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1998年9月・長月の巻
円周率を計算した男 by 鳴海風 |
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傷 慶次郎縁側日記
★★★★☆
![]() 装画・挿画:蓬田やすひろ 装幀:新潮社装幀室 時代:明記されずBR> 場所:八丁堀、霊岸島、根岸、南小田原町、南鍛冶町、本所相生町、下谷町、聖天町、瓦町、代田村 (新潮社・1,700円・98/09/20第1刷・342P) 購入日:98/09/20 読破日:98/09/28 |
♪第一話は、短編集「その夜の雪」にも収録されている。この話については二度目になるが、初読のときとちょっと読後感が違った。二話目以降の物語が人情味溢れるほのぼのとしたものになっているためかもしれない。 森口慶次郎ものとしては、「雪の夜のあと」(読売新聞社刊)という作品もある。 小さい頃、貧しかったせいか、こういう物語はとても懐かしい。
◆主な登場人物 物語●「その夜の雪」婿取りが決まっていた慶次郎の娘・三十代が何者かに暴行されて、帰ってきた…。「律義者」同心を辞め、寮番を勤める慶次郎の隣家で何やら揉め事が…。「似たものどうし」吉次は空樽拾いの少年と知り合った…。「傷」慶次郎の知り合いの番頭と、町内の鼻つまみものの二人が弓町の角でぶつかって怪我をしたという…。「春の出来事」慶次郎は、通りで突き飛ばして足首を捻らせてしまった女を見舞った…。「腹痛の妙薬」腰を痛めた慶次郎が医者に出かける途中で出くわしたものは…。「片付け上手」知り合いの煙管を盗んだ娘は、みんなから半人前と言われていた…。「座右の銘」“貧乏人に迷惑をかけぬこと”“身内に迷惑をかけぬこと”を座右の銘にしていた空巣狙いがいた…。「早春の歌」小さな事件をきっかけに、慶次郎は、剣術道場通いの若者たちと親しくなった…。「似ている女」慶次郎のもとに持ち込まれた相談事とは…。「饅頭の皮」慶次郎は通りで、顔色の悪さが尋常でない女を見かけた…。 目次■その夜の雪|律義者|似たものどうし|傷|春の出来事|腹痛の妙薬|片付け上手|座右の銘|早春の歌|似ている女|饅頭の皮 |
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幕末あどれさん
★★★★☆☆
![]() カバー錦絵:オリオンプレス 装丁:安彦勝博 時代:文久二年 場所:雉子橋、本所亀沢町、神田小川町、本所石原町、猿若町、南割下水、品川、白山、横浜 (PHP研究所・1,900円・98/09/25第1刷・451P) 購入日:98/09/12 読破日:98/09/26 |
♪黒船の重い砲声によって開いた幕末・維新の大芝居の幕。その舞台の上では、時勢に翻弄される若者たちの、さまざまな人生が演じられた。講武所通いの生活を捨て、芝居の立作者河竹新七(後の黙阿弥)に弟子入りする旗本の二男坊・久保田宗八郎。同じく旗本の二男で、やはり講武所で鉄砲を習う片瀬源之介。多感な二人のあどれさん(adolescents=フランス語で青年の意)を軸に、激動する時代をドラマチックに描く青春小説。彼らの生きざまと平行するように、市川小団次や沢村田之助など華やかな舞台姿など、幕末の歌舞伎界も活写され、「仲蔵狂乱」(講談社)で第八回時代小説大賞に輝く作者ならではの、奥行きの深い作品に仕上がっている。(←書評用にまとめたものです) 鮮やかな色遣いと、バタ臭い題材が幕末の雰囲気を伝える、表紙の錦絵は、五雲亭貞秀のもの。
◆主な登場人物
