新・極楽の読書録
1997年4月・卯月の巻


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

宵の夢  ★★★☆☆
著者:竹田真砂子
装幀:蓬田やすひろ
時代:寛文八(1668)年、秋〜延宝二(1674)年八月
(文藝春秋・1429円・97/04/20)
購入日:97/4/20 読破日:97/4/27

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「新・時代小説宣言」というキャッチフレーズと中村勘三郎の文字、蓬田さんの表紙に惹かれて、新しい作家、しかもハードカバーにもかかわらず購入した。
著者は、東京・神楽坂(芸者さんもいるちょっと艶っぽい町)生まれで、「十六夜に」でオール讀物新人賞を受賞し、歌舞伎の世界にも精通した人らしい。
南原さんの「江戸吉凶帳」にも勘三郎は登場しているが、あちらは200年ほど後の勘三郎である。また、市村座の座元が市村宇左衛門(羽左衛門ではなく)となっているのも目をひく。
京のかぶきと幕府の関係、若衆歌舞伎や江戸四座(絵島生島事件の前なので、山村座もある)の興行ぶりなど、江戸歌舞伎初期の様相を精妙に描いていて面白い。学生時代に日本演劇史の講義を思い出した。もっとも、ちゃんと授業に出たのは2、3回だが。

●二代目中村勘三郎が28歳の若さでこの世を去った。勘三郎と昵懇な仲の人気女形の瀧井山三郎がその弔問にやってこない。見物の衆から不審の声が…。勘三郎の変死の謎と歌舞伎の世界の華と、政治の世界の陰を描く。

林蔵の貌(かお)  ★★★★☆☆
著者:北方謙三
カバー:百鬼丸
解説:縄田一男
時代:文化十(1813)年
(集英社文庫・各563円・96/11/25)
購入日:95/3/6 読破日:97/4/27

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蝦夷地を舞台にした作品というのは、厳しい北の自然の中で人間の本性がでるせいか、緊張感の漲るものが多い。本書では、主人公のひとりがいう「冬をどう味方につけるか。それで私の闘いは決まるような気がする。越冬などという考えでは駄目なのだ」に表される。
「武王の門」以来、お気に入りの北方時代小説であるが、今回はおなじみの南北朝時代から江戸へジャンプ。そこには幕府vs.薩摩・朝廷といったプレ幕末の様相があった。
ところで、崩れた顔というとたけしさんのことが頭に浮かび、林蔵にダブらせて読め、異相の主人公にもかかわらず親近感がもてた。

●越前の船頭・伝兵衛は謎の武士・野比秀磨を乗せ蝦夷地へと櫓を漕ぐ。そこに待っていたのは凍傷のため顔の半分が崩れた測量家の間宮林蔵。壮大な北の海に広がるロシア、幕府、朝廷、水戸藩、薩摩藩の合従連衡劇。

■ドラマ化するならこのキャスト:間宮林蔵(ビートたけし)、狩野信平(本木雅弘)、野比秀磨(役所広司)、伝兵衛(世良公則)、宇梶屋惣右衛門(永澤俊也)、島津重豪(丹波哲郎)、今和泉景茂(西岡徳馬)、村垣景保(小林稔侍)、小夜(富田靖子)


間諜  ★★★☆☆
著者:杉本章子
カバー画:佐多芳郎
時代:文久二(1862)年、八月
(中公文庫・上777円、下874円・97/03/18)
購入日:97/3/20 読破日:97/4/24

Amazon.co.jpで購入 [文春文庫版『間諜 洋妾おむら〈上〉』]

北原亞以子さんの「このテーマは自分も書きたかった」というちょっとズルい推薦文(どこで読んだのかわからないが)に惹かれて読み始めました。
芸者おむらを中心に描かれる物語と、幕府の高官を中心に描かれる物語がパラレルに展開する。英国公使ニールを介して結びつくのだが、慣れないストーリー展開でなかなか波に乗れなかった。
維新前の幕府の高官たちの外交オンチぶり、事なかれ主義、リーダーシップのなさの描写が秀逸。どこかの政府に似ていてトホホって感じです。

●生麦事件の渦中で、薩摩藩士の恋人のために洋妾(らしゃめん)となり、英国公使館に潜入する芸者おむら。事件を巡り対立する英国・幕府・薩摩の外交を描く歴史長編。

海狼伝 [再読] ★★★★☆☆
著者:白石一郎
カバー:西のぼる
解説:尾崎秀樹
時代:天正二(1574)年、五月
(文春文庫・544円・90/04/10)
購入日:97/1/10 読破日:97/4/20

