時代小説・お気楽極読破録

おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

裏稼ぎ 莨屋文蔵御用帳  ★★☆
カバーデザイン:辰巳四郎
(西村望・光文社文庫・580円・96/11/20)
購入日:96年11月23日/読破日:11月29日

西村望さんというと、社会派犯罪小説家で、代表作は「鬼畜」「丑三の村」など映画化された作品がある。その作者の新境地がこの捕物小説だ。男女の愛欲のもつれから生じる事件がテーマの連作。
主人公は、江戸浜町河岸と人形町にはさまれた住吉町のへっつい河岸の稲荷社の前に莨屋を営む、岡っ引き文蔵。南蛮渡りのガラス細工のがらくたを集めていることから「ジャガタラの親分」とも呼ばれている。従来の岡っ引き像からかけ離れて、駆け落ちした女を捕まえて裸にして我がものにしたりもする即物的なところをもっている。現実には岡っ引きのほとんどがこんなものではないだろうか。そのため、読了感が悪い。時代は、はっきり記されていないが、風俗描写から江戸末期らしい。
●「江戸の黄鶏雌鳥」二組の欠け落ち男女。「消えた十手擬」にせ岡っ引き。「七面詣での女」押上村の最教寺には日蓮宗の守護神七面大菩薩がまつられているが、これを拝みに毎月十九日に江戸市中から多くの人が出かける。この七面詣で若い男を拾う女。「前を行く影」白山権現の神告げをネタに悪さを仕掛ける男。「面腫れ稲荷」文蔵とお新の夫婦は子どもができないのが悩み。そん中で男のお産が・・・。「走り女」腰物細工師の娘おふゆは、仕立て直しに出した一張羅が盗まれ、その袷を着ている女を見かけた。「女叫らせの薬」重箱とよばれる娼婦が、連れ込み宿で服を盗まれて裸のままで往生している。


天保悪党伝  ★★☆☆☆
カバー:榊京子
(藤沢周平・角川文庫・500円・93/11/10)
購入日:95年10月1日/読破日:11月23日

半村良さんの「講談・碑夜十郎」を読んでから気になっていた、天保六花撰を描いた藤沢作品。1年以上も前に買ってほかっておいた本が、掃除をしていて見つかったので読むことにした。
ちなみに天保六花撰とは、直侍・片岡直次郎、金子市・金子市之丞、森田屋清蔵、暗闇の丑松、三十歳、河内山宗俊の6人。本書では、一人1章ずつスポットを当てて描いていく。悪党を描いているせいか、全体のトーンが暗く、弾むものがない。
●「蚊喰鳥」直侍と三十歳の足抜き。「闇のつぶて」金子市の無頼の生活。「赤い狐」父の敵討ちのために抜け荷を仕掛ける森田屋。「泣き虫小僧」料理屋を手伝う丑松はそこの女将に気に入られているが・・・。「三十歳たそがれ」三十歳は、森田屋、金子市と親しい男たちが去っていき、行く末が不安になる。「悪党の秋」河内山は、水戸藩を影富をネタに強請るが・・・。


御宿かわせみ18 秘曲 [再読] ★★★★
カバー:佐多芳郎
(平岩弓枝・文春文庫・450円・96/11/10)
購入日:11月11日/読破日:11月16日

月刊誌「オール讀物」に連載しているということもあり、江戸の四季感をビビッドに描いている。「秘曲」が入っているせいか、最近のシリーズ中でとくに趣がある。
●「念仏踊りの殺人」かわせみの女中が新盆の帰省先で念仏踊りの装束で殺された。「松風の唄」中年御家人は、越中島の銃隊調練所で射撃の練習に熱中する。「おたぬきさん」柳森稲荷社の「おたぬきさん」の出開帳の日に参詣の商家の内儀が毒死した。「江戸の馬市」相馬から娘が馬市で江戸にやってきて行方不明になった姉を探しにやってきた。「冬の鴉」阿部家の若侍がお吉という名の乳母を探してかわせみにやってきた。「目篭ことはじめ」二月八日のこと八日、竹細工師は勘当された両親と再会することになるが、糟糠の妻は・・・。珠玉の短編。「秘曲」能楽師、鷺流宗家の一子相伝の秘曲をめぐる人間模様を描く。東吾の隠し子!?も登場。「菜の花月夜」かわせみの生後間もない捨て子が。


