時代小説・お気楽極読破録おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。
俳人一茶捕物帳 痩蛙の巻 ★★★☆☆
カバーイラスト:三谷一馬
解説:縄田一男(評論家)
時代:寛政元年十一月
(笹沢左保・光文社文庫・540円・95/5/20)
購入日:12月27日/読破日:12月30日
以前、新宮正春さんの芭蕉を主人公とした捕物帖を読んだが、今回は小林一茶が探偵役を演じる。有名人探偵ものでは、いかに巷間伝えられる人物像やエピソードを交えるかがポイントになる。本作品では、「痩蛙負けるな一茶これにあり」などの句を上手く織り込んでいる。
●信州野尻湖に近い農家で生まれ、継母との折り合い悪く十五のときに江戸へ奉公に出た弥次郎兵衛、後の俳人一茶。以来奉公先を転々、今は深川本行寺・清頑和尚のもとに寄宿の身である。北町定廻り同心・片山九十郎は、難事件が起こるたび、彼に助けを求める。その目に涙が浮かぶとき、事件の真相が明らかになる。
「炭火も腹八分」「悲しき鐘の声」「元日の嘘つき」「見えた遠眼鏡」「そば屋の裁き」「負けるな百文」「夕桜に微笑す」
霧隠れ雲隠れ ★★☆☆
カバーイラスト:安里英晴
カバーデザイン:原田幸生
時代:慶長五年
(三田誠広・廣済堂文庫・560円・97/1/10)
購入日:12月21日/読破日:12月24日
まだ、高校生の頃、「僕って何」を読んだことをかすかに記憶している。その作家の初の時代小説ということで、読むことにした。スーパー忍者小説・真田十勇士とサブタイトルがついている(言い訳している)だけにかなりルーズな時代小説になっている。まあ、肩が凝らない作品というわけだ。最後の決戦を前に、主人公の霧隠才蔵が俺って何と悩むのがご愛敬か。
●伊賀を逃れ、甲賀の戸沢白雲斎の弟子となった忍者・霧隠才蔵は、やがて猿飛佐助と共に信濃の真田幸村の元で十勇士として活躍することになる。天才的軍略家の幸村は西軍の石田三成側につき、東軍の徳川家康勢と敵対する。天下分け目の関ヶ原、そして大坂冬の陣、夏の陣。幸村の指揮を受け、才蔵、佐助ら十勇士は決死の覚悟で家康の大軍に立ち向かった!
「八犬伝」になぞらえて、章立てが「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」となっているのと、千姫の扱い方が面白い。
本所深川ふしぎ草紙 [再読] ★★★★
カバー装画:藤田新策
解説:池上冬樹(文芸評論家)
時代:文化十三年(1713)年
(宮部みゆき・新潮文庫・440円・95/9/1)
購入日:12月21日/読破日:12月23日
以前にハードカバーで読んで、まだ若いのに文が達者だなって、感じたのを覚えている。「火車」を読んで感動して以来、宮部さんの作品は読む機会が多い。読後感が爽快なのも気に入っている。
●近江屋藤兵衛が殺された。下手人は藤兵衛と折り合いが悪かった娘のお美津だという噂が流れた・・・。幼い頃お美津に受けた恩義が忘れられず、ほのかな思いを寄せるそば職人がことの真相をさぐる「片葉の芦」。お嬢さんの恋愛成就の願掛けに丑三つ参りを命じられた奉公人のおりんの出会った怪異の顛末「送り提灯」(カバーの絵も)。非業の死を遂げた魚屋の家族の元にやってきたのは岸涯小僧か?「置いてけ堀」。『あの落葉のせいで下手人があがらないんだから、もう二度とそんなことがないように、いつ見ても落葉が一枚だって落ちていないように、あたしが掃除をいたします』と孝行娘お袖は、朝晩店先の掃除をやめない「落葉なしの椎」。「馬鹿囃子」狂女の中に見られる切実な女心。「足洗い屋敷」おみよは新しい母親に魅了されてしまった。「消えずの行灯」ある夫婦の関係を行灯になぞらえる。
深川七不思議を題材に、人生の真実を深い洞察力で描く7編。とくに「片葉の芦」は見事。全編通じて、傍役として「回向院の親分」こと岡っ引き茂七が登場する。
天下の旗に叛いて ★★★☆☆
装画:宇野亜喜良
装丁:成瀬始子
解説:菊地仁
