時代小説・お気楽極読破録おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。
剣客商売 二十番斬り ★★★★☆
カバー装画:中一弥
レイアウト:多田進
解説:常盤新平
時代:天明四年
(池波正太郎・新潮文庫・451円・97/3/30)
購入日:3月30日/読破日:3月31日
「剣客商売」シリーズも残りあと1冊、晩秋から初冬に突入したところ。冒頭で目眩に倒れる秋山小兵衛を目の当たりにすると、「老い」という何ともいえない不安感、寂寥感に襲われます。
今まで超人的に活躍してきた小兵衛に、「老い」という弱点が加わったことで、全編に緊張感が漲る作品になっています。
●得体の知れない目眩に襲われたその日、秋山小兵衛は、恩師・辻平右衛門ゆかりで、小兵衛の弟子でもあった井関助太郎を匿うことになる。井関は傷を負っていて、しかも曰くありげな小さな男の子を連れていた。小兵衛にすら事情を語らない井関に、忍び寄る刺客の群れ。小兵衛は久しぶりに全身に力の漲るのを感じた。
一方江戸城内では、息子大治郎の嫁三冬の父田沼意次の身の上に重大な事件が起こる…。
表題作の長編に加えて、短編「おたま」(行方不明になっていた猫のおたまが、小兵衛を藁屋根の風雅な家に導いていった。そこで、小兵衛が見たものは…。)を収録。
北原亞以子編 半七捕物帳 ★★★☆☆
デザイン:菊地信義
巻末エッセイ:北原亞以子
人と作品:岡本経一
時代:嘉永二年〜慶応元年、明治二十六年〜三十年
(岡本綺堂・講談社大衆文学館・860円・95/5/20)
購入日:3月21日/読破日:3月29日
4月からのNHKテレビ金曜時代劇での放映を機会に、この本を手にした。古臭い感じがしていたし、捕物帳の古典のようになっていたので、今まで敬遠していたのだが…。
現役を引退した半七老人に、作者を思わせる新聞記者が昔の捕物ばなしを聞くという形式で、事件が再現されていきます。その語り口が70年以上たった今も少しも古くなっていないのに驚きを感じます。
収録作品:「十五夜御用心」押上村の貧乏寺で、住職と納所と虚無僧二人の、四人の男が古井戸で死んでいた…。「金の蝋燭」両国橋の仮橋から金の蝋燭を抱えた女房が身投げした…。「正雪の絵馬」絵馬収集マニアの油屋の主人が、大宮八幡宮に奉納されている由井正雪の描かれた絵馬を盗み出した…。「新カチカチ山」砂村へ梅見に出かけた帰りの船の船底の穴から水があふれて沈没し、旗本と妾とお付きの女中二人が水死し、娘と女中一人が行方不明になった…。「河豚太鼓」湯島に参詣にでかけた葉茶屋の一人息子がかどわかされた…。「菊人形の昔」団子坂に菊見物に来て暴動に巻き込まれた英国人の馬が盗まれた…。「青山の仇討」佐倉から江戸見物に訪れた四人の男女が、青山の往来で仇討ちに出くわした…。「吉良の脇指」五百石の旗本と妾が、吉良上野介の脇差しで中間に殺された…。「歩兵の髪切り」元治元年に幕府が創設した歩兵隊の歩兵11人が髷を切られるという事件が発生した…。「二人女房」府中の六社明神の闇祭り見物にでかけた商家のおかみさんが、闇祭りの最中に行方不明になった…。
●神田三河町の岡っ引・半七が名推理を発揮して、江戸の怪事件を解決する、捕物帳のジャンルを開拓するシリーズ。68編から「深川澪通り木戸番小屋」の北原亞以子さんが、セレクションした、江戸情緒を今に伝える10編を収録。雑誌発表時の挿絵も収録。
時雨みち ★★★☆☆
カバー:林静一
解説:岡庭昇
時代:江戸後期
(藤沢周平・新潮文庫・480円・84/5/25)
購入日:3月14日/読破日:3月27日
モノクロームのフィルムのように地味な作品集ですが、密度は濃く、藤沢さんならではの職人芸が堪能できます。収録作品は大きく武家物と市井物に分けられますが、端正な筆致で、全体には暗めのトーンながらも、どこかに救いがある、そんな作品ばかりです。
