新・極楽の読書録
1998年4月・卯月の巻

剣客商売 浮沈 by 池波正太郎
恋の濡れ刃 by 梅本育子
一日江戸人 by 杉浦日向子
暴れ影法師 by 花家圭太郎
蝦夷国まぼろし 上・下 by 夏堀正元
月夜駕籠 風車の浜吉・捕物綴 by 伊藤桂一
江戸の町 by 岸井良衞
銀の雨 堪忍旦那 為後勘八郎 by 宇江佐真理
東洲しゃらくさし by 松井今朝子
瀧夜叉 by 皆川博子
女狐の罠 足引き寺閻魔帳 by 澤田ふじ子
江戸の音 by 田中優子


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

江戸の音

江戸学
著者:田中優子


装画:喜多川歌麿「虫籠と美人」
装幀:菊地信義
(河出文庫・580円・1997/09/04第1刷・205P)
購入日:97/09/23
読破日:98/04/29

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うーむ、困った。音楽的な素養が全くないせいか、書かれていることが1/3も理解できない。やはり実際の音を再現してもらえないと、ピンと来ない。多分TV番組にしてくれたら、半分くらいはわかった気になれるのかもしれないが…。
作者と特別対談「江戸音曲の広がり」をされている、作曲家の武満徹さんの邦楽への造詣の深さは、門外漢からみてもすごい。
三味線が淫なるもので俗の楽器であるという指摘は面白い。「淫」には、下品や淫らというニュアンスのほかに、人の心を惑わすというような意味や、秩序を乱すといった意味、艶があることや潤っていることとかも含んで使っている。また、「サワリ」と呼ばれる、わざと雑音を加えることも江戸の音曲の特徴としてあげている。

物語●名著「江戸の想像力」の作者が、音曲とノイズの問題から探った、江戸文化論の傑作。三味線と歌舞伎を中心に、江戸そして日本、アジアにおける音楽の変容を探る、近世文化論。

目次■はじめに/第一章 三味線と越境するモダニズム/第二章 歌舞伎または夢の群舞/第三章 《対論=武満徹》江戸音曲の広がり/第四章 伝播と涵養、花開く技法/文庫版に寄せて

女狐の罠 足引き寺閻魔帳

★★★☆☆☆
著者:澤田ふじ子


装画:小澤重行
装幀:東京図鑑
時代:天明六年(1786)
舞台:京・堺町綾小路、四条、東洞院蛸薬師、烏丸仏光寺、北車屋町、三条樵木町。
(徳間書店・1,500円・1998/04/30第1刷・269P)
購入日:98/04/17
読破日:98/04/29

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「足引き寺閻魔帳」の第2作。いよいよ、池波正太郎さんの「藤枝梅安」の京版って感じがしてきた。宗徳、蓮根左仲、与惣次、お琳の四人と一匹(豪)が、怨みを抱えて死ぬ男や世の不条理に泣く女の無念をはらす、「必殺もの」だ。京のどこかに、法で裁けぬ悪人の足を引っ張り、怨みやつらみを晴らしてくれる足引き寺があると昔からいわれていた。人は、ここぞと思った寺の賽銭箱に金を投げ入れ、足引きを依頼するのだ。
殺伐としがちなテーマだが、澤田さんの手にかかると、京の風俗や故事が楽しめる人情譚となる。
小さい頃から動物を飼ったことがないせいか、あまり犬をかわいいと思ったことはないのだが、この作品の紀州犬・豪を見ていると、やっぱりかわいいと思ってしまう。

◆主な登場人物
宗徳(そうとく):知恩院末寺・地蔵寺の住職。かつて隠岐島に配流される。旧名・黒田小十郎
蓮根左仲(はすねさちゅう):西町奉行所同心。宗徳の幼なじみで親友
与惣次:左仲の手先。羅宇屋
お琳:四条派の町絵師。吉岡流小太刀の遣い手
豪:宗徳が仔犬の頃から育てた紀州犬
黒田大十郎:西町奉行所与力。宗徳の兄
枡屋喜左衛門:四条の旅籠の主人
お貴和:枡屋の養女分で左仲と恋仲

