新・極楽の読書録
1998年6月・水無月の巻

陰陽師 付喪神ノ巻 by 夢枕獏
千石船風涛録 by 二宮隆雄
風狂活法杖 by 佐江衆一
閉じられた海図 by 古川薫
江戸星月夜 by 海野弘
北の黙示録 by 南原幹雄
終りみだれぬ by 東郷隆
風塵 by 池宮彰一郎
爆弾可楽 by 杉本章子


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

爆弾可楽

★★★★☆
著者:杉本章子


カバー:蓬田やすひろ
解説:吉田伸之(東京大学文学部助教授)
時代:「爆弾可楽」明治二年。「ふらふら遊三」慶応四年。 場所:「爆弾可楽」下平右衛門町。「ふらふら遊三」上野。檜物町。函館 (文春文庫・408円・1993/09/10第1刷・263P)
購入日:97/02/05
読破日:98/06/20

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小田部さんの「葛飾瓦版」を見せていただいたせいか、落語に少しだけ興味を持ちはじめたところである。落語家が登場する作品というと、村松友視さんの「灰左様なら」の林屋正蔵や「警視庁草紙」(山田風太郎著)の三遊亭円朝を思い出すが、十八番の咄も織り込みながらというと、本作品がいちばんである。作者の特徴は、綿密な資料調査のもとに一節一句が書き込まれていくことにあるが、この作品でもその良さがいかんなく発揮されていて門外漢も引き込まれてしまう。「野ざらし」の下げ(オチ)の意味もようやくわかった。
「爆弾可楽」の、実在の噺家の真打が爆弾犯だったという話にはびっくりした。読みはじめるまでは、タイトルの意味がわからなかったのだが、そのものズバリとは。可楽と弟子たち、師匠武生との関係がいささか感動的だった。
「ふらふら遊三」の主人公が、落語の登場人物そのままのような性格というのがペーソスあふれていて可笑しい。意外な有名人が登場するのも見逃せない。

物語●「爆弾可楽」三笑亭可楽は、久しぶりに東京に戻ってきて、自分の人相書が張り出されているのを見た…。「ふらふら遊三」徳川御家人の小島長重は同僚の松井平十郎とともに、彰義隊に入り、上野の山にいた…。

目次■爆弾可楽|ふらふら遊三|解説 吉田伸之

風塵

★★★★☆
著者:池宮彰一郎


カバーデザイン:菊地信義
解説:縄田一男
時代:「九思の剣」寛延元年。「無明長夜の剣」天文二十一年。「聞多と灘亀」と「禍福の海」文久三年。「風塵」慶長五年。 場所:「九思の剣」上州厩橋、姫路。「無明長夜の剣」京。「聞多と灘亀」別府。「禍福の海」マラッカ海峡。 (講談社文庫・514円・1998/05/15第1刷・255P)
購入日:98/05/13
読破日:98/06/20

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メッセージボードで、TATUさんがおすすめの一冊。
「論語」といえば、サッカーの中田選手の愛読書らしいが、どういう読み方をしているのかなあ。「九思の剣」の「九思」とは、孔子の「論語」の中の言葉である。この作品の主人公の川合勘解由左衛門は、「凍って寒からず」(寺林峻著・東洋経済新社)の主人公河合道臣の祖父にあたる。勘解由左衛門のとった行動は、現代人の眼から見ると、理解しがたいことであるが、ひとつの武士の生き方を示している。緊張感のあふれる作品である。「清貧の福」は、別の武士の一面を描いていて、なかなかシニカルである。「無明長夜の剣」の将軍義輝が魅力的であり、宮本昌孝さんの「剣豪・将軍義輝」が読みたくなった。「聞多と灘亀」と「禍福の海」は、長篇「高杉晋作」の番外編的な作品。井上聞多(馨)というと、明治になってからの悪役ぶりが印象強かったが、この2編で憎みきれない一面が見れた。表題作「風塵」では、田丸直昌(美濃岩村城主)、氏家行広(桑名城主)、伊藤彦兵衛(大垣城主)の小大名を通して、関ケ原の戦いを描いている。徳川家康の小心者ぶりが面白かった。