天保図録(上・中・下) ★★★☆☆☆
カバー装丁:菊地信義
解説:縄田一男(文芸評論家)
(松本清張・朝日文庫・各800円・93/11/1)
購入日:2月11日/読破日:11月12日

松本清張の小説を初めて読んだ。しかも、珍しい時代ものだ。豊富な史料に裏打ちされた骨太の作品。あとがきでも書いているように、終盤、これから盛り上がるぞというところで、駆け足になってしまったのが残念。まあ、そのままいっていたら、全5冊ぐらいになりそうな勢いだったが。
江戸時代屈指の悪役、鳥居甲斐守耀蔵が主人公。本当に救いのない奴、読んでいて何度唾棄したくなったことか。いつか、鳥居をよく描いた作品を読んでみたい。
●幕府を操縦したくて、裕福な唐津藩から浜松へ移ってきた、水野越前守忠邦。老中筆頭になり、財政逼迫にあえぐ幕府を救うべく天保の改革を打ち出したが・・・。
そのダイナモとなるのが、南町奉行・鳥居耀蔵と、奸智たけた用人・本庄茂平次。この二人に対抗する旗本・飯田主水正。やがて、大奥、紀州藩、反水野の包囲網ができあがる。


松風の門 ★★★☆☆
カバー:佐多芳郎
レイアウト:辰巳四郎
解説:木村久邇典(文芸評論家)
(山本周五郎・新潮文庫・560円・73/8/30)
購入日:11月1日/読破日:11月5日

「ビッグコミック」誌に掲載された劇画化(画・池上遼一)された、同作品を読んで圧倒的な端正さに惹かれて、どうしても読みたくなった。原作に忠実だったことがよくわかった。
この短編集は、初出誌も時代もテーマもばらばらなだけにかえって、作者の奥行きの広さを感じさせる。意外な驚きの連続。とくに最後の「失恋第五番」(なぜか名曲をテーマにした現代小説を想像していた)はいい意味で裏切られた。伝声管(ボイス・パイプ)の正体がわからず、昭和29年頃のオフィスの様子がとても気になる。だれか知っていたら教えてほしい。
●「松風の門」寛文十年伊予国宇和島・伊達大膳大夫宗利は、幼い日に剣術の相手池藤小次郎に右の眼を傷つけられた・・・「鼓くらべ」昭和十六年の少女雑誌に掲載されたということで、いささか説教臭がある。「狐」天守にでるという妖怪の噂を鎮めた平凡なる婿殿の機知。「評釈堪忍記」ユーモア小説、登場人物の命名がステレオタイプか。「湯治」時代設定がよくわからず、入り込めなかった。「ぼろと釵(かんざし)」舞台の一幕をおもわせるつくり。初恋の娘はいずこに。「砦山の十七日」城代を討ち取った七人の若侍たちが立てこもる砦に婚約者の娘が加わって始まる密室劇。「夜の蝶」主家の大金を持ち逃げした手代、実は・・・「釣忍」兄に家を継いでもらいたくて、わざと勘当され棒手振りの魚屋をはじめた佐太郎。「月夜の眺め」群集心理をうまくえがく。「青べか物語」を思わせる漁師の町のエピソード。「薊」過去と現在が同時に進行する、わずかにエロチックな武家もの。「醜聞」本作品集中でいちばん面白い作品。本源的な人間(武士)のあり方を描く。「失恋第五番」ハードボイルド現代(昭和29年ごろだが=京極夏彦の小説の時代と同じ)小説。特攻隊くずれの男たちがはじめた”平和の特攻隊”とは。


写楽百面相 ★★★★☆
装画:山下勇三(「グラフィック写楽67人展」より)
地模様:泡坂妻夫
解説:縄田一男
舞台:寛政六年
(泡坂妻夫・新潮文庫・520円・96/10/1)
購入日:11月1日/読破日:11月3日

