時代小説・お気楽極読破録

おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

旗本絵師描留め帳瑠璃菊の女 ★★★☆☆☆
カバーデザイン:蓬田やすひろ
フォーマット:成瀬始子
解説:菊地仁
時代:元禄時代の始まり(貞享4年頃か)
(小笠原 京・福武文庫・640円・96/4/10)
購入日:1月21日/読破日:1月31日

著者は、武蔵大学人文学部教授で、中近世日本文学、日本演劇史(歌舞伎・能狂言)の専門家。作品中でも、当時の芝居小屋や女性の服装の描写のきめ細かさに関心させられる。
あとがきにあるように、子どもの時分から捕物帳のファンで、尊敬する人物が銭形平次という作者ならではの、新しい捕物帳の誕生である。
●藤村新三郎は、四谷塩町に屋敷を持つ千三百石取りの旗本で御使番を勤める新左衛門の三男坊だが、武士を嫌って屋敷を出、小僧の四郎吉相手に長谷川町で借家暮らし。菱川師信の手ほどきを受けるも、これが師匠も一目おくほどの才。ダンディでかつ人情に厚い新しい捕物界のヒーローが江戸を舞台に事件に挑む。
「瑠璃菊の女」新三郎は、堀川端で舟にかどわかされそうな美人の町女房を、得意の仕込筆で助ける…「桜川の契り」新三郎は、当代一の若衆役者・岩井花之丞に自身の絵姿を注文される…「一枚絵の呪い」重兵衛の大々判(おおおおばん)の絵を買って帰り、家で袋から出すと、絵の女の首から血が流れ出すという奇怪な出来事が続出した…「紅蓮の源氏模様」冬の空っ風に、源氏模様(源氏物語五十四帖になぞらえた香合わせ)が書かれた不動さまの紙が、長谷川帳の借家の縁に飛んできた…「京人形の涙」品川の御殿山で桜を楽しんだ帰り、新三郎は田舎侍に敵と間違えられた末に、相手は切腹して果てるという事件に巻き込まれる…
主人公・新三郎の設定が絶妙。旗本の部屋住み(=若さま)ながら、絵師としても独立(=市井に暮らす庶民とも接点を持つ)している。収入に不安がないため、着道楽(時代小説では珍しい設定だが、映像化されればこの点はもっと魅力的になる)で、無類の物好き(好奇心旺盛)で事件が発生すると、仕事を放り出して解決に乗り出す。地本屋山形屋の三番番頭六兵衛をワトソン役に、六間町の口入れ屋の佐野屋源助や芝の安房屋太兵衛、今戸の長兵衛らの町奴を手足のように使い、時には父親の力を借りて事件を解決する。口生意気ながら親方思いの小僧・四郎吉との掛け合いも楽しい。
文体と、ストーリーの流れが少し硬くギクシャクしているのが惜しい。とにかく次回作が楽しみだ。

三鬼の剣 ★★★★☆
カバー装画:村上 豊
解説:縄田一男
時代:文化八(1811)年二月
(鳥羽 亮・講談社文庫・640円・97/1/15)
購入日:1月20日/読破日:1月27日

時代小説の新星誕生。江戸川乱歩賞作家の初の本格剣豪小説は、とにかく面白かった。ミステリー作家らしい謎解きもあり、良質のエンターテインメントに仕上がっている。
主人公は、本所亀沢町の直心影流の「誠心館」で剣の修業中の24歳の毬谷(まりたに)直二郎。
●天下無敵の剣、無住心剣流の奥義を極めた弟子に譲られる、長谷川道場(神道無念流)主と、道場主の娘・ゆい。常陸幻鬼、三河水鬼、出羽猿鬼の三鬼が修業から江戸に戻り、比留間道場(一刀流)三兄弟との因縁の対決が始まった。息詰まる死闘となぞの数々、加えて毬谷直二郎の剣の冴え。

甲賀忍法帖 ★★★★☆
カバー装画:百鬼丸
解説:北上次郎
時代:慶長十九年四月
(山田風太郎・富士見時代小説文庫・640円・93/3/30)
購入日:1月4日/読破日:1月24日

