時代小説・お気楽極読破録おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。
風よ聞け 雲の巻 ★★★☆☆
カバー装画・デザイン:蓬田やすひろ
舞台:慶応四年
(北原亞以子・講談社文庫・480円・96/10/15)
購入日:10月27日/読破日:10月28日
池波正太郎の「その男」などで知られる、心形刀流の名剣士・伊庭八郎を彼を慕う女たちの視点から描いた、書き下ろし長編。作者の得意な幕末江戸もの。「雲の巻」という通りで、話の途中という感じが否めないのが残念。
江戸の四大道場の一つ、心形刀流の伊庭道場の嫡子として生まれ、小さい頃は病弱で、長ずるに「伊庭の小天狗」の異名を持った、伊庭八郎。崩壊する幕府を冷静に見ながら、最後まで己の信念に従って筋目を通す生き様が、清々しい。
●大政奉還、王政復古で騒然とする江戸。七十俵五人扶持の御徒士小笠原仙右衛門は、上総への疎開を、息子一馬は最後まで闘うことをそれぞれ主張し、一家には諍いが絶えない。娘千遠は、遊撃隊に加わり上洛した婚約者佐々村恭平よりも幼なじみの伊庭八郎の帰りを心待ちにしていた。
一方、江戸の北国、吉原の御職・小稲は川越の豪商からの身請けの話を断る。三年前に惚れた伊庭八郎のことが忘れられないのだ。
無法者(アウトロー) ★★★☆☆
カバー装画:風間完
舞台:天保十五年
(佐藤雅美・講談社文庫・540円・96/10/15)
購入日:10月10日/読破日:10月25日
浪曲、講談で有名な「天保水滸伝」、なぜかつて人気があったのかピンとこなかったが、何となくわかった気がする。「清水次郎長」から「仁義なき戦い」、極妻までみんなヤクザが好きなのだ。自分にない生き方、抑えていた欲望(暴力、性、カネ)の発揮と義理人情が好きなのだ。
飯岡助五郎という敵役にスポットをあてた、新解釈の天保水滸伝。史書は為政者の視点からかかれているため、為政者にとって都合のいいものになりがちである。そういう意味で、敗者をとり上げた時代小説は面白いのだ。
●名うての親分、飯岡助五郎。縄張りを接する笹岡繁蔵。関八州では幕府の命で、やくざが岡っ引きのような下働きをしていた。助五郎もその一人で、十手をもちながら、賭場も営む二足の草鞋をはいていた。助五郎は、その特権を生かして繁蔵一派の打倒に向かう・・・。
国書偽造 ★★★★
カバー装画:北見隆
解説:長谷部史親
舞台:寛永十一年十月
(鈴木輝一郎・新潮文庫・520円・96/4/1)
購入日:10月10日/読破日:10月25日
江戸初期の朝鮮との国交をテーマにした法廷(?)時代小説。緻密な史料分析をもとに描かれた、法廷を思わせる執権衆の詮議場面が見事。また、松平伊豆守信綱や、家光、伊達政宗らの言動を通して、戦乱の時代の完全なる終結を鮮やかに描く。
●対馬藩家老・柳川調興は、公儀に所領の返還を申し出た。遅々として進まぬ詮議に、調興は幕府を揺るがす一大スキャンダルを暴露する。朝鮮王と徳川将軍の間で交わされた国書が対馬藩の中で偽造されていたというのは本当か? 調興と対馬藩主宗義成の対決の行方は?
