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北辰の旗
★★★★
![]() カバーイラスト:西のぼる カバーデザイン:秋山法子 解説:石井冨士弥 時代:長禄二年 場所:野々市、京、白山、越前の国境近く・橘、越前・細呂木ほか (徳間文庫・563円・96/08/15第1刷・347P) 購入日:97/04/29 読破日:98/07/29 |
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富樫氏と聞くと、一向一揆に国を盗られた何となく情けない守護大名というイメージがあった。この本を読んでそんなイメージは払拭された。何やら、白石一郎さんの「城」シリーズを思わせる面白さがある。作者の戸部さんは、石川県出身であり、石井冨士弥さんの解説によると、富樫氏の本拠地であった、石川県野々市町の町起こし運動に作者が協力して書いた作品とのことである。そのせいか、作者の土地に対する愛着と主人公に対する温かい眼差しが感じられる。 北辰は、北極星に北斗七星を象ったもので、紋印としては八曜星になる。化して妙見大菩薩となり、古来、武人に信仰されてきた。北辰一刀流の千葉周作が有名。加賀富樫氏の元祖、藤原利仁は、北辰の生まれ変わりとされ、その由緒にちなみ、富樫氏の紋印となっている。 この作品では、朝倉敏景や伊勢新九郎(のちの北条早雲)も颯爽と登場し、新しい戦国の世の到来を感じさせて面白い。 戸部新十郎さんの作品が面白い、というのは、ゲストブックで聞いていたのですが、評判に違わず、好かったです。今度は剣豪ものを読んでみようと思います。
◆主な登場人物 物語●足利八代将軍・義政の勘気にふれ、加賀北半国を召し上げられた富樫成春(とがしなりはる)の子・鶴童丸は、守護として新たに入国する赤松勢に果敢に立ち向かったが惨敗してしまう。研鑚を積むために京に出た富樫鶴童丸は、洛東粟田郷の宗丹と名乗る商人の家で暮らすことになる…。 目次■初陣/兵法道/業/はなむけ/白山の鷹/太郎坊/虎口/腕の世/大乱/加賀館/高尾山/初刊本あとがき/解説 石井冨士弥 |
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江戸鬼灯(えどほおずき)
★★★★☆
![]() カバーイラスト:皆川幸輝 カバーデザイン:宮浩行 解説:野口武彦 時代:文化元年 場所:下谷御徒町、霊岸島東湊町、本所相生町、花川戸、馬喰町二丁目、新寺町、船橋 (廣済堂文庫・543円・98/03/01第1刷・271P) 購入日:98/02/27 読破日:98/07/26 |
♪柳亭種彦というと、「偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)」で知られる戯作者である。ということぐらいしか基礎知識がないまま、読み始める。一筋縄ではいかない登場人物たちとのかかわりを通して、この人気作家の若き日の姿が活写されていて面白かった。 ちらっと登場する、立川談洲楼や式亭三馬が中心になって催されていた当時の「咄の会」=江戸時代の落語の会の様子が興味深かった。 主人公のペンネームの柳亭種彦(りゅうていたねひこ)の柳亭は、彦四郎が幼いころ癇癖が強く、気に食わないことがあるとすぐ暴れたために、父が心配して「風に天窓はられて睡る柳かな」という句を作って彦四郎を諭したことから、柳の文字を戒めとして身を慎むために柳亭の号を選んだということである。また、狂歌のときの狂名・心種俊(こころのたねとし)から種をとって種の彦である。 狂歌師や戯作者の号の由来は、シャレで付けられているものが多い。立川談洲楼(たてかわだんじゅうろう)の名は、自宅(本所相生町)の近くの竪川(たてかわ)と、団十郎の親友であるところから付けられている。したがって、落語家の立川談志さんは、たちかわではなく、(たてかわだんし)となるわけだ。一方、山東京伝(さんとうきょうでん)の京伝の号は、銀座一丁目の京橋際に住み、屋号を京屋といい煙草入れや煙管を売っていたので、京屋伝蔵(通称は岩瀬伝蔵で、深川木場の質屋の息子)を詰めて京伝というのである。