時代:永享十二年(1440)年二月〜嘉吉元(1441)年四月
(南原幹雄・福武文庫・650円・96/1/10)
購入日:12月17日/読破日:12月20日
表紙が宇野さんの手になる時代小説は珍しい。落合恵子さんなど女流作家の現代小説の装画が多いが、今回は室町時代の雰囲気が伝わりいい。
「武王の門」を読んだ勢いで、室町後半の東国を描いた、本作品を読んでみることにした。歴史・時代小説の中で軽く扱われてきた分野だけに、背景知識がなく新鮮な気持ちで読めた。
●室町幕府に抗して滅ぼされた(永享の乱)、鎌倉公方足利持氏の遺児・春王丸、安王丸は幕府軍に追われる流浪の身となって日光にいた。下総国の豪族結城氏朝、持朝は義によってこのかつての主君の子を擁し、天下に反旗を翻す。押し寄せる十万余の大群を相手に、わずか一万の軍勢は果敢に闘い続けた。
本書で描かれた「結城合戦」に続く時代が、「南総里見八犬伝」である。古河、堀越両公方や管領の上杉の扇谷・山内両氏の分裂・抗争の発端がよくわかる
武王の門(上・下) ★★★★☆☆
カバー装画:榎戸文彦
解説:石井冨士弥
時代:興国三(1342)年三月〜文中三(1374)年十月
(北方謙三・新潮文庫・各600円・93/8/25)
購入日:12月13日/読破日:12月17日
ウーン、読んでよかった。この冬の楽しみができた。ずーっと、江戸にいたせいか、南北朝時代がとても新鮮。歴史小説ながら先が読めない。1ページ1ページ、わくわくが波のように押し寄せてくる。松平忠輝以来の爽快なスーパーヒーロー、懐良親王の登場。北方さんの歴史小説の第一作になるわけだが、ハードボイルドな文体が、閉塞感のあった歴史小説界に新風を吹き込んでいる。
●後醍醐天皇の建武の新政は、足利尊氏に追われ、わずか三年で潰えた。吉野に逃れ、南朝を開いた天皇は、京の奪回を試み、各地で反撃を開始する。
天皇の皇子・懐良は、征西将軍宮として、忽那島の戦いを皮切りに、九州征討と統一をめざす。
ドラマ化するならこの配役で:懐良親王(唐沢寿明)、菊地武光(柳葉敏郎)、忽那義範(加藤剛)、忽那重明(石黒賢)、五条頼元(船越栄二)、五条良氏(寺尾聡)、五条良遠(佐野史郎)、五条頼治(椎名桔平)、村上義弘(片岡鶴太郎)、五辻宮(中野誠也)、谷山隆信(草刈正雄)、葦影(中谷一郎)、右京(堺正章)、恵良惟澄(宍戸錠)、阿久里(山口智子)、堀田小十郎(三浦浩一)、少弐頼尚(平幹二郎)、饗庭宣尚(平泉成)、笙子(和久井映見)、加瀬忠明(平田満)、足利直冬(萩原聖人)、城武顕(本田博太郎)、菊地武澄(仲村トオル)、千秋(国生さゆり)、祖禅寂照(榎木孝明)、三財長次郎(伊東四郎)、悠(石田ゆり子)、水野十郎太(羽場裕一)、山鹿忠景(伊武雅刀)、今川了俊(中村吉右衛門)、今川仲秋(村田雄浩)、細川頼之(江守徹)
百日紅(上・下) ★★★★
カバー装画:杉浦日向子
カバーデザイン:日下潤一
カバー写植:前田成明
解説:夢枕貘
時代:文化十一年暮れ
(杉浦日向子・ちくま文庫・各700円・96/12/5)
購入日:12月13日/読破日:12月14日
杉浦さんの江戸マンガが好きだ。ちゃらんぽらんなくせに憎めない放蕩な若旦那然とした主人公(本書で言えば善次郎)を通して、江戸をビビッドに楽しませてくれる。最近では、NHKテレビの「お江戸でござる」の横丁のご隠居的な活躍が目立ち、マンガを書かなくなってしまったのが残念。
同居する北斎、娘のお栄(作者の分身?)、善次郎(のちの英泉)のトライアングルを中心に物語は展開する。歌川派ながら北斎に傾倒する歌川国直や北斎の弟子、北渓、北明がからむ。絵師たちの生活を淡々とした明るさと幻想を織りまぜ、いきいきと描く傑作。
お栄の描いた地獄絵の鬼が殿様の奥方を悩ます。北斎は、「てめえはいつだって描いたら描きっぱなし”始末”をしない」とお栄を叱り、絵に手を入れる話がいい。
天涯の花 小説・未生庵一甫 ★★★★
カバー画:原万千子
解説:清原康正
時代:天明3年7月から文政7年10月まで
(澤田ふじ子・中公文庫・880円・87/5/10)
