新・極楽の読書録
1998年5月・皐月の巻

姫路城 凍って寒からず 小説・河合道臣 by 寺林峻
北斗の銃弾 by 宮本昌孝
蘭方医・長崎浩斎 大江戸謎解き帳 by 永井義男
陋巷に在り 3 媚の巻 by 酒見賢一
バサラ将軍 by 安部龍太郎
まん姫様捕物控 by 五味康祐
城のなかの人 by 星新一
北斎あやし絵帖 by 森雅裕
名主の裔 by 杉本章子


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

名主の裔

★★★★☆
著者:杉本章子


カバー:蓬田やすひろ
解説:縄田一男
時代:「名主の裔」嘉永五年。「男の軌跡」文政十三年九月。
舞台:「名主の裔」神田雉子町、小川町、麻布竜土町、佐柄木町。「男の軌跡」谷中三浦坂下、水戸、浅草新堀端。
(文春文庫・369円・1992/05/10第1刷・236P)
購入日:97/02/05
読破日:98/05/28

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名主と聞くと、何やら田舎や農村部の話ように思ってしまう。ところが、本書によると、名主は江戸に二百六十余家もあり、草創(くさわけ)名主、古町(こちょう)名主、平名主、門前名主と四つの階層があって、番外には新吉原と品川の名主があるという。草創名主は、江戸の名主の中でいちばんの重きをなし、正月三日、町の総代として江戸城に参賀もすれば、町奉行交代のおりには真っ先に御目見をする。表題作の主人公・斎藤市左衛門は、草創名主二十四家のひとつ、斎藤家の九代目である。
斎藤市左衛門には、もう一つの顔がある。江戸の名所・旧跡をガイドした親子三代の大著「江戸名所図会」や徳川三百年の市井の動向を網羅した「武江年表」の筆者・斎藤月岑(げっしん)がそれだ。「名主の裔」では、この江戸の庶民の代表である市左衛門を通して、幕末から明治に向けて激動する時代をビビッドに描いている。意外な人物が登場するのも見逃せない。
「男の軌跡」は、作者の処女作で、第四回歴史文学賞の佳作に入賞している。主人公は、杉本さんが卒論で扱ったという「江戸繁昌記」の作者・寺門静軒である。ここにも一人江戸に恋し焦がれた男が描かれている。
縄田一男さんの解説がわかりやすく読後の整理にぴったり。

物語●「名主の裔」神田雉子町など六つの町を支配する名主の斎藤市左衛門は、紺屋の干し場の片隅にある番小屋で、吉原から大八車で持ち込まれる長持を待っていた。その長持には、ペリー一行の接待を務めることになる二人の遊女が隠されていた…。
「男の軌跡」谷中で私塾を開いている弥五左衛門は、仕官運動が不調に終わった水戸から我が家へ帰ってきた…。

目次■名主の裔|男の軌跡|解説 縄田一男

北斎あやし絵帖

★★★☆☆☆
著者:森雅裕(もりまさひろ)


装画:戸屋勝利
装丁:太田和彦
時代:文化十四年(1817)年
舞台:柳島、蛇山、二丁町、飯田町、小梅
(集英社・2,000円・1998/04/18第1刷・404P)
購入日:98/04/24
読破日:98/05/25

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作者の森雅裕さんは東京芸術大学美術学部卒業で、「モーツァルトは子守唄を歌わない」で第31回江戸川乱歩賞受賞した、ミステリー畑で活躍中の作家。
というわけで、この作品も時代ミステリー的な色合いが強く、葛飾北斎が探偵役を務めている。おなじみの偏屈ぶりを遺憾無く発揮しながらも、当時としては理論的な考え方の持ち主(レオナルド・ダ・ビンチを彷彿させる)として、折々に俳句をひねる愛敬も見せ、魅力的に描かれている。
当時の歌舞伎界や戯作、浮世絵など、当時の文化を作中で巧みに紹介しているのも、江戸ファンにはうれしいところだ。とくに北斎が水戸藩主斉脩の前で鶏を使って、竜田川の絵を画くシーンには思わずニヤリとしてしまう。
江戸後期を舞台にした作品を読んでいると、いつも気になるのだが、なぜ学校では「寛政の改革」や「天保の改革」を教えるのだろうか? 松平定信や水野忠邦らの行ったことは、幕府を弱体化させる、改悪としか思えないし、在任期間も短く、その手法も目新しさがなく、旧態依然とした印象しか与えないのだが…。まぁ、この作品を面白くさせてくれる要素にはなっているから評価すべきか。