◆主な登場人物 物語●高屋彦四郎は、二百俵どりの小身ながら直参旗本だった。 文化元年、二十二歳の彦四郎は、小普請組で、知行地も代々の家来もなく、出世をする気もなく、狂歌や戯作の勉強会に盛んに参加していた…。何かを書き、板木に刷って世に問いたいという気持ちが年を追って強くなり、狂歌、狂文、随筆、考証のたぐいで、高屋彦四郎ありと、世に訴えたいのだった。 目次■第一話 豆彦入水/第二話 種彦出世/第三話 枇杷葉湯/第四話 六狂和睦/第五話 雨下投扇/第六話 浜歌舞伎/解説 野口武彦 |
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伊勢奉行八人衆
★★★☆☆
![]() 装画・本文挿絵:堂昌一 装幀:菊地信義 時代:寛永十一年〜慶応四年 場所:伊勢 (PHP研究所・1,165円・96/10/17第1刷・214P) 購入日:98/06/13 読破日:98/07/25 |
♪かつて、八代将軍吉宗の懐刀の大岡越前守忠相のプロフィールを見ていたら、山田奉行と言う記述があり、不審に思ったことがあった。まず、山田というのが伊勢神宮のある伊勢・山田のことを指すのがわからず、その後は、なぜ伊勢神宮を奉行を配して監督しなければならないのかがまたわからなかった。 その後、いろいろ本を読んでいくうちに、伊勢まいりというのが、当時もっともポピュラーな旅行形態であり、年間五百万人(当時の日本の人口から考えると大変な数だ)の参拝者があったこともあると聞き、これは軽視できないぞ、という感じになった。しかし、その割に、伊勢奉行を主人公とした作品にとんと出会わなかった。長崎奉行とかに比べると、異国人や抜けに、薩摩藩の暗躍などといった、ダイナミックな要素に乏しいせいだろうか。 もともと、ここに収録された作品は、伊勢志摩のタウン誌の連載用に書かれたらしい。そんな事情でもないと題材として注目されにくかったのかもしれない。宮部みゆきさんの「平成お徒歩日記」にも書かれているが、若い人には志摩スペイン村の方が有名かもしれない。いずれにしろ、佐江さんに作品の執筆を依頼したタウン誌の編集者は偉い。 表紙の堂さんの絵を見ていたら、どうしても、大岡越前役者の加藤剛さんを思い出してしまう。 各話に登場する伊勢奉行たちは、以下のとおりだ。 「家光上洛」(寛永十一年)七代奉行・花房志摩守幸次 「遷宮の太刀」(寛文九年)十代奉行・桑山丹後守貞政 「間の山心中」(正徳三年)十八代奉行・大岡能登守忠相 「悪奉行貞居」(安永元年)二十七代奉行・松田河内守貞居 「真説油屋騒動」(寛政八年)三十代奉行・堀田土佐守正貴 「悪風を切る」(文化三年)三十二代奉行・小林筑後守正秘 「犬の抜けまいり」(文政十三年)三十六代奉行・牧野長門守成文 「最後の奉行」(文久三年)四十八代奉行・本多伊予守忠貫 物語●伊勢山田奉行は、伊勢奉行または山田奉行ともいうが、慶長八年に徳川家康によって創設されて以来、慶応四年(明治元年)に廃止されるまで、四十八代四十八名が奉行職についた。遠国奉行としてなぜ、徳川幕府は、伊勢奉行を置いたのか? その意図は、本書の8つの話から窺い知ることができる。 目次■家光上洛|遷宮の太刀|間の山心中|悪奉行貞居|真説油屋騒動|悪風を切る|犬の抜けまいり|最後の奉行|あとがき |
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紅塵(こうじん)