武家物:帰還したばかりの隠密が未だ帰還しない同僚の行方を追う「帰還せず」と、山桜の枝が縁で見合い話のあった男と出会う人妻の恋を描く「山桜」は、海坂藩(藤沢作品ではおなじみの)を思わせる架空の加治藩が舞台になっています。「飛べ、佐五郎」敵持ちの佐五郎は、小料理屋で働く女のヒモのような生活をしていた…。「滴る汗」城中へ品物を納める荒物屋の主人は、実は公儀の隠密だった…。
市井物:「盗み喰い」根付職人の政太は、病に蝕まれている同僚の看病を許婚に頼んだが…。「幼い声」櫛職人の新助は、幼なじみの女が男を刺して入牢したことを知る…。「夜の道」嫁入りを控えたおすぎの前に幼いころに生き別れた母と名乗る品の女が現れた…。「おばさん」まもなく四十に手が届く寡婦およねは、倒れている若い男を助けて家に連れて帰るが…。「亭主の仲間」日雇いで働く亭主が、商家の若旦那のような感じのいい若い男を仕事仲間だといって家に連れてきた…。「おさんが呼ぶ」紙問屋の下働きとして働くおさんは、度はずれた無口であった…。
●にがい思い出だった。若かったちはいえ、よくあんな残酷な仕打ちが出来たものだ。出入りする機屋の婿養子に望まれて、新右衛門は一度は断ったものの、身ごもっていたおひさを捨てた。あれから二十余年、彼女はいま、苦界に身を沈めているという……。表題作「時雨みち」をはじめ、「滴る汗」「幼い声」「亭主の仲間」等、人生のやるせなさ、男女の心の陰翳を、端正な文体で綴った時代小説集。
燃えよ剣(上・下) ★★★★☆☆
カバー:池田浩彰
解説:陳舜臣
時代:安政四年初夏
(司馬遼太郎・新潮文庫・各600円・72/5/30)
購入日:3月1日/読破日:3月23日
たまもくろすけさんのおすすめの本ということで、読み始めました。時代小説に近い、歴史小説の名作。一種の青春小説でもあり、物語が進むにつれて、どんどんセンチメンタルになっていくのが嬉しい作品です。「新選組もの」は、この一冊で決まりって感じさえします。
不覚にも、斎藤一のことを知らなかったが、新選組の人だったのですね。血なま臭さと薩長主導の史観が嫌いで、よく考えると、新選組を主人公とした作品ってちゃんと読んだことがなかったんです。もう少し、新選組の周辺を当たってみたいと思います。
●幕末の動乱期を新選組副長として剣に生き剣に死んだ男、土方歳三の華麗なまでに頑な生涯を描く。武州石田村の百姓の子“バラガキのトシ”は、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって、浪人や百姓上りの寄せ集めにすぎなかった新選組を、当時最強の人間集団へと作り上げ、己も思い及ばなかった波紋を日本の歴史に投じてゆく。「竜馬がゆく」と並び、“幕末もの”の頂点をなす長編。(上巻)
元治元年六月の池田屋事件以来、京都に血の雨が降るところ、必ず土方歳三の振るう大業物和泉守兼貞があった。新選組のもっとも得意な日々であった。やがて鳥羽伏見の戦いが始まり、薩長の大砲に白刃で挑んだ新選組は無残に破れ、朝敵となって江戸へ逃げのびる。しかし、剣に憑かれた歳三は、剣に導かれるように会津若松へ、函館五稜郭へと戊辰の戦場を血で染めてゆく。(下巻)
赤壁の宴 ★★☆☆☆
カバー装画・装幀:西のぼる
解説:清原康正
時代:中国・建安二年(197)
(藤水名子・講談社文庫・600円・97/3/15)
購入日:3月15日/読破日:3月21日
あまり好きな表現ではないが、少女マンガを思わせる作品。主人公周瑜の深層心理を描くきめ細かさは、作者ならではのものか。しかし、「三国志」のもつ骨太さ、ダイナミズムが薄められているのが残念。
●中国の後漢末、群雄割拠の時代にきら星のごとく現れた眉目秀麗な呉の武将孫策。彼に幼少から従い、補佐した周瑜。宿敵曹操の大軍に立ち向かう少数精鋭の呉軍。中原の覇をかけ、赤壁の戦いの火ぶたが、切って落とされようとしていた。孫策と周瑜の若き二人の獅子を叙情深く見事に描ききった「三国志」絵巻!