物語●久保田宗八郎は、講武所と男谷道場で、直心影流の剣に打ち込む若者だったが、ふとしたことから、芝居の世界に魅せられていく…。 目次■プロローグ|[文久二壬戌年]道場の汗/講武所の秋/猿若町|[文久三癸亥年]寺内の師匠/作者旅行/小団次の腕/馬鹿長|[元治元甲子年]太髷の旦那/品川の窓/歳の市の再会|[慶応元乙丑年]蓮華寺坂/雀戦|[慶応二丙寅年]松づくしの厄災/遠雷/歩兵志願/成島先生|[慶応三丁卯年]横浜の風/二人のあどれさん/異変の秋/再興願い|[慶応四戊辰年]最期の春/泥濘の道/宇都宮戦争/雨の上野/それぞれの秋、明治元年|[明治二己巳年]東京府南八丁堀心中|エピローグ |
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蝦夷地別件(えぞちべっけん) 上・中・下
★★★★☆
![]() カバー写真:PPS通信社 装幀:新潮社装幀室 時代:天明八年 場所:蝦夷・厚岸、野付嶋、松前。国後・古釜布。イルクーツク、ペテルブルグ、江戸・小石川、駒込、品川 (新潮文庫・上667円、705円、743円・各98/07/01第1刷・上539P、中593P、下669P) 購入日:各98/07/02 読破日:98/09/20 |
♪船戸さんというと、冒険小説界の雄。一頃はかなり入れ込んで読んだ作家の一人だ。船戸さんが時代小説というと、意外な感がしないでもないが、テーマを聞いてニヤリとしてしまった。“権力に虐げられる先住民族の闘い”はまさしく作者が好んで選ぶ冒険小説の題材である。そんな訳か従来の冒険小説ファンにも、すんなり入り込める作品になっているて、日本冒険小説協会大賞を受賞している。 3週間以上かけて読了する。なんと、2800枚(原稿用紙の枚数をいわれてもピンとこないのだが、とにかく巨編である)の大長編で、東蝦夷、ロシア、松前、江戸とそれぞれの地を舞台に、未曾有のスケールで描いている。読書中、何度か「この作家はふだん何を食っているのだろうか」と思ったほど、バイタリティ溢れる作品だ。池波さんや藤沢さんの作品が和食とすると、血の滴るレアな肉料理にたとえられそうな感じだ。
◆主な登場人物
物語●フランス革命を目前に控えた頃、ロシアに服従させられていた、ポーランド人貴族のマホウスキが択捉島にやってきて、国後のアイヌの脇長人・ツキノエと会った…。 目次■登場人物一覧/関連地図/書簡・前段/波の譜/地の譜(以上上巻)|登場人物一覧/関連地図/火の譜/夜の譜(以上中巻)|登場人物一覧/関連地図/霧の譜/風の譜/書簡・後段/参考文献/解説 井家上隆幸 |
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されど道なかば
★★★★
![]() 装幀:菊地信義 時代:文政ごろか 場所:下野、日光、江戸 (角川書店・2,200円・98/08/30第1刷・375P) 購入日:98/08/25 読破日:98/09/15 |
♪「峠越え」(角川書店)の主人公たちが戻ってきた。主人公の榎戸与一郎は、新任家老として、藩政に深く関与していくことになる。会津藩?の忍び、公儀隠密を巻き込んだ策謀にいかに立ち向かうかが見もの。青年家老が主人公になるというのは、珍しい設定だ。 与一郎が甲源一刀流の遣い手ということもあり、剣術シーンが迫力があり、手に汗握らせてくれる。また、作中に描かれた藩の木材伐採のシーンがダイナミックで印象深いものになっている。このシリーズは、まだまだ続きそうな雰囲気を残しているので、次回作も期待したい。
◆主な登場人物
