えとう乱星さんの『あばれ奉行』を読了した。本作品は、『かぶき奉行』『ほうけ奉行』に続く「殺生奉行」シリーズ3作目だが、作者のあとがきによると、本来のタイトルは、『殺生方控』〈慶安編・元禄編・享保編〉とする心積もりだったようだ。それぞれの作品で巧みにその時代の風潮をとらえ、幕府の危機を救う殺生方の活躍を描いている。
- 作者: えとう乱星
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2006/10
- メディア: 文庫
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今回は、新将軍・吉宗と尾張徳川家(継友と通春の兄弟)の対立がテーマになっている。
殺生方は狩り全般を差配することを本来の役目とし、“斬り捨て御免、殺生勝手たるべし”を許されていた。そして、殺生方では代々殺生方控という、日々の勤めの記録が付けられていた。紀州藩主から将軍に就いた吉宗の弱みを握るべく、尾張藩は殺生方控に狙いをつけるが…。
今回、各章のタイトルに江戸のことばがつけられていて、面白い趣向だ。
「ちょきる」(猪牙舟で吉原に行くこと)
「ねりぎ」(通知散ともいう。トロロアオイの根を主成分に、ふのりなどで製したもの。男色などで潤滑剤としても使用される)
「かぶせる」(騙しにかけること)
「かほうやけ」(果報やけ。あまりよいことばかりあるとかえって災いを招くこと)
「あなしり」(穴知り。あらゆる物事の裏や急所、欠陥などに精通した者)
「やつし」(勘当のため下賎の姿に身をやつしていること)
「べらぼうらしい」(ばかばかしい)
そのほか、「わやく者」(乱暴者)という言葉もよく出てくる。軍事演習でもある狩りの全般を仕切る役目柄、殺生方の与力、同心、手下をはじめ、鷹匠や鳥見、犬牽など、一癖も二癖もある者たちをまとめていかなければならい殺生奉行。「かぶき者」「ほうけ者」「わやく者」など、図抜けて個性的なキャラをもっていないと務まらないのかもしれない。
なお、「殺生方」は家光の時代の『徳川実記』に記述が残る実在の役職で、将軍の狩りにかかわっていたという。