物語●「九思の剣」上州厩橋の酒井家家老で勘定方の川合勘解由左衛門は、筆頭家老に約定を守ってもらうように、申し入れたが…。「清貧の福」東北の黒石藩普請方の下級藩士・三杉敬助は、家老から褒美をもらったことから事件が…。「無明長夜の剣」塚原卜伝は、足利将軍義輝に、「一の太刀」の披露を求められる…。「聞多と灘亀」井上聞多は、攘夷過激派に命を狙われ藩外逃亡をすることになり、別府に向かった…。「禍福の海」井上聞多と伊藤俊輔は、インド洋上を航海する風帆船の上にいた…。「風塵」関ケ原の戦いを目前に三人の小大名がとった対応とは…。

目次■九思の剣|清貧の福―「西鶴諸国咄」より―|無明長夜の剣|聞多と灘亀|禍福の海|風塵|解説 縄田一男

終りみだれぬ

★★★★
著者:東郷隆


カバーデザイン:木本百子
解説:高橋直樹
時代:「絵師合戦」治承四年(1180)。「開眼」貞応二年(1223)。「鼓」寿永二年(1183)。「熊谷往生」貞応三年
場所:「絵師合戦」伊豆。「開眼」奈良。「鼓」京。「熊谷往生」熊谷、村岡。
(文春文庫・486円・1998/06/10第1刷・265P)
購入日:98/06/12
読破日:98/06/17

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源平期を扱った作品は少ないので、この作品集は貴重だ。しかも、ストレートに有名武将を描くのではなく、脇役にスポットを当てることで、源頼朝、木曽義仲、後白河院、熊谷直実らの実像が垣間見れる。
東大寺の南大門の仁王像で有名な運慶と快慶。双生児のようなペアのイメージをもっていたが、「開眼」によれば対等の関係ではなく仲もいいわけではないようである。また、運慶が仏像造りのヒントを掴むというエピソードは、同じ作者の「人造記」を連想させる。
「鼓」に描かれている木曽義仲も従来の固定観念を壊すもので面白かった。教科書や名作などで、作り上げられた歴史上の事件や人物像が壊され、再構築されるのは、やはり、歴史・時代小説の醍醐味である。

物語●「絵師合戦」絵師の大和判官藤原邦通は、伊豆に流人として流されたが、白拍子の三郎君に養われて勝手気ままに暮らしていた…。「開眼」仏師の運慶は、南都七大寺詣でを言い出して、弟子たちを困らせた…。「鼓」博打打ちの親分・四郎法師は、鼓の名手の弟より手紙を受け取った…。「熊谷往生」熊谷の近くの村岡に、熊谷直実所縁のものらしい、余命わずかな旅の聖が現れた…。

目次■絵師合戦|開眼|鼓|熊谷往生|あとがき|解説 高橋直樹

北の黙示録

★★★☆☆☆
著者:南原幹雄


カバーデザイン:百鬼丸
解説:菊池仁
時代:寛政四年(1792)年
場所:仙台。駿河台稲荷小路、仙台河岸。大坂曽根崎。浜御殿、千住ほか。
(青樹社文庫・854円・1996/05/10第1刷・605P)
購入日:98/04/29
読破日:98/06/15

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オロシアの船の到来をきっかけによみがえった、伊達藩の野望。それに立ち向かう中町奉行。天下を揺るがす壮絶な闘いを600ページにわたって描く、南原さんらしいスケールの大きなエンターテインメント活劇。奥州の六藩同盟というシナリオがユニーク。知謀を傾けた脱出劇が面白い。

