新・極楽の読書録
1998年10月・神無月の巻

秘剣 花車 by 戸部新十郎
江戸狼奇談 by 永井義男
平安京の検屍官 by 川田弥一郎
明治人ものがたり by 森田誠吾
浪速忠臣蔵 by 吉村正一郎
千葉周作 上・下 by 津本陽
妖臣伝 厳島合戦異聞 上・下 by 小川良
隠猿の剣 by 鳥羽亮
黄門さまと犬公方 by 山室恭子



おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

黄門さまと犬公方

江戸学
山室恭子(やまむろきょうこ)


装幀:坂田政則
時代:寛永十年(1633)
(文春新書・710円・98/10/20第1刷・254P)
購入日:98/10/22
読破日:98/10/31

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新書というと、堅い本というイメージがあって苦手なのだが、この本は語り口がやわらかくて楽しく読めた。
作者のプロフィールにある、「一九五六年、綱吉に遅れること三百十年にして江戸に誕生。」という記述や2人の殿様へのラブレター風のプロローグとエピローグなど、才気溢れる著者の文体で、古めかしい史料の中から発掘した新見解が楽しめる。
とくに綱吉に対する新評価は、これから忠臣蔵ものを読む際に、大いに参考になるところだ。ぜひ、『堂々日本史』で、映像化して欲しい。

読みどころ●水戸光圀は、なぜ、三百年の時空を超えてなお、名君の名をほしいままにしているのか…。
一方、綱吉が稀代の暗君といわれるようになったのはなぜか…。
同じ三男坊に生まれながら、後世まったく反対の評価を得ている二人の殿様の実像に迫る…。

目次■拝啓 黄門さま 光圀ノ巻 第壱章 大義チガヒ申ス―兄を超えた苦しみ 西山の月/先君賞揚のキャンペーン/複雑な御家事情/綱條の願い/栴檀は双葉より/父の位牌の前で/アリバイ証明/つくられたドラマ/墓碑銘で墓穴/爺やのお小言/プレッシャー|第弐章 あひ憚る儀御座候て―密室の秘事 八十六年めの新真実/真相/状況証拠も積もれば/執念の割り注/たった一羽のコウノトリ/綱吉の跡継ぎ問題|第参章 万歳を唱へて、とよめく―演技する君主 名君の証明/鶴の恩返し/「大法」に背いて/藤井紋大夫刺殺事件/民くさの近くで/郡奉行との確執/伝説をうながした三つの要因/雲間の月||綱吉ノ巻 第壱章 有栖川殿を御代つぎとせん―幻の宮将軍 深夜の大逆転/マイナスからの出発/堀田正俊刺殺事件/怯える綱吉|第弐章 人々仁心も出来候様に―新政に賭けた夢 子供欲しさか/武装解除か/仁心の涵養/殺伐の風習/優等生と凡才/熱血教授/御前裁判/大きな政府へ|第参章 鴨ノ手紙差出ス―迷走する生類憐れみの令 消えた犬/巨大犬小屋作戦/矢ガモ騒動/鳥の島流し/初志はるか/吹き矢燕/ボウフラも?/処罰例六十九件/死罪十三件/尾鰭をもいで|第肆章 天くらくして大地鳴りわたり―あいつぐ天災 関東大消亡/天気を請け取る/大震災/犬扶持免除/沸き立つ虚説/跡継ぎ決定/家千代誕生/大噴火/不退転|第伍章 前代の事をよく言はざる―新井白石の罪 生類憐れみの令廃止?/碩学の誤算/一犬虚に吠ゆれば/あわれみ申すべく候/大逆転|むすび もののふ二人|拝啓 犬公方さま|史料リスト/年表

隠猿(おぬざる)の剣

★★★★
鳥羽亮(とばりょう)


カバー装画:村上豊
解説:縄田一男
時代:文化九年(1812)
場所:武州秩父郡両神村、鴻巣、小塚原、本所亀沢町、坂下町
(講談社文庫・571円・98/10/15第1刷・314P)
購入日:98/10/17
読破日:98/10/28