★★★★☆
![]() カバーイラスト:伊丹シナ子 カバーデザイン:中原達治 解説:土山文子 時代:宋の紹興二十五年(1155) 場所:杭州臨安府、開封、燕京、成都 (ノン・ポシェット・562円・98/07/20第1刷・320P) 購入日:98/07/18 読破日:98/07/24 |
♪「銀河英雄伝説」などのスペクタクルロマンでベストセラー作家としての地位を築いている、田中芳樹さんの中国もの。期待に違わず、雰囲気のある歴史ロマンになっている。伊さんの切り絵風の(宮田雅之さんを髣髴させる)のイラストが多数収録されていて、作品のビジュアルなイメージをよく伝えてくれていていい。 しかも時代的には、先日、読んだばかりの「耶律楚材」(陳舜臣著)より一世代前の、南宋が舞台になっているので、興味深く読めた。「水滸伝」のちょっと後の時代になるらしいのだが、この中国古典の名作を読んでいないので、基礎知識がなく苦手な時代でもあった。華麗なヒロインが出てこないのがちょっと残念、というと欲張り過ぎかな。華麗なヒロインが出てこないのがちょっと残念、というと欲張り過ぎかな。 黄塵は、黄河流域で、西北からの強風が大地の表面から土を舞い上げ、草を吹きちぎり、あたり一面を黄色く染めるものである。高橋義夫さんの作品に「黄塵日記」という歴史ミステリーがあった。本書のタイトルの「紅塵(こうじん)」は、乾いた地表の表面から幾億幾兆のこまかい塵が宙高く舞い上がって、落日の光を乱反射させて、深紅の円盤になって沈んでいったものをさす。また、紅塵は騒がしい世のことをいう。
◆主な登場人物
物語●南宋の権力を一手に握っていた秦檜が死んだことから、歴史が動き出した…。 目次■第一章 江南冬雨/第二章 密命/第三章 黄天蕩/第四章 渡河/第五章 燕京悲歌/第六章 趙王府/第七章 莫須有/第八章 前夜/第九章 采石磯/第十章 長江無尽/解説 土山文子 |
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花くらべ
★★★★☆☆
![]() 装画:音部訓子 装丁:土井洋子 時代と場所:徳川宗春時代の尾張 (海越出版社・1,500円・98/04/23第1刷・222P) 購入日:98/06/13 読破日:98/07/20 [絶版] |
♪短編6編と中編「花影」を収録した、著者初の時代小説。恋愛小説家らしく、女性を主人公とした新感覚の市井ものに仕上がっている。版元の海越出版社は、名古屋の出版社ということで、東京の書店ではあまり見かけないのだが、もっと置いて欲しいと思う。 けちんぼ将軍・吉宗時代に、一人でバブル経済をプロデュースした、尾張家七代目の宗春。その時代の尾張(名古屋)を舞台にしたということで、とても興味深く読めた。江戸でもなく、京・大坂でもなく、かといってまったくの田舎でもない尾張名古屋。バブルに沸く町の雰囲気や人が巧く描かれてる。またそれぞれの話の主人公の女たちが、女性作家ならではの視点で捉えられていて面白かった。 物語●「花咲か」はなさきは、京から尾張の廓に移ってきた遊女だった…。「角の紅」おさよは、母に代って小間物を商う小店の店番をしていた…。「葉桜」おみねは、夫が亡くなってから二ヵ月がたつが、毎日ため息ばかりついていた…。「徒花」桔梗屋のおれんは、わがままいっぱいに育ったせいで、評判が悪かった…。「此岸の花」おうめは、もう何十年も呑み屋をやっていた。その店は通称の「婆さの呑み屋」のほかに「松寿庵」という大層な名前をもっていた…。「此の花咲くや」三浦屋のことぶきともんじ屋のこのはなは、尾張名古屋で一番の美女を争っていた…。「花影」武家の娘・秋江のもとに商家から縁談が舞い込んだ…。 目次■花咲か|角の紅|葉桜|徒花|此岸の花|此の花咲くや|花影|あとがき |