物語●新任の家老榎戸与一郎の目下の悩みは、参勤交代の出立を3日後に控えて三十八両ほど捻出しなければならないことであった。藩主石見守が養子入りする際に連れてきた家臣が増えて藩財政が逼迫している上に、昨秋江戸に廻送した余剰米の代金の江戸藩邸よりの送金の遅れが重なったためである。 目次■事始め/明神の森/飛火衆/決死者の朝 |
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陋巷に在り 4 徒の巻
★★★★
![]() カバー装画:諸星大二郎 装幀:新潮社装幀室 時代:定公の十一年(前499) 舞台:中国・魯 (新潮文庫・438円・98/09/01第1刷・296P) 購入日:98/08/28 読破日:98/09/12 |
♪前作が4月に刊行されているから、随分短いスパンで4巻目が出たことになる。そのせいか、前の巻のストーリーを覚えていて、連続性を持って読めた。 悪悦や子蓉の魔力を今まで描いてきたが、今巻では、少正卯の凄さが堪能できる。
◆主な登場人物 物語●陋巷にある顔回の家を、子蓉が訪ねたが、顔回は不在で、父の顔路と遊びに来た女予(よ)が応対した。顔路が小用にたった間に、子蓉は、女予が顔回を助けた護髪の主であることを知り、そのあまりの無垢さに嫉妬し、女予に魔法の鏡を与えた…。 目次■蟲/暗闘/彷徨/徒/あとがき |
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猫の似づら絵師
★★★★☆
![]() 装画:「千社札 粋のグラフィブム」マリア書房刊より 装幀:菊地信義 本文挿画:中一弥 時代:文化十四年ごろ 場所:南八丁堀、上野池之端、両国、吉原、門前仲町、采女ヶ原、南飯田町、入谷、相川町 (文藝春秋・1,429円・98/09/20第1刷・264P) 購入日:98/09/06 読破日:98/09/12 |
♪「おんな飛脚人」(講談社)で、人情派時代小説の面白さを満喫させてくれた作者の最新作。今回はユーモアにますます磨きをかけ、落語や戯作のようなつくりになっている。 主人公の銀太郎と丹三郎の言動が膝栗毛の弥次喜多みたいで何ともおかしい。また、二人の隣人になる源蔵(風呂に入ることが嫌いで垢だらけということから、忠臣蔵の赤垣源蔵をもじってつけられた)のキャラクターがとりわけおかしい。うどん作りを生きがいにしているのだが、いろいろ工夫を凝らし改良を試みるのだが、ちっとも上達しない。二人があきれながらも毎回、鬼役(毒味役のこと)を務めるシーンがいい。 各話の冒頭にある中さんの本文挿画が粋で、読む気を増進させてくれる。
◆主な登場人物 物語●「猫に鰹節問屋」勤めていた貸本屋のリストラで、無職になり、銀太郎は猫の似顔絵描きを、丹三郎は貧乏神売りをすることになる…。「猫にマタタビ初春に竹」猫の似顔絵描きの商いで、ある寺の境内に入ったところ、無数の猫の絵馬がかかっていた。そこは猫寺と呼ばれていた…。「招き猫だが福にあらず」銀太郎は、両国広小路で途方に暮れて困っていた弟の正吉に会った。正吉は奉公先の乾鰯問屋の主人から薬を買ってくようにいいつかったのだが…。「窮鼠猫を好む」丹波の篠山で生け捕りにされたという牛ほどの図体のある鼠の見世物が話題になり、銀太郎らが商売の宣伝も兼ねて見に行くことになった…。「闇夜の鴉猫」入谷田んぼのところで、銀太郎は葉茶屋の手代に呼び止められ、猫の似顔絵を頼まれるが、仕事を頼まれたことを内緒にすることを約束させられたうえで目隠しをされる…。「虎の威を借る猫」深川・相川町に蕎麦屋、一膳飯屋、鮨屋など食べ物屋が多く軒を並べる通りがあり、どの店の屋号にも、なぜか猫の字が使われていた…。 目次■猫に鰹節問屋/猫にマタタビ初春に竹/招き猫だが福にあらず/窮鼠猫を好む/闇夜の鴉猫/虎の威を借る猫/変わった商売――あとがきにかえて |