◆主な登場人物
葛飾北斎:柳島妙見堂に住む絵師。五十八歳
あざみ:芝居小屋の道具方。二十歳ぐらいの町娘
市川団十郎:七代目。あざみの兄貴分
大田南畝:戯作者で狂歌師(四方赤良)。勘定方小役人
千葉周作:旗本・喜多村石見守の中小姓で中西道場の寄弟子
手柄山正繁:白河公のお抱えの刀鍛冶
滝沢馬琴:飯田町に住む読本作家
篠田金治:歌舞伎立作者・並木五瓶の弟子
楽翁:かつての老中・松平定信。夕顔の少将
斎藤与右衛門:幕府お抱え能楽者
亀屋喜三郎:吉原の茶屋の主人
阿花梨:寛政期に活躍した謎の花魁
歌川豊国:歌川派の総帥の絵師
喜多村石見守:御小納戸衆を務める旗本
水野和泉守忠邦:肥前唐津城主
お栄:北斎の次女
徳川斉脩:水戸家当主

物語●文化十四年の正月、葛飾北斎は洋琴(ピアノ)を作りたいという芝居の道具師・あざみに出会うが、北斎が収集した図譜、画帖の中にあったその資料が、何者かに盗まれてしまう…。北斎とあざみは危機を救ってくれた千葉周作を仲間に加え、盗まれた資料を追ううちに、新たな事件に巻き込まれる…。何やら、絵師写楽をめぐる謎が鍵を握っているらしい…。

目次■壱 成田屋の妹/弐 北辰の阿修羅/参 著作堂という火宅/四 夕顔の老少将/五 火難の傾城/六 腰に永楽通宝/七 濁る田沼の……/八 水戸宰相と鶏/九 写楽だった男/拾 碑文を書く支配勘定/拾壱 あやしの絵解き/拾弐 芝居町炎上

城のなかの人

★★★★☆
著者:星新一


カバー:和田誠
解説:武蔵野次郎
時代:「城のなかの人」慶長二年。「正雪と弟子」慶安三年。「はんぱもの維新」文久元年
舞台:「城のなかの人」大坂城。「春風のあげく」北国のある藩。
(角川文庫・480円・1977/05/30第1刷、1994/04/20第17刷・284P)
購入日:98/03/15
読破日:98/05/22

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一度、感想を読書録を書いたのですが、誤って消してしまったので、書き直しました。前回書いたものと違っています。
98年2月に亡くなられたSFショートショートの神様・星新一さん(本当に神様になってしまわれた。合掌)の珍しい時代小説作品集。隠れた名作という感じで、ホントに面白かった。常々、時代小説の面白さの一つに、ある決まりごとの中で、想像力を自由に膨らませ、虚構を作り上げることであると思っているが、星さんは、さすがにその特性をうまく捉えている。
とくに表題作の「城のなかの人」が秀逸。秀頼の誕生から、大坂城落城・自刃までを、秀頼とかかわりのある16人の人物の眼を通して描くというストーリー展開がいい。また、「春風のあげく」と「すずしい夏」は、時代小説に舞台を借りたショートショートだ。
「正雪と弟子」の結末の付け方も時代小説畑の作家には書けないようなもので、面白かった。

物語●「城のなかの人」美に囲まれた城の中で暮らす秀頼にとって、唯一美と逆のものがあった。それは予告なしに出現し、静けさと調和をかき乱す一人の老人であった…。「春風のあげく」北国のある藩の重臣の息子・忠之進は、春風に誘われて隣家の娘と愛を交わしてしまう…。「正雪と弟子」二十歳の浪人・林武左衛門は、由比正雪に師事していた…。「すずしい夏」北国のある藩では、米の値上がりの動きにつられて、備蓄米の2/3を売ることにしたことから…。「はんぱもの維新」小栗上野介忠順(ただまさ)は、彼の政治を邪魔する“はんぱもの”たちを憎んでいた…。