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いだ天百里
★★★☆☆
![]() カバーイラスト:藤原ヨウコウ カバーデザイン:原田幸生 解説:長谷部史親 時代:慶長十二年三月 場所:伊豆国天城峠、信濃・仙丈ヶ岳、大和国生駒山、白良浜、京、東海道ほか (廣済堂文庫・543円・97/08/01第1刷・96/08/20第42刷・303P) 購入日:97/08/15 読破日:98/07/19 |
♪我ながら、ここのところ、読む本のラインナップが無茶苦茶だと思う。一人の作家に偏らないように注意をしていたが、それにしても、時代といいテーマといい、一貫性がないというか支離滅裂というか、いやはや。 一連の忍法帖の前に、発表された伝奇小説。そのためか、ストーリーは山田風太郎さんならではの自由奔放なものだが、ややエロ・グロ度が高くなっている。 徳川隠密と地雷火による江戸城爆破をもくろむ真田幸村一党。その争いに巻き込まれる、山の民・撫衆の争いを中心に、怪人大久保長安や大坂の淀殿調伏を企てる山伏、隠れ切支丹、はぐれ撫衆、女歌舞伎の阿国一座などが登場するなど、無茶苦茶なストーリー展開が楽しめる。 阿国の情人といわれる名古屋山三郎に、興味を持った。蒲生氏郷の寵童ともいわれ、歌舞伎の女形の創始者ともいわれている稀代の才人らしい。この人を主役とした時代小説が読みたい。
◆主な登場人物 物語●金山総奉行の大久保長安は、伊豆国天城峠で、南蛮渡来の遠眼鏡を通して、不思議なものを見た。若い女・お狩が野生の猪と闘って殺したのだった。彼女は、撫衆(なでし)と呼ばれる剽悍な山の民だった。退屈を感じていた長安の愛妾のお扇は、お狩を生け捕りにして、猪との組討ちを所望した…。 目次■死の谷の巻/狂天狗の巻/六連銭の巻/地雷火の巻/地獄蔵の巻/解説 長谷部史親 |
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平成お徒歩(かち)日記
エッセイ(紀行文)
![]() 表紙:松本哉(本文地図も) 装幀:新潮社装幀室 写真:田村邦男/土居誉 場所:忠臣蔵凱旋ルート、引廻しルート、箱根、江戸城一周、八丈島、深川、善光寺、伊勢神宮ほか (新潮社・1,500円・98/06/30第1刷・96/08/20第42刷・247P) 購入日:98/07/12 読破日:98/07/18 |
♪宮部みゆきさんってサービス精神旺盛というか、読者思いというか。こういう人って、応援したくなる。推理小説家にして、時代小説も書かれる宮部さん、この手のものを書かせたらやっぱり、面白い。企画の勝利でしょう。でも、小説以外の単行本が初めてというのは少し意外だった。 半透明のハードビニールのカバーの装幀も目新しくて、その特徴を生かした帯がわりのコピー分も新潮社らしい、少しヒネリが利いた名文だ。いつも思うのだが、新潮文庫の表4(裏のカバー)の作品紹介のコピーは簡潔にして魅力を最大限に伝える文章だと思う。読書録を書くときにこんな風に書けたらいいなと、参考にしてもらっている。やはり専門のライターがいるのかな。 ちなみのこの本では、抽選で100名様に「本所深川ふしぎ草紙」をプレゼントする、宮部みゆきさんの「あるもの」クイズをやっているので、ファンの方は、お早めにどうぞ。98年7月31日(消印有効)
読みどころ●いにしえの大江戸を探訪する紀行エッセイ。筆者の初の小説以外の単行本。カバー(このコピーがよくできているので、勝手に引用させてもらうと)によると、 目次■前口上/其ノ壱 真夏の忠臣蔵/其ノ弐 罪人は季節を選べぬ引廻し/其ノ参 関所破りで七曲り/其ノ四 桜田門は遠かった/其ノ伍 流人暮らしでアロハオエ/其ノ六 七不思議で七転八倒/其の七 神仏混淆で大団円/剣客商売「浮沈」の深川を歩く/いかがわしくも愛しい町、深川/あとがき |