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完四郎広目手控(かんしろうひろめてびかえ)
★★★★
![]() 装画・挿画:集英社版浮世絵大系 安藤広重「名所江戸百景」より 装丁:多田和博 時代:安政二年正月 場所:亀戸、上野、王子、駒込富士前町、大川、品川、吉原、秋葉権現、高輪牛町、雷門、青山 (集英社・1,700円・98/08/30第1刷・317P) 購入日:98/08/29 読破日:98/09/06 |
♪江戸の広告代理店・広目屋という商売にスポットを当てたのが面白い。主人公は、旗本の御曹司でお玉ヶ池の道場(千葉周作道場)で目録をとっている剣の名手でもある香冶完四郎。わけあって、上野の広目屋藤岡屋由蔵の元に居候しているのが昔の娯楽時代劇風で趣がある。それに若き日の仮名垣魯文がからむ。魯文というと、どうしても杉本章子さんの「名主の裔」(文春文庫)を思い出してしまうのだが…。 浮世絵に造詣が深い作者らしく、歌川広重の「名所江戸百景」から各話とも連作形式ながら2点の絵を取り出して結びつけるような形でストーリーを構成しているのが面白い。また、12話の話を通して江戸の名所と季節が楽しめる趣向もいい。 幕末の有名人たちがチョイ役で登場するのも見逃せない。
◆主な登場人物 物語●「梅試合」藤由は、亀戸の梅屋敷で、梅を詠んだ句や川柳の優劣を競う梅試合が企画した…。「花見小僧|完四郎が考えた花見時期に合わせた瓦版の続き物の工夫とは…。「化物娘」身の毛もよだつ化物娘の噂が江戸市中に広まった…。「雨乞い小町」川越の雨乞い小町と呼ばれる娘が江戸に住まいを移したことから事件が…。「花火絵師|錦絵の版元が花火の絵を褒賞付きで募集した。藤由一味は、一席になる絵をお映に占わせるが…。「悪玉放生」放生会を一月後に控え、由蔵は二匹の亀をぶら下げて外回りから帰って来た…。「かぐや御殿」狂歌を趣味とする金持ち連中が品川で月見に出かけて、お姫様に歓待されたが…。「変生男子」吉原の遊女が突然、男になった、という噂が流れた…。「怪談茶屋」本物そっくりで精巧なことで大坂で興行しはじめた松本喜三郎の怪談人形が江戸の町にあり、探している人がいるという話を国芳が持ち込んできた…。「首なし武者」出羽山形で首なしの武者の死体が百姓家の庭で発見された。しかも大仰な鎧を着込み、血だらけの槍まで落ちていたという…。「目覚まし鯰」近々地震が江戸を襲うというお映の託宣をもとに完四郎らは被害を最小限に押さえるために奔走した…。「大江戸大変」遂に地震が江戸の町を襲った…。 目次■第一話 梅試合|第二話 花見小僧|第三話 化物娘|第四話 雨乞い小町|第五話 花火絵師|第六話 悪玉放生|第七話 かぐや御殿|第八話 変生男子|第九話 怪談茶屋|第十話 首なし武者|第十一話 目覚まし鯰|第十二話 大江戸大変 |
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狂気の父を敬え
★★★★☆
![]() 装画:戸屋勝利 装幀:新潮社装幀室 時代:天正四年十一月 場所:伊勢、伊賀、安土 (新潮社・1,900円・98/08/20第1刷・349P) 購入日:98/08/22 読破日:98/09/06 |