太閤の城 ★★★★☆
[単行本]
装画:百鬼丸
装幀:神長文夫
[文庫本]
装画:横田務
装幀:多田和博
解説:島内景二
時代:慶長十六年(1611)四月
(安部龍太郎・PHP研究所・単行本1600円、文庫本640円・単行本94/12/23、文庫本96/11/15)
購入日:単行本95年1月15日、文庫本3月14日/読破日:3月20日
あまりないことですが、この作品については、単行本と文庫本の両方を購入しました。「黄金海流」を読んで以来、作者のファンで、2年ほど前に単行本を購入していたのですが、家の中で紛失してしまい、つい最近、文庫本が出たのを機会に読み始めました。すると、不思議なことになくした筈の単行本が見つかったんです。もったいないので前半は文庫で、後半は単行本でという具合に読み進めました。
文庫本にあって単行本にないものに「解説」がありますが、単行本の方には、「作者のあとがき」がついていました。それによると、「秀頼と慶長年間の大坂の本当の姿をどのようなものであったのか?」を描いてみたいということでした。
本書では、秀頼=暗愚、秀忠=狡猾という、固定観念を打ち破り作品を面白くしています。その他にも信長の二人の弟、織田老犬斎信包や織田有楽斎長益が重要な役割を演じています。
●実の父である徳川家康に毒殺された悲劇の猛将結城秀康。その落胤にして、必殺の富田(とだ)流残月剣の遣い手結城虎之介が、家康の陰謀と刺客に敢然と立ち向かう!――己れのすべてを賭けて幕府の圧迫に対抗する豊臣秀頼。そんな秀頼を守り、父の仇家康を討つべくひたすら剣の道を突き進む虎之介。慶長年間の活気あふれる大坂を舞台に、二人の生き様を迫真の筆致で描いた著者渾身の痛快歴史長編。
ドラマ化するならこの配役:結城虎之介(高橋克典)、豊臣秀頼(松岡昌広)、淀君(十朱幸代)、加苗(水野美紀)、流沙(江角マキ子)、眠りの藤兵衛(橋爪功)、織田老犬斎信包(長門裕之)、織田有楽斎長益(津川雅彦)、徳川家康(米倉斉加年)、大野修理治長(風間杜夫)、小出播磨守吉政(益岡徹)、薄田隼人(赤井秀和)
武蔵を仆した男 ★★★☆
カバー装丁:蓬田やすひろ
解説:菊池仁
時代:表題作 寛永十四年(1637)
(新宮正春・福武文庫・550円・95/11/10)
購入日:3月2日/読破日:3月15日
下の2冊と並行して読んだせいで、もうちょっとで頭の中がパニックになるところでした。この本は、装丁の勝利。阪神タイガースのユニフォームを着てバットを構えている宮本武蔵が、蓬田さんの筆で描かれています。これだけでワクワクしてきます。
「武蔵を仆した男」巌流島の決闘で敗れた小次郎の門弟である父の敵を討つために、必殺技虎切をもって武蔵を付けねらう平川小平太。「長良川の決闘―斎藤道三」道三は美濃をまとめるために息子義竜を実子でないと宣言したが…。「かげろうの剣」奥山流の周防主馬之介は、山県昌景に捕らわれている、主筋の奥平貞昌の弟と実弟、許婚らの救出に向かったが…。「霞の剣」上松浦党の大杉千太は、秀吉臣下の剣の遣い手源信斎(小笠原長治)に立ち向かうが…。「井手ノ判官の死」天流井手ノ判官斉藤伝鬼坊は、天覧を果たし官位を授けられて。故郷に錦を飾るのだが…。「ピンチヒッター・武蔵」元報知新聞のジャイアンツ担当記者らしい野球の場面描写が見事。