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江戸名物からす堂(三)
★★★★☆
![]() 装画:国貞(静嘉堂文庫提供) 装丁:玉井ヒロテル 解説:江戸おもしろ事典・瓦版 松永義弘 時代:特定されず 場所:小柳町、八辻ガ原、浜町、馬喰町、柳橋、今戸ほか ほか (春陽文庫・695円・78/12/20第1刷・96/08/20第42刷・450P) 購入日:97/09/06 読破日:98/07/18 |
♪このシリーズを読みと何ともハッピーな気分にさせられる。お紺とからす堂が結婚してからもお互いに愛情をもって尊敬しあっているのが作品から伝わってくるからかもしれない。また、からす堂は剣の名手であり強いのだが、活人剣で悪人をあまり傷つけないのがそういう印象を与えるのかもしれない。 からす堂の武器は、その観察力、推理力、舌力である。観相を生業にしている(見料は十六文で、実際には取らないことが多い)ために、相手の顔をよく見る。体調が悪いときに顔にでるように、悩みや事情があるときも顔に現れるらしい。時折見せる銭占いはこじつけっぽい所もあるが…。 このシリーズの本巻の見物は、前作から登場の妖婦・白狐のお鶴の活躍ぶり。また、からす堂に二ノ宮豊作という弟子ができたりして、また新しい展開があった。
◆主な登場人物 物語●「春の竜」高祖頭巾の女が仕えている奥方の夢判断をしてもらいに、からす堂を訪れる…。「女の値打ち」からす堂のもとに、鴻ノ巣から男が縁談について見てもらいに夜旅をしてやってきた…。「御存知からす堂」ふとしたことから、からす堂は田舎出の若い浪人者・二ノ宮豊作を弟子にすることになる…。 目次■江戸姿からす堂(第一話 春の竜/第二話 女の値打ち)|御存知からす堂 |
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岡っ引無宿
★★★★
![]() カバーイラスト:蓬田やすひろ 解説:細谷正充 時代:特定されず 場所:浅草抹香橋、芝口三丁目、四谷塩町一丁目、日野、音羽町二丁目、橋場、今戸橋ほか (光文社文庫・476円・98/01/20第1刷・264P) 購入日:98/01/25 読破日:98/07/16 |
♪蓬田さんの装画に惹かれて購入する。今まで、「ゆっくり雨太郎捕物控」が面白いという話は聞いていたが、エロチックなイメージがあって、多岐川さんの作品は敬遠していた。本作品は連作形式の捕物帳ということで、とっつきやすそうなので、読んでみることにした。読んでみて認識が変わった。巧いというか、手慣れているというか、職人的で、この作品を読んだ印象は笹沢左保さんの作品に似ている。 各話の起こり(始まり)が巧いのですぐ引き込まれてしまう。主人公の渡り者の岡っ引・半太の設定がユニーク。読む前は渡世人の親分が二束のわらじで岡っ引をしているのかと思っていたが。いろいろな親分の下で働くということで、主人公と犯人の関係だけでなく、主人公と親分(とその身内)の関係も楽しめる。 「濡れた心」で第四回江戸川乱歩賞を受賞したように、その謎やトリックを解決する推理の面でもヒネリが利いている。多岐川さんの他の作品を読むのが楽しみになった。 物語●「女の上に猿がいた」浅草の権田原の草むらで若い女が殺されていた。死体の上には一匹の子猿が乗っていた…。「朱唇の怨み」若い男が胸や下半身をメッタ刺しにされ死んでいた。左の腕には歯形と鮮やかな紅がついていた…。「なまくら刀が譲られた」半太は、若い男に突き当たられて倒れた浪人者を助けた…。「旅の半太」甲州街道を旅して、玉川のほとりでわらじを脱いで休んでいた半太は、三人の渡世人に襲われた…。「降り止んだ雪」半太のなじみの女が殺された。犯行現場を訪れた半太は、容疑者として捕らえられる…。「今戸橋のほとり」打ち捨てられた猪牙船のなかで、人が殺されていた…。 目次■第一話 女の上に猿がいた|第二話 朱唇の怨み|第三話 なまくら刀が譲られた|第四話 旅の半太|第五話 降り止んだ雪|第六話 今戸橋のほとり|解説 細谷正充 |
