時代小説・お気楽極読破録おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。
春秋の檻 獄医立花登手控え1 [再読] ★★★★☆
カバー装画:小沢良吉
解説:尾崎秀樹
時代:特定されず。江戸後期。化成期か?
(藤沢周平・講談社文庫・500円・82/5/15)
購入日:2月20日/読破日:2月25日
藤沢周平さん死去のショックから立ち直って最初に読んだのがこの本。藤沢作品にハマッたのもこの本からでした。7年ぶりぐらいで再読するが、筋をほとんど覚えていないのに我ながら呆れた。
牢獄が舞台になっていながら、読後に不思議な清涼感がある作品。
主人公の立花登は、羽後亀田藩の微禄の下士の次男で、医学を修め三年前に叔父小牧玄庵を頼って江戸へ来る。しかし、頼みの叔父ははやらない町医で、家計と酒代を補うために小伝馬町の牢医者をつとめていた。そんわけで、登は居候扱いで、叔母松江やその娘おちえにも軽く見られていた。やがて、叔父の代わりに代診をしたり、獄医を勤めることになる。ストレス解消は、起倒流鴨井道場での柔術の稽古。
暗くなりがちなテーマの中で、怠け者で酒好きの叔父、不良娘おちえと高慢ちきな叔母と登の家族模様がユーモラスさを醸し出している。最後におちえが、牢破りを企む一味に誘拐される事件がハイライト(「牢破り」)。
●島送りになる若者の頼みごと(「雨上がり」)。無実を訴える男の正体(「善人長屋」)。新入りの女囚は三年前に登がはじめてことばを交わした女だった(「女牢」)。御家人毒殺未遂の真相(「返り花」)。牢問でしゃべると女房が殺されると言っていた男が殺された(「風の道」)。恋人を刺した女囚の愛憎(「落葉降る」)。さまざまな暗い人間模様が江戸小伝馬町の牢屋に持ち込まれる小さな罪の背後にうごめく大きな悪。心やさしい青年獄医立花登が市井の人情も細やかに、柔術の妙技と推理の冴えを見せて事件を解く時代連作。
妖櫻記(上・下) ★★★★☆☆
装画:榎戸芙騎
装幀:中島かほる
解説:小森収(書籍編集者)
時代:嘉吉元(1441)年〜長禄元(1457)年
(皆川博子・文春文庫・各590円・97/2/10)
購入日:2月11日/読破日:2月16日
「真夏の夜の夢」「空騒ぎ」などのシェイクスピアの喜劇を彷彿させる傑作。語り口や複数の男女の恋模様がまさにそれ。伝奇小説のスタイルを採っているのもうれしい。
今月は、室町時代にドップリ浸っている。手垢がついていないので、純粋にストーリー展開を楽しめる。主要の登場人物は、山東京伝の「桜姫全伝曙草紙」から借り、鶴屋南北の歌舞伎「桜姫東文章」にも登場するおなじみのものらしい(もちろん、ぼくは知らなかった)。
●赤松満祐が足利義教を暗殺した夜、満祐の側室野分は、もう一人の妾で臨月の玉琴を惨殺する。しかし、呪力で胎児は蘇り、玉琴も活傀儡となって野分とその娘桜姫の前に現れる。その頃、南朝の血を引く少年阿麻丸は、南朝再興に執着する周囲のものたちと陰謀渦巻く日々を送っていた。(上巻)
南朝方とはぐれた阿麻丸は山中も隠れ棲み、野分は阿麻丸を追って娘桜姫を捨て、阿麻丸を恋慕う桜姫も輿入れの時を迎える。しかし、甦った玉琴の子・清玄はついに桜姫と出会い、彼女の首を狙う。離ればなれになっていた者たちが、南朝方の神器をめぐる戦いで再び一堂に会するが…。死者生者入り乱れる歴史絵巻。(下巻)
月下の剣法者 ★★★☆☆
カバー装画:蓬田やすひろ
解説:林富士馬(詩人)
時代:寛永のはじめごろ
(伊藤桂一・新潮文庫・480円・97/1/1)
購入日:1月5日/読破日:2月13日<
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『風車の浜吉』シリーズでおなじみの作者の剣法者もの。
短編ならではの緊張感の高い作品群が素晴らしい。「八咫烏の巫女」旅の武芸者に夫を殺された道場主の妻の狙いは…。「漂泊者の剣」道場の師範代の心得とは…。「旅路の剣法者」若い兄弟が授けられた必殺の死霊剣とは…。「助太刀の秘剣」姉弟の前に現れた武芸者の秘剣と報酬とは…。「河畔の鶯」息子の元服祝いに鹿島・香取詣でに出た若母の悲願とは…。「湯靄の中」奥熊野の湯治場で見せる敵持ちの心得とは…。「魚刺し剣法」剣に負け妻を奪われた剣法者の助太刀をする川漁師の剣法とは…。「“岩燕”飛ぶ」敵である老師のもとで育てられた男の修業が終わるときとは…。