◆主な登場人物
赤石百次郎:剣道場の主。中町奉行与力
赤石千太郎:百次郎の兄、十年前亡くなる
おなみ:百次郎の兄嫁
遠藤源之助:百次郎の住み込みの弟子
さみだれの伝兵衛:船宿青柳の船頭
お蝶:居酒屋富田屋の女将
常陸屋勘兵衛:伊勢町の米問屋の主。富田屋の常連
浦上弥太郎:旗本小普請三千石
鎌鼬の金次:堺町中村座の表方
夏目新蔵:中町奉行同心
杉村三太夫:中町奉行与力
松平越中守定信:筆頭老中。白河藩主
最上左近義季:伊達藩から二千石の捨扶持をもらう名流の末裔
松之助:左近の若党
蔵王坊:伊達山岳党を率いる蔵王山伏の長
寒河江兵部:伊達藩奉行
片倉小十郎:伊達藩重鎮で白石城主
伊達斉村:仙台藩主
鈴懸主税助:伊達藩奉行(江戸家老)
新庄津太夫:寒河江の腹心
アダム・ラックスマン:オロシア国陸軍中尉

物語●戦国の奥州の武将の末裔・最上左近義季は、伊達家にかかわる秘事を記した巻物で、伊達藩の重鎮片倉小十郎に、一万石を要求した…。
天地一心流の剣道場を構える赤石百次郎は、兄の千太郎が十年前に亡くなって以来、兄嫁のおなみと二人で暮らしていた。赤石には、もう一つ別の役目があった、中町奉行与力としての務めである。その赤石に、浦上弥太郎を通じて老中松平定信より密命が下された…。

目次■エカテリーナ号/仙台城/中町奉行/伊達の要塞/入り鉄砲、出女/仙台河岸/襲撃/手弓/女ごころ/後の月/大年寺山の公子/伊達山岳党/伊達の陰謀/米戦争/浪華の決闘/夜の雨/浜御殿二重櫓/北国の狙撃者/離れ座敷/浮世三斎/江戸大火/佐竹・上杉/千住掃部宿/関所破り/大利根渡り/小山水戸街道/天当船/磐城七浦/白河越え/毘沙門島/ライフル銃/無縁寺/連判状/出陣/鶴ヶ谷/北海の守護神/白河会談/兄弟/爆破行/解説 菊池仁

江戸星月夜(えどほしづきよ)

★★★★
著者:海野弘(うんのひろし)


装画:鈴木春信「夜雨神詣美人」(東京国立博物館所蔵)
(河出書房新社・1700円・1997/03/21第1刷・253P)
購入日:98/06/02
読破日:98/06/08

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収録された作品の一話一話がO・ヘンリーの短篇集(英語の教科書などでよく取り上げられる。「最後の一葉」が有名)を思わせる、ひねりの利いて、ソフィスケイトされた時代小説短編集。資生堂の広報誌に連載されたということで、若い女性を意識して書かれているためである。時代小説の入門書としておすすめの一冊。しかも、各話には、2つずつコラムがついていて、作品の鑑賞の手引きとなっている。
「蜆取り」、「心太売」や「菊作り」など、しみじみとした味わいがある。しかも、江戸の風物を巧みに取り入れていて、季節感もでている。 物語●「異国の王女」常陸の海岸に漂着した、円盤状の船の中に閉じ込められた異国の王女に恋した漁師に物語。「蜆取り」蜆を取りに来た男と武士の交流。「遊女の妻」堺の商人が、集金の帰りにふと立ち寄った宿で一人の遊女に会う。「「幽霊の敵討」湯治に来た武士が、山中で一人の若衆と出会い、その屋敷に招かれた。「火附盗賊改」鬼平の陰に、もう一人の火附盗賊改役がいた。「三味線芸者」その芸者が来ると、一座はいつも陽気になった。「髪結」町で評判の髪結いがいた。「妖怪画家」信州で、妖怪を描き続ける男がいる。「荷い風呂」風呂をかついて、江戸の街を流して歩く男がいた。「足洗い男」吉原に出かけた二人の客が、足洗いの男と会う。「はしご売」弥次郎兵衛と北八の二人組は京でとんでもない買い物をする。「山師」耳で話す男が見せ物小屋に出ていた。「歌道師範」歌の好きな女房が、離縁されそうになり、それを嘆く歌を詠む。「町医師」西洋医学に憧れる若い医師がいた。「ふとんかぶり」名古屋で、邪教がはやっていた。「紙屑買」古紙を買って歩く男が悩んでいた。「大工と猫」江戸に猫好きの大工がいた。「針金売」針金を売り歩く男にはもう一つの仕事があった。「陸尺」駕籠かつぎの人足たちの親方が夢を見た。「心太売」病床の娘が心太売に恋をした。「親孝行」享保の改革以来、親孝行が奨励された。「菊作り」渋谷金王八幡宮に菊作りの名人がいた…。