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周囲を海に囲まれた日本だが、イギリスなどと比べると海をテーマにした時代小説は少ない。理由は、江戸時代の鎖国主義と、為政者の立場から、海賊に関する文書を残していないせいらしい。
そんな中で、白石さんほど、海に関する小説づくりにエネルギーを注いだ作家はいない。ぼくが、白石作品にハマってしまったのもそんな訳です。
本書は、対馬から瀬戸内海を舞台にしています。巻頭に地図がついていれば、もう少し位置関係が掴めて助かるのですが…。対馬の海賊(松浦党)と瀬戸内海の海賊(村上水軍)の違いが面白い。

●海と船に憧れを抱いて対馬で育った笛太郎は、宣略将軍、李伏竜のもとで海賊になるが、航海中村上水軍の海賊に捕まり、能島小金吾の手下となる。
海に生きる男たちの夢とロマンを描いた海洋冒険時代小説の最高傑作。第97回直木賞受賞作。

◆海洋時代小説を楽しむための用語(風の呼び名)
南風ハエ
南西風サガリニシ
北西風アナジ
西風マニシ
東風コチ
北東風キタコチ
「クロハエ」といえば、黒雲をともなう南風のことです。ちなみに南東風を何というかはわかりません。

柳生忍法帖 (上:江戸花地獄編、下:会津雪地獄編) ★★★☆☆
著者:山田風太郎
カバー装画:百鬼丸
カバーデザイン:熊谷博人
解説:磯貝勝太郎
時代:寛永十九年
(時代小説文庫・1,360円・90/05/30)
購入日:97/2/24 読破日:97/4/16

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縁切り寺として名高い鎌倉・東慶寺といえば隆慶一郎さんの「駆込寺蔭始末」を思い出します。弘安八年執権北条時宗の夫人覚山尼により開創、住持には代々名門の後室ないしは姫君がなるということです。豊臣秀頼の姫、天秀尼が有名。
本書では、また吉原の生みの親、庄司甚右衛門や沢庵、黒衣の宰相天海、柳生十兵衛らも登場します。
お待ちかねのヒール側には、淫虐大名の加藤明成をはじめ、会津七本槍と名付けられた、鷲ノ巣廉助(怪力拳法)、平賀孫兵衛(槍の名手)、漆戸虹七郎(片腕の剣士)、大道寺鉄斎(鎖鎌遣い)、司馬一眼房(変幻自在の鞭をつかう)、具足丈之進(三匹の巨犬を操る)、香炉銀四郎(霞網の妖術)と彼らの総帥芦名銅伯(夢山彦と忍法なまり胴)とその娘おゆらなど、そうそうたるメンバーが控え、興趣につきないところ。
サービスしすぎで、やや冗漫になってしまったところが残念です。

●会津四十万石加藤明成は淫虐魔王ともいうべき大名。重臣堀主水は毎々諫言をしたが、遂に見限って退転し、一族の女37名を鎌倉・東慶寺に預け、高野山に入った。怒り狂った明成は、幕府の許可状をもとに会津七本槍を使って、堀一族を江戸へ引きずっていく。

はやぶさ新八御用帳 (八)春怨 根津権現 ★★★☆
著者:平岩弓枝
装画:佐多芳郎
装幀:熊谷博人
時代:寛政十一年
(講談社・1500円・97/04/10)
購入日:97/4/10/読破日:97/4/13

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南町奉行根岸肥前守の奥与力、隼新八郎が難事件を解決する、おなじみの「はやぶさ新八」シリーズの最新作。
今回は、おなじみの湯島の鬼勘こと、岡っ引を引退した勘兵衛、その娘で坂東流の踊りの名手小かん、同心の大久保源太の活躍ぶりが目立つ。お鯉と新八郎の妻郁江の出番が減ったのが残念。また、今回は、男女の愛情のもつれを描いた作品が多く、新八郎の推理力や立ち回りもスパッといかなく、爽快感が乏しい。

●「春怨 根津権現」御坊主の家から名門旗本の家に養子に入ったばかりの当主が毒殺未遂される事件に続き、前主の奥方が根津権現の境内で殺される…。「聖天宮の殺人」中川舟番所の役人が殺された…。「梅屋敷の女」鬼勘のもとで居候している男は女敵持ちであった…。「世間の噂」女系家族の米屋に入り、主人の留守にもかかわらず、女ばかりで賊を打ち殺した…。「牛天神の女」小石川、水戸家上屋敷近くの牛天神を参った新八郎と大久保源太は、婀娜っぽい商家の内儀を見かける…。「秋風の門」新八郎は、野犬に襲いかけられる仏に仕える有髪の若い男を助ける…。「老武士」大川の枕橋のたもとで、新八郎は、紫頭巾の若者七、八人に通行料を払えと囲まれる…。

風雲将棋谷 ★★★★
著者:角田喜久雄
カバー:東啓三郎
時代:弘化二年
(春陽文庫・544円・70/04/20)
購入日:97/3/30/読破日:97/4/11

