて手習所を開いている。塾生時代の同期で西丸留守居に出生した稲垣利信に嫉妬したり、若き日の忘れえぬ女の名前みふゆを塾名につけたりと、堅物とはいえない人間らしい性格描写が面白い。

塾頭(校長先生のようなもの)を主人公とした時代小説は珍しい。連載形式で、多聞の周りに起こる事件を描いている。手習所の塾頭というと、『論語』の素読など儒学の専門家のイメージが強いが、多聞は、儒学、国学はもとより、算学にも長けていて、測量術にも精通しているのが興味深い。得意の測量術を使って、橋の架け替え工事にともなう不正を見破ったりする。また、多聞は江戸ばかりでなく、小田原や石和などへも出張して活躍をするのも楽しい。ところで、三冬塾のある杉枝町はどこにあるのだろうか?

とりあえず、次回作が出たら読んでみようと思う。