ドラマ化するならこの配役で:柳川調興(真田広之)、宗義成(岸谷五郎)、松平伊豆守信綱(風間杜夫)、徳川家光(佐野史郎)、規伯玄方(西村雅彦)、伊達政宗(前田吟)、土井大炊頭利勝(宇津井健)、宮(戸田菜穂)、松尾七右衛門(いかりや長介)
白妖鬼 ★★★☆
カバーデザイン:横尾忠則
舞台:元慶八年二月
(高橋克彦・講談社文庫・500円・96/10/15)
購入日:10月23日/読破日:10月24日
「炎立つ」を読んでいないので、高橋作品を読むのは久々だ。講談社文庫の創刊25周年記念文庫特別書き下ろし作品シリーズの一品。そういえば、講談社文庫の創刊当時は子どもだったので井上ひさしさんの本をよく読んでいた。
鬼、東北、平安時代と高橋さんの得意の分野、主人公は陰陽師、面白なる要素は多いのだが・・・。
●元慶八年、都で凶事が頻発し、各地でも鬼を鎮める陰陽師も次々解任され何者かに殺害される。陸奥の胆沢に派遣されていた陰陽師・弓削是雄も免官され、都への帰途、烏天狗の面の男太刀に襲われる。そして是雄は、蝦夷の異能の少年・淡麻呂や野盗・芙蓉丸の助けを受けながら、平安朝を蠢く鬼と闘う。
暗殺者の神話 ★★★★☆
カバー:中環
解説:磯貝勝太郎
舞台:正徳六年
(南原幹雄・富士見文庫・730円・95/5/10)
購入日:9月1日/読破日:10月19日
日本版「ジャッカルの日」というのがピッタリ。主人公は、雑賀孫市の後裔で鉄砲の名手雑賀孫四郎だ。
●将軍位継承をめぐる尾張と紀州の対立は、吉宗決定でおわるかにみえたが、尾張は奥の手として、吉宗暗殺を計画する。暗殺者に抜擢されたのが、雑賀党再興をかけた孫四郎。
大名の姫ばかりを襲う妖盗・姫御前や日野鉄砲鍛冶・日野祐朝、奥庭番の朱星修羅之助などの登場人物が秀逸。
ドラマ化するならこの配役で:雑賀孫四郎(佐藤浩市)、高遠数馬(風間トオル)、弥生(牧瀬里穂)、安藤陳武(芦田伸介)、加納角兵衛(西岡徳馬)、江戸屋吉次郎(前田吟)、雑賀一石斎(千葉真一)、お杏(安田成美)、日野祐朝(宅麻伸)、姫御前(片岡鶴太郎)、薮田助八(内藤剛志)、朱星修羅之助(長谷川初範)、徳川吉宗(松平健)
切腹 ★★★
カバー:西のぼる
解説:石井冨士弥
舞台:「切腹」:文化五年八月十五日、「朱印船の花嫁」:元和四年六月、「鄭成功」:万治元年
(白石一郎・文春文庫・420円・96/10/10)
購入日:10月11日/読破日:10月17日
「異国の旗」からの改題というのが気に入らない。「切腹」というのは、結末を予想させて生々しすぎる。
●「切腹」文化五年、英国軍艦フェートン号がオランダ国旗を掲げて長崎に入港した。「朱印船の花嫁」相良千四郎は、故あって御朱印船荒木船に乗ることになった。「鄭成功」混血児で通事の長二郎は、情事の末に人を殺して福建省へ向かうジャンクに乗った。
三編とも、白石さんらしい海の向こうを見据えた作品。表題作は、奉行、艦長、商館長の3つのサイドから描いているだけに長編の方がよかったのでは?
家康外法首 ★★
カバーイラスト:坂内和則
カバーデザイン:松田尚大
舞台:元和三年春
(火坂雅志・飛天文庫・540円・96/2/5)
購入日:6月3日/読破日:10月15日
火坂さんといえば、「花月秘拳行」など西行シリーズ。本作の主人公の伊賀忍者滝野右近の得物は、皮篭手。蝋引きした二枚の牛皮の間に、細い針金を無数に入れ、それを膠で貼り合わせたもの。
●徳川家康の遺骸を納めた、駿府の久能山の仮殿に侵入した、右近は、首がない家康の遺体を見て驚愕した。仮殿を逃げ出した右近に襲いかかる伊賀服部軍団。神楽岡で奇祭を執り行う吉田神道の総帥・吉田兼見の弟神竜院梵舜と鳥居出羽守。そして彼らを操る怪僧天海。
立川流呪法。天海の出自。信長の孫で大和戒重藩主・織田長政。山賊・中山悪右衛門。など、面白くなりそうな素材・キャラクターを揃えながら、詰めが甘く物足りない作品。

風神の門(上・下) ★★★☆☆☆
カバー:村上 豊
解説:多田道太郎(評論家)
舞台:慶長十八年十二月
(司馬遼太郎・新潮文庫・560円、520円・87/12/20)
購入日:9月30日/読破日:10月14日
「梟の城」を読んだ流れで、本書を読む。後年のエラくなってしまった司馬さんからはちょっと考えられない、エンターテインメント忍者小説。主人公は、忍者小説ではクールな役回りで脇に回ることが多い霧隠才蔵。おなじみの猿飛佐助、三好晴海入道ら真田十勇士に宮本武蔵まで登場する。