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耶律楚材(やりつそざい) 上 草原の夢|下 無絃の曲
★★★★☆
![]() 装画:年画(中国清時代) AD:菊地信義 解説:稲畑耕一郎 時代:中国・金の明昌元年(1190)年 場所:中国・燕京、開州、オルホン河近くの草原、サマルカンド、カラコルムほか (集英社文庫・各514円・各97/05/25第1刷、98/06/10第6刷・上330P、下328P) 購入日:98/07/05 読破日:98/07/14 |
♪短絡的なのだが、夏といえば北の草原=モンゴルというわけで、チンギス・ハン時代をテーマにした、陳舜臣さんの本書を読んでみようと思った。というのは、口実で実はヒロスエ(広末涼子さん)の「ナツイチ」バッジが欲しかったから。夏休み目前というせいか各出版社で名作フェアを展開しているが、今回は集英社文庫のキャンペーンと新潮文庫の「Yonda」キーホルダーが良かった。ただ気になるのは、各社の対象文庫に時代・歴史小説が少ない点だ。まぁ、もともとティーン向けに始めたものだからしょうがないか。 今でこそ、宮城谷昌光さんをはじめ、藤水名子さん、狩野あざみさん、井上祐美子さん、田中芳樹さん、酒見賢一さんら中国ものを書かれる作家が増えたが、以前は陳さんのほかには伴野朗さんぐらいが活躍されていた。そんなわけで、時おり中国ものが読みたくなると、陳さんの作品のお世話になっていた。 久々の中国もの、しかも金やモンゴルが舞台ということで、地名や人物に慣れるのにちょっと苦労した。征服王朝のせいか、世界史でもサラッとしか習わなかった気がする。本作の主人公・耶律素材についても、中国史上でも重要なパーソンなのだが、初めて知った。ポジション的には諸葛孔明と並び称される人物だが、その半生は感動的であり、新鮮だった。夏にふさわしい清涼感あふれる一冊(上下巻だから二冊というべきか)だ。
◆主な登場人物 物語●「外国で用いられる人材」という意味を込めて名付けられた楚材。長じて儒学と仏教の教えと、詩、天文を修めて、北の草原から押し寄せる圧倒的な力から人命と文明を守る志を得る。28歳のときに、チンギス・ハンより召され、遥かサマルカンドへいたる征西に従うことになる…。 目次■楚材誕生/蹄の音/究薬堂の客/胡沙虎の乱/同楽園漁藻池/南遷前夜/絶粒六十日/覇者西遷/落日飛鴻/ウルツサハリ/征途遥かなり/滄海横流/ホラズム蹂躪/断蓬/仇敵として別れる(以上上巻)|チンギス・ハンの死/燕京蘇生/クリルタイ開かる/鳳翔にて/鮮血湯/カラコルム往還/あとにつづく者/オルホン河のほとり/勝利の宴/大ハンの死/吾山に帰らん/追記/あとがき/解説 稲畑耕一郎(以上下巻) |
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風炎の海
★★★★☆☆
![]() 装画:宮城音蔵<銹びる>船 装幀:松本泰行 時代:文化十年(1813)年 場所:伊豆・子浦、太平洋、ノバスコシア、ロングビュー、アラスカ・シトカほか (実業之日本社・1,600円・98/06/25第1刷・310P) 購入日:98/06/28 読破日:98/07/11 |