目次■城のなかの人|春風のあげく|正雪と弟子|すずしい夏|はんぱもの維新|解説 武蔵野次郎

まん姫様捕物控

★★★☆☆
著者:五味康祐(ごみやすすけ)


カバーイラスト:東啓三郎
カバーデザイン:秋山法子
解説:稲木新
時代:万治〜寛文のころ(四代将軍家綱のころ)
舞台:東海道沓部村、大磯。高田馬場。千代田城。中仙道坂本。
(徳間文庫・485円・1993/09/15第1刷、1994/09/25第2刷・318P)
購入日:98/03/29
読破日:98/05/18

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ずっと、「ごみこうすけ」さんだと思っていた。しかし、この本のカバーでは、五味康祐(ごみやすすけ)とルビが振ってあったので、こちらが正しいのだろう。ちなみに、「祐」の字は、旧字(正字)の「示」+「右」で表記されることが多い。うーん、人名は難しい。
この作品は、いろいろな意味で、先入観を裏切る。まず、ヒロインのまん姫は、家光の娘で四代将軍家綱の姉にあたり、禁中に入輿されたが、夫の尊純親王の死後、江戸に戻り高田馬場に近い高田御殿に住んでいて持ち込まれる事件を鮮やかに解決する。「あんみつ姫」タイプ、もしくは昔の時代劇のお姫様をイメージしたのだが、結婚生活を経験されたせいか、とても世慣れている。もちろん、カマトトではなく、性に関する知識を事件を解決する際に生かしている。
捕物帳というと、動機や凶器、容疑者を絞り込んでいくために、聞き込みや張り込みなどの捜査活動が中心になるのだが、萬姫の場合は、姫君ということで、やたらと市中に出回ることができない、そのために、家臣の奥村や長渕、額取などを手足と使う。何やら、「水戸黄門」のような趣もある。しかも、捕物帳でおなじみの、市井の風俗、人情を写し取るというよりは、大名・旗本家の醜聞や抗争を描くことが中心となっている。

◆主な登場人物
萬姫:将軍の姉
楓:萬姫の侍女
恩地三太夫:萬姫の老臣
奥村竜之進:新陰流の達人で萬姫の付人。信州飯山藩松平遠江守の三男(妾腹)
永淵勘十郎:甲賀忍者
額取(たかとり)賢十郎:北越流軍学を修めた知慧者で、萬姫の相談役
柳生飛騨守:柳生宗矩の三男。萬姫の剣の師。

物語●歳は二十歳前後…、眸は涼しく、その顔の美しさは気品に溢れ、しかも向日葵がパッと陽に映えたよう…。萬姫は、将軍家綱の姉で、旗本八万騎、だれ一人として憧憬を寄せぬ者はない、三河武士のアイドルだった。その萬姫が江戸下向の途中の東海道の沓部村で、全裸の若い女性の下を見つける…。
こうして、時代小説史上異色の主人公が、事件解決に乗り出す…。

目次■第一話 かくし念仏|第二話 写し刀|第三話 こわい忠義|第四話 一匹狼|第五話 さらし首|第六話 犬笛|第七話 秘画|第八話 狸の毛|第九話 風来坊|第十話 鏡餅|第十一話 ねれ衣|第十二話 爪の跡|第十三話 三十両|第十四話 御用金盗難|解説 稲木新

バサラ将軍

★★★★☆
著者:安部龍太郎


カバー:西のぼる
解説:縄田一男
時代:「兄の横顔」元弘三年(1333)。「師直の恋」暦応三年(1340)。「狼藉なり」康永元年(1342)。「知謀の淵」延文三年(1358)。「バサラ将軍」永徳元年(1381)。「アーリアが来た」応永十五年(1408)
舞台:「兄の横顔」京、鎌倉。「師直の恋」「狼藉なり」「バサラ将軍」京。「知謀の淵」矢口の渡。「アーリアが来た」若狭、近江。
(文春文庫・448円・1998/05/10第1刷・312P)
購入日:98/05/9
読破日:98/05/14

