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1998年11月・霜月の巻
幽斎玄旨 by 佐藤雅美
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木枯し紋次郎(六) 上州新田郡三日月村 (こがらしもんじろう6・じょうしゅうにったごおりみかづきむら)
笹沢左保
カバー写真:GRADE1 |
♪寒くなりはじめると、「木枯し紋次郎」が読みたくなる。紋次郎がくわえた爪楊枝でかなでる木枯しの音が連想させるのだろう。1年ぶりぐらいで読む。相変わらず、各話のそれぞれに見せる、巧みな導入と場面設定、意外な結末へという職人技にほれぼれとする。 紋次郎が故郷にやってくる「上州新田郡三日月村」と、一幕の舞台劇を思わせる密室での緊迫感が何ともいえずいい「冥土の花嫁を討て」が秀逸。 物語●「錦絵は十五夜に泣いた」紋次郎は渋街道で、善光寺の飯盛旅籠の女将と道連れとなり、さらに渋川から逃げてきた女中が一緒になった…。「怨念坂を蛍が越えた」若い無宿人が居座っていた居酒屋で、怨念坂の化け物が話題になっていた…。「上州新田郡三日月村」紋次郎は生まれ故郷の近くで落雷にあった…。「冥土の花嫁を討て」紋次郎は、木曽路の琵琶峠で敵討ちの仇と間違えられて斬りかかられた…。「笛が流れた雁坂峠」信州佐久から余地峠へ抜けようとした紋次郎は、地元の渡世人から厳しい関所改めがあると聞いた…。 目次■錦絵は十五夜に泣いた|怨念坂を蛍が越えた|上州新田郡三日月村|冥土の花嫁を討て|笛が流れた雁坂峠|解説 宗肖之介 |
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新版江戸から東京へ(一) 麹町・神田・日本橋・京橋・本郷・下谷 (しんばんえどからとうきょうへ1)
矢田挿雲
カバー画:葛飾北斎「絵本隅田川両岸一覧」より |
♪中央公論社は、1999年2月より読売新聞社傘下の中央公論新社としてスタートするそうであるが、こういう本を文庫化できるは、中央公論社の見識の高さの現われか。セールスベースでは、きついと思うが全9巻を最後までぜひ刊行して欲しい。筆者は、明治十五年に金沢に生まれ、仙台の県立第一中学を経て、東京専門学校に学ぶ。卒業後、報知新聞社で、野村胡堂のもとで、記者として活躍する。そのかたわら、時代小説・随想・俳句などを各誌に発表。この『江戸から東京へ』も報知新聞に連載し読者の好評を博すが、関東大震災(当日の新聞まで掲載)により、完了するにいたらず。綴るべき町が破壊され尽くし、東京市民たちが日々の生活と復旧に向けて追われていたわけで、当然のことではあるが残念。 大正期の一般的な史観が垣間見れて興味深かった。また、写真や図版に貴重なものが多く収録されているので、ファンの方は見逃せないところだ。 読みどころ●関東大震災前の東京に残る古蹟、町並みに沿って、太田道灌の築城以来の江戸から説きおこし、地理・歴史・風俗・伝統の各方面にわたり、江戸・明治の歴史の流れを物語る。考証に加えて豊富なエピソードを軽妙な筆で綴り、震災前の東京に残る江戸の面影を生き生きと描く、興味あふれる東京史蹟散歩。 目次■自序|麹町区(千代田区)道灌築城当時の江戸/安藤対馬守と井伊大老/大隈外相の遭難/鹿鳴館の仮装会/紀尾井坂の刺客/大蔵省と天慶の乱/大蔵省と先代萩/刺青だらけの奉行/お菊と塙保己一/坪十円の丸の内/江戸ッ子と天下祭|神田区(千代田区)護持院ガ原の跡/お玉ガ池の跡/丹前風呂と小赤壁/常燈明の悶着/夫婦散歩の開山/名物白酒と鰻|日本橋区(中央区)金座、越後屋、三越/白木屋立志譚/伝馬町の牢屋敷/宝井其角と賀茂真淵/蘆荻の中の色里/名古屋山三の鞘当/日本橋の高札/アダムスとお竹如来/紀文大尽の夢の跡/馬喰町と両国|京橋区(中央区)江島騒動/福沢塾の跡/銀座と佃島/瑞軒屋敷の跡/築地の梁山泊/采女ガ原の跡/銀座裏で遊猟|本郷区(文京区)本妙寺の振袖火事/八百屋お七異説/湯島天神と妻恋稲荷/鈴木主水の血戦/加賀様のお雪献上/朱舜水と一