♪「海の日」が近づいたせいか、無性に海洋ものを読みたくなった。実にタイムリーなことに二宮隆雄さんの新作が刊行された。タイトルの「風炎」とは、フェーン現象のことらしい。 この本の主人公の重吉は、漂流を機会に西欧の文化・魂に触れることになるが、外国人たちとの心温まる交流が感動的。本当の意味で、日本人の国際人の第一号かもしれない。当時としては珍しい、彼の漂流時代の前向きでタフな言動が物語を盛り上げている。 船頭重吉は作者の郷里の英雄でもあり、作者の史観を仮託する人物でもあった。 重吉は涙をぬぐった。徳川幕府は大船の建造を禁じ、あまつさえ甲板を水密に張ることを許さず、危険な一本帆柱での航海を強いてきた。そのためにどれだけの船乗りが難船し、海の藻屑と消えたことか……。 だが重吉の怒りはそのことよりも、いまは広い世界に目を向けない徳川幕府への怒りに変わっていた。百姓が苦労して作った米を居食いして威張りちらし、小さいときから学問をつづけた侍ならば、せめて自分が住む地球のことくらい、わかっていてもよさそうである。 <だがあやつらはしょせん穀つぶしなんじゃ……>(p.214) 何やら現在の日本のようでもあり、辛い。
◆主な登場人物 物語●文化十年十月、尾張・半田村の船頭重吉は、千石船・督乗丸で出港したが、遠州灘で嵐に見舞われる…。当時の徳川幕府は、船乗りを自由に海外に雄飛させないために鎖国して、「帆柱は一本であること」「甲板の水密はならず」という勝手な幕法を船乗りに押しつけた。一本帆柱には一枚の大きな帆しか張れない。風が強くなれば大きな帆は危険である。水密でない千石船の甲板は、大海に浮かべた盥と同じである。そのため、船乗りたちは危険な航海を強いられて海難事故は続出したのだ。 目次■第一章 漂流/第二章 ピケット船長/第三章 カムチャッカ/第四章 帰国/第五章 尾張国 |
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鬼九郎鬼草子
★★★☆☆☆
![]() カバー装画:不二本蒼生 デザイン:新潮社装幀室 解説:末國善己 時代:寛永二十年 場所:上野寛永寺、両国。会津ほか (新潮文庫・590円・98/07/01第1刷・415P) 購入日:98/07/02 読破日:98/07/09 |
♪読んでいる間中ずっと、不思議なデジャヴー(既読感)に襲われた。ハードカバーのときに一度読んだのかな?(刊行当時は、今のように読書録のようなものを残していなかった)いや、そんな筈はないのだが…。第一作と混同しているのかな? 第一作は、2回読んでいるんだが…。山田風太郎さんの「柳生忍法帖」と舞台設定が同じせいかな? ウーン、わからない。 幡随院長兵衛や天竺徳兵衛、柳生十兵衛ら主役級の登場人物たちが縦横無尽に活躍する痛快娯楽時代活劇。登場人物たちが有名人といっても、この作品は第二部に当たるわけだから、少しは、前作の経過説明が欲しいところ。多分、いきなりこの本から読む読者もいるのだから。ちなみに前作の「舫鬼九郎」は、こうした有名人たちの顔見せ興行的な作品だった。 本書の解説を、朝日新聞夕刊で時代小説のおすすめ本を紹介している末國善己さんが務めている。文庫本での解説は初登場ではないだろうか? わかりやすくて適切な解説でありがたい。
◆主な登場人物 物語●幡随院長兵衛、唐犬権兵衛、天竺徳兵衛の3人は、宿敵・左甚五郎が両国の香具師・夢の市兵衛と手を組んで何やら企んでいるらしいことを掴む…。その夜、長兵衛の家が、何者から火攻めにあい、寝ていた長兵衛、権兵衛らは襲われてしまう…。 目次■解纜/錯綜/破砕/疑心/魔殿/虚実/陰鬼/解説 末國善己 |
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密使・光琳 百万両申し受け候
★★★☆☆
