時代小説・お気楽極読破録

おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。


講談 碑夜十郎(上・下)
 ★★★☆☆
カバーデザイン:安彦勝博
カバー画:天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)
舞台:天保三年〜四年、浅草田原町蛇骨長屋
(半村良・講談社文庫・上660円、下560円・92/4/15)
購入日:9月25日/読破日:9月28日

NHKの金曜時代劇「天晴れ夜十郎」の原作。TV以前の人たちには常識の「天保六花撰」が、ようやくこの本でわかった。後半「巨人さま」が出てくる頃からSF色が濃くなり、時代小説ファンとしてはちょっと残念。
●千住のお十夜(浄土宗の十月の行事)に、石碑の上で全裸で眠っていた美男子は、女賊・花房のお絹に助けられ、「碑夜十郎」と名付けられた。夜十郎は、記憶を失ったままながら剣の達人として、河内山宗俊ら「天保六花撰」メンバーとともに、江戸の悪を懲らしめる講談タッチの長編小説。
ドラマ化された配役:碑夜十郎(阿部寛)、お絹(黒木瞳)、河内山宗俊(石坂浩二)、浪風達之介(蟹江敬三)、平助(せんだ光雄)、三十歳(若村麻由美)、金子市之丞(勝野洋)、森田屋清蔵(岡本富士太)、片岡直次郎(沖田浩之)、丑松(高橋克実)、永井五衛門(平泉成)、おしん婆あ(春川ますみ)


大砲松 ★★★☆☆☆
カバーデザイン:鈴木正道
解説:神坂次郎(作家)
舞台:慶応四年四月〜八月
(東郷 隆・講談社文庫・660円・96/9/15)
購入日:9月21日/読破日:9月25日

第15回吉川英治文学新人賞受賞作。007のパロディー「丁稚・定吉七番」シリーズでおなじみの著者の時代小説。あとがきにあるように、時代小説では継子扱いの幕末の洋式火砲をメインにとり上げた快作。「居残り左平次」や北原亞以子の「まんがら茂平次」を彷彿させる主人公松三がいい。絵になるヒロインがいないのが残念。
●神田和泉橋の裏店に住む締出し松、こと松三は、槍屋「槍丹」の放蕩息子。背中の刺青、文覚上人を撤兵組小頭並依田信五郎に湯屋で見込まれ、上野彰義隊へ入隊、大砲掛を仰せつかられるが、・・・。


狼奉行 ★★★☆☆
カバー:蓬田やすひろ
解説:赤木駿介(作家)
舞台:「狼奉行」天明三年羽州上山藩、「廈門心中」明治三十三年、「小姓町の噂」明治三十八年山形市
(高橋 義夫・文春文庫・450円・96/6/10)
購入日:6月25日/読破日:9月25日

第106回直木賞受賞作。中編の「狼奉行」は清冽な名作。他の2編は、史料の入り方が気になって文体が硬く読みづらいのが残念。
●「狼奉行」羽州上山藩士・祝靱負はお家騒動の余波で山代官の下役に配される。家格に合わぬ役目に力を尽くす寡黙な若者に襲いかかる、狼の来襲、かせぎ病(狂犬病)の流行・・。「廈門心中」義和団事件当時の廈門における、元お針子の秋元たえ、旦那の薬商・栄蔵、謎の学生桑島多一郎ら居留邦人たちの人間模様。「小姓町の噂」山形における日露戦争のロシア人捕虜たちの俘虜生活事情。



風の砦(上・下)
 ★★★★☆☆
カバー装画:佐多芳郎
カバーデザイン:岸顯樹郎
解説:小島知加子
舞台:安政三年(1865年)宗谷
(原田康子・講談社文庫・上640円、下600円・95/9/15)
購入日:9月16日/読破日:9月21日