♪信長の息子たちというと、なぜか影が薄い。秀吉の息子のように悲劇的でもなければ、家康の息子たちのように個性的でもない。強いていうと、ちょっと間抜けだ。歴史の舞台で華々しく活躍する機会がなかったからかもしれない。そういう意味からすると、信長の二男を主人公に据えたというのは、いい着眼点だとおもう。 この主人公の信雄であるが、早々に伊勢の名門北畠家に養子に出されてしまう。そのため、2人の父を持つことになる。 作者は登場人物を通じて「母と子をつなぐものは本能であり、父と子をつなぐものは心である」という。この作品は父性がテーマのひとつになっている。ちなみに養父になる北畠具教は、兵法で卜伝流の印可を剣術家でもあった。 「美男忠臣蔵」や「はぐれ五右衛門」などの時も感じたが、おなじみの題材を取り上げながら、新鮮な捉え方で描かれ、スパイスが効いた作品にし上がっている。
◆主な登場人物 物語●「自分の父に死んでくれと、頼むには、いかなる段取りで話をするのが最良であるか」伊勢国司北畠信雄は、実父織田信長の命で、養父北畠具教に自害を依頼することになった…。 目次■零、 北畠信雄/壱、初陣/弐、蓼莪(りくが)/参、旧理/肆、根絶/伍、織田信雄 |
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円周率を計算した男
★★★★☆☆
![]() 装幀:西のぼる 時代:「円周率を計算した男」延宝八年(1680)。「初夢」享保十四年(1729)。「空出」明和五年(1768)。「算子塚」明和七年(1770)。「風狂算法」文化十三年(1816)。「やぶつばきの降り敷く」天保二年(1831)。 場所:「円周率を計算した男」桜田、牛込。「初夢」新両替町四丁目。「空出」芝赤羽。「算子塚」千住の大橋、湯島天神、本郷金助町。「風狂算法」八名川町。「やぶつばきの降り敷く」神田中橋。 (新人物往来社・1,800円・98/08/30第1刷・313P) 購入日:98/08/25 読破日:98/09/02 |
♪第16回歴史文学賞受賞作。最近、ミステリーやホラーの分野で理系の作家の活躍が目立つが、遂に時代小説の分野にも有望な新人が登場した。本書は、東北大学大学院機械工学専攻修了の著者に、ふさわしい算学をテーマにした作品である。 明治というフィルターを通して見ることが多いせいか、江戸時代の算学(和算)は、西洋のものに比べて劣っているのではないか、と思われがちだが、実際はそうではないらしい。円周率の研究は、西洋では16世紀の終わりごろから始まり、17世紀の最高記録は、小数点以下35桁という記録がある。一方、日本では寛文三年(1663)、村松茂清が円周率の求め方とその値を小数点以下21桁まで求めている。そして、本書の主人公の一人、建部賢弘の円周率に関する研究が始まる。 年代順に並んだ6編の小説を通して、江戸時代の算学の歴史が俯瞰できる好著。とくに「空出」が爽やかで読み味がいい。 物語●「円周率を計算した男」建部賢弘は、甲府藩徳川綱豊に仕え、勘定吟味役を務めていた。三年前から同藩の算術家・関孝和に弟子入りしていた…。「初夢」大晦日を迎えた平野忠兵衛は、来年から銀座の年寄り役に推されることが決まり、ある決心をした…。「空出」久留米藩士多賀清七郎は、妻の手を握ったまま身じろぎもせずに、医者が臨終を告げる声を聞いた…。「算子塚」御普請方鈴木安明は、出羽の村山郡から遠縁の家に養子に入ったが、堤防の一部が決壊したという知らせを受けて、千住の大橋を北へ向かい、同役の神谷定令に助けられた…。「風狂算法」越後の水原出身の若手算術家山口和は、師の娘、綾乃を苦手としていた…。「やぶつばきの降り敷く」陸前生まれの三吉は、神田中橋にある長谷川寛の数学道場に、同じ村の肝煎りの次男の佐藤秋三郎と一緒に入門した…。 目次■円周率を計算した男|初夢|空出|算子塚|風狂算法|やぶつばきの降り敷く|あとがき |