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『三鬼の剣』(講談社文庫)に続く、直心影流の剣士毬谷直二郎が活躍する時代ミステリー・シリーズ第二弾。タイトルにある「隠猿(おぬざる)」は、尾室藩の隠密組織の名前。『用心棒日月抄』シリーズの嗅足組のようなもの。
このシリーズの魅力は、剣道経験のある作者が描く剣術シーン。とくに主人公の剣技にケレン味がなく、明るいところがいい。また、江戸川乱歩賞受賞作家らしく、ミステリー仕立てになっているので、最後まで面白く読める。

◆主な登場人物
毬谷直二郎:直心影流の剣士
逸見太四郎:甲源一刀流流祖
梶井作兵衛:逸見の門弟
西尾甚左衛門:直二郎の剣の師
細引の玄蔵:岡っ引
おらく:玄蔵の幼なじみで身の回りの世話をする
辰造:玄蔵の子分
熊吉:辰造の兄貴分の下っ引
朝倉兵庫之助:定町廻り同心
片岡彦十郎:尾室藩十二万石の江戸留守居役
小倉助九郎:直二郎と同門で、尾室藩士
毬谷彦四郎:直二郎の父
三戸助右衛門:尾室藩士で柳剛流の遣手
溝口宗介:尾室藩士で馬庭念流の達者
志垣十蔵:尾室藩の大目付配下
紀枝:殺されて木の上に括られた侍の妹
白石清乃:紀枝の義理の姉
田村栄次郎:尾室藩士

物語●毬谷直二郎は、己の理念を捨て去り無念無想の境地になりきることで相手を破る「死人の剣」をさらに完成させるために、修行の旅に出て甲源一刀流の逸見太四郎のもとを訪れた…。
一方、玄蔵は、堀に投げ捨てられた小さな娘と、木の上に括り付けられた侍を斬り殺した犯人を追っていた…。

目次■第一章 甲源一刀流/第二章 隠猿/第三章 柳剛流/第四章 馬庭念流/第五章 雪原の謎/第六章 妖者術/解説 縄田一男

妖臣伝 厳島合戦異聞 上・下

★★★★☆☆
小川良(おがわりょう)


カバー装画:横山大観「龍興而致雲」足立美術館蔵
カバーデザイン:芦澤泰偉
解説:菊池仁
時代:天文十八年(1549)
場所:出雲大社、山口、安芸吉田
(幻冬舎文庫・各648円・各98/10/25第1刷・上460P、下427P)
購入日:98/10/10
読破日:98/10/25

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『妖雲大内太平記』(97年4月・叢文社刊)の改題。入手が難しいと思われていた作品が文庫本として登場。タイトルが変わってしまった理由が不明だが、タイトルの妖臣とは、誰のことなんだろうか、と頭の隅におきながら読むのも一興か。
久々に本格的な長編伝奇小説を読む。かつてNHK大河ドラマ『毛利元就』で描かれた大内〜陶〜毛利の世界。土地鑑がなくなじみがないこともあり、苦手な分野だったが、大いに楽しめた。史実に沿った武将たちの抗争を中心に、忍者や妖怪、山伏など伝奇ものの要素をスパイスとしてブレンドし、何ともいえない面白さを創出している。
幻冬舎文庫は普通の文庫本より横が5ミリほど、短くて手にすっぽり収まる感じがしてなかなかいい。

◆主な登場人物
さぎり:野武士
大内義隆:周防、長門の守護職
陶隆房:大内義隆の筆頭家老で、周防富田の城主
相良武任:大内義隆の重臣で文治派の首領
冷泉隆豊:大内義隆の重臣
杉重矩:大内三家老の一人
内藤興盛:隆房の舅で、家老の一人
総子:隆豊の妹
頼子:総子の娘
善常:陶隆房配下の乱波
鹿目:善常の配下の者
小田村次郎:義隆の小姓
安富源内:義隆の寵臣
白菊丸:旅の芸人
天道坊:善常の修行時代の仲間の山伏
大友義鎮:義隆の甥にあたる大内家の嫡男で、豊後の守護
大友晴英:義鎮の弟、後の大内義長
毛利元就:吉田の領主
毛利隆元:毛利家の嫡男
吉見正頼:津和野の領主
フランシスコ・ザビエル:ナバラ出身のイエズス会伝道師
江良房栄:陶家の宿老