![]() 装画:尾形光琳筆「燕子花図屏風」左隻(根津美術館蔵) 装幀:多田和博 時代:宝永元年(1704) 場所:京・中町藪内町。江戸・銀座役所、十万坪、向島須崎町。三浦三崎ほか (PHP研究所・1,500円・98/06/25第1刷・242P) 購入日:98/06/27 読破日:98/07/07 |
♪尾形光琳を主人公に描いた作品というと、第1回時代小説大賞を受賞した「雁金屋草紙」(鳥越碧著・講談社)が思い出される。しかし、この作品は、一度は講談社文庫から発刊されながらも、現在絶版となっているために、入手困難である。実に残念。何とかならないものでしょうか。 「雁金屋草紙」の方は、光琳と弟の乾山を軸に描いた作品らしいが、本作には、乾山は出てこない。その代わりに、紀伊国屋文左衛門や其角ら、元禄期後半の有名人が登場する。こうしたキャラクターを配しながら芸道ものではなく、経済ネタがらみの伝奇小説となっているのも面白い。
◆主な登場人物 物語●絵師・尾形光琳は、出入り先に二条家の当主綱平から、天皇の綸旨を託されて、江戸行きを命じられる。「手渡す相手はおらん。伝えるものもない。ただただ身につけて江戸へ出るだけ、それだけでええのや」と不思議な指令であり、しかも江戸へ行くことが儲け話であるという。しかも託された綸旨は七十五年前の後水尾天皇のものだという…。 目次■顔/大黒天図/放浪の絵師/贋金造り/帰洛/旅宿の境涯/其角憤死/灰が降る/三崎篝屋/余滴 |
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捨て童子・松平忠輝 上・中・下
★★★★☆☆ [再読]
![]() カバー写真:大坂夏の陣図屏風(部分)・大阪城天守閣蔵 カバーデザイン:永原康史 解説:縄田一男 時代:慶長三年。 場所:鬼怒川、江戸城、浅草、大坂城、川中島、越後高田、駿府、八王子 ほか (講談社文庫・563、563、524円・上92/11/15第1刷・97/10/31第14刷、中92/11/15第1刷・98/01/09第14刷、下92/11/15第1刷・98/01/09第14刷・上345P、中357P、下331P) 購入日:98/02/03 読破日:98/07/04 |
♪久しぶりに「忠輝」を読んだ。ぼくにとって、元気を出したいときに読む本の筆頭にある本だ。忠輝は、徳川の御曹司にして、九十歳以上まで生きがら、歴史上ほとんどその功績が残っていない謎の人物である。しかし、この隆さんの作品の中の彼は颯爽としている。超人的な能力を持ち、性格的にも好ましく、多くの人から愛され、その言動は快い。たとえば、忠輝が傀儡子の娘・雪と出会うシーン(上巻・P179)ただ、このような美点は、実は政治の舞台では無用のものであり、為政者には邪魔なものらしい。また、忠輝は、剣術(家康と同じ奥山流)や体術に優れているばかりでなく、語学の天才であり、国際的な視野を持ち、現代人のようなものの考え方も見せる、きわめてユニークなキャラクターとして描かれていて、隆さんの作品に共通する独自の史観とあいまって、新しい時代小説の創出を印象づけている。 タイトルにある「捨て童子」とは、捨て子というよりは、この世のものならぬ異形のもののことを指す。酒呑童子(しゅてんどうじ)の名は、もともと「捨て童子」が訛ったものらしい。
◆主な登場人物
物語●徳川家康の第六子として生まれながら、容貌怪異なために、生まれ落ちてすぐ家康に「捨てよ」といわれた“鬼っ子”松平忠輝の異形の生涯を描く伝奇ロマンの傑作。 目次■序章/鬼子/川中島/麒麟/紛争(以上上巻)|高田城/和解工作/越後/禁制/決起/遣欧使節(一)(以上下巻)|遣欧使節(二)/忠隣始末/その前夜/決断/旅立ち/執筆を終えて/隆慶一郎の人と作品 縄田一男/付記 縄田一男(以上下巻) |