●伊賀の忍者・才蔵は、京・八瀬の湯殿で香しい匂いの姫と出会う。姫を探すうちに、大阪の陣を控える豊臣と徳川の争いに巻き込まれていく。生来、いかなる集団にも属することを嫌った才蔵だが、軍師真田幸村の将器に惹かれ、徳川家康の首を狙うために、駿府城に潜入し、徳川の忍者風魔獅子王院と血闘を繰り広げる。
ヒロインたちが魅力的で絢爛としている。大野治長の妹・隠岐殿、菊亭大納言の姫・青子、謎の女お国、本多家の御典医海瀬良玄の側女小若。
半蔵の槍 ★★★☆☆
カバー装画:村上 豊
カバーデザイン:熊谷博人
解説:植村修介
舞台:慶長十年(1605)七月
(島津義忠・講談社文庫・660円・96/9/15)
購入日:9月20日/読破日:10月9日
どうも忍者ものは苦手である。かれらが己の特殊技能のみを売りに、ストイックに非情に、また刹那的に生きるために、物語に暗いトーンを醸し出すからである。
●亡き服部半蔵正成の秘蔵弟子柘植重兵衛は、戦国忍者の誇りを賭けて、二百名の伊賀忍者を率いて徳川幕藩体制に対して武装蜂起をする。半蔵の残した名槍〔伊賀切〕を切り札に、大御所家康、本多正純、伴太左衛門率いる甲賀忍者、正純の側近で小野派一刀流の名手渡辺兵内、伊賀の支配頭・服部正就ら虚々実々の戦いを繰り広げる。かつて忍者の宿命ゆえに見殺しにした恋人お篠に生き写しの太左衛門の妹・小枝との恋が物語を彩る。
御宿かわせみ「清姫おりょう」 ★★★☆☆
装画:佐多芳郎
AD:多田 進
(平岩弓枝・文藝春秋・1100円・96/10/10)
購入日:10月7日/読破日:10月8日
「御宿かわせみ」シリーズ第19巻。池波さんが亡くなり、鬼平や剣客商売の新シリーズが読みなくなった今、いちばん楽しみな時代小説シリーズ。江戸の四季がビビッドに作品に描かれている。
●「横浜から出てきた男」神林東吾とるいは、秋の彼岸の墓参りにるいの生家の菩提寺・浅草浄念寺で、四十年前に生き別れた姉を探す横浜の大商人と知り合う。「蝦蟇の油売り」秩父から深川長寿庵の長助のところに蕎麦粉を届けに来た男が殺された。「穴八幡の虫封じ」穴八幡詣で知り合った深川芸者駒吉は、二人の母親を養う孝行者。「阿蘭陀正月」阿蘭陀正月を祝って長崎ゆかりの医者や商人が集まって鮟鱇鍋を囲む催しで、東吾と麻生宗太郎は、あやうく殺されそうになる。「月と狸」狸穴(飯倉)の岡っ引仙五郎は、青山の刀屋の跡取り芳太郎を連れてかわせみにやってきた。「春の雪」飛鳥山でかわらけ投げ(願い事をかわらけに書いて、投げて祈る)をやっている若侍は、五年前に石つぶてで若い娘を殺した前科がある。「清姫おりょう」殺された商家の女主人が通いつめた、清姫稲荷の祈祷師の正体は?「猿若町の殺人」中村座、市村座、森田座と江戸三座がならぶ猿若町の旦那衆が行う素人芝居「仮名手本忠臣蔵」の上演中に質屋の主人が殺された。
見えない橋 ★★★★
カバー装幀:蓬田やすひろ
解説:縄田一男(文芸評論家)
舞台:天保三年
(澤田ふじ子・新潮文庫・440円・96/10/1)
購入日:9月30日/読破日:10月7日
澤田作品の魅力は、文化・芸術を背景に巧みに取り入れている点である。この作品でも、未生真流の生け花や光悦手捻りの茶碗など、京芸術に関する作者の造詣の深さを感じさせる。あとがきによれば、作者は<橋>をテーマにした作品をあと3作品予定しているとのこと。<橋>というと、やはり、藤沢周平さんの「橋ものがたり」を思い出す。
●大垣藩士・岩間三良は、新妻・加奈との夫婦愛を信じ、勝手方掛(納戸役)下役から郡同心に役替えになった村廻りのお役目に邁進していた。ところが、加奈は、大蔵奉行の息子・大隅佐四郎と不義密通の末に、出奔。三良は、二人を追って、女敵討ちの旅に出た。
かまいたち ★★★☆☆☆
カバー装画:藤田新策
解説:笹川吉晴(文芸評論家)
(宮部みゆき・新潮文庫・520円・96/10/1)
購入日:9月30日/読破日:10月6日
「迷い鳩」と「騒ぐ刀」は、霊験お初シリーズの初期作品。「はやぶさ新八」でおなじみの南町奉行根岸肥前守鎮衛の手になる奇談「耳袋」がモチーフになっている。キャラクターがしっかりしていてシリーズ化が楽しみな作品。宮部さんの作品はどれも、控えめなユーモアと救いのあるラストシーンが読んでいて気持ちいい。
