時代小説・お気楽極読破録おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。
手跡指南(しゅせきしなん)神山慎吾 ★★★★
装画:中一弥
装丁:熊谷博人
舞台:嘉永。江戸堀江町と豊後臼隈
(佐藤雅美・講談社・1700円・96/8/20)
購入日:8月24日/読破日:8月24日
中さんの表紙に惹かれ購入。
●公金横領の罪で国家老の父が切腹。故国臼隈を追われるように江戸へ出て手習塾の師匠として市井に生きる決意をした慎吾の長屋へ、夜分お高祖頭巾の女が訪ねてくる。退隠させられた先殿(松園)が、侍女を使って慎吾をお家騒動の渦中に巻き込もうとする。
子連れで入門してきた手習子をめぐる騒動が発端。市井ものでゆくのかと思わせる鮮やかな出だし。第二章からお家騒動ものへと展開していく。慎吾ののほほんぶりが作品を明るくしていていい。
ほかの登場人物が魅力的でドラマ化してほしい作品。
配役:神山慎吾(野村宏伸)、宮川鈴(鶴田真由)、宮川寛斎(神山繁)、宮川清(白川由美)、荒木大膳(宍戸錠)、溝口左京(益岡徹)、天満屋五兵衛(長塚京三)、狭間松園(橋爪功)、馬瀬村の文蔵(斉藤洋介)、神山織部(江守徹)、狭間右京(細川俊之)ほか
芭蕉庵捕物帳 ★★☆☆☆
カバーデザイン:成瀬始子
解説:清原康正
舞台:貞享元年から赤穂浪士討ち入り
(新宮正春・福武文庫・600円・96/5/7)
購入日:8月5日/読破日:8月23日
●「黒鍬者又七の死」下肥汲みの元締めの首つり死。「鎌いたち」生類憐みの令にからんで芭蕉の庇護者杉風を強請る鳥指しへの始末。「野ざらし」元数寄屋坊主夫妻の焼死事件と堀田正俊殿中刺殺事件。「初しぐれ」紀伊國屋文左衛門の勃興の謎と材木置場で行き倒れの男。「旅の笈」大川端で見つかった首なしの若い女の背景に、陸奥磐城平七万石内藤家のお家騒動。「薄紅葉」永代寺での勧進相撲とタニマチの旗本奴と平戸松浦藩の確執。「みなし栗」小名木川べりのどぶに頭から突っ込んで死んだ板木彫り殺しが、膳所藩のもぐさと売薬のPR騒動へ。「花かつみ」芭蕉は曽良を連れて奥州へ。曽良の素性と白河藩のお家騒動。「本所松坂町の雪」題名通り赤穂浪士の討ち入りもの。其角の仲間子葉は赤穂浪士の一人大高源吾であった。
三十俵二人扶持に役料十両の本所廻同心・笹木仙十郎は、小名木川に打ち上げられた若い女を手慣れた検死ぶりをみせた師桃青(芭蕉)を知恵袋代わりに使い、難事件を解決していく。
各話には、事件を象徴する芭蕉の句が盛り込まれている。連作ながら話の並びが時代順でないために落ちつきが悪い。また、いろいろなものを欲張りすぎて、消化不良気味なのが残念。
かかし長屋 浅草人情物語 ★★★☆☆☆
カバーデザイン:中原達治
舞台:江戸時代後期、浅草三好町
(半村良・ノン・ポシェット・600円・96/7/20)
購入日:8月1日/読破日:8月22日
●当初、住人がかかしのようなボロを着ているところから名付けられた、極貧のものたちが住む「かかし長屋」。その住人たちのプロフィールをエピソードをまじえて確かな筆致で紹介していく。繁盛している菓子屋の玉の輿にのるお袖、元五千石の旗本の嫡男だった古金屋の千次郎、米屋の奉公が続かず生家でごろごろする源太少年。口は悪いが面倒見のいい姫糊屋のおきん婆さん。長屋の住人を陰に日向にで支える貧乏寺の住職忍専。かかし長屋にひっそりと暮らす、盗賊から足を洗った扇職人勘助のもとに昔の盗賊仲間・手妻の半助がやってきた。何げに漏らす押し込み先は、お袖の嫁ぎ先らしい。