●この作品集の中の「板垣信方の首級」に登場する堀ノ坊という僧は、実は堀内投手(V9時代のジャイアンツのエース)に触発されて作り上げた人物だが、こぶし大の石をカーブさせて相手を仆す印地打ちの使い手は、きっと戦国の昔にもきっといたはずだと考えている。ただし、板垣信方の部下だったオオマクレーの鳥若は、実在の人物である。曲淵庄左衛門吉景こと鳥若が、のちに徳川家康に仕えて七十六歳まで生きたのもフィクションではない。(中略)このささやかな作品集は、そういった必殺技のプロたちに捧げたオマージュでもある(著者あとがきより)。
水の砦 福島正則最後の闘い ★★★☆☆☆
装画:風間完
装丁:熊谷博人
時代:元和六年(1620)
(大久保智弘・講談社・1500円・95/3/15)
購入日:96年3月15日/読破日:3月14日
第5回時代小説大賞受賞作。TVドラマ化(市川染五郎主演、確か宇津井健が正則を演った筈)を機会に読み始めるが、途中で飽きてホカしておいたのを、今月になって気が変わり初めから読み直しました。
「本多の狐」や「神州魔風伝」などでおなじみの本多上野介正純がヒール(悪役)として登場し、新しい居城となる宇都宮城の釣天井疑惑も題材として描かれているので嬉しい。
猿楽の足捌きから発祥した体術「砕動風」を鍵として使い、真言密教→山岳信仰(金山)→山の者→傀儡舞い→能楽者→大久保長安という図式を明らかにした点は、隆慶一郎ファンにとってスッキリ理解できるところです。
●広島の太守福島正則は北信濃の高井野に配流されて1年がたつ。配所を守る家臣団は三十名弱と手薄なもの。そんな中で嫡子忠勝が暗殺された。刺客を送ったのは、大久保党の大蔵伝内の指摘で、本多上野守正純らしい。そこで、正則の「喧嘩」が始まった。
忠勝の近習高月彦四郎、福島陣屋を警護する陰衆と神崎伝二郎、大久保党の雪乃介、刺客を指揮する鬼堂玄蕃と謎の女お涼、「城崩し」の技能に長じた番匠新左衛門尉と孫娘楓…、多彩な人物が登場し、正則と正純の喧嘩はクライマックスへ。
悪党の裔(上・下) ★★★★
カバー:西のぼる
解説:清原康正
時代:嘉暦三年(1328)
(北方謙三・中公文庫・上560円、下480円・95/12/18)
購入日:1月15日/読破日:3月14日
一月ばかりかけてお風呂の中で読み続けたのがこの本です。北方南北朝の第4弾で、主人公は播磨の悪党赤松円心。嘉吉の乱で、「妖櫻記」(皆川博子・著)で、将軍義教を殺したとして描かれている赤松満祐は、その曾孫。
この作品では、鎌倉中期以降に反幕府、半荘園領主的な武装集団として台頭してくる「悪党」と呼ばれる連中を描いています。「悪党」の「悪」は「悪しき」ものの意味だけでなく、「強き」「猛々しき」の意も含まれているそうです。
円心と正成、尊氏の三人三様の激動する時代に対する処し方の違いを興味深く描いています。従来わかりにくかった鎌倉末から建武の新政にかけての混沌さもかなり解析できました。
●播磨の悪党の首魁には大きすぎる夢だった。おのが手で天下を決したい――楠正成と出会った日から、待望が胸に宿った。軍資金を蓄え兵を鍛えて時を待ち、遂に兵を挙げた。目指すは京。倒幕を掲げた播磨の義軍は一路六波羅へと攻め上る。寡兵を率いて敗北を知らず、建武動乱の行方を決した男――赤松円心則村を通して描く渾身の太平記。(上巻)
苦闘の末に、倒幕はなった。だが恩賞と官位の亡者が跋扈する建武の新政に、明日があるとは思えなかった。乱がある――播磨に帰った円心は、悪党の誇りを胸にじっと待つ。そして再び、おのが手で天下を決する時はきた。足利尊氏を追って播磨に殺到する新田の大軍を、わずかな手勢でくい止めるのだ赤松円心則村を通して描く渾身の太平記!(下巻)