物語●天涯孤独の野武士・さぎりは、。一夜の宿を求めて山寺へやってきた。上人に喜んで迎え入れられたさぎりは、そこで冷泉隆豊の妹・総子に娘の頼子を山口の兄のもとに連れていって欲しいと頼まれる…。かくして、さぎりは、武将たちの激しい愛憎に彩られた戦国大絵巻の渦中に巻き込まれることになる。

目次■妖怪の寺/権謀の館/対決/白菊丸/次郎無残/腐臭/起請文/智勇の人 冷泉隆豊/絶叫/興隆寺修二会/悪徳の味/東大寺国衙領返還/修羅の道/今八幡宮襲撃事件/竜福寺の死闘/ザビエル拝謁/ザビエルと隆房/謀反前夜/俵山の神/山口の変/義隆の最期/陶・吉見宿命の対決(以上上巻)|新屋形大内義長/晴賢の苦悩/さぎりと次郎との再会/次郎、善常を襲撃/毛利隆元との密議/杉重矩討伐/旗返城攻め/第二次津和野攻め/元就接見/毛利元就立つ/三本松降伏/桜尾城にて/江良房栄謀殺/鹿目の出現/厳島合戦前夜/村上水軍の参陣/厳島合戦/桜尾城首実検/山代一揆/解説 菊池仁(以上下巻)

千葉周作 上・下

★★★★☆
津本陽(つもとよう)


カバー:蓬田やすひろ
解説:小川和佑
時代:寛政十年(1798)、習作5歳
場所:荒谷村、仙台、松戸、神田松永町、浜町河岸、根津、高崎、日本橋品川町、神田お玉ヶ池
(角川文庫・各495円・各98/09/25第1刷・上297P、下312P)
購入日:98/09/26
読破日:98/10/14

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江戸後期を代表する剣客千葉周作の生涯を描く剣豪小説の傑作。浅利又七郎、高柳又四郎、中西忠兵衛子正、白井亨、寺田五郎右衛門、大石進、大石進士、男谷精一郎、桃井春蔵、岡田十松(二代目・三代目)、斎藤弥九郎、斎藤新太郎、斎藤歓之助、百合本昇三、海保帆平、伊庭軍兵衛ら、習作と関わり合いのある、錚々たる剣客も登場する。
剣道と居合いをされる作者らしく、剣戟シーンが迫力があって素晴らしい。ただ、読み手(わたし)が理解力不足というか、うまくイメージできないというか、のために隅々まで堪能できないのが残念。この時ほど、剣道をやっていればよかったと思ったことはない。

物語●陸前国栗原郡荒谷村の豪農の孫、於菟松(後の千葉習作)は祖父吉之丞が創設した北辰夢想流の剣術を習っていた。父幸右衛門は、秋田藩の剣術指南役を務めたのちに、故郷荒谷村に戻り、農事と医業を営んでいた。十五歳のとき、仙台藩で行われた十八歳以下の若者120人による剣術の勝抜き試合に参加することになった…。

目次■芽ばえの頃/立志のとき/百錬自得/登竜門(以上上巻)|夢想剣/伊香保の喧嘩/玄武館/桜花らんまん/去ってゆく星/解説 小川和佑(以上下巻)

浪速忠臣蔵 いてこませ

★★★☆
吉村正一郎(よしむらしょういちろう)


カバーイラスト:蓬田やすひろ
時代:元禄十四年
場所:立売堀北町、奈良屋町、新町、堂島新地
(ケイブンシャ文庫・552円・98/09/15第1刷・325P)
購入日:98/09/13
読破日:98/10/11

[絶版]

忠臣蔵関連で大坂が舞台というのが珍しい。大阪出身の著者ならではの着眼点か。この本と、『瀧桜』(澤田ふじ子著・廣済堂文庫)、『江戸狼奇談』(永井義男著・ノン・ポシェット)の3冊を近所の本屋さんで購入したら、店のおばあちゃんに声を掛けられた。相当マニアックな選択だったようである。
不破数右衛門という人は、どうも忠臣蔵の中で、アクセントとなる人物のような気がする。彼だけが、元藩士ということで、本来ならば、討入りに参加する権利がなかったからである。彼をどういうポジションで描いていくかで、作品の趣向が変わってくる。