目次■異国の王女|蜆取り|遊女の妻|幽霊の敵討|火附盗賊改|三味線芸者|髪結|妖怪画家|荷い風呂|足洗い男|はしご売|山師|歌道師範|町医師|ふとんかぶり|紙屑買|大工と猫|針金売|陸尺|心太売|菊作り|親孝行

閉じられた海図

★★★★
著者:古川薫


カバー:安野光雅
解説:山本容朗
時代:天保六年夏
舞台:石見国浜田。
(文春文庫・369円・1992/06/10第1刷・244P)
購入日:97/06/10
読破日:98/06/02

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古川薫さんというと、白石一郎さんとならんで、西国を舞台とした時代小説が多い作家である。とくに長州ものの第一人者である。この作品は、お隣の石見国浜田藩六万石が舞台である。当時の浜田藩主は、老中の松平周防守康任で権力の中枢にあるわけだが、賄賂など政治資金のために、藩の財政が傾いていた、という実状が面白かった。どうも、政治家というと私腹を肥やしている印象が強いのだが…。田沼意次以降の幕府の権力者が執政の座から滑り落ちたときから、不遇の晩年を送っていくのが、何か象徴的な感じがする。
主人公の会津屋八右衛門と橋本三兵衛は、当時の幕府を震撼させた「竹島事件」の当事者である。本書を読むまでは、このような事件があったことをまったく知らなかった。同時期の大事件の「仙石騒動」も描かれていて、なかなか興味深かった。
こんな風に書いていると薄汚い、ドロドロした物語のイメージを与えてしまうかもしれないが、主人公の八右衛門は、海の男らしく筋の通った、爽やかな人物として描かれている。あとがきによれば、浜田では、今でも鎖国の禁を犯して南海に雄飛した八右衛門の事蹟は誇らしげに語られ、顕彰碑が海を見下ろす岩場に立てられているという。

◆主な登場人物
橋本三兵衛:岡田頼母の家臣、陪臣ながら浜田藩の勘定方に勤める
会津屋八右衛門:廻船問屋主人
冴:若松屋の娘で、八右衛門の妻
キク:八右衛門の母
岡田頼母:浜田藩家老
間宮林蔵:幕府隠密
清助:八右衛門の父、会津屋の先代
渡辺崋山:海外知識が豊富な儒学者
松井図書:浜田藩中老
平右衛門:小豆島に住む船乗り
田中織部:元備中岡田藩士の浪人
平助:会清丸の表(おもて、航海士)
伊藤杢之允:下関の廻船問屋
井上河内守正春:寺社奉行
筒井伊賀守政憲:町奉行

物語●天保六年夏。石見国浜田藩の勘定方に勤める橋本三兵衛は、松原湾を見下ろす岩場で、会清丸の帰りを待っていた会津屋八右衛門の妻・冴を見つけた…。
浜田藩主・松平周防守康任(やすとう)は、時の老中だったが、藩の財政は困窮していた。その穴埋めのために、城下の廻船問屋会津屋八右衛門は、鎖国の幕法を犯して、交易に手を染めることになった…。

目次■第一章 日本海を望む城/第二章 蘇鉄屋敷の密謀/第三章 権力抗争/第四章 隠密林蔵/第五章 南十字座の星/第六章 破局/第七章 波涛の夢/あとがき/解説 山本容