最近、気になる蝦夷地もの。1987年2月に新潮文庫化された、隠れた名品。よく入手できたというべきか。
●古島香織は、妻菊に新婚の床を拒絶される不条理な家庭から逃れる術として、藩命の蝦夷地出兵に自ら志願する秋田藩士。剣術にすぐれた親友、亘理運平も同じ出陣に加わる。やがて蝦夷地宗谷で幕府の出張役人の妻ゆうと惹かれ合う。一方、運平も蝦夷娘ショルラと愛し合う。2組の男女を中心に、蝦夷地の自然、人々をロマンティズムとスリルをまじえて清冽に描く。
ドラマ化するなら配役はこれ:古島香織(織田裕二)、亘理運平(高島政伸)、助川惣三郎(西村雅彦)、ゆう(安田成美)、ショルラ(篠原涼子)、シセク(反町隆史)、菊(松たか子)、センケ(若林豪)、ケシヌカラ(小林克也)


出世長屋 十時半睡事件帖 ★★★
カバー装画:西のぼる
カバーデザイン:岸顯樹郎
解説:植村修介
舞台:化政期(1804〜1829)のいつか
(白石一郎・講談社文庫・440円・96/9/15)
購入日:9月14日/読破日:9月18日

半分睡って暮らすという洒落でつけた、シルバーヒーロー半睡シリーズ第5弾。今まで福岡で活躍していた半睡が、江戸へ移り住む本編。
●「半睡、江戸へ」息子の不始末から黒田藩の総目付を辞職し、隠居生活を楽しんでいた半睡。同藩江戸藩邸の風紀の乱れの取り締まり役に白羽の矢が立った。江戸での刃傷沙汰で兄を失った中村勘平を若党がわりに江戸へ。「赤坂中屋敷」半睡は、千二百人を抱える黒田藩赤坂中屋敷の風紀をただすために、国元と同様に十人目付制を導入する。「旧友」二十数年前、大阪蔵屋敷でともに奉行職をつとめた鈴木甚太夫と再会する。6歳年下の甚太夫は若い女と幼子と暮らしていた。「江戸修業」黒田藩寺社奉行の次男貝原多門は江戸で遊学していたが、学問に迷い町娘との恋におぼれていた。「出世長屋」江戸の藩邸の出世長屋に移り住んだ、勘平の兄弟子小杉又七郎は、女占い師に剣難の相が出ているといわれる。「目には青葉」隣藩佐賀藩からの駆込み人をめぐる難題。
事件帖といっても、主人公が剣技や推理力を発揮するというよりは年の功と人情味あふれるで解決する、不思議なシリーズ。植村修介氏の解説「歳をとりはじめた十時半睡」が各種のデータを揃えていて、ファンにはうれしい。

十時半睡事件帖シリーズ

  • 包丁ざむらい
  • 観音妖女
  • 犬を飼う武士


    狐火の町 ★★★☆
    装画:清水雅子
    装幀:原田幸生(廣済堂)
    舞台:文政十三年六月
    (澤田ふじ子・廣済堂出版・1500円・95/9/15)
    購入日:2月7日/読破日:9月17日

    ●京都指物町の質屋寺田屋宗信は、人情に厚い商いぶりで町人からありがたがられていた。しかし、宗信は二十年まで、盗賊〔狐火の孫〕と異名をとった過去があった。そんな宗信のもとへ、盗品とわかる光悦茶碗が持ち込まれたことがきっかけで、盗賊長兵衛に二千五百両を強請られることになる。しかも、人質として、一人娘のお鶴を誘拐されてしまう。身命を賭けてお鶴を救おうとする宗信だが、折からの不穏な自然現象が前兆か、大地震が京の町を襲う。
    阪神大震災(1995年1月17日)の165年前に、京都でマグニチュード6.5〜7の直下型地震が起きた。風化する震災の記憶に対する関西在住の時代小説家らしいの鎮魂歌か。


