時代小説を楽しむための「新・江戸切絵図」発売

人文社より、『時代小説の舞台を見に行く 嘉永・慶応 新・江戸切絵図』が9月10日に発売になった。美麗な尾張屋(金鱗堂)板江戸切絵図と時代小説ガイドのコラボで、江戸の町並みが目の前に鮮やかに広がる画期的な本の誕生。

この本の特長を紹介したい。

美麗で精細な地図が魅力

●切絵図の美しさと詳細さを余すところなく伝えるよう、切絵図を可能な限り大きく掲載。本所や小石川などの幕臣の屋敷が密集している切絵図でも屋敷の主人の名前が読み取れる。

●現代地図もその横に掲載し、対比が可能。

●切絵図に掲載された名所をガイドする。

●切絵図に記載されている、大名屋敷、幕府施設、寺社、門、坂、道、橋、川、河岸、渡し、町、村などを項目別に索引にまとめているので、地名を検索しやすい。

時代小説の舞台を紹介

●各切絵図ごとに、切絵図に関連した3つのスポットを取り上げて、そのスポットにちなんだトピックやエピソードをつづり、江戸の文化や歴史に触れることができる。

●各切絵図ごとに、その場所を舞台にした、おススメの時代小説を紹介する。紹介した時代小説は130作品。

江戸の町のことがわかる

●巻頭特集では、江戸切絵図の見方や、時代小説を読みながら江戸切絵図を楽しむ方法、江戸の町の発達の歴史などを解説する。

●「町と住居」「治安と自治」「交通と通信」「時の知恵」「石高と経済」「服と食べ物」「遊興と遊山」のテーマで、江戸の基本を解説する。

●錦絵や古写真を織り交ぜて、江戸情緒や幕末・明治初年の雰囲気を伝える。

A4サイズの大判で、130ページの全ページカラーなので、ちょっとリッチな気分。これで1,785円(税込み)は、リーズナブルなところ。まずは、書店で手にとって見てください。

嘉永・慶応新・江戸切絵図 巻末索引付完全保存版―時代小説の舞台を見に行く (古地図ライブラリー 0)

来年の大河ドラマに備える『江と徳川三代』

歴史家の安藤優一郎さんが『江と徳川三代』という新刊をアスキー新書から出された。タイトルからわかるように、来年2011年のNHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国」の主人公、お江の生涯にスポットを当てた歴史読み物。

江は、浅井長政の三女で、信長が伯父で、秀頼(その父は秀吉)は甥、家康は義父という、華麗なる一族で、歴史のメインストリームに身を置いている割には印象が薄い。どうしても美貌で派手な姉の淀殿(茶々)の陰に隠れてしまい、夫秀忠に対する恐妻ぶりのイメージが先行する。

さて、どんなことが書かれているかは、目次を見ていくと伝わると思う。

第一章 二度の落城と父母との別れ~信長・秀吉との戦い~
第二章 二度の結婚と夫との別れ~離別、そして死別~
第三章 三度目の結婚と年下の夫~徳川家に嫁ぐ~
第四章 将軍の御台所に~三姉妹の戦い~
第五章 江戸城を築く~将軍の家庭~
第六章 将軍の母に~江戸三百年のはじまり~
終章 江の面影を追って

江は、徳川秀忠の正室になる前に、信長・秀吉との戦いに巻き込まれ、二度の落城、二度の結婚と別れなどを経験する。また、徳川家に嫁いでからは、三代将軍家光の生母として、大奥の体制を整え、徳川幕府の礎を奥から支える。

この本を読んでいくと、江の生涯と歴史の上で果たした役割がわかる。歴史的な事実をたどっていっても、篤姫以上にドラマチックな存在であることがわかり、来年の大河ドラマが楽しみになる。

 江と徳川三代

「ガールズ・ストーリー」の自立篇、始まる

帰宅すると、『文蔵2010.9・10』が我が家に届いていた。PHPの月刊誌スタイルの「小説・エッセイ」文庫の最新号である。特集は、最先端医学や、医療現場のウラ事情もよくわかる!? 今、「医療小説」が熱い! ブックガイド「生と死の感動のドラマに満ちた 医療小説16」のほか、医師で小説家の海堂尊さんと久坂部羊さんのインタビューを収録している。

時代小説ファンとしては、あさのあつこさんの「当世侠娘物語 ガールズ・ストーリー 自立篇」が新連載としてスタートしたことがうれしい。田牧大和さんの連作読切小説「鯖猫長屋浮世ばなし」の第二話も楽しい。

 文蔵 2010.9・10 (PHP文庫)