初ものがたり ★★★☆☆☆
装幀:菊地信義
装画:木田安彦
時代:江戸後期のどこか。
(宮部みゆき・PHP文庫・570円・97/3/17)
購入日:3月8日/読破日:3月10日
「本所深川ふしぎ草紙」(本作品は、その五年後。手下の文次は二年前に小商いの店の婿に入り堅気になる)で脇を固めた回向院の茂七親分が、この連作では人情味豊かな名推理を働かせ大活躍します。
収録作は、「お勢殺し」大川に女の土左衛門が上がった…。「白魚の目」お稲荷さんの境内で五人の子供たちが折り重なるように倒れていた…。「鰹千両」棒手振りの魚屋の鰹を千両で買おうという話が…。「太郎柿次郎柿」船宿で兄が婚礼を間近に控えた手代の弟を殺した…。「凍る月」新巻鮭が一尾が盗まれ、女中が失踪した…。「遺恨の桜」霊能少年日道が何者かに教われた…。
宮部さんの作品に共通する、ページを繰る楽しさ、読後の爽快さがもちろん味わえます。この人の10年後、20年後の活躍が今から楽しみです。
●本所深川をあずかる岡っ引きの茂七親分が、下っ引きの糸吉、権三とともに、江戸の下町で起こる摩訶不思議な事件に立ち向かう。茂七に事件解決のヒントを与える謎の稲荷寿司屋や、超能力をもった拝み屋の少年など、個性あふれる登場人物たちと織りなす人情捕物話の数々。……「鰹」「白魚」「柿」「桜」など、江戸の季節を彩る「初もの」を題材に、ときに哀しく、ときに妖しく描く時代小説。
砂絵呪縛(すなえしばり) ★★★☆☆
デザイン:菊地信義
時代:元禄十六年
(土師清二・はじせいじ・文庫コレクション大衆文学館講談社・上989円、下1009円・97/2/20)
購入日:2月27日/読破日:3月9日
表紙のキャッチコピーで、山田風太郎ばりのエロチックな伝奇小説を想像した。ところがどっこい、超健全。それもそのはず、朝日新聞夕刊(著者自身朝日新聞社に籍を置いていた)に掲載された、昭和二年の作品。
砂絵師が狂言回し役で登場し、不思議なトーンを醸し出しています。砂絵というと、都筑道夫さんの砂絵のセンセーを思い出してしまうのだが…。
また、冒頭でいきなり墓暴きを一刀のもとに切り捨てるニヒルな浪人森尾重四郎と、黒阿弥の娘で妖婦お酉が物語に奥行きを出しているが、欲を言えば大阪城での竹流し分銅争奪戦をもっと描いてほしかった。
●綱吉の後継将軍擁立をめぐり幕閣は二派に分かれて熾烈に対立。柳沢吉保は紀州綱教を立て柳影組をつくり陰謀をめぐらせば、他方、間部詮房は背後に水戸光圀がいて天目党を組織。誘拐、スパイ等々、両派の確執を横目に、首領の、凄艶な女の肌に刺青を彫る砂絵師――。阪東妻三郎主演で映画化されるや、ニヒルな主人公が多くの共感を呼び、熱狂的読者を獲得した、土師清二の名作伝奇小説、出世作。(上巻)
柳影組にさらわれた清純無垢な詮房の娘露路の行方は!? また、天目党に捕らわれの身となった贋金作り黒阿弥はどこにいる!? 将軍後継をめぐる陰謀合戦は、大阪城に秘蔵される黄金の竹流し分銅争奪戦へと発展の兆しをみせていよいよ激烈に。一方、女首領への恋情に妄執の虜となって夜な夜な徘徊する砂絵師――。鬼気が鬼気をよび、波乱が波乱をよんで、変転極まりなく展開する伝奇文学屈指の大作完結編。(下巻)
保科肥後守お耳帖 ★★★☆☆
カバーデザイン:菊地信義
カバーイラスト:大山高寛
時代:寛永十八(1641)年、寛文十(1670)年
(中村彰彦・角川文庫・560円・97/2/25)
購入日:2月27日/読破日:3月6日