風狂活法杖

★★★☆☆
著者:佐江衆一


カバーイラスト:西のぼる
カバーデザイン:池田雄一
解説:縄田一男
時代:弘化二年
舞台:江ノ島、鎌倉。那珂湊、牛堀宿。鳥越、江戸城大奥、中渋谷村。
(徳間文庫・552円・1998/03/15第1刷・349P)
購入日:98/03/04
読破日:98/06/02

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露木進之介は、父と姉を大奥のスキャンダルで亡くし、十七歳で刀を捨て、鎌倉の禅寺へ入った。建長寺の老師・西鏡禅師から杖術を習い、四十年の歳月を要して、対手の生命を奪わない活杖に開眼し、還俗して風来老人と称して、独り身の町人として生きることになった。―この主人公が、還暦の老人ながら、「剣客商売」の秋山小兵衛さんのように強いうえに洒脱でなかなか面白い。
純文学をずっと書いてきた作者の初めての時代小説ということで、徹底的にエンターテインメントに努める姿勢がうれしい。風来老人がいろいろな敵と杖を武器に戦う伝奇小説。敵役もユニークで面白い。

◆主な登場人物
風来老人:江戸の俳諧師。
長浜:大奥の中年寄
志乃:大奥の中臈で、水野忠邦の配下
ふみ:江ノ島の飯盛女
春夢楼主人:阿片党の首領
千葉周作:水戸藩師範役
徳川斉昭:水戸藩藩主
水野忠邦:老中首座
三五郎:「ほ」組の鳶で、風来老人と同じ長屋に住む

物語●風狂の旅に出た風来老人は、江ノ島参篭に向かう、三つ葉葵の将軍家御紋を付けた三丁の女駕籠の行列と、怪しい尾行者を見かけた…。
やがて、様子を探りに出た宿屋の飯盛女が風呂場で襲われ、風来老人は大きな陰謀に巻き込まれることになる…。

目次■風狂弁天変化/風狂花中の鶯/風狂影法師/風狂五月旅/風狂裏長屋/風狂淫乱図絵/風狂火焔陣/解説 縄田一男

千石船風涛録

★★★★☆☆
著者:二宮隆雄(にのみやたかお)


装幀:道信勝彦
時代:文化二年(1805)
舞台:西宮、太平洋、品川
(実業之日本社・1,456円・1996/10/25第1刷・261P)
購入日:98/05/17
読破日:98/06/01

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山神清和さんから「海を感じるベスト10」について、メールをいただき、作者の二宮隆雄さんのことを知った。ありがとうございます。

> いまさらですが海を感じる時代小説ベスト10に異議あり(笑)
> 二宮隆雄氏という現役のヨット競技者兼海洋時代小説家が
> おられますが、これは船の専門家が書いているので、結構
> 面白いとおもうのですが...。 1990年「疾風伝」で小説現代新人
> 賞を受賞しているようです。『江戸の風』(講談社)や『覇王
> の海』(角川書店)、『千石船風濤録』(実業之日本社)、『雑
> 賀孫市』(PHP文庫)などが海を感じさせます。

いうまでもなく、ぼくはマリンスポーツについて門外漢であり、1年に1度、海に行くか行かないかという生活を送っているわけだが、この作品の面白さは十分に堪能できた。さすがに現役のヨット競技者が書くと、その凄みが違う。久々に海を強く感じた。近々ランキングは訂正したいと思う。
江戸時代、江戸の酒は上方からの下りものが高級品とされてきたが、その中でも名高いのが灘の清酒である。この作品はその酒の価値をさらに高めることになる“新酒番船競走”を題材に全編が海洋小説である。とくに、ヨット乗りなければ描けないような迫力ある操船シーンが見ものである。
難点は、二宮さんの作品が入手しにくいことだ。本作品も大手書店をいくつも回ってようやく見つけた。他の作品もぜひ読みたいのだが…。