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安部さんと解説の縄田さんのコンビというと、以前見た重量級の両氏の対談を思いだす。この本は、単行本「室町花伝」にデビュー作の「師直の恋」を新たに収録し、時代順にならべた室町時代を舞台にした短篇集で、とてもバランスがいい。構成には、縄田さんの意見も盛り込まれているのではないだろうか。
「仮名手本忠臣蔵」のモデルとなった、高師直を主人公の据えた「師直の恋」は新鮮。ストーリーテリングの面白さでは「知謀の淵」がいい。最後の「アーリアが来た」は時代小説には珍しい動物小説で、爽やかでこの本自体の読了感を快いものにしている。

◆主な登場人物
足利左馬頭直義:足利尊氏の弟。「兄の横顔」
足利尊氏:「兄の横顔」「狼藉なり」
大搭宮護良親王:後醍醐天皇の息子。「兄の横顔」
細川頼貞:直義の腹心の部下。「兄の横顔」
高師直:尊氏の執事。「兄の横顔」「師直の恋」「狼藉なり」
萩:元・後醍醐天皇の侍従で、師直家に出入りしている「師直の恋」
葵:早田の宮の娘で、塩谷判官の妻。「師直の恋」
占部兼好:「徒然草」の作者。「師直の恋」
土岐頼遠:美濃の守護大名。「狼藉なり」
竹沢右京亮:荏原郡六郷の国人。「知謀の淵」
坂口源兵衛:右京亮の執事。「知謀の淵」
江戸遠江守高良:右京亮の本家筋にあたる国人。「知謀の淵」
新田義興:新田義貞の妾腹の子。「知謀の淵」
畠山国清:鎌倉公方・足利基氏の執事。「知謀の淵」
小俣次郎:首実検の検視役。「知謀の淵」
後円融帝:「バサラ将軍」
足利義満:「バサラ将軍」
世阿弥:「バサラ将軍」
三条の局:帝の寵愛が深い女御。「バサラ将軍」
日野資康:按察使中納言。「バサラ将軍」
今津の源太:馬借。「アーリアが来た」
アーリア:ゾウ。「アーリアが来た」
日銭屋門次郎:北白河の小口の銭貸し。「アーリアが来た」
ねずみの佐吉:盗人。「アーリアが来た」
黄竹青:ゾウ使い。「アーリアが来た」

物語●「兄の横顔」足利直義は、八歳の成良親王を奉じて鎌倉へ向かう…。「師直の恋」師直は、華やかな牛車を取り囲んでいた武士たちの狼藉を戒めた…。「狼藉なり」土岐頼遠は、上皇の御幸に行き会い、下馬の礼をとらなかった…。「知謀の淵」竹沢右京亮は、ある企みをもって多摩川の矢口の渡へ向かった…。「バサラ将軍」義満は落成したばかりの花の御所へ帝の行幸をあおいで舟遊びをした…。「アーリアが来た」四代将軍義持に献上するために、南蛮の珍しい鳥や獣が若狭に届いた…。

目次■兄の横顔|師直の恋|狼藉なり|知謀の淵|バサラ将軍|アーリアが来た|文庫版あとがき|解説 縄田一男

陋巷に在り 3 媚の巻

★★★★
著者:酒見賢一


カバー装画:諸星大二郎
時代:定公の十一年(前499)
舞台:中国・魯
(新潮文庫・476円・1998/05/01第1刷・311P)
購入日:98/04/25
読破日:98/05/10

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ミステリについて触れた2巻目のあとがきもよかったが、今回のあとがきも、星新一さんへの追悼文になっていて温かい気分になった。
「陋巷に在り」の発刊されるペースに合わないせいか、物語の世界に入り込むまで時間がかかってしまう。新しい巻が出る都度、最初から読み直すのが正しい読み方かも知れない。
ともかく、謎の美女・子蓉にスポットが当たった巻のために、今まででいちばんの盛り上がりを見せているように思われる。

◆主な登場人物
孔子:孔丘仲尼。魯の司寇で、儒者
子路:孔子の弟子。季孫家の宰
少正卯(しょうせいぼう):私塾を経営する
顔穆(がんぼく):傴僂の老人
太長老(たいちょうろう):顔氏の長老
顔回:顔氏出身の孔子の弟子
よ(女+予):顔回の恋人
子貢:端木賜。孔子の弟子
悪悦:少正卯の弟子
子蓉:悪悦の妹。媚術を使う
冉伯牛(ぜんはくぎゅう):孔子の弟子