◆主な登場人物
文七:奈良屋町の染物屋の京屋・若旦那
吉兵衛:京屋の主人
かや乃:文七の継母
千右衛門:かや乃の息子
不破数右衛門:元赤穂藩馬廻役
大石内蔵助:赤穂藩国家老
井筒屋徳兵衛:新町の女郎屋主人
松尾太夫:井筒屋の遊女
糸紫:井筒屋の遊女
庄九郎:江戸者の中間
市右衛門:大和・郡山出身の奴髭の中間
平兵衛:河内者の小男の中間
岡本次郎右衛門:赤穂藩大坂留守居役
岡本喜八郎:次郎右衛門の息子で数右衛門と懇意
橋本平左衛門:赤穂浪士
初:堂島新地・淡路屋の遊女
岡野又左衛門:数右衛門の実父
佐々小左衛門:大坂蔵屋敷支配役
与之助:淀屋の一番番頭
弥助:鴻池屋の番頭
中村五左衛門:大坂東町奉行所与力
渡辺喜十郎:東町奉行所同心
熊蔵:喜十郎配下の岡っ引き
天野屋利兵衛:口入屋
まん:利兵衛の女房

物語●元禄期。大坂の染物屋の若旦那文七は宝刀を尽くして勘当の身。金もなく途方にくれる文七は、立売橋の上で、やはり金に窮する赤穂浪人不破数右右衛門と出会う。その日は、江戸城にて浅野内匠頭が吉良上野介に斬りかかったことが浪速の町に知れわたった日であった…。

目次■なし

明治人ものがたり

★★★★
森田誠吾(もりたせいご)


時代:
場所:
(岩波新書・640円・98/09/21第1刷・216P)
購入日:98/10/06
読破日:98/10/06

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今まで明治という時代が苦手だった。薩長の専横と、欧米の列強に追いつけ追い越せという風潮に馴染めなかったのだが…。岩波新書(ちなみに岩波書店の本というのも、何か恐れ多いって感じで苦手です)には、「日本が若かったころ。」という帯が付いていたが、まさしく若々しい日本の姿が浮かび上がるような本。
「天皇、二十三歳。新しい侍女と深い仲となり、皇后ご立腹。岩倉具視、その和解のために苦心。…」
睦仁天皇とは、明治天皇のこと。後に明治大帝として神格化されることになるが、ゴシップが報道された、明治七年当時は、まだ若く元勲たちに頭を押さえられていたらしい。
森銑三さんは、学芸史家で、井原西鶴の著作のうち、『好色一代男』のみが西鶴自身の筆によるものという、学説で異端視されていた人。確か中公文庫で『偉人暦』を発行していたはずなので、入手してみよう。
森鴎外の娘、茉莉さんは、自由闊達でモダンで面白い、彼女をモデルとした長編が読んでみたい。

読みどころ●「睦仁天皇の恋」明治初等、宮廷の侍女と若き天皇の恋愛騒動が新聞で報道された…。「学歴のない学歴」学界への孤独な闘いを挑んだ森銑三とは何者か…。「マリとあや」同時代を生きた、森茉莉と幸田文の娘時代とそれぞれの父との関係を描く…。

目次■はじめに|睦仁天皇の恋|学歴のない学歴|マリとあや|おわりに|参考文庫本一覧

平安京の検屍官 検非違使・坂上元継の謎解き帖

★★★★
川田弥一郎


カバーイラスト:白石むつみ
カバーデザイン:中原達治
時代:天暦四年(950)
場所:七条坊門小路北、内裏、五条大路北ほか
(祥伝社・1,700円・98/09/15第1刷・331P)
購入日:98/09/10
読破日:98/10/05