高気質/名木とお官学本山/烈女春日局/草の中から霊雲寺/炮烙地獄と寝釈迦/吉祥寺の縁起/丸橋忠弥就縛の家/江戸の虎疫濫觴/桔梗屋騒動/私立病院の開祖/第一号渡航免状/桂太郎と青木周蔵/李鴻章狙撃事件/酒精漬の隻脚/天神で公許の賭博/森川町の恐しさ/グズ安の書いた看板/大和屋の没落/時代逆行の恋愛/亭主を訴えたおみよ/剣抜地蔵のお守り|下谷区(台東区)上野公園の今昔/明和の大火と仁王門/佐倉宗五郎の伝説/お浦伊之助/不運な大仏様/寛永寺諸坊と上野戦争/博物館、動物園、東照宮/お化燈籠と殉職者の墓/秋色桜と錦帯円/柳の前と感応丸/錦帯円の娘/お花駒太郎/河内山、直侍、三千歳/広徳寺の山門/水呑みの竜/北村季吟翁の墓/指切り地蔵/義士と五条天神/川路聖謨の墓/池之端の御前/紅筆おつた/黒田清隆と孝行車夫/箕輪心中/鶯と狸の根岸/抱一上人と子規居士/御鷹匠廃止の一因/山岡鉄舟の墓/笹森お仙/高橋お伝の一生/谷中の一本杉/延命院騒動/お町と下谷名所|解説 朝倉治彦|新都・東京の成立 山本純美/収録図版リスト/付図 古川地図写植工房作成 麹町区 京橋区・日本橋区(一) 日本橋区(二)・神田区・本郷区・下谷区 図版監修 山本純美 |
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長安殺人賦 (ちょうあんさつじんふ)
伴野朗
カバー:百鬼丸 |
♪「天の原 ふりさけみれば春日なる 三笠の山に出でし月かも」で知られる、阿倍仲麻呂を描いた作品を読みたいとずっと思っていた。そんなアンテナを張っていたときに、巡り合ったのがこの本。阿倍仲麻呂と李白が探偵役を務める、歴史ミステリーだ。日本人留学生殺しから端を発した事件は、唐王朝を震撼させるスキャンダルへと発展する。そのスケールの大きさが中国的で面白い。 伴野さんは、中国や香港を舞台にした歴史ものやミステリーをたくさん書いている。文中に唐詩がいろいろな形で引用されていて、中国に関する造詣の深さが本書でも遺憾なく発揮されている。 同じ時代を描いている、辻原登の『翔べ麒麟』(読売新聞社)が読みたくなった。 なお、天宝三載の載は、年のことで、この時代に使われていた。 物語●唐の皇帝・玄宗の治世も三十二年目に入り、「開元の治」といわれた精力的な政治への関与には、すでに情熱を失い、孫のような楊貴妃を溺愛し、一抹の衰えを見え始めていた頃。春のたけなわの曲江のほとりを李白と日本人・阿倍仲麻呂が歩いていた。二人の前で日本人留学生が殺された…。死に瀕して留学生が残したメッセージが「しょうりゅう」。死の謎を仲麻呂と李白が追うことに…。 目次■プロローグ/入唐/疑惑/昇龍/胡姫/陰謀/牡丹/真相/エピローグ/解説 野口百合子 |
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名君の碑 保科正之の生涯 (めいくんのいしぶみ・ほしなまさゆきのしょうがい)
中村彰彦
カバー装画:円山応挙「藤花図」(根津美術館蔵) |
♪タイトルの「名君」という言葉には抵抗があったのだが、装画に使われている円山応挙の金ぴかの絵と、今月、時代小説の新刊本が少ないせいで、読んでみる気になった。ビジネスマンの処世訓的な話はいやだなあと思いつつ、読みはじめる。気がつくと物語にぐいぐい引き込まれてしまった。保科正之と聞くと、優等生的なイメージしかなかったが、波瀾万丈の出生の秘密をもっていて驚きだ。正之(幸松)が生れるまでの物語がとにかくいい。半村良さんの『江戸打入り』(集英社)に通ずる、江戸揺籃期の雰囲気が何とも心地いい。 後半は、童門冬二さんの『小説上杉鷹山』(学陽文庫、集英社文庫)のようで、ちょっと感動的だ。 物語●お静は北条牢人の娘に生れたが、ふとしたきっかけで、江戸城の大奥に入ることになった。やがて、将軍秀忠の眼にとまるが、正室お江与の方に睨まれることになる…。そしてお静に子が産まれる。幸松(のちの保科正之)だ。 目次■お静の方/幸松誕生/高遠まで/信濃さま/将軍家光/馬見ヶ崎川/異変は東西に/遺命忘るまじ/花ひらく日々/振袖火事/裏切り/道は一筋/天翔ける時/あとがき |