北上さんの解説を読んで、膝をたたいた。同じことを考える人はいるものだ。そう、作品に登場する全忍法の分類のことである。作者が創出したユニークな忍法に科学的(かなりウソ臭いのが笑わせてくれる)な解説を加えて、読者を楽しませてくれるのがいい。
たとえば、伊賀の忍者・朱絹が甲賀の鵜殿丈助めがけて、全身から血のしぶきを噴出するシーン。
「古来、人間の皮膚に生ずるウンドマーレーと呼ぶ怪出血現象がある。なんの傷もないのに、目、頭、胸、四肢からふいに血をながすものであって、ある種の精神感動が血管壁の透過性を昂進させ。血球や血漿が血管壁から漏出するのだ。思うに、この朱絹は、この怪出血現象を意志的にみずから肉体に起こす事を可能とした女であったに相違ない」という具合だ。ホントにゴキゲンなおっさんである。
●四百年にわたる両家の宿怨を晴らすべくに、甲賀の首領の孫・甲賀弦之介と伊賀の首領の孫娘朧は、夫婦になろうとしていた。
竹千代か国千代か? 徳川三代将軍の座をめぐって、甲賀と伊賀の忍法バトルが始まったのはそんなときであった。伊賀と甲賀各10人ずつ選抜された忍者が、生死を懸けて戦い、最後に残った方に賭けた世継ぎが、次期将軍となるという、奇想天外な話だ。

捨剣 夢想権之助 ★★★★
カバー装画:中川恵司
解説:縄田一男(文芸評論家)
時代:慶長五年七月
(佐江衆一・新潮文庫・520円・95/9/1)
購入日:12月23日/読破日:1月23日

そろそろ、吉川英治の『宮本武蔵』を読まなきゃいけないようだ。時代小説の基本というべき、武蔵のことをきっちり押さえるために。『捨剣』は、杖術指南、体術三段、剣道三段の佐江さんらしい、硬派な作品になっている。一刀流や新陰流、念流など剣法の流派の基本がよくわかり面白い。
主人公は、夢想流杖術の開祖にして宮本武蔵に二度挑んだ男、夢想権之助。このキャラクターがいい。
●宮本武蔵に打ち勝つこと。それのみを念頭に鍛練を重ねた兵法者がいた。夢想権之助は、香取神道流の印可を受け、一刀流、馬庭念流など様々な流派の奥義を得て武蔵と立ち会ったが、あえなく敗れてしまう。剣を捨て、傀儡の群れに入り諸国を遍歴するうちに、権之助は、杖という新しい得物に出合う。幾年かの過酷な鍛練のすえ、数々の秘技を会得し、独自の杖術に開眼する。そして、権之助は再び武蔵に挑んだ。

美男狩(上・下) ★★★★
デザイン:菊地信義
巻末エッセイ:高橋克彦
解説:石井冨士弥(文芸評論家)
時代:嘉永七年七月
(野村胡堂・講談社大衆文学館・各960円・95/10/20)
購入日:11月3日/読破日:1月15日

ご存知『銭形平次』の作者。というわけで、大川橋蔵主演のフジTV印象が強く、古臭くてマンネリなのでは、と危惧を持ちながらも、タイトルと表紙に書かれた「銭屋五兵衛の財宝、美男剣士、軽業の少女、凶賊、釣り天井、高貴な美女、妖術使いの女道士…」のキーフレーズに惹かれて読みはじめた。
ごめんなさい。疑った自分が恥ずかしい。こんなオモシロくてわかりやすい伝奇時代小説を昭和初期に描いた野村氏はエライ。多彩な登場人物が織りなす人間模様、財宝をめぐる暗闘、役人さえ手を出せないお化け屋敷に住む高貴な女主人の狙いはどこに…何冊か分の時代小説を読んだ後の満足感がある。
●夏の夜、品川台場沖に銭屋五兵衛の孫娘お京と船頭が舟を出すが、警固中の幕末の三剣客の一人斉藤弥九郎(ほかは千葉周作、桃井春蔵)と桂小五郎にお京は捕まり、財宝の手がかりの鞣革と鍵をなくす。お京の奪回をめぐり、敵同士でもある美男剣士北辰一刀流の篠原求馬(もとめ)と横山新太郎ら斉藤門下の剣士たちが対決するが、多勢に無勢。救いの手を差し延べるのが、女道士笹野雪江とその女主人。そこは、公儀さえも手が出せないお化け屋敷。お京や求馬の運命はいかに…
水茶屋の女お蘭、異人を装う元手代、軽業の少女・小玉太夫、凶賊庵原山之丞とその手下鳥差しの権太など多彩な人物が脇を盛り上げる。
文体が「です・ます」調の講談形式なので、ちょっと違和感がある。いかにも昔の新聞小説風で、ストーリー展開のテンポがよく、切り替わりが多くて長編ながら途中でだれさせない。

