江戸の料理茶屋ときたな細工

宇江佐真理さんの『涙堂 琴女癸酉日記 (講談社文庫)』を読んでいたら、料理茶屋について、主人公の高岡琴が日記に綴っている箇所があり、興味深かった。

『賀太郎、王子へ出かける。王子稲荷前の海老屋は近ごろ評判の料理茶屋なり。王子には他に扇屋あり。

 江戸の料理茶屋は深川平清、浮世小路百川、山谷八百善が有名なれど、工夫を凝らした料理茶屋は他にも多し、今戸の大七は車海老が売り物、同じく今戸の有明楼は鮎料理、堀江町の魚佐は鯒(こち)、青物町のさぬき屋は鮒料理、久保町の売茶亭(ばいさてい)は飛魚という様々。

 さて、本日の妾(わらわ)の膳は煮返しの大根汁に冷や飯、沢庵の古漬け、ひじきの煮付けなり。

 何を食しても胃ノ腑に入れば皆、同じ。つくづく思う次第。           琴』

料理茶屋八百膳の料理切手の話も登場する。料理切手は新種の貢ぎ物として重宝され、大名家の留守居役などがそれを使って八百膳で遊興していたという。八百膳といえば、「お茶漬け」が二両したという話が有名。お茶漬けを注文した武士が、半日待たされた末に、二両請求されたという、その訳は、お茶の水を多摩川まで汲みにいったとか。

食べ物つながりでいえば、「大喰い競争」と「きたな細工」のブームについても、琴は綴っている。「きたな細工」はちゃんと食べられることが条件で、外見が汚ければ汚いほどよく、見ただけで胸が悪くなるような凝ったもので、最も汚いものが一等というもの。口が肥えた連中が行う、趣味の悪い遊びである。

こんな風に料理のことばかり書くと、『涙堂 琴女癸酉日記 (講談社文庫)』は、グルメエッセーっぽくとられそうだが、実は宇江佐さんお得意の連作短編形式のミステリータッチの市井小説。