物語●「足許の首」お琳の長屋に住む駕籠舁きの駕籠から刺殺体が発見された…。「女狐の罠」左仲は西土手の刑場で処せられた男の仕置きが気にかかっていた…。「なさけが仇」居酒屋・鶴静で与惣次は、酔って島帰りと騒いでいる男を助けた…。「噂の烙印」豪は賽銭泥棒の少年に地蔵寺の御飯をご馳走する…。「闇の梯子」豪は地蔵寺の賽銭箱に小銭を投げる女に不審を感じ、尾行をはじめた…。「真贋の瀧」与惣次は居酒屋・鶴静で、場所に不釣り合いなキセルを使う職人風の男の姿が目についた…。「果ての空」地蔵寺にかつて隠岐島で宗徳といっしょだった男が訪ねてきた…。

目次■第一話 足許の首|第二話 女狐の罠|第三話 なさけが仇|第四話 噂の烙印|第五話 闇の梯子|第六話 真贋の瀧|第七話 果ての空

瀧夜叉(たきやしゃ)

★★★★☆
著者:皆川博子


装画:今井俊満
装幀:中島かほる
装幀:竹田真砂子
時代:承平七年
舞台:阿是の湖、秩父、多賀城、京、博多。
(文春文庫・571円・1998/04/10第1刷・443P)
購入日:98/04/10
読破日:98/04/28

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ずっとあたりをつけていた「皆川博子」という鉱脈が、質の良い銀山であることが確認でき、とても得した気分だ。一作一作まるで、違う時代を取り上げて勝負するその筆力がすごい。
また、皆川さんの作品では演劇性が強く感じられる。「妖櫻記」(文春文庫)を読んだときは、シェイクスピアのコメディを想起させられたが、この作品でも、何かわからないが近世の演劇っぽさが漂っていた。読後に竹田真砂子さんの解説を読んでその訳がわかった。
百鬼夜行が信じられ、陰陽師が官職として認められていた平安時代が舞台となっている。陰陽師は、今でいえば、科学者のようなものかもしれない。陰陽師が出てこないと、どうも平安ものとして物足りなくなってしまう。都ばかりでなく、平将門と藤原純友の反乱も重点を置いて描かれていて面白い。

◆主な登場人物
藤原純友:前伊予掾。瀬戸内海の大魁帥
九郎直純:藤原純友の息子
美丈丸:九郎の従者
千代童:持衰(じさい)と呼ばれる船の安全の航行ための生け贄
高橋伊友:藤原純友の弟で、九郎の叔父
平将門:坂東の豪族
夜叉:平将門の娘
如月尼:夜叉の姉
多治経明:平将門の伴類(勢力下にある土豪) 興世王(おきよのおおきみ):武蔵国国司
藤原秀郷:下野の豪族
藤原千晴:秀郷の嫡男。瀧口の武士
安倍童子:白髪で下げ角髪(みずら)の童形の陰陽師のタマゴ
賀茂忠行:陰陽頭
賀茂保憲:忠行の嫡男で、天文博士
葦屋道摩:謎の呪術師
藤原恒利:純友の次将
藤原純素:純友の弟
檜垣:かつての名妓

物語●悪路王:別名・阿黒王。九郎らを保護する奥羽の豪族 平安遷都から百四十年あまり、東西の雄・平将門と藤原純友は共に手を結び、朝廷に叛旗を翻した。盟約の証として夫婦となった純友の息子九郎と将門の娘夜叉、悲運の役を担う千代童、夜叉の姉・如月尼らは戦乱に巻き込まれ、運命に翻弄される…。燃え上がる大地に陰陽師の呪詛の声が響く、妖艶なる伝奇ロマンの傑作。

目次■巻之一/巻之二/巻之三/解説 竹田真砂子

東洲しゃらくさし

★★★☆☆☆
著者:松井今朝子


装画:写楽画「大童山文五郎の土俵入」
装幀:安彦勝博
時代:寛政六年
舞台:大坂・道頓堀の芝居町、今宮。江戸・通油町、堺町、葺屋町、木挽町、本所回向院、深川。
(PHP研究所・1,748円・1997/01/23第1刷・293P)
購入日:98/03/29
読破日:98/04/27

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「仲蔵狂乱」(講談社)で、時代小説大賞を受賞した松井今朝子(まついけさこ)さんの前作。この作品では、彼女の得意分野の歌舞伎ではなく、表紙も相撲取りの大童山(なんと、6歳の少年ながら巨漢で、土俵に上がっていた当時の怪童、写楽の画はちょっと若乃花に似ている)だし、写楽の謎に迫るのかと、読みはじめるが、やはり歌舞伎(妓)の世界が舞台だった。「五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)」などで知られる歌舞伎作者・並木五兵衛(五瓶)が主人公の一人なのが面白い。
今まで、写楽ものというと、写楽の正体探しがテーマになることが多いが、この作品では写楽の画のモデル(画かれる側)により焦点を当てている。そこで、当時の東西歌舞伎の世界が活写されいる。
もちろん、蔦屋重三郎や喜多川歌麿、十返舎一九、曲亭馬琴、葛飾北斎ら、写楽ものではおなじみの人たちも登場する。