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千葉周作不敗の剣 (ちばしゅうさくふはいのけん)
津本陽
カバー装画:東啓三郎 |
♪年代順に並んでいたので、読んでいるときは気づかなかったが、連作形式をとっている。今まで、津本陽さんの作品とは相性が悪かったのだが、先月、『千葉周作』(角川文庫)を読んでからすっかり気に入ってしまった。タイトルがeasyで、何とかならないかなあという感じで、『千葉周作』で描かれた話もあったが、周作がむちゃくちゃ強くて面白かった。「下段青眼」の話で描かれた、神道無念流の斎藤弥九郎の練兵館と桃井春蔵の士学館の対決が興味深かった。 物語●「他流試合」千葉周作は、相撲取り上がりの剣術家・吉田川に、高崎城下にいる小泉金平という剣術遣いの話を聞く…。「旅の災難」熊谷で剣客の家に滞在したとき、周作は自分と試合をして勝ったことを吹聴している男がいると聞いた…。「伊香保の騒動」伊香保神社への掲額をめぐって北辰一刀流と念流が一触即発に…。「蟻地獄」周作と中井正清は他流試合の旅に出た…。「遺恨試合」文政五年、周作は日本橋品川町に道場を開き、玄武館と名付けた…。「下段青眼」隆盛を極める玄武館に神道無念流前宗家・岡田熊五郎利貞が、周作の力を借りにやってきた…。「長しない」柳川から六尺の長しないの遣い手が江戸に出府してきた…。「露の位」四十歳を過ぎ周作は、遂に剣の真髄を極めた…。 目次■他流試合/旅の災難/伊香保の騒動/蟻地獄/遺恨試合/下段青眼/長しない/露の位/解説 磯貝勝太郎 |
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遍照の海 (へんしょうのうみ)
澤田ふじ子 |
♪久しぶりに作品を読んでいて切なくやるせなくなってしまった。最近の澤田さんは向日性のある、ピュアな人物を主人公を据えることが多かった。とくに、タイトルに「橋」のつくシリーズなど。この作品は、1992年に『別冊婦人公論』に掲載されたもの。掲載誌を念頭におき、一人の女性の道ならぬ恋を見事に描ききっている。数奇な運命をたどる京の紙商鎰屋(かぎや)の娘・以茶(いさ)の作という形で挿入される俳句が何ともいえずにいい。 転びつつ子のもてきたる柿一つ主人公・以茶が遍路をめぐる序章で始まる、物語がショッキングだった。第一章以下で、そのような運命をたどることになる以茶の恋の行方が描かれる。 物語●白衣に経帷子をかさね、小さな観音開きの笈を背にした以茶は、四国遍路に追われてから二年余り、三度目の秋をいま土佐国・高岡で迎えようとしていた……。 目次■序章 生涯遍路/第一章 祝言/第二章 商家の女事/第三章 祇園まつり/第四章 道ならぬ恋/第五章 袈裟がけ/終章 遍照の海/あとがき/解説 清原康正 |
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傍若無人剣 (ぼうじゃくぶじんけん)
南條範夫
装画:東啓三郎 |
♪隆慶一郎さんの『一夢庵風流記』(集英社文庫、新潮文庫)を読んで以来、気になる快男児・前田慶次郎ものを読みたいとずっと思っていた念願が叶った。作中で、南條さんの前田慶二郎(こちらはこういう漢字表記になっていた)は、 …五尺七、八寸、色白く、まゆ太く、目涼しく、なかなかの美男子。そのうえ、太守利家のおい、剣も戸田越後守一利に学んで無双の腕まえ。といって、ただの武芸一辺倒の武骨者ではない。堂上の公卿について源氏物語・伊勢物語の秘伝を受け、和歌をよくし、能楽のたしなみも深い。 こう書かれると、非の打ちどころのない若侍になってしまうが、そんなことはないのが慶二郎のいいところだ。 第一、恐ろしく短気で、わがままで、傍若無人、第二にひどく女が好きで、酒好きで、賭博もきらいではない。第三になまけ者で、仕事がきらいで――家中の侍たちの非難を教えあげていくと、きりがないほどえある。 隆さんとは、また一味違う、明るくユーモアがある慶次郎像が楽しめて面白かった。そういえば、南條さんというと、家康影武者説を取りいれた作品も書いているらしい。 物語●前田利家の甥、前田慶二郎は、家中の女たちの評判が悪くなく、もてた。妙齢の娘たちが彼をめぐって恋の鞘当てをするのも日常茶飯事だった。そんなある日、慶二郎は付け文をもらい、のこのこと出かけた、城下の犀川のほとりで、六、七人の黒い布で面を隠した者たちに襲われた…。 目次■なし |