物語●孔子に対抗して塾を構え、急速に勢力を拡大していく謎の人物、少正卯。その屋敷に住む妖艶な美女、子蓉は恐るべき、媚術(いわば性魔術)の遣い手であった。孔子の弟子の子貢は、興味半分に少正卯の塾に通ううちに、子蓉の術の虜となる。
ついに魔の手は、顔回へ及んだ。透徹とした精神と類稀な巫術を備えた顔回さえも、子蓉の掌中に落ちてしまうのか…。

目次■儺/媚/土偶/公伯寮/夜虎/あとがき

蘭方医・長崎浩斎 大江戸謎解き帳

★★★☆☆
著者:永井義男


装画:百鬼丸
装幀:中原達治
時代:文化十四年
舞台:南伝馬町二丁目、両国、長谷川町
(祥伝社・1,600円・1998/05/10第1刷・240P)
購入日:98/05/03
読破日:98/05/10

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この人の作品を読み終わるといつも、もう少し続きを読みたいという気分にさせられ、新刊が出るとつい読んでしまう。今回も長崎浩斎(こうさい)という、若々しい蘭医学者の卵を探偵役に据えた捕物帳を創出したが、わずか3つの事件で、国元の富山へ引きこもらせてしまう。実に惜しい。
長崎浩斎は、立花登(藤沢周平作品)や保本登(山本周五郎作品)に比べると、現代風の青年として描かれている。お喜代とのコンビや、新六親分の使い方などは、宮部みゆきさんっぽい。
物売りや、富士山信仰、江戸の町などをわかりやすく解説している。そういったことに慣れてない人も安心して読める配慮がされているのはいいことだ。

◆主な登場人物
長崎浩斎:江戸遊学中の蘭学医の卵。漢詩文にも親しむ
藤左衛門:浩斎の下宿先、南伝馬町二丁目の本屋・八文字屋の番頭
お喜代:長谷川町の油屋・新井屋の娘
布袋庵:心学者・脇坂義堂。八文字屋の主人
定吉:新井屋の奉公人
新六:横網の親分。お喜代の義理の兄

物語●若き蘭学医の卵・長崎浩斎は、越中・高岡から100日間と期限を区切って、江戸に遊学してきた。「解体新書」で名高い杉田玄白の弟子・大槻玄沢に師事、芝蘭学堂で蘭学と医学を学んでいた。ふとしたことから、油屋の娘・お喜代と知り合い、事件に巻き込まれていく…。
「両国・麦藁蛇の怪」両国の大川端で、女性の腐乱死体が発見された…。「神田・男女身二つの怪」長屋の大家が、上半身が男、下半身が女の死体を見つけ、その死体がまた消えるという怪事件が…。「本所・猩猩音呼の怪」白骨死体が見つかったことから騒動が…。

目次■謎解き壱 両国・麦藁蛇の怪|謎解き弐 神田・男女身二つの怪|謎解き参 本所・猩猩音呼の怪|その後の浩斎

北斗の銃弾

★★★★
著者:宮本昌孝


装幀:川上成夫
時代:天保五年
舞台:東湊町、上州木崎、根岸、浜町鳥取藩下屋敷
(講談社・1,800円・1998/04/28第1刷・362P)
購入日:98/04/29
読破日:98/05/08

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「夕立太平記」以来の宮本さんの長篇時代小説。時代小説の愉しみのひとつに、有名人物の使い方がある。この作品も長篇ということもあり、天保時代を代表する人物、事件が続々と登場して、楽しい。とくに大河ドラマ「徳川慶喜」にも登場する、居合いを極めた剣士として登場する若者・鉄三郎が印象的だ。
鉄三郎に限らず、登場する男たちが、個性的で物語を奇想天外な方へ読者を誘っている。ただし、宮本作品によく登場する、雌鹿を想わせる清楚で可憐なヒロインが出てこないのが少し残念。