物語●嵐のような寛政の改革が過ぎ去り、江戸の町に活気が戻った頃、鳴物入りで上方から呼ばれた歌舞妓作者・並木五兵衛。彼の江戸下りに先駆けて、大道具の彩色方(舞台装置に色を塗る職人)の彦三が江戸の町にやってきた…。

目次■なし

銀の雨 堪忍旦那 為後勘八郎

★★★★☆
著者:宇江佐真理


装画:伊東深水「吹雪」
装幀:芹澤泰偉
時代:北町奉行・小田切土佐守直年の頃(寛政四年〜文化八年)
舞台:通油町。久松町、両国橋。小網町、伊勢町。八丁堀、北鞘町。室町一丁目。
(幻冬舎・1,600円・1998/04/15第1刷・301P)
購入日:98/03/29
読破日:98/04/19

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「幻の声」、「泣きの銀次」に続く宇江佐真理さんの単行本3作目。新人といっていいようなキャリアながら、質の高い捕物帳ばかりを書いている。今回は、寛容なベテラン同心と厳正な青年同心の衝突という軸をもった連作になっている。この軸がしっかりしているために作品としての面白さが最後まで続いていく。
中でも「魚棄てる女」と「銀の雨」がいい。藤沢周平さんのファンの方なら、いっそう楽しめるだろう。

◆主な登場人物
為後勘八郎(ためごかんぱちろう):北町奉行所定町廻り同心で、「堪忍旦那」と呼ばれている
岡部主水(おかべもんど):北町奉行所臨時廻り同心
岡部主馬(おかべしゅめ):主水の嫡男。北町奉行所見習い同心
半吉:神田鍋町の裏店に住む、勘八郎配下の岡っ引き。副業として屋台の蕎麦屋を営む。
小夜:勘八郎の娘。
雪江:勘八郎の妻。
鈴木八右衛門:久松町「紅塵堂」の主人で、与力・山形浪次郎配下の岡っ引き。
月江:八右衛門の妻。
ゆた:八右衛門の娘。
梅助:小網町の裏店に住む、為後家に出入りのしじみ売りの少年。
お留:為後家の女中。

物語●「その角を曲がって」勘八郎は、通油町の絵草紙屋から役者絵を買い求めて出てきた娘に見覚えがあった…。「犬嫌い」近頃、江戸で人を噛む犬が横行しているという…。「魚棄てる女」しじみ売りの梅助は、小網町の思案橋で、魚の干物を掘割に投げ棄てる娘を見かけた…。「松風」勘八郎の妻の雪江は、岡部主水の妻が病床にあることを知り、見舞いに訪れ、意外な話を耳にする…。「銀の雨」小夜は、小野派一刀流の主馬に触発されて、剣術道場に熱心に通うが…。

目次■その角を曲がって|犬嫌い|魚棄てる女|松風|銀の雨

江戸の町

江戸学
著者:岸井良衞


(中公新書・660円・1976/05/25第1刷・1995/10/30第14刷・220P)
購入日:97/10/07
読破日:98/04/19

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最近、少し心を入れ換えて、江戸に関する本を少しずつ読むようにしている。この本もそんな中の一冊だ。
江戸の町の由来や、坂、橋、名所などを簡潔でわかりやすい文章で説明している、江戸切絵図の入門書。時代小説を読んでいて、土地鑑がなくて困っている方におすすめ。詳しい方も、初めて知る事実があって興味深い。
八丁堀の七不思議や本所の七不思議も紹介している。大八車の由来とか、千葉周作の道場があったことで有名なお玉が池の由来なども解説している。
新書判のためにしょうがないのだが、判型が小さく、印刷がよくないために切絵図がわかりにくいのがやや難。

読みどころ●大著「江戸・町づくし稿」(不勉強でこの本については知らないのですが…)の著者が、切絵図(地図)をたどりつつ、町屋を中心に話題を求めて、もはや失われた江戸の町の面影と、町の人たちの生活ぶりを簡潔に紹介していく。嘉永元年(1848)から麹町十丁目の近江屋吾平が出した、近吾堂版の切絵図と、「江戸名所図会」や、広重の名所江戸百景の絵を多数収録している。