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王子稲荷の女 はやぶさ新八御用帳 (おうじいなりのおんな・はやぶさしんぱちごようちょう)
平岩弓枝
装画:風間完 |
♪シリーズ第9巻。佐多芳郎さんの逝去により、気になっていた装画は、今回より風間完さんが担当。しっとりとした江戸情緒が感じられ、また一味違う「はやぶさ新八」のスタートだ。主人公は、南町奉行の根岸肥前守鎮衛(『耳嚢』でおなじみの名奉行)の内与力(うちよりき)・隼新八郎。内与力とは、奉行直属の家臣で、いわば秘書役である。 「里神楽の殺人」の話が華やかさがあってよかった。 「はやぶさ新八」シリーズの魅力の一つは、新八郎をめぐる三人の女たち、妻の郁江、根岸肥前守の奥付きの女中・お鯉、湯島の岡っ引きの勘兵衛の娘・小かんのトライアングル。今巻では、郁江の出番が少なくてちょっと残念。 『新版 江戸から東京へ(一)』(矢田挿雲著・中公文庫)に、根岸肥前守が谷中延命院事件を解決したことが記述されていた。この事件が今後の「はやぶさ新八」の活躍のクライマックスになっていくのだろうか…。 物語●「王子稲荷の女」年始にやってきた鬼勘と藤助は、新八郎に、大晦日に王子稲荷に現われた狐火の話をした…。「寒紅梅」新八郎の友人・落合清四郎がまもなく父親になるという…。「里神楽の殺人」氷川神社の里神楽で「大蛇退治」の上演中に殺人事件が起こった…。「柳と蛙」三味線堀に陰間の若い男の死体が浮いているのが見つかった…。「夕顔観音堂」浜町河岸で新八郎は、舟に乗った尼僧に見とれていた…。「あやかし舟」涼み船で賑わう大川に“あやかし舟”と呼ばれる嫌がらせをする舟が捕らえられ、きついお叱りを受けた…。「虫売りの男」六月の半ば過ぎに、新八郎は蟋蟀が数匹入った虫篭をもらった、蟋蟀は一匹一両もするという…。 目次■王子稲荷の女|寒紅梅|里神楽の殺人|柳と蛙|夕顔観音堂|あやかし舟|虫売りの男 |
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幽斎玄旨 (ゆうさいげんし)
佐藤雅美
カバー装画・挿画・題字:中一弥 |
♪岩波書店の本としては珍しい歴史小説。同社の雑誌『世界』に連載されていたものに大幅に加筆してまとめたものらしい。安部龍太郎さんの『関ヶ原連判状』(新潮社)を読んで以来、幽斎の文人の面が気になっていたので、本作品は堪能できた。二条家の古今伝授以外にも幽斎のマルチタレントぶりは、弓馬、太鼓、庖丁(料理)、蹴鞠、乱舞、手跡、和歌、連歌、故事来歴と多岐にわたっている。 本能寺の変の後、友誼のある光秀ではなく、秀吉方についた経緯が納得いくように描かれていたのがよかった。 各章の扉に描かれた中一弥さんの挿画が雅味があってなんともいい。 物語●明治まで続く肥後の大名細川家の基礎を築き、「神道歌道の国師」とも後陽成天皇に高く評価された細川幽斎。室町幕府の名門に生まれ、足利義輝、義昭の二人の将軍に仕えながら、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康のいずれからも厚遇された戦国武将・幽斎の波瀾万丈の生涯を描く…。 目次■第一章 将軍弑逆/第二章 矢島の里/第三章 波浪の果て/第四章 天下布武/第五章 岐阜への使い/第六章 あしき御所/第七章 裏切り者/第八章 さかむ日数/第九章 泥足の使者/第十章 袖の露/第十一章 孫娘於長の縁談/第十二章 恩讐の彼方/第十三章 大徳寺山門の木像/第十四章 死地への使い/第十五章 秀吉狂乱/第十六章 家康の礼/第十七章 田辺籠城/参考文献 |