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伝奇小説の古典的名作。タイトルは、将監という長に率いられて一族が移り住んだ山奥の地、将監谷がやがてそこの住人が将棋の技に長けたために将棋谷と呼ばれるようになったところから来ています。登場人物がみな将棋を指したりもします。
深川砂村のからくり屋敷での黄虫呵と雨太郎の対決が、インディー・ジョーンズばりでワクワクドキドキさせてくれ、見どころの一つになっています。

●さそりを使う怪人黄虫呵が、亥年生まれの娘たちをかどわかす事件が続出。さみだれ縄を駆使する御用聞き仏の仁吉は、一人娘お絹をおとりに事件解決に乗り出すが…。お絹の危難を救うのが怪盗流れ星の雨太郎、あやめ屋敷の謎の美女朱実とその手下竜王太郎や、鳥居甲斐守の愛妾お梶らが絡む。

赤ひげ診療譚 ★★★★
著者:山本周五郎
カバー:安野光雅
解説:中田耕治
時代:明示されていないが、将軍家斉の治下の文政の頃か
(新潮文庫・466円・64/10/10)
購入日:97/3/23/読破日:97/4/9

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宮部みゆきさんの「返事はいらない」の中で小道具として本書が印象的に使われていて、読んでみる気になりました。でも、登場人物の男性は、この本を最後まで読んでいないじゃないかな。
そういえば、昔、田原俊彦主演のTVドラマを見た記憶があります。赤ひげは、亡くなられた萬屋錦之介だったような、あと、狂女に荻野目慶子(適役!)と所ジョージ、山口美江(なぜか長崎の遊女役でした)が出ていました。
主人公が若い医師で登という名前というと、藤沢周平さんの「獄医立花登」シリーズと比べたいところですが、想像していたより暗く重く味わい深い作品でした。

●幕府の御番医を目指して長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の“赤ひげ”と呼ばれる新出去定(にいできょじょう)に呼び出され、医員見習い勤務を命じられる。登は、許婚の裏切りなどもあり、赤ひげに反抗するが、貧しく蒙昧な最下層の人々への暖かい診療行為を目の当たりにして、次第に惹かれてゆく。

江戸吉凶帳 ★★★★
著者:南原幹雄
装画:東啓三郎
時代:文政四年
(新潮社・1500円・97/3/20)
購入日:97/3/23/読破日:97/4/6

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東さん装画と江戸歌舞伎の世界が舞台になっている点に惹かれてハードカバーながらも購入しました。
新しい捕物帳ヒーローの誕生! 中村座と市村座のある二丁町(堺町)の芝居茶屋江戸屋の主人弁之助は、男盛りの三十五歳。家業は8つ年下の恋女房の〈おわか〉が取り、仕切り髪結いの亭主状態で暇をもてあましていた。暇にまかせて俳句をひねったり絵をかいたり、剣術に励んだりしていた(明暗一刀流免許奥伝)。
役者くずれで五代目鳥居清満門下で芝居の絵看板を描く友蔵と目明かし鶴吉とともに、芝居町の難事件解決に乗り出すシリーズ。手拭いを得物に颯爽と立ち回りを演じるのも血生臭くなくて新鮮な感じがします。

●「芝居茶屋の亭主」初舞台を目前に、江戸屋に遊びに来ていた中村勘三郎の御曹司が行方不明になった…。「お役者買い」売出し中の若手役者が殺された…。「ことぶき興行」中村家相伝の宝物が盗まれた…。ほかに「夫婦道成寺」「お蘭の方騒動」「鳥居派五代目」「料理八百善」「名家の陰謀」など、華やかな歌舞伎の世界に潜む色と欲を浮き彫りにしながら、江戸屋弁之助が事件の謎を解く。

彷徨える帝 ★★★★☆☆
著者:安部龍太郎
カバー装画:百鬼丸
解説:井家上隆幸(評論家)
時代:永享十年
(新潮文庫・781円・97/3/30)
購入日:97/3/30/読破日:97/4/5

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読みごたえのある大作(読破に一週間かかりました)。病床の隆慶一郎さんが評価したのもうなずける作品です。
時代的には、なじみの薄い「後南北朝時代」ですが、皆川博子さんの「妖櫻記」と重なっているので、一緒に読むとスッと時代背景が理解できます。
黒色尉(こくしきじょう)、白色尉(はくしきじょう)、父尉(ちちのじょう)の三つの能面をめぐる南朝方と将軍家側の争奪戦あり、剣の対決あり、伝奇ものの要素もあり、暗号解読もありで、見どころがたくさんあります。

●小倉宮を奉じ南朝再興に尽力する北畠宗十郎は、後醍醐帝の呪力が込められた三つの能面に隠された、幕府を崩壊させるほどの秘密とは? 将軍義教暗殺(嘉吉の乱)を経て、時代は大きく動いていく…。