目次■まえがき/江戸の町づくり/内桜田/外桜田/小川町と駿河台/神田・八辻ケ原の南/内神田の東側/日本橋の北方/日本橋の南方/茅場町から八丁堀辺/銀座/築地界隈/東南の島/新橋から金杉橋/愛宕山の西/本芝・高輪/白金/麻布/赤坂/青山・渋谷/四谷/淀橋/市ヶ谷/高田/雑司ケ谷/外神田と湯島/本郷/小石川/上野/浅草/向島/本所/深川/隅田川/四宿/江戸切絵図目次

月夜駕籠 風車の浜吉・捕物綴

★★★★
著者:伊藤桂一


カバー装画:蓬田やすひろ
解説 磯貝勝太郎
時代:らくだが江戸にやってきた頃
舞台:常陸・祖母井村。小石川伝通院、牛天神下、根津宮永町
(新潮文庫・438円・1998/03/01第1刷・261P)
購入日:98/02/28
読破日:98/04/18

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「花ざかりの渡し場」(新潮文庫)をはじめ、伊藤さんの作品には、鬼怒川の渡しがよく登場する。それはともかく、伊藤さんの作品の特徴は人情の温かさにあふれている点である。この「風車の浜吉・捕物綴」の主人公・根津の浜吉も、推理と人情のあつさを売り物としている。そのため、派手な立ち回りシーンはないが、読み味がいい。
シリーズ3作目となると、登場人物たちのキャラクターがはっきりし、ファミリーっぽさが出てきて居心地がいい。恋女房で牛天神下の料理屋笹屋で働くお時、かつてそのお時をめぐって争った元やくざの猩猩の銀は、浜吉の一の子分に、また浜吉の幼馴染で今は足を悪くして捕物をやめた小日向の喜助、その子分で何かと浜吉を頼りにする留造、浜吉に十手をもつことを勧める南町奉行所定廻り同心・岡沢義十郎とその上司の吟味与力・風早佐市郎などが主な登場人物である。
天網恢恢疎ニシテ漏ラサズ―人間、悪いことをすると、天の神様が見ておられる、御用聞は、その天の神様の命令で悪人を捕まえる。これが主人公浜吉の信念であり、口癖でもある。このシリーズでは、事件が解決すると、ファミリーが集まり、酒席が設けられてそこで浜吉による謎解きが始まるのが恒例となっている。

物語●「狐憑きの娘」留造が見かけた狐憑きの娘の謎とは…。「月夜駕籠」浜吉らは、月夜になると娘をさらう駕籠の謎を追う…。「月明かりの渡し場」大店の孫娘がかどわかされ、旅芸人・中村歌女が浜吉を助けることになる…。「鴉の呪文」事件解決の鍵は、一羽の鴉が…。「かんざし釣り」ハゼ釣りの客が釣った簪から行方不明のご新造の手がかりを掴む…。「塀の外の化物」下総・水海道へ旅した留造が夜明けに厠で見たものは…。「あの世で婚礼」遊び人が背中から心の臓へ、細身のノミのようなもので刺されて殺された…。「狐の嫁入り」金杉稲荷の狐の嫁入りの行事の日、お時の連れ子・松太郎がかどわかされた…。「似顔絵の女」浜吉の仕事場、権現の脇道で五十年配の旦那が殺されたが、伴の女中が犯人を目撃したという…。

目次■第一話 狐憑きの娘|第二話 月夜駕籠|第三話 月明かりの渡し場|第四話 鴉の呪文|第五話 かんざし釣り|第六話 塀の外の化物|第七話 あの世で婚礼|第八話 狐の嫁入り|第九話 似顔絵の女

蝦夷国まぼろし 上・下

★★★★☆
著者:夏堀正元(なつぼりまさもと)


カバー画:蓬田やすひろ
装幀:蓬田やすひろ
解説:黒古一夫
時代:元和四年(1618)
舞台:蝦夷・福山、大千軒岳
(中公文庫・上952円/下1048円・各1998/03/18第1刷・上390P/下456P)
購入日:98/03/21
読破日:98/04/15