作者は紋章上絵師で、マジシャンにして作家という多才な人で、写楽フリーク。多くの作家や研究家が写楽の正体を解明しようとしてきた。本書も大きなテーマの一つになってはいるがそれだけではない。
蔦屋重三郎、松平定信、十返舎一九、葛飾北斎、二代目尾上菊五郎、四代目鶴屋南北など、当時の有名人が続々登場するのも楽しい。
●江戸の本屋の若旦那二三(にさ)は、馴染みの芸者卯兵衛の部屋でかつて見たことのないほど衝撃的な役者絵を目にする。いったい誰が描いたのか・・・。浮世絵師の正体を追っていく中で、二三は事件の渦に巻き込まれていく。寛政の改革のまっただ中、上方と江戸を結ぶ大事件を軸にして、浮世絵、芝居、黄表紙、川柳、相撲、手妻にからくりなど、江戸の文化と粋を描き、写楽の正体の謎解きに迫る。


灼熱の要塞 ★★★★☆
カバー:西のぼる
AD:岡邦彦
解説:縄田一男
舞台:文久二年
(南原幹雄・集英社文庫・680円・95/12/20)
購入日:10月1日/読破日:11月2日

「暗殺者の神話」が「ジャッカルの日」としたら、本書は「ナバロンの要塞」か。元日活企画部上がりということで、映画的なエンターテインメントである。ベースは、大佛次郎の「薩摩飛脚」らしい。薩摩藩は、よそ者の潜入を認めず、公儀隠密といえども見つかれば殺された。そのため、薩摩潜入は、片道切符の薩摩飛脚と呼ばれていた。
●中町奉行所の与力・神山一平太は、奉行根岸常陸守久恒より、薩摩藩の一大コンビナート・集成館の破壊を命令される。一平太は、同心稲村辰之助、鉄砲鍛冶・国友吉兵衛、船頭の仙吉と薩摩へ向かう。
薩摩潜入の準備として、薩摩弁を身につける特訓や勝海舟の若党の拉致などきめ細かい。また、執拗な鰐塚の郷士との戦い、謎の女、あざみの出現、など文句なく面白い。
映画化するならこのキャスト:神山一平太(館ひろし)、稲村辰之助(竹野内豊)、吉兵衛(三浦浩一)、仙吉(本田博太郎)、根岸常陸守(丹波哲郎)、あざみ(賀来千香子)、薩摩藩中間・伊平次(上島竜兵)、胡蝶(鈴木砂羽)、若党弥三郎(内藤剛志)、まん字屋おなか(万田久子)


南海放浪記 ★★★☆☆☆
装幀:西のぼる
舞台:寛永半ば
(白石一郎・集英社・1400円・96/10/30)
購入日:10月30日/読破日:11月1日

作者得意の海洋冒険時代小説ということで安心して読める一冊。全体として波瀾万丈の物語ながら、連作形式をとっている関係でまとまりが良すぎる。猿岩石の東南アジア・江戸時代版か。
●「御朱印船」二十三歳の有馬浪人の息子で、長崎で波止場人足・岡野文平は、末次船の船頭・浜田弥兵衛をたすけたことから朱印船に乗ることになる。「馬上の女」高山国で船から転落した、文平は漁師に助けられ、ゼーランジャ城の傭兵となる。「海賊船」文平は城を抜け出し、鄭芝龍の部下の海賊船に加わり、阿比留隼人の一家と生活をともにする。「うらぶれ切支丹」マカオでは、交易を行う翁白薬の元で働くが、強盗を殺したことから脱出を余儀なくされる。「日本人町」キイナム(広南)フェイフォへやってきた文平は明国人にだまされ一文無しになるが、主人想いで律儀な船本屋の手代竹七に助けられる。「長政の肖像」末次船に再会し、シャムに向かう。「文平の恋」日本の鎖国制度の完成により、文平は日本に戻れなさそうだが・・・