    小栗上野介の秘宝 ★★★☆☆
    カバー装画:西口司朗
    カバーデザイン:熊谷博人
    解説:清原康正
    舞台:明治六年
    (典厩五郎・富士見時代小説文庫・600円・95/12/10)
    購入日:7月7日/読破日:9月15日

    ●贋札事件の真相をさぐっていた警保寮少警部片山が殺される。昔の部下を見殺しにした、秋庭圭次郎が事件解決に乗り出した・・・。
    幕末の能吏小栗上野介(忠順)と秘宝がしっくり結びつかないまま、読み始める。面白い。井上馨、江藤新平、山岡鉄舟、高橋泥舟、仮名垣魯文ら明治の有名人が次々登場する。とくに井上と江藤の対比が面白い。元北町の与力で、維新後は深川の賭場の用心棒に堕ち、ばくちにのめり込む、主人公秋庭圭次郎が魅力的だ。元許嫁の蓉子、豪商速見の娘美和子、元岡っ引きの娘お光などの女性たちが火花を散らす場面もあり、良質なエンターテインメントになっている。「赤坂・葵坂」「小石川・切支丹坂」「本郷・暗闇坂」「牛込・神楽坂」「横浜・谷戸坂」「湯島・妻恋坂」「駿河台・富士見坂」「神田・紅梅坂」と、各章のタイトルに坂の名前がつき、文明開化の情緒を巧みに伝えている。惜しむべきは、作者の関心が謎解きに重点がいってしまったために、時代小説というよりは開化捕物帳化してしまった点か。ちなみに作者は「土壇場でハリー・ライム」でサントリーミステリー大賞を受賞したミステリー畑の人。


    北の海明け ★★★★☆
    装画:蠣崎波響
    解説:武蔵野次郎(文芸評論家)
    舞台:文化元年
    (佐江衆一・新潮文庫・560円・96/9/1)
    購入日:9月7日/読破日:9月14日

    開国目前の蝦夷・アッケシ(厚岸)に、官寺を建立し、布教、アイヌ教化を目指す僧たちの活躍を描く風変わりな時代小説である。初めての作者で、土地勘がない、主人公が僧で抹香臭い、どうなるかと思いながら読み始める。まだ半分まで行かないのに、主人公の僧文翁が座脱(座禅を組んだまま死ぬこと、禅僧としての最上の死)する。おいおい、どうなるんだと、不安に思うが、実はこれを機に物語は波瀾万丈度を増し、一気に面白くなる。あとは、読むしかないでしょ。新田次郎賞受賞作。


    喜多川歌麿女絵草紙 ★★★
    カバー・切り絵:宮田雅之
    舞台:寛政三年
    (藤沢周平・文春文庫・420円・82/7/25)
    購入日:9月6日/読破日:9月8日

    歌麿ってきくとHなイメージが強い。初出のタイトル「歌麿おんな絵暦」が示すように、桜の季節に始まり梅の綻ぶころに終わる、歌麿と彼のモデルとなった女たちの物語である。というとますますエロティックなものを想像するかもしれないが、いい意味で裏切られる。
    ●蔦屋が山東京伝の洒落本で発禁処分を受けた、歌麿は取り締まりの外に置かれた役者絵の注文を受けるべきか考えていた・・・。モデルたちの描き方に、初期の藤沢作品のフレーバーがよく出ている。売れる前の馬琴や写楽も登場する。


    江戸人物伝 <歴史エッセー>
    カバー:西のぼる
    解説:村松剛
    (白石一郎・文春文庫・420円・96/3/10)
    購入日:8月25日/読破日:9月6日