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蝦夷を舞台にした時代小説が好きだ。過酷な天候と人間の闘い、アイヌとの愛憎劇が大自然の中で描かれ、一時、都会の喧騒の中から逃避できるのがいい。
「蝦夷国(えぞこく)まぼろし」の作者の夏堀さんは、小樽市生まれで、新聞記者出身である。そのせいか、北海道に対する思い入れが感じられ、その眼差しが温かい。蝦夷を舞台にした時代小説は、いくつかあるが、中期以降を描いていることが多い。この作品では元和から寛永にかけての江戸初期ということで、そこに描かれている松前藩の歴史自体も興味深いものになっている。
主人公の和久内進六は、父が敵持ちのために、故国を離れ百姓や町人として育ちながら、師の儒学者堀江諒斎の勧めと、志本勘太夫の引き立てで、松前藩の下級藩士として取りたてられることになる。その前向きに困難に立ち向かい、真摯に生きていく姿が魅力的だ。
松前藩の歴史、アイヌの風俗、切支丹の迫害、当時の蝦夷国の様子がロマン豊かに描かれる快作。

物語●徳川幕藩体制下の蝦夷国松前藩は、砂金発掘とアイヌ、赤蝦夷(ロシア)、韃靼との密貿易で賑わいをみせていた。とくに大千軒岳に、砂金が発見され、数万人の金掘りがやってきて、ゴールドラッシュの様相を呈していた。徒士目付頭・志本勘太夫配下の和久内進六は、盗掘取締りの任にあたるが、金山には切支丹信者や浪人が流れ込み、任務は困難を極める。下級藩士の眼から見た松前藩の歴史を壮大なスケールで描いてゆく…。

目次■第一章 砂金の燦めき/第二章 異形の人/第三章 魔の山/第四章 騙し討ち/第五章 曙光/第六章 北前船/第七章 潜入者/第八章 地蔵の眼/第九章 地図のない国/第十章 探検への道/第十一章 大乱発す/第十二章 迫る危機/第十三章 決戦のとき/終章

暴れ影法師

★★★☆☆☆
著者:花家圭太郎(はなやけいたろう)


装画:川名京
装丁:岡邦彦
時代:元和三年(1617)9月
舞台:秋田・久保田城、院内杉峠、大伝馬町、駿河台、山形城、真室城。
(集英社・1900円・1998/03/30第1刷・347P)
購入日:98/03/27
読破日:98/04/11

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ご贔屓の作家の新作を読むのもいいですが、新人作家や未読の作家の作品を読むのも作者の手の内が読めず、次はどういう手を使うか考えながら読めて面白いものだ。
ホラ吹きというと、「まんがら茂平次」(北原亞以子・新潮文庫)を思い出すが、本書の主人公・戸沢小十郎も凄い。ホラ吹きというよりは、大風呂敷きを広げ、それを実際に実現してしまう有言実行の男である。微塵流の遣い手で、柳生宗矩の無刀取りを破るアホウドリの技を使う。父は、羽州角館藩主・戸沢政盛一族の末につながる囲碁の指南役だったという。
同時代ということで、本多正純や大久保彦左衛門なども登場する。

物語●元和年間、徳川幕藩体制の礎つくりへ向けて、外様大名を中心に改易の嵐が吹き荒れた。そんななかで、改易の危機が秋田・佐竹藩にも迫った…。
この危機を救えるのは、有言実行の男・戸沢小十郎しかいない。小十郎は、救国の天才か大ホラ吹き男か。武器は舌先三寸、最大のピンチを最大のチャンスに変えられるのか…。

目次■第一章 密使/第二章 密命/第三章 出立/第四章 再会/第五章 江戸馳走/第六章 両仕掛け/第七章 江戸有情/第八章 機略縦横/第九章 最上奔流/第十章 羽州杉峠

一日江戸人

江戸学
著者:杉浦日向子


カバーデザイン:栗原滋
解説:田中優子
(小学館文庫・552円・1998/04/01第1刷・283P)
購入日:98/03/22
読破日:98/04/09

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NHKや朝日新聞などでの活躍ぶりの目立つ、現代の黄表紙作者兼絵師の杉浦日向子さんの 江戸学入門書。日向子さんの強みは、何といっても素敵な画にある。この本では、タマサカ先生と助手のメバルちゃんというキャラクターがガイド役を務め、面白くわかりやすく解説してくれる。
読んでいて思わず、ニヤリとしてしまうので、電車の中で読んだりすると、変な人と思われるかも。ぼくは風呂の中で読んでいて、湯船に落としてしまいましたが…

読みどころ●「遊びと仕事は夫婦みてぇなもん」と言い切る江戸人。カラっとしていて楽天的で、日々を楽しむことに情熱を傾けていきる彼らこそ、遊び友達に最適! 江戸学の若きご隠居・杉浦日向子さんが、江戸人となって江戸を遊ぶ指南をします。
庶民から大道芸人、はたまた奇人変人など、江戸の街のキャストをおもしろおかしく紹介した「入門編」。長屋の生活や夏をのりきるための知恵など、江戸人の生活風景に着目した「初級編」など。