装幀が時代小説ぽくなくて、読欲がわかず半月ほどつん読状態だった。しかし、読みだすと、これは面白い。池波の盗賊もの、藤沢の市井ものに通ずるところあり。とくに大人になりたがる源太を描いている部分は澤田の「虹の橋」を彷彿させる。
博浪沙異聞(はくろうさいぶん) ★★★☆☆☆
カバー装画:小林由美子
解説:小谷真理(文芸評論家)
舞台:戦国から前漢初
(狩野あざみ・新潮文庫・440円・96/1/1)
購入日:7月15日/読破日:8月17日
表題作で第15回歴史文学賞受賞。「博浪沙異聞」(始皇帝の狙撃に失敗した韓の出身の張良が幽境で赤松子と名乗る仙人と中国象棋に興ずる)。「卜筮(ぼくぜい)」(卜筮者に将来を占わせた知伯瑶は、晋陽城に篭る晋の太子張母恤を水攻めにする)。「妖花秘聞」(晋の驪姫といえば、献公の太子の申生、重耳、夷吾を退け、息子の奚斉を太子にした悪女の典型。しかし、それは征服者の歴史?)。「窮鼠の群れ」(徹底した法治主義で秦を強国にした商鞅の最期を描く)。「帝たらんと欲せしのみ」(漢初の異姓の王、淮南王黥布(げいふ)が反乱した理由と劉邦の長期政権への布石)。「覇王の夢」(呉の公子季札は長兄より王位を譲られるが...)。悲劇の英雄、美姫たちのドラマを爽快に描く歴史小説集。中国の歴史に疎いせいで、ストーリーを存分に楽しめた。
大江戸仙界紀 ★★☆
カバー装画:熊田正男
解説:板坂燿子(福岡教育大学教授、「江戸温泉紀行」編者)
舞台:文政9年(1826)の年末年始と現在
(石川英輔・講談社文庫・540円・96/8/15)
購入日:8月10日/読破日:8月15日
厳密いえば、SF小説になるだろか。しかし、詳細な江戸の風俗描写は下手な時代小説よりずっとためになる。とくに物売りと庶民たちの織りなす歳末風景が秀逸。江戸にかわいい芸者いな吉を、現在に美人編集長で妻の流子をと、うらやましすぎる二重生活を送る作家速見洋介が主人公のシリーズ第4弾。今回のみどころは、江戸後期の熱海の湯への旅風景と仙境(現在)にやってきたいな吉の見たものは? 杉浦日向子とはまたひと味違う(科学者的な視点で見た)江戸礼賛本。
賢くなったコトバ:「お喰積(おくいつみ)」 三方の上に白米を一面に敷いて裏白とゆずり葉を置き、真ん中に本物の松竹梅を立てて、周囲に橙と柚、伊勢海老、かちぐり、かやの実、干柿、ほんだわら、昆布などを配置した正月飾り。蓬莱飾りともいう。
竜の見た夢 ★★★★
装幀:菊地信義
舞台:島原の乱直後
(羽太雄平・講談社文庫・580円・96/8/15)
購入日:8月10日/読破日:8月12日
隆慶一郎の影響を色濃くもつ作品。浮田平四郎、本多政重はじめ、前作「本多の狐」の主要人物が総登場。新たに混血娘お愛に、美剣士柳生友矩も加わる。さらに隆ファンにおなじみの忠輝も登場。独眼竜政宗の築いた仙台を舞台に、本多の狐、猿の一族、黒脛巾組、柳生、吉利支丹が入り乱れる大活劇。江戸幕府に抗し竜の見た夢とは? 40以上の資料、文献を駆使して描いた会心作。
亜州黄龍伝奇(5)特別篇 隋唐陽炎賦 ★☆
装幀:真野薫、イラスト:塚本俊昭
舞台:唐初の李淵の頃
(狩野あざみ・徳間書店・750円・94/6/30)
購入日:8月1日/読破日:8月5日
1カ月ぶりの時代小説。何をしていたかっていうと、京極夏彦にハマってしまったのだ。昭和20年代の後半が舞台ということで、無理をすれば時代小説? いや、同時代を生きた人が生存しているうちは時代小説とはいえないか。続いてハマったのが狩野あざみの「亜州黄龍伝奇」シリーズだった。黄龍とその眠りを守る四聖獣(青龍、白虎、朱雀、玄武)の生まれ変わり?がエネルギッシュな香港の街を縦横無尽に動き回る快連作。本作は、その番外編で時代を隋唐に移すが、主人公の李密に親近感をもてず、いまいち乗れない消化不良か。