東軍流の開祖、川崎鑰之助(かぎのすけ)の娘で、男装の小秀が活躍する連作が楽しい。
●斬るか斬られるかの厳しい剣の世界で死と隣り合わせに生きる剣客たち。そのさまざまな生のかたちの中に、人の世の情け、人生の妙が味わい深く捉えられた粋な剣豪小説集。卑劣な手段で父を殺された娘が、蛇を小道具に旅の武芸の助太刀を得て敵を討つ表題作、弱者相手の他流試合で賭金を稼ぐ男の末路を描いた「見世物剣法」など10編に、女剣士・川崎小秀が活躍する連作4編を併録。
花僧 池坊専応の生涯 ★★★★☆
カバー画:小市美智子
解説:武蔵野次郎
時代:延徳三年九月
(澤田ふじ子・中公文庫・860円・89/11/10)
購入日:12月23日/読破日:2月9日<
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『空蝉の花』『天涯の花』と並ぶ澤田さんの華道時代小説三部作の一つ。時代は、応仁の乱後から始まり、足利幕府が弱体化し、天皇家も22年間も即位の大礼が執行できなかった頃のお話。
主要人物たちの多くが、火災の犠牲になるということに時代を感じる。また、当時の公家の生活ぶりが史料を交えて記述してあり面白い。
芸事をテーマにすると、修業の厳しさやストイックさ、登場人物の偏執さ、専門用語の頻出により、堅苦しかったりわかりにくかったりでその芸事に興味がないと面白くないことが多いのだが、澤田作品ではそういったところが一切なくエンターテインメントとして楽しめる。チャンバラに飽きたらどうぞ。
●野盗の子という宿業を背負って、美濃国蘇原荘に生まれた太郎丸(坊)は、修験者明蓮坊に助けられ、京に出る。三条西実隆に仕える千世松を助けた縁で、実隆の小者となり、禁裏警護につき、内大臣久我豊通の娘貴子と出会う。
三条西家を追われた太郎丸は、土倉の傭兵となり、生計を立てる傍ら池坊の立花を学ぶ。吉野で行方不明だった明蓮坊の消息が十年ぶりにわかり、太郎坊は、京を離れ師と再会し磨崖仏を刻む手伝いをする。
六角堂頂法寺の学恵に花僧への志を告げて新参僧となる。やがて立花の真髄をきわめ、法院となった。華道池坊を隆盛に導いた中興の祖・専応の生涯を乱世の中に描く歴史長編。
破軍の星 ★★★★☆
カバー:西のぼる
AD:亀海昌次
解説:尾崎秀樹
時代:元弘三年十月
(北方謙三・集英社文庫・700円・93/11/25)
購入日:12月28日/読破日:2月7日
北方南北朝ものの第二弾。北畠顕家の貴公子ぶりと戦や国家観にみせる成熟さのアンバランスがとても爽やか。
奥州藤原氏の末裔を思わせる山の民、安家(あつか)一族を絡めたことが成功の一因か。太平記の主人公たちが登場し、期待を裏切らない活躍ぶりで楽しい。
それにしても、北方時代小説の一番の魅力は、合戦シーンの圧巻ぶりだ。「破軍の星」とは、北斗七星の星のひとつの呼び名です。
●建武の新政で後醍醐天皇により十六歳の若さで陸奥守に任じられた北畠顕家は奥州に下向、政治機構を整え、住民を掌握し、見事な成果をあげた。また、足利尊氏の反逆に際し、東海道を進撃、尊氏を敗走させる。しかし、西国で勢力を回復した足利方の豪族に叛かれ苦境に立ち、さらに吉野へ逃れた後醍醐帝の命で、尊氏追討の軍を再び起こすが…。
一瞬の閃光のように輝いた若き貴公子の短い、力強い生涯。
津軽風雲録 ★★★☆☆☆
カバーデザイン:熊谷博人
カバー装画:村上 豊
解説:武蔵野次郎
時代:天正六年五月
(長部日出雄・富士見時代小説文庫・560円・96/4/10)
購入日:12月21日/読破日:2月1日
「着物の前をひろげ、褌を横にずらして、手探りをした」…。
いきなり、放尿シーンで始まり、ア然。もう一人の主人公、藤助の登場。ばくちがめちゃくちゃ弱い、元百姓。とても情けない主人公だ。会話が津軽弁のせいもあり、全体に東北的なユーモアに満ちていて、殺伐としたシーンもスーっと読める。
●天正初め、主家の南部に反旗を翻した大浦弥四郎(のちの津軽為信)は、北畠顕村の苛政に苦しんでいた民衆の心を巧みにつかんだ。百姓、武装土民、野伏り、追剥ぎ、野盗等、戦国の悪党と無頼漢の群れを使い謀略と奇襲戦法によって、南部の支城を次々攻め落としていく。さらに秀吉の北条氏討伐の小田原出陣の際は、権謀術数の限りをつくし、津軽の領主たることを認めさせる。
戦国から江戸時代の初めにかけ、東北を舞台に繰り広げられた津軽統一の歴史小説。