    収録:「巌流島の決闘--宮本武蔵・佐々木小次郎」「天一坊事件と大岡裁き」「大石内蔵助良雄」「不運の大目付庄田下総守」「黒田騒動--栗山大膳」「天保のライバル奉行--矢部定謙・鳥居耀蔵」「譜代高取藩の天誅組討伐」「九州男児の奇行三態--中川入山・白水要左衛門・梅北国兼」「赤備えの新参譜代--井伊兵部少輔直政」「浪人無惨大老暗殺劇の配役」「女丈夫大浦お慶の商才」「自ら政策化した開国国是--横井小楠」「西郷隆盛と島津斉彬」「仁勇、風の如く生きた桐野利秋」「西南の役・田原坂の残照」。武蔵、大石、西郷から白石作品で重要な白水やお慶まで、江戸時代を生き抜いたヒーローたちを釜山生まれの九州人のフィルターで描いた歴史エッセー集。なかでも江戸期を代表するヒール(嫌われ役)鳥居耀蔵ものが読みたくなった。


    梟の城 ★★★★
    カバー:山崎百々雄
    解説:村松剛
    舞台:天正十九年三月から六月、伊賀、京
    (司馬遼太郎・新潮文庫・640円・65/3/30)
    購入日:6月10日/読破日:9月1日

    司馬氏の急逝のブームが一段落ついてから購入し、ほかしておいた本。直木賞受賞作として有名な初期の作品、映画化の際に隆慶一郎(筆名:池田一朗)氏が脚色したことでも知られる。
    ●征韓の役の頃、秀吉の暗殺を狙う伊賀の忍者、葛籠重蔵。その相弟子で、伊賀を売り京都奉行前田玄以に仕える風間五平。師の娘で二人の間で揺れる木さる。重蔵を愛する堺の豪商今井宗久の養女、小萩。四人の男女を軸に物語は展開する。
    伊賀と甲賀、忍者と武士、男と女という3つの対立をテーマにスピーディーに描く。後期作品に見られる圧倒的な重厚さが薄い分、エンターテイメントとして存分に楽しめた。
    ドラマ化するなら配役はこれ:葛籠重蔵(唐沢寿明)、風間五平(福山雅治)、小萩(葉月里緒菜)、木さる(内田有紀)、下柘植次郎左衛門(夏八木勲)、伴摩利洞玄(西岡徳馬)、前田玄以(中尾彬)、豊臣秀吉(菅原文太)


    重籐(しげとう)の弓 ★★★☆
    装幀・装画:蓬田やすひろ
    (澤田ふじ子・徳間書店・1500円・96/4/30)
    購入日:6月3日/読破日:9月1日

    ●「重籐の弓」篠山藩京藩邸に奉公するお杉は、嵯峨野で男たちに襲われているところを有職御弓師大蔵彦次郎に助けられる。弓師の業を描く。「将監さまの橋」大垣藩祐筆番頭桃田彦十郎は、将監さまの橋で寺侍と話しこんでいる隣人を見かける。「短日の菊」奈倉甚九郎は、大垣藩の不手際で15年も無駄歩きをさせられた埋め合わせに、扶持二百石と屋敷を与えられる。心にあるのは、四十年前に仇討ちのために別れた五十緒のことだった。「花鋏」郡上藩浪人の娘八重は病床の父を抱え、大住院以信の立花で生計をたてていた。若旦那に見初められ料理屋へ嫁ぐ。「たつみ橋」与謝蕪村に俳句を師事していた葉茶商青松堂吉兵衛は、先立たれた息子との仲を裂いた料理茶屋で働くお桂のことが気がかりだった。「心中雪早鐘」近江屋仁左衛門と後妻のおもよは湯嶋へ湯治に出る。そこで、おもよは初恋の相手吉五郎と再会する。「朧夜の影」元東町奉行所与力土田宗兵衛は、釣りの帰りに西土手の刑場で石工を見かけ、昔の事件を思い出す。「名付け親」大垣藩士小宮掃部助は、少年時代の恩人の老婆伊勢の相談を受ける。「蓮台の月」灰屋紹益の妻徳子は、かつて六条三筋町で吉野太夫と呼ばれた伝説的な傾城であった。
    哀歓あふれる短編の名手ぶりを発揮している。とくに「重籐の弓」「花鋏」「蓮台の月」がすばらしい。