◆主な登場人物
小金次:千石樽廻船「宝徳丸」の炊(かしき)。塩飽の佐柳島出身
吉蔵:「宝徳丸」の船頭
文次:「宝徳丸」の表(おもて)
四郎丸:「宝徳丸」の若衆頭
弥太:「権現丸」の炊で、小金次の幼なじみ
小西屋亀之助:「権現丸」の船主
卯吉:「権現丸」の船頭
伊佐次:「権現丸」の表
権三:塩飽のはぐれ狼と呼ばれる船頭
市兵衛:船大工の棟梁
力松:「権現丸」の若衆頭
善兵衛:「権現丸」の初老の水主

物語●灘の新酒を満載した千石船を駆って、北西風吹きすさぶ二月の海を、西宮沖から江戸まで駆け走る“新酒番船競走”。その「一番船」の誉れを賭けて江戸へ向かう十四艘の千石船。逞しき船乗りたちが死闘の果てに目指す勝負の行方は!?…。

目次■第一章 新酒番船競走/第二章 塩飽の権三/第三章 海難/第四章 一番船

陰陽師 付喪神ノ巻(おんみょうじ・つくもがみのまき)

★★★☆☆☆
著者:夢枕獏


装画:村上豊
装幀:木本百子
時代:天徳四年(960)
舞台:京。
(文藝春秋・1,238円・1997/11/30第1刷・317P)
購入日:98/01/03
読破日:98/05/31

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陰陽師安倍晴明と貴公子・源博雅が都の闇の巣食う魑魅魍魎に挑むシリーズ第三弾。起承転結がシリーズを重ねるごとにパターン通りにはまり、読んでいて心地いい。また、この巻では、播磨国から現れた蘆屋道満(あしやどうまん)が初めて登場するのがファンにはうれしいところだ。
「ものや思ふと……」の話では、「忍ぶれど色にいでにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで」という平兼盛の歌が重要な意味を持っているが、確かこの歌は小倉百人一首にも入っていると思う。また、この歌は、昔、「赤頭巾ちゃん気をつけて」(庄司薫著・中公文庫)を読んで以来ずっと、ぼくの頭に残っている歌である。それはともかく、言葉には言霊があり、名は呪(しゅ)であるというが、歌もまた呪であるわけで、単なる和歌(散文)と軽視はできないパワーと重要さがあるのである。歌合(うたあわせ)や歌会始めという儀式が意味を持ち、後年公家が和歌を大切に扱ってきたわけが少しわかった。
ようやく、岡野玲子さんの「陰陽師」(スコラ刊、コミック・バーガー連載)をゲットする。評判に違わぬ質の高さ、夢枕さんの原作では、今いちピンと来なかった当時の衣装や小物がきっちり描かれていてイメージがより具現化した。一気に読むのがもったいなくて、一話一話噛み締めるように読んでいる。

物語●「爪仙人」大和の国から京まで、売りを運んでいた下人たちが、都に流行る怪異を話しているのを、源博雅は耳にした…。「鉄輪」貴船神社に丑の刻ごろ、白装束の女が歩いていた…。「這う鬼」やんごとなき筋の女に仕える男が、鴨川の橋のたもとで、被衣姿の女に、主人への届けものとして文箱のようなものを預けられる…。「迷神」源博雅は、安倍晴明と酒を酌み交わして、桜の花びらが落ちるのを眺めていた…。「ものや思ふと……」天徳四年に村上天皇によって内裏歌合が催され、そこで2つの事件が起こった…。「打臥の巫女」藤原道長の父・兼家に、晴明は瓜のことで頼まれたことがあった…。「血吸い女房」梅雨が終わった途端に、晴れの日が続き、雨が降らない日が、30日以上も続き、雨乞いが京の最大の関心事となっていた…。

目次■爪仙人/鉄輪/這う鬼/迷神/ものや思ふと……/打臥の巫女/血吸い女房/あとがき