目次■第一章 入門編(大道芸/生涯アルバイター/義賊列伝/江戸の奇人・変人/How to ナンパ/江戸の色男/美女列伝/ザ・大奥/将軍の一日)|第二章 初級編(長屋の生活/浮世風呂/夏の過ごし方/ホビー/お江戸動物物語/師走風景/結婚/正月縁起づくし/決定版マジナイ集)|第三章 中級編(江戸見物)/酒のはなし/食/江戸の屋台/相撲/ギョーカイ通信/おバケづくし)|第四章 上級編(How to 旅/春画考/意匠/傾く/未来世紀EDO/シャレ/これが江戸っ子だ!)|解説 田中優子

恋の濡れ刃

★★★☆
著者:梅本育子


装幀:三井永一
時代:幕末
舞台:四日市。大坂天神橋、宗右衛門町、茂左衛門町、寒山寺。伊勢古市、熱田。深川黒江町。
(光風社出版・1260円・1996/11/20第1刷・277P)
購入日:97/04/25
読破日:98/04/06

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「包丁い、一本、さらしに巻いて〜」という昔の歌があったが、その意味がようやくわかった。一流の料理人になるには、単に包丁の技術だけではなく、人情味についても修業しなくてはいけないということだ。そこには、色の道も含まれているらしい。そんなわけでタイトルの「濡れ刃」は「濡れ場」とかけている。
主人公が旅をして、宿場(または店)ごとに事件に巻き込まれるというスタイルは、「木枯し紋次郎」のようでいい。登場人物たちの人間模様も紋次郎的だ。もっとも、主人公のスタイルは全然違うが…。
主人公が、日本料理ばかりでなく、鰻の蒲焼や信州そばなどの店で修業するのも面白い。
料理の世界を舞台とした時代小説では、澤田ふじ子さんの「もどり橋」(中公文庫)が思い出される。

物語●「おめえの料理には人情味が足りねえ、人が箸を持っていきたくなる丸みがねえ。旅をして色の道でも修業してきな」
江戸・深川の伊豆政の板前弥吉は、親方にそういわれて料理と色の道のふた筋修業の旅にでることになる…。

目次■第一話 恋の囮/第二話 恋の迷路/第三話 恋の道草/第四話 相性ぼくろ/第五話 菜種のお堂/第六話 おぼろ駕籠/第七話 新枕/第八話 恋あやめ/第九話 船に寝る夜は/第十話 恋の濡れ刃

剣客商売 浮沈

★★★★
著者:池波正太郎


カバー装画:中一弥
カバーレイアウト:多田進
解説:常盤新平
時代:天明四年(1784年)秋
舞台:鐘ヶ淵、深川十万坪、亀久橋北川、駒込片町
(新潮文庫・438円・1998/04/01第1刷・262P)
購入日:97/03/28
読破日:98/04/04

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「剣客商売」は作者が49歳のときに書き始められて、本書は作者の亡くなる前年66歳のときに刊行されている。59歳で登場した秋山小兵衛は、「浮沈」では、67歳になっている。この「浮沈」を読んでいると、とても年齢のことが気になってしまう。「剣客商売」のはじめの数巻に満ち満ちていた明るさが、小兵衛=池波さんの老いとともに失われていくのが無性につらい。
この「浮沈」がシリーズ最終巻になるのだが、作者自身が本作品でこのシリーズを終りにしたかったのではないかと思えてならない。
「剣客商売」は、この春、フジTV系で藤田まことさんの秋山小兵衛でTVドラマ化される。藤田さんの起用については、イメージと違う気がするが、市川プロデューサーは、藤田さんのもつ飄々とした中にある明るさにひかれたのかもしれない。期待したい。

物語●秋山小兵衛は今も時折、二十六年前、門弟滝久蔵の仇討ちに立ち会った際の、相手方の助太刀山崎勘介との死闘を思い出す。「生きていれば名ある剣客になっていたろうに」。
そんなある日、亀久橋の近くの蕎麦屋〔万屋〕で見かけた崩れた風体の浪人は、敵討ちを成就し名をあげたはずの久蔵だった。そしてその直後、奇しくも小兵衛は、勘介によく似た男と出遭った…。
シリーズ最終巻は長編。

目次■深川十万坪/暗夜襲撃/浪人・伊丹又十郎/霜夜の雨/首/霞の剣/解説 常盤新平