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二枚目ってほめ言葉じゃないんだ

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松井今朝子さんの『二枚目』を読み始めた。『一の富』に続く、人気狂言作者並木五瓶(なみきごへい)と弟子の拍子郎が活躍する捕物帳「並木拍子郎種取帳」シリーズの第二弾だ。

一年ほど前に拍子郎が弟子入りしたとき、五瓶はすでに弟子がいくらでもいて、書き物の補助や舞台作りの手伝いには困らなかった。そこで暇を持てあます新参の弟子に、作者になる修業になるからなどといい加減な理由をこじつけて、芝居の種に使えそうな噂話を町で拾い集めてこいと言いつけた。

拍子郎は本名を筧兵四郎といい、兄の惣一郎は北町奉行所の定町廻り同心という若侍で、噂話を探るうちに、つい厄介ごとに首を突っ込むことになる。登場人物たちが芝居関係者が多いこともあり、歌舞伎の世界が背景として描かれることが多い。

今回のタイトルの「二枚目」も実は歌舞伎用語。

 拍子郎は染川本人を楽屋で二、三度見かけた覚えがある。うわ背はそこそこだが、胸板や腰まわりが薄っぺらで頼りなさそうだった。顔は面長でのっぺりしていた。

「いわば、あいつは絵に描いたような二枚目や。たぶん二枚目どまりやろ」と五瓶はいう。

(『二枚目』p.77)

 芝居小屋の表には役者の看板をずらずらと並べる。一座の人数が十人足らずであった初期のころ、向かって右から二枚目の看板が若手の花形、三枚目が道化役と決まっていて、左端に座頭(ざがしら)の看板が置かれた。看板が右端にくる役者は一枚目と呼ばずに書出しといい、これが座頭と共に芝居の主役を張る。座頭はたいがい天下を覆す謀反人といった大悪役に扮し、書出しは大詰めでそれを退治する主役を演じる。

 二枚目がもっぱら演じるのは女にもてる色男だが、自身はあくまでも主役ではなく女形の相手役にすぎない。二枚目は女形の引き立て役で、美男で売れた役者は演技が下手で終生二枚目にとどまる場合も少なくなかった。

コメント

  1. みやこ より:

    いつも行く本屋さんが決まっていて角川春樹文庫とか置いてないんですよ。 ここで紹介していただくと助かります。 さっそく注文します。 松井今朝子さんのは一冊読んだ記憶があるけど思い出せません。

  2. jidai-show より:

    角川春樹事務所の時代小説文庫は、作品のセレクションがよいので、読む機会が多いです。担当編集者が時代小説好きなのだと思います。松井今朝子さんの作品では、『幕末あどれさん』がいちばん好きです。