伊賀忍法帖 ★★★★☆☆
カバー装画:百鬼丸
カバーデザイン:熊谷博人
解説:縄田一男(文芸評論家)
時代:永禄五年春
(山田風太郎・富士見時代小説文庫・640円・90/1/10)
購入日:12月29日/読破日:1月10日

山田風太郎さんの本は、以前に南北朝時代のかぶき大名佐々木道誉を主人公とした『婆沙羅』を読んだことがあったが、あまり印象に残らなかったので、その後読む機会がなかったが、「山田風太郎作品を紹介しないの?」という一通のメールをもらったことをきっかけに読みはじめる。
めちゃオモシロイ!!! メールをくれた人ありがとう。しばらくハマりそうだ。いつか「忍法図鑑」をつくりたい。
●戦国の梟雄松永弾正は、主筋の三好義興の美しい妻右京太夫に邪恋を抱くことによって物語は始まる。弾正は、想いをとげるために幻術師果心居士の配下の七人の根来僧に、催淫剤をつくるために、美女の狩り集めを命じる。犠牲になったのは伊賀の服部半蔵の甥・笛吹城太郎の妻篝火。最愛の妻を奪われ殺された城太郎の復讐が始まる。
七人の根来僧の使う忍法が面白い。名器平蜘蛛の釜の転変や東大寺大仏殿炎上などの史実も交えてあるので楽しい。

陽炎の旗 ★★★★
カバー装画:榎戸文彦
解説:縄田一男(文芸評論家)
時代:元中五・嘉慶二(1388)年初冬
(北方謙三・新潮文庫・560円・96/9/1)
購入日:12月20日/読破日:1月8日

大傑作『武王の門』の続編。残りのページを惜しむように読んだ。前作より20年後、登場人物も懐良親王の子の都竹月王丸とその子竜王丸、金(堀田)竜広、今川了俊・仲秋ら。敵役が全盛期を迎える室町幕府の将軍足利義満と管領斯波義将ということで相手にとって不足なしって感じだ。ニヒルなもう一人の主人公・来海(足利)頼冬や大野武峰らニューキャラもうれしい。
ただ、ストーリー展開を急ぎすぎて、主人公への共感がもう一つ深まる前に終わってしまったことが残念。あと、縄田氏(時代小説でもっとも信頼できる道先案内人)の解説がいつもよりも思い入れが強すぎ、読後感をシラケさせている。
●時は三代将軍・義満の治世(南北朝時代で二つの年号が存在しているせいか、この作品では年号は出てこない)。将軍の従弟にあたる剣の達人・来海(くるみ)頼冬は、血筋ゆえに刺客に追われる日々を送っていた。その前に現れた水軍の頭目月王丸・竜王丸親子。彼らは、南北朝の朝廷を超えて日本の国王を目指した義満の野望を打ち砕くべく、玄界灘一帯で奇襲と抵抗に明け暮れていた。頼冬は刹那的に行きながらも、やがてそこに、自身の行く末を見出す。南北朝統一という夢を追った男たちの戦いを描く。

俳人一茶捕物帳 名月の巻 ★★★☆
カバーイラスト:三谷一馬
解説:清原康正(文芸評論家)
時代:寛政二年五月
(笹沢左保・光文社文庫・560円・96/1/20)
購入日:12月28日/読破日:1月4日