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時代は、藤原忠平が亡くなった一年後、村上帝の頃。『江戸の検屍官』の川田さんが、舞台を平安朝に移して描いた医学ミステリー。物の怪が当然のことと考えられていて、陰陽師たちが活躍する時代に、どのように検屍を展開するかが興味深かった。
元継の愛人・顕子の不思議な能力が、事件解決の鍵を握る。
江戸時代、奉行所の与力や同心をなぜ、不浄役人と呼ぶようになったかが、この本を読んでいると何となくわかった。古来、死体というのは不浄のものと考えられていた。そのため、死人に触れてしまうと三十日のけがれとなり、けがれてしまった人が行った場所、触れたもの、会った人もけがれてしまうので、けがれをばらまかないように気をつけなければならないとされていた。そして、けがれに関して最もうるさいのが内裏であった。そこで内裏では、人が死んでも、死にかかっていることにして、内裏の外(たとえば検非違使庁など)に運び出し、そこで死んだことにしたらしい。

◆主な登場人物
坂上元継(さかのうえのもとつぐ):検非違使大尉(だいじょう)
林季貞(はやしのすえさだ):看督長(かどのおさ)。元継の部下
助里(すけさと):放免(ほうめん)。元継の部下
源高明(みなもとのたかあきら):検非違使別当(長官)、中納言
藤原師輔(ふじわらのもろすけ):右大臣、九条殿。娘は安子女御
藤原元方(もとかた):民部卿中納言。娘は祐姫更衣(すけひめこうい)
顕子:元継の愛人。主計頭(かずえのかみ)藤原顕友の娘
観輪(かんりん):魂寄せを行う祈祷僧
緒津(おつ):観輪の使う憑坐(よりまし)
和気時雨(わけのときさめ):典薬頭(てんやくのかみ)。平安京一の名医

物語●「御簾の奥の怪」今をときめく右大臣の娘安子が、帝の子を宿した矢先、安子に仕えている女房が変死した…。「月夜の池の怪」備前守の娘が、屋敷の池で死んでいた…。「夏の大路の怪」阿波守の家へ賊が入り、家人が殺された…。「夜半の宴の怪」宴の翌朝、文章の達人が女と共寝の末に亡くなった…。「秋の古寺の怪」近江大掾の娘が盗賊に盗まれた衣装を取り返して欲しいと、元継に依頼した…。「凍てる橋の怪」検非違使で使っている放免の三人組が、古い屋敷で、裸の男の死骸を見つけた…。「雪の内裏の怪」火の手の上がっている屋敷の中から、人の乗った馬が二頭飛び出してきた…。

目次■第一話 御簾の奥の怪|第二話 月夜の池の怪|第三話 夏の大路の怪|第四話 夜半の宴の怪|第五話 秋の古寺の怪|第六話 凍てる橋の怪|第七話 雪の内裏の怪

江戸狼奇談

★★★☆
永井義男


カバーイラスト:百鬼丸
カバーデザイン:中原達治
解説:清原康正
時代:「江戸狼奇談」嘉永三年。「夢酔続言」文政十四年。「世田谷裁き」天保五年。
場所:「江戸狼奇談」青山百人町。「夢酔続言」本所入江町。「深川旦那殺し」深川佐賀町。「虎穴堂弥助」房州館山。「汚穢屋吟味帳」伊皿子台町、高輪牛町。「世田谷裁き」世田谷・新町。
(ノン・ポシェット・514円・98/09/20第1刷・283P)
購入日:98/09/13
読破日:98/10/04

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『算学奇人伝』で第六回開高健賞を受賞した作者の最初の文庫本。
永井さんの作品はどれも、軽快で読みやすい。また、歴史上の高名な人物が探偵役として活躍するのが特徴。
「夢酔続言」の勝小吉は、好んで取り上げるキャラクターの一人。文庫のための書き下ろしの「世田谷裁き」は、部屋住み時代の井伊直弼が登場するのが新鮮。短篇集のなかで異彩を放つ、「虎穴堂弥助」は、ぜひ長編バージョンを書いて欲しい。