最近、時代小説に関心をなくしているようだった、角川文庫の久々の歴史小説フェアの中の一冊。直木賞作家で、今後の歴史小説の担い手、会津ものの第一人者らしい(この人の本は、初めてです)。
アームチェア・デティクティブを予想していただけに、一話めが少年の語る一人称体で読みづらかった。
白虎隊でお馴染みの会津藩の始祖が、保科正之だったとは知らなかった。また、戊辰戦争での会津藩の行動が名君ゆえの悲劇だったとは…歴史って面白いものですね。
収録作品は、「会津騒動ふたたび」正之の娘、媛姫の休止の謎を解く。「弥太之進は踊る」快男児小弥太の推理が冴える。「第二の助太刀」正之の寵臣が不審な刃傷沙汰の末、殺された。「馬之助奇譚」丹頂鶴の飼育係を命じられた親子を襲った事件とは…。作品集中いちばんの秀作。
●会津藩初代藩主の保科正之は、徳川三代将軍家光の異母弟あたり、幕藩体制確立期に将軍を見事に補佐した名君として知られる。正之は保科家の秋霜烈日の家風を伝えながらも、あたたかく清廉な人柄で人望を集め、会津の士風の基礎を築いた。
会津をテーマに、歴史の陰に葬られた人々の姿を丹念に描いてきた著者が、会津藩草創期に起きた数々の難事件を解決した正之の、温情にあふれた名裁きや人となりを余すところなく語る連作時代小説。
正之に仕える十六歳の少年武士が、悪行を重ねる厩司夏目伊織を懲らしめる「夏目伊織の門人」をはじめ、五話を収録。
幾世の橋 ★★★★☆☆
装幀装画:蓬田やすひろ
時代:宝暦十(1760)年晩秋
(澤田ふじ子・新潮社・2300円・96/11/30)
購入日:2月27日/読破日:3月5日
ページをめくるのがもどかしくらい面白い作品は多いが、ページを繰るのがもったいない作品は少ない。「幾世の橋」は、そんな貴重な一冊です。毎夜ベッドの中で一章ずつ残りの紙数を惜しみつつ読みました。
藤沢さん亡き後の市井ものは、やはり澤田さんにおまかせかな。
植木職人になる重松、その幼なじみで刀研ぎ職人になる八十吉、重松に思いを寄せる篠山藩京屋敷に下女奉公しているお太禰(たね)、3人の若者を中心とした、名作「虹の橋」に続く感動のビルドゥングスロマン。
かつて立花師を主人公にした作品を描いた作者が、今回は庭師(室町時代は、「河原者」として蔑まれていた)を正面から扱っていて興味深い。
●長屋の住人の間で孝行息子で知られる主人公・重松には、出生の秘密があった。数奇な運命を生きていく重松が、植木屋に奉公し優れた庭師へ成長していく姿を、京の文化と市井に生きる多彩な登場人物の哀歓を織り交ぜて描く長編時代小説。
神州魔風伝 ★★★★
カバー装画:百鬼丸
解説:磯貝勝太郎
時代:文治五(1189)年五月、慶長五年七月
(佐江衆一・講談社文庫・800円・97/1/15)
購入日:2月1日/読破日:3月1日
「神州纐纈城」に代表されるように、神州(神国日本という意味)と題名につくと、伝奇小説と思っていいらしい。山田風太郎ばり荒唐無稽さが嬉しい「裏八犬伝」。
乱行ぶりが凄いわりに、描かれることの少ない越前少将徳川忠直をはじめ、宇都宮釣り天井事件の本多正純に、柳生一族、伊賀、甲賀、風魔忍者までからみ、オールスター級の面白さです。
●我、この身は果つるとも、魂魄は七生までも生きながらえ魔王となりて、世の治るをみては乱を発さしむ――源義経最期の時、炎の持仏堂に魔風のごとき七匹の天狗が舞い降りた。それから四百年、天下太平の徳川治世に、兇・禍・怨・恨・謀・邪・悪・乱の八片の魔鏡が集う……。大乱の予感に息をのむ傑作長編時代小説。