若き日の俳人小林一茶を主人公とした捕物帳の第二弾。
前作もそうなのだが、この作品でも江戸の町のさまざまな風物、生活ぶりを季節感をたっぷりとまじえて描いているのに好感がもてる。煙草と煙管の話や年の市の話などの話が聞けて楽しいが、残念なことに主人公に共感が持てない。読んでいてぐんぐん引き込まれないのが残念。
●美人の経師屋の女房が突如悪女に変わる「女は触れ歩く」。浪人を殺したのは評判のいい質屋の主人か「蛍が見ていた」。札付きの遊び人が江戸に二人といない美人娘の簪で刺し殺された「美しき娘の肌」。評判の手習いの若先生が般若の面をつけたままで殺された「名月に鬼の面」。煙草屋の職人の背中には美女をさらう仙人の彫り物が・・・「秋の夜の盗賊」。湯屋の出戻り女が雪の日に殺された「黙って通る人」。身投げした娘を救うため冬の川に飛び込んだ田舎者は・・・「怒りの年の市」。

闇の傀儡師 (上・下) [再読] ★★★★☆
カバー:蓬田やすひろ
解説:清原康正(文芸評論家)
時代:安永七年初夏
(藤沢周平・文春文庫・各440円・84/7/25)
購入日:1月2日/読破日:1月3日

NHKで正月2日に本作品を原作とした正月時代劇「風光る剣」を見たのを機会に6年ぶりに再読する。以前読んだときの記憶が薄く、今まで読んだ藤沢作品の中であまり評価していなかったものだったので、ドラマ化すると聞いたとき意外な感じを抱いた。
冒頭の田沼意次と一橋治済の密談と主人公鶴見源次郎が敵側に捕まる場面は、覚えていたが、他がスッポリと記憶から抜けていたのには驚いた。そんなわけで、初読時よりもうーんと楽しめた。快作「用心棒日月抄」や「よろずや平四郎活人剣」を彷彿とさせる、人物設定や筋立てに職人技が感じられて面白かった。
●筆耕家業で気ままに暮らす元御家人の鶴見源次郎は、ひょんなことから公儀隠密に老中松平右近将監宛の密書を託される。老中田沼意次と駿河大納言・忠長ゆかりの秘密結社・八嶽党の結託と陰謀をにおわすものだった。
ドラマ化されたキャスト:鶴見源次郎(中井貴一)、津留(鶴田真由)、お芳(高岡早紀)、細田民之丞(渡辺徹)、ゆき(白鳥靖代)、伊能甚内(葛山信吾)、奈美(持田真樹)、田沼意次(津川雅彦)、松平定信(神田正輝)、一橋治済(中村梅雀)、松平右近(丹波哲郎)、津野弦斎(田村高廣)、八木典膳(羽賀研二)、鶴見ぬい(八千草薫)、鶴見由之助(小野寺昭)、興津新五左衛門(里見浩太朗)、赤石道玄(江守徹)、織江(青山知可子)、まつ(あき竹城)

神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう) ★★★★
デザイン:菊地信義
時代:慶長五年
(国枝史郎・講談社大衆文学館・840円・95/3/17)
購入日:9月21日/読破日:1月2日

年末年始のふさわしい本ということで、読み始めた、伝奇時代小説の古典といわれる本書。60年以上前の大正末期にこんな作品が書かれたことはトンデモナイことだ。奔馬性癩(ハンセン病)の描写もエグいが、纐纈城内の怪奇趣味、月子の造顔術など伝奇小説ならではの面白さが随所に。
●武田信玄の寵臣・土屋庄三郎は、夜桜見物の折に老人から深紅の布を売りつけられる。これぞ纐纈布! 古く中国で人血で染めたとされる妖し布だ。しかもその布には、失踪した父・庄八郎の名があった。この布が発する妖気に操られ、庄三郎がさまよう富士山麓には、奇面の城主が君臨する纐纈城や神秘的な富士教団が隠れ棲み、近づくものをあやかしの世界に誘い込む。
ところが主人公の庄三郎は、次第に脇に追いやられ、纐纈城主と教団の光明優婆塞の対立を軸に、怪童・高坂甚太郎、女敵討ちの果てに人斬りとなった三合目陶器師、美人造顔師月子、上杉謙信の元家臣の薬師・直江蔵人、塚原卜伝など絡んでストーリーは未完のまま終わる。