購入日:95年?月?日/読破日:12月10日
購入してなくしてしまったと、思ってあきらめていた本書を、部屋の片づけをしているうちに見つけた。すごく、読みたいと思ってあちこち探していただけにハッピーだ。
澤田さんというと、華道をテーマに、「花僧」(池坊立花成立に貢献した池坊専応。実はまだ読んでいない、手に入らないのだ)、「空蝉の花」(池坊の異端児、大住院以信)と本書を含めて三作品ある。あとがきによれば、作者は、花道に誕生にかかわった人々の辛苦を描いた作品がないことに不満を感じていたとのこと。これらの作品を読むと、華道という静的で史料も少なく読者の共感を得にくい分野、非常にハンディをかかえたテーマをドラマティックに描いている。
四部構成。主人公は、池坊と二分する華道の一大勢力未生流の流祖・未生庵(斎)一甫(沼田内蔵助・山村山碩)。天明3年の浅間山噴火から物語は始まる。「狐火の町」の時にも感じたが、この人(澤田さん)は、災害を描くのがうまいなあ。
●二十三歳の沼田内蔵助は、幕臣山村家の妾腹の子として、小普請組支配無役の沼田家に婿養子に入る。舅の又左衛門は猟官運動に奔走する。新妻・蕗は度々父と外出する。そんなある日、親友・高瀬修蔵は遊女・葉と心中する。内蔵助が一人残された修蔵の妹・雪に代わり葬儀の手配するうちに、事件が起こる・・・
木曾、尾張、京都、九州、四国、山陰と漂泊の旅の中で、内蔵助(山村山碩)は、多くの人と出会う、自身の花論を作り上げていく。
サムライの海 [再読] ★★★★☆☆
カバーデザイン:西のぼる
解説:石井冨士弥
時代:安政4年8月から明治維新まで
(白石一郎・文春文庫・620円・87/5/10)
購入日:96年11月23日/読破日:12月7日
最近、殺伐とした本を読むことが多くて、ちょっとつらかったので6年ぶりに再読した。いわゆる「ビルドウングスロマン」もの、つまり主人公の成長物語で、読了後にカタルシスを味わえる作品である。
●砲術家・高島秋帆とオランダ人との混血の母の間に生まれた、野生児・蘭次郎は、海に憧れ、勝海舟の海軍伝習所に入所して航海術を学ぶが、五島沖での演習中に、遭難し鯨組主に助けられたことから、捕鯨銃を使った近代的な捕鯨法の開発に情熱を注ぐ。
勝海舟のほかにも、榎本釜次郎、坂本龍馬、高杉晋作、グラバーら幕末の英雄たちを織り込み、捕鯨の世界に生きがいを見いだす若きサムライの姿をさわやかに描く、C.W.ニコルさんの「勇魚(いさな)」と並ぶ、捕鯨小説の名作。。
ドラマ化するならこのキャストで:高島蘭次郎(香取慎吾)、淵村庄屋才賀六兵衛(田村高廣)、お菊(深津絵里)、清次(袴田吉彦)、勝海舟(小林薫)、高島浅五郎(三浦浩一)、榎本釜次郎(池内万作)、鯨組主・田口幸右衛門(橋爪功)、香織(瀬戸朝香)、刃刺・富蔵(陣内孝則)、お琴(永作博美)、伊三吉(渡辺篤郎)、お涼(奥菜恵)、坂本龍馬(寺脇康文)、高杉晋作(生瀬勝久)
風樹の剣 日向景一郎シリーズ1 ★★★★
カバー装幀:宇野亜喜良
解説:ムルハーン千栄子(比較文学者、元イリノイ大学教授)
(北方謙三・新潮文庫・600円・96/12/1)
購入日:12月1日/読破日:12月4日
初めて北方さんの作品を読む。ハードボイルド作家と剣豪小説はピッタリあう。解説のムルハーンさんと同感で、しばらく、追いかけてみたいと思わせる出来。
ヘミングウェイを彷彿させる、畳み掛けるような単文の連ね。
叫んだ。白い光。匕首とはまるで違う音。全身が硬直した。上段に構えられた。見えるのは、刀だけだ。息を吸おうとしても吸えず、手も動かなかった。(p.27より)
●「父を斬れ。斬らねばおまえの生きる場所は、この世にない」――。
謎めいた祖父日向将監の遺言を胸に、景一郎(現代小説のヒーローのような名前だ)は、遺品の二尺六寸の名刀・来国行を腰に果てしなき旅に出た。十八歳の青年剣士は行く先々で道場を破り、生肉を喰らい、女を犯し、ついには必殺の剣法を体得する。
日向流という一刀流に、掌打などの体術を織りまぜた剣法が、新鮮だ。