◆主な登場人物
鼠小僧次郎吉:大名屋敷を中心に狙う稀代の怪盗
鵜殿民部:鳥取藩江戸家老
鷲見要蔵:蝮の要蔵の異名をもつ北町奉行所与力
水野出羽守忠成(ただあきら):駿河沼津藩主。老中首座
松井音四郎:牢人。忠治の用心棒
島村の伊三郎:上州木崎の親分
おかつ:島村の伊三郎の情婦
国定忠治:博徒
阿修羅外道:体躯雄偉の武士
浅田主計為保:鳥取藩士、後に神刀兌山流(しんとうださんりゅう)を開く剣の達人
鼻高:五代目松本幸四郎の鼻の高い得意な風貌によく似た船頭
徳川家斉:十一代将軍
日啓:中山法華経寺有泉院住職
お美代の方:家斉の愛妾。日啓は実父
土方縫殿助(ぬいのすけ):駿河沼津藩江戸家老
みさ:芝宇田川町の茶問屋の娘
新三(しんざ):みさの恋人
松平りん(耒+攵の下に厘の字)三郎:忍藩主松平忠尭(ただたか)の実弟

物語●鳥取藩の下屋敷に盗み入り捕らえられた、鼠小僧が小塚原で獄門にかけられてから、ちょうど一年。霊岸島の川辺霊神の境内で女を襲っていた船見番所の役人が「海から来た男」に殺された。助けた女に男は、鼠小僧と名乗った…。
その噂を鳥取藩江戸家老鵜殿民部にもたらしたのは、蝮の要蔵という悪名をもつ北町奉行所与力・鷲見要蔵だった。要蔵は、鼠小僧からある秘事を自白させていた…。

目次■第一章 海から来た男/第二章 上州の血風/第三章 根岸茶話/第四章 蝮と外道/第五章 妖怪たちの夜/第六章 二人小僧/第七章 闇への挑戦/第八章 川に降る雪/第九章 浜町ふたたび/第十章 城中総下座

姫路城 凍って寒からず 小説・河合道臣

★★★★
著者:寺林峻(てらばやししゅん)


写真:広畑印刷(株)
装幀:川畑博昭
時代:文化五年(1808)
舞台:播州姫路、江戸木挽町
(東洋経済新報社・1,600円・1998/01/30第1刷・1998/04/1第6刷・302P)
購入日:98/03/29
読破日:98/05/05

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「小説 上杉鷹山」(童門冬二著)と同様に、経済小説としてビジネスマンに多く読まれているようで、発売から3ヵ月ぐらいで早くも6刷だった。内容的にも「小説 上杉鷹山」と共通する部分が多い。
姫路城って城郭が整いすぎていて、物語になりにくいと思っていた。また、酒井家についても、家光の頃の下馬将軍のイメージが強くて、この本を読むまでは、姫路に転封されていたとは知らなかった。まして、年間収入の七倍もの巨額の負債を抱えていて、破綻の瀬戸際にあったとは…。どうも、姫路藩の場合、条件が恵まれている中での財政再建のような感じがして、米沢藩ほど共感が沸かない。
藩主の親戚である絵師の酒井抱一が作中でいいアクセントになっている。
「凍って寒からず」とは、南宋の朱子の言葉で、身辺は凍りつくように寒くても気持ちを熱く保っていれば心中まで凍てついてしまうことはない、という意味で、落ち込んでしまいそうになるときに、道臣が口ずさむ言葉である。

◆主な登場人物
河合道臣:播州姫路・酒井家家老
高須隼人広長:酒井家上座家老
国府寺次郎左衛門:町方大年寄、姫路の本陣主人
泰子(たいこ):林田藩家老の娘、道臣の妻
酒井忠道(ただひろ):酒井家の姫路三代目
小太郎:道臣の養子
錦泉(きんせん):道臣の三女
松下源太左衛門高知:小太郎の実父
半藤治衛門正之:勝手向き担当家老
村田継儒:道臣の旧友、儒者
酒井抱一:酒井家姫路二代目宗雅忠以の弟で、琳派の絵師

物語●時は江戸後期。元禄バブルの後遺症で、播州姫路藩は七十万両を超える借財を抱え、財政破綻の危機に瀕していた。再建の万策が尽きたところで、文人派の家老・河合道臣が藩の勝手向き(財政担当)を命じられる…。
その意外な人選を危ぶむ周囲の声をよそに、道臣は次々と政策を断行していく…。

目次■無用の用/崖っぷち/白い蝶/玉川さらし/紙の獣/風雅の人/花林/あとがき