物語●「江戸狼奇談」町医者・沢三伯のもとに、米搗き職人が、狼にやられたて怪我をしたと、飛び込んできた…。「夢酔続言」浅草花川戸の船問屋の若旦那が美人局にひっかかり困り切っている。そこで勝小吉に相談が持ち込まれた…。「深川旦那殺し」干鰯問屋の番頭が、安囲いしている妾のことで、岡っ引から声をかけられた…。「虎穴堂弥助」六年ぶりに男が帰ってきた。知り合いは皆懐かしさで顔をほころばせたものの、次の瞬間、明らかに眼に恐怖が走った…。「汚穢屋吟味帳」質屋に盗みが入り、三百両が盗まれ、庭に泥棒が垂れた糞が残されていた…。「世田谷裁き」二十歳の井伊鉄三郎は、検使の役人のひとりとして世田谷の農家で発生した変死事件にかかわることになった…。

目次■江戸狼奇談|夢酔続言|深川旦那殺し|虎穴堂弥助|汚穢屋吟味帳|世田谷裁き|解説 清原康正

秘剣 花車

★★★★☆☆
戸部新十郎(とべしんじゅうろう)


カバー装画:中川惠司
装幀:新潮社装幀室
解説:石井冨士弥
時代:大捨|八寸|栴檀|花車|仏手|笹葉|玉光|音無|浮鳥|逆髪
(新潮文庫・476円・98/09/01第1刷・315P)
購入日:98/09/12
読破日:98/10/02

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この本を読んでいると、剣豪紳士録のようなものが作りたくなってしまう。戦国時代から明治までの剣術の流れをまとまられたら、時代小説を読むのが、また楽しくなるような気がする。
この作品集では、剣術の秘伝を漢字二文字で示し、各話のタイトルに附けている。想像力が広がり面白い。ちなみに各話に登場する剣豪は、以下の通りだ。
「大捨」上泉(こういずみ)伊勢守、丸目蔵人佐(まるめくらんどのすけ)、夷三郎(いさぶろう)
「八寸」奥山休賀斎(おくのやまきゅうがさい)、小笠原長治
「栴檀」疋田文五郎(栖雲斎)、来間甚兵衛
「花車」疋田栖雲斎(ひきたせいうんさい)、長谷川宗喜(そうき)、神後伊豆(じんごいず)
「仏手」友松六左衛門氏宗、樋口又七郎
「笹葉」花房勘兵衛、宮本武蔵守義経、山崎勘兵衛、柳生宗矩
「玉光」麻生如見斎(あそうじょけんさい)、多賀牛之助、和田兵助
「音無」高柳又四郎、藤木道満
「浮鳥」近藤周助、千葉周作
「逆髪」勝田武左衛門、佐々木只三郎、山颪

とくに、天然理心流の三代目宗家になる、近藤周助の登場する「浮鳥」の話が『燃えよ剣』(司馬遼太郎著)へとつながる話として興味深かった。

物語●「大捨」京の清水寺の音羽の滝下で“兵法天下一”の高札を掲げる男がいた…。「八寸」家康の兵法指南役である奥山休賀を相手に、若侍が立合った…。「栴檀」疋田文五郎は、師に“撓を持ちさえすれば、喜んでいる”と表現されていた…。「花車」関白豊臣秀次は、兵法数奇であり、諸国から有名無名の兵法者を召し出し、立合わせ、術技内容を聞き出し、眼識にかなったものには、“天下一”の称号を与えていた…。「仏手」関東一円を遊歴する、偽庵さまと呼ばれる眼医者が腕がよく評判が高かった…。「笹葉」禁裡出入りの京の菓子舗を関ヶ原牢人が入道姿で手伝っていた…。「玉光」高名な兵法者が廻国修行の途次、故郷の越前福井に立ち寄った…。「音無」中西門三羽烏といわれ、『大菩薩峠』のモデルの一人とされる剣客がいた…。「浮鳥」多摩に棲む蛇は、“中ノ倉”の周平と呼ばれる若者の姿を見ると、みなこそこそと逃げ隠れしたという…。「逆髪」源助は仕えている旦那を、最近覚えたジェントルマンというものではないかと思った…。

目次■大捨|八寸|栴檀|花車|仏手|笹葉|玉光|音無|浮鳥|逆髪|解説 石井冨士弥