帰省代わりに望郷酒場に行こう

森まゆみさんの『望郷酒場を行く』(PHP新書)を読んでいる。東京にある47都道府県を代表する酒場を紹介する楽しい企画。『「懐かしの昭和」を食べ歩く』の姉妹編といったところ。レポートの達人である筆者の筆と、涎が垂れてきそうなビビッドな写真を通じて、故郷の味が、県民性とともに伝わってきて、TVの「秘密のケンミンSHOW」に通じる面白さがある。

「望郷酒場」というと、地方出身者が集う酒場(郷土料理屋、居酒屋、小料理屋)で、なんとも昭和の香りがして、ノスタルジーを感じる。千昌夫さんの歌にあるようだ。本では、南の沖縄から順に、1県1酒場ずつ紹介されている。しかし、単なる酒場紹介本ではなく、その店の歴史や故郷の味、特産品、県民性などに触れられていく。東京にありながら、上質な紀行文のようである。

「私は死んでいった人の世話をしたんだから、あなたは生き残った人たちのお世話をしなさい」という言葉から生まれた、特攻隊の母、鳥浜トメさんのお孫さん店「薩摩おごじょ」(鹿児島)の紹介記事を読んでいて、不覚にも目頭が熱くなってしまった。

郷土料理の店というと、他県出身者には敷居が高い感じで、今までほとんど行ったことがなかった。長年タウン誌を編集発行されてきた筆者ならではのツボを押さえた酒場紹介で、紹介された店に行ってみたくなる。店のオーナーやゲスト(その店ゆかりの地方出身者)から取っておきのエピソードや人柄を引き出されているので、この本を読んでいれば初めて行っても温かく迎えてもらえそう。

今年の夏も終わりに近づいてきた。仕事や家族旅行を優先して、帰省をしていないのが心苦しい。望郷酒場に出かけて故郷の味とことばに浸ってみるのもいいかもしれない。

 望郷酒場を行く (PHP新書)

 「懐かしの昭和」を食べ歩く (PHP新書)

元同心が蕎麦屋の主人を務める、異色捕物小説

千野隆司さんの『夏越しの夜 蕎麦売り平次郎人情帖』を読み始めた。ハルキ時代小説文庫では同じ作者の「南町同心早瀬惣十郎捕物控」シリーズが好評だが、新たな新シリーズの登場だ。

元・定町廻り同心が蕎麦屋になって捕物を続けるものとしては、村上元三さんの『加田三七 捕物そば屋』がある。『夏越しの夜 蕎麦売り平次郎人情帖』の主人公・菊薗平次郎は、わけあって隠居し本芝入横町の裏長屋に住み、蕎麦売りを始めた。

平次郎の作る蕎麦が美味しいそうだ。蕎麦一杯が二十二文(普通は十六文のところ)と高いが、とくに出し汁の取り方などが玄人ぽくて、読んでいるうちに食べたくなり、つゆをすすってみたくなる。人々に一杯のぬくもりばかりでなく幸せを与える。

さて、主人公のつくる蕎麦のように、物語では、蕎麦売りの平次郎は苦悩や悲しみを背負った人たちを救うために仲間たちと協力して活躍する。元同心ながら、威張ったところがなく、市井に溶け込もうとしている。

「覗き見夜鷹」では、同じ長屋に住み、夜鷹をして稼いだ金を高利で貸して周囲の者からは嫌われる女・おてつを助ける。「芋飯の匂い」では、やはり同じ長屋に住み、胃の病を抱える浪人・長谷川忠兵衛の苦境を救うべく、平次郎は立ち上がる。「夏越しの夜」では、商売の縄張り争いで意地悪をされる先輩の蕎麦売り・熊十一家の苦境に命を張る…。

平次郎が助ける者たちが、夜鷹であったり、物貰いであったり、貧しい付け木売りだったりするが、偏見なく、それぞれの中に美質を発見して付き合う。また、そんな平次郎だから、彼を慕う仲間たちも損得抜きに協力を惜しまない。読んでいるうちに気持ちが浄化される作品である。

タイトルにある、「夏越し(なごし)」とは、師走の大晦日を「年越しの祓」というのに対して、六月晦日に行う祓いを「夏越しの祓」といった。七月から秋になる前日、夏の間の穢れを祓うために行われた。形代の人形に穢れを移して自分の代わりに川や海に流したり、茅の輪を潜ったりして、禊ぎをしたことにするのが、「夏越しの祓」の常といわれる。

 夏越しの夜 (ハルキ文庫 ち 1-9 時代小説文庫 蕎麦売り平次郎人情帖)