●「かまいたち」(享保三年)神田八辻が原の町医者玄庵の娘おようは、世間を騒がす辻斬り・かまいたちの犯行現場を見る。「師走の客」千住の宿屋梅屋に、師走になるといつも逗留する仙台の小間物商常二郎がやってきた。この客はいつも宿賃を干支の置物で払っていた。「迷い鳩」日本橋通町の一膳飯屋・姉妹屋のお初は、小紋の袖を血に染めた商家のお内儀お清に声をかけたことから一騒動に。「騒ぐ刀」南の同心内藤新之助が質屋で換えた脇差しが、夜中にうめき声をあげる。
子づれ兵法者 ★★★☆☆
カバー装画:百鬼丸
解説:清原康正
(佐江衆一・講談社文庫・540円・96/9/15)
購入日:9月23日/読破日:10月5日
7編とも、長い純文学作家時代に培った巧緻な文体と、武道の有段者としての角度からの描写が特徴。氏の長編「北の海明け」に通ずる「鼻くじりの庄兵衛」に出てくる間宮林蔵の描き方が面白い。「女鳶初纏」武器となる火消しの道具が新鮮。「鬼平」の影響で火盗改めというと、正義の味方ってイメージが強いが、こんなこともあったんだろうなあ。
●「子づれ兵法者」常陸国下館の浅山一伝流の道場主のもとへ、子連れの兵法者が訪れる。中西派一刀流のの平川軍太夫がわが子の命を賭けて立ち会いを所望する。「菖蒲の咲くとき」新発田藩士久米幸太郎は、四十年におよぶ仇討ちの旅で病を得た末に十五になる娘佐和と、ようやく牡鹿半島の祝田浜で仇敵と対峙する。「峠の伊之吉」追手に命を狙われる渡世人伊之吉は、三国峠の茶店で、身重の百姓女お菊と出会う。「鼻くじりの庄兵衛」(文化八年)いつも鼻ねじを腰に帯びている松前奉行所同心柴田庄兵衛は、いつも鼻ばかりくじっているために軽んじられていた。「猪丸残花剣」(寛政八年)穴間耕雲斎は、無心流殺人剣を一子相伝するため十二年ぶりに赤城山中へもどる。「女鳶初纏」(享保九年)女火消し緋牡丹のお竜は、火付けの冤罪で火盗改めに処刑された恋人の仇を討つために立ち上がる。「装腰綺譚」(文政三年)御家人矢嶋清三郎が、元掏摸のお仙の支えを受けて、侍を捨て根付師月虫として生まれ変わる。
はやぶさ新八御用帳 五 御守殿おたき ★★★★☆
カバーレイアウト:岸顯樹郎
カバー装画:佐多芳郎
舞台:寛政十年以降、隼新八郎26歳
(平岩弓枝・講談社文庫・480円・96/9/15)
購入日:9月30日/読破日:10月3日
シリーズ第5弾。1年半ぶりに再読した。登場人物が熟成されていて、本作が最高傑作集か。ドロドロした殺人事件が少ないのも、このシリーズの特徴か。
●「赤い廻り燈篭」狂歌師の旗本の奥方と事件の鍵を握る赤い廻り燈篭。「御守殿おたき」下谷長者町の菓子舗が育てた捨て子は、大名の姫君か。「雪日和」粗暴な振る舞いが目立つ若君を懸命に育てる側室。血のつながらない親子の情を叙情豊かに描く。「多度津から来た娘」江戸の水で洗うと、女はまことに美しくなる・・。「男と女の雪違い」雪の日に幼い兄弟を助けようとして肩を痛めた新八を看病する小かん。「三下り半の謎」盗賊に堕ちた元藩士が書いた三通の三下り半の謎とは・・。「女密偵・お鯉」金無垢の薬師如来像捜索の使命を受けて、紀州藩上屋敷奥御殿に潜入するお鯉、果たして事件を解決できるのか。「女嫌いの医者」かわせみの麻生宗太郎を連想させる、青年医師吉山宗典。女嫌いのそのわけは?
剣客商売 暗殺者 ★★★☆☆
カバーレイアウト:多田進
カバー装画:中一弥
舞台:天明三年(1784)師走〜天明四年二月二十日、小兵衛66歳
(池波正太郎・新潮文庫・440円・96/10/1)
購入日:9月30日/読破日:10月1日
シリーズ第14弾、長編。前作〔夕紅大川橋〕で老剣友・内山文太を亡くして以来めっきり老け込んだ、小兵衛。「剣客商売」ファンとしては、ちょっと心配。ちなみに店の名前など固有名詞に、この〔〕を使うのが池波さんの特徴だ。おなじみの人物がいろいろ登場するので剣客商売の登場人物相関図が必要になりそう。
●小兵衛は見た。凄腕の二人の浪人者をたちまちにして蹴ちらした、その巨漢の剣客の手並みを。男の名は、波川周蔵。「あの男ならせがれでも危うい」。波川にいわれなき胸騒ぎを覚えた小兵衛は、やがて大治郎襲撃の計画を偶然知るや、卓抜した剣客の直観で、その陰謀と波川との見えざる糸を確信する。