新・極楽の読書録
1998年3月・弥生の巻

青嵐の馬 by 宮本昌孝
鳴門秘帖(一)〜(三) by 吉川英治
futo 風刀―武季と紅燕― by 藤水名子
謎の団十郎 by 南原幹雄
洛中の露―金森宗和覚え書― by 東郷隆
海の螢―伊勢・大和路恋歌― by 澤田ふじ子
雑学「大江戸庶民事情」 by 石川英輔
御宿かわせみ 春の高瀬舟 by 平岩弓枝
風流べらぼう剣―続 女泣川ものがたり― by 都筑道夫
海鳴りやまず ―八丈流人群像― by 藤井素介
仲蔵狂乱 by 松井今朝子
海よ島よ 歴史紀行 by 白石一郎


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

海よ島よ 歴史紀行

エッセー
著者:白石一郎


カバー装画:西のぼる
解説:藤田昌司
(講談社文庫・438円・1997/11/15第1刷・236P)
購入日:97/10/20
読破日:98/3/31

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冒頭の「海よ島よ」の10編のエッセーが圧巻。「海狼伝」などでおなじみの作者のホームグラウンド壱岐・対馬・玄界灘や、「蒙古の槍」などで描かれる元寇の上陸の地・肥前鷹島、村上水軍の島々など、海と島を通して作品の背景に迫れる好エッセー。
海洋ものと並んで、白石さんの得意とする分野に九州ものがあげられる。「天翔ける女」や「島原大変」などの作品に関するエッセーも興味深いところだ。

読みどころ●海賊の基地である壱岐、海賊の集合地である対馬、村上水軍の活躍の場である瀬戸内海の島々、佐渡島では遠く離れた長崎と同じバッテン言葉が使われていた…。四面環海という立地条件に恵まれながら、海に背中を向け、狭い国内だけを見つめて過ごす習性を身につけたために物の考え方も陸地中心に限定されてきた日本人に異議を唱える。海洋時代小説の第一人者が自らたどって考えた、海から見た日本の歴史エッセイ。

目次■海よ島よ(玄界灘と壱岐、対馬/元寇と肥前鷹島/瀬戸内海の島々/大王崎と九鬼水軍/黒瀬川と八丈島/太平洋と小笠原島/日本海と佐渡島/東シナ海とトカラ列島/熊野灘と種子島/鎖国と船)|長崎商人と博多商人(幕末・長崎商人の心意気/博多商人)|九州発見の旅(ああ「島原大変」/唐紅毛の町「長崎」/富貴寺へ)|千利休(天下の茶頭 死を賜う)|西郷隆盛(西南戦争の戦跡を歩いて/大西郷起つ)|解説 藤田昌司

仲蔵狂乱

★★★★☆☆
著者:松井今朝子(まついけさこ)


カバー画:東洲斎写楽「堺屋秀鶴」二代目中村仲蔵の百姓つち蔵実は惟高親王(アダチ版画研究所復刻)
装幀:菊地信義
時代:元文三年(1738年)〜寛政二年(1790年)。
舞台:深川小松町。堺町、葺屋町
(講談社・1,500円・1998/3/10第1刷・336P)
購入日:98/03/13
読破日:98/3/27

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第八回時代小説大賞受賞作。プロフィールによると、作者は、早稲田大学大学院文学研究家演劇学修士課程修了後。松竹株式会社演劇制作部企画芸文室勤務後、フリーランスで記者、執筆活動を重ねながら、武智鉄二氏に師事し、近松座において台本執筆、演出に携わる。「ぴあ歌舞伎ワンダーランド」や「東洲しゃらくさし」(PHP研究所)などの著書がある。つまり、歌舞伎のスペシャリストだ。そのため、本作品も安心して読める、芸道小説となっている。
帯に時代小説大賞の選評が掲載されていた、半村良さんの「時代小説の世界から消えるかと心配された、大きな分野である芸道小説を復活させる力になるはずで、若い読者に対する歌舞伎世界への招待状でもあろう」というコメントで言い尽くされているように思う。
その時代を感じさせる意外な人物と仲蔵の交流が時代小説としての面白さを増している。
表紙カバーの東洲斎写楽の「堺屋秀鶴」のしゅうかくは、仲蔵の俳号。当時の歌舞伎役者は俳号を持っていて、仲間内では俳号で呼び合っていたという。作品中で歌舞伎のことを「歌舞妓」と表記されていたが、当時はこういう表記だったのだろうか?

物語●三つのときに、孤児となった仲蔵は、中山小十郎という長唄の唄うたいと、志賀山おしゅんという踊りの師匠が夫婦になっているところに、引き取られ育てられることになる。最初小僧同然に扱われるが、三年後の大病を機会に実子同然に育てられるようになる。そのとき、仲蔵の新しい道が開くことになる。仲蔵の養父となった小十郎は堺町の中村座の座付きの唄うたいであった。また、おしゅうの師匠の師匠は四代勘三郎であった。そんな事情から、仲蔵への厳しい踊りの稽古が始まり、中村座への出入りが始まった…。

目次■蟠竜の章/朱雀の章/白虎の章/玄武の章

海鳴りやまず ―八丈流人群像―

★★★★☆
著者:藤井素介


カバー装画:東啓三郎
カバーデザイン:岸顯樹郎
解説:縄田一男
時代:文政四年(1821年)。
舞台:八丈島。
(講談社文庫・619円・1997/9/15第1刷・334P)
購入日:97/9/18
読破日:98/3/24

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第四回時代小説大賞受賞作。ずっと気になっていた作品で、松井今朝子さんの時代小説大賞受賞を機会に読む。
流人の島、八丈島を題材に選んだことが成功の大きな要因だ。流人の島というと、「木枯し紋次郎」の最初のシーンが印象的なほかには、それほど描いている作品は多くない。
作者は、この八丈島で生活することになる流人たちの生い立ちや現在の生活ぶりを描くことで、理不尽な施政のあり方や人間の本質を興味深く描いている。ただ、それだけであれば、暗くなりがちなのだが、そこに流罪となった父の付き添いとして渡島した主人公斎藤守孝を配することにより、前向きさ、純粋さ、若さ、などの明るい部分を与え、バランスを見事にとっている。一種のビルドゥングスロマンとしての爽やかさがある。
文化四年の永代橋落下の責任により流罪となった町役やエトロフ航路を開いた近藤重蔵の息子富蔵など、その時代を感じさせる流人も登場して興味深い。

物語●江戸時代、八丈島は配流の島だった。延べ1800人を超す流人の中には理不尽な施政の犠牲者も多い。主人公、守孝は、普請金負担にあてる金を捻出するため、陰富興行に加担し流罪となった小普請組支配の父、斎藤金一郎に付き添って、八丈島に生きることになった若者である。閉塞された島で展開する愛憎の日々の中で、守孝は、青春を迎える…。

目次■第一章 文政四年(西暦一八二一年) 登竜峠・蝮・手拭い・竹槍・その顔南に/第二章 文政七年(西暦一八二四年) 雛形・受難・雪達磨・発心/第三章 文政十一年(西暦一八二八年) 櫟の実・折れた鋏・祝言/第四章 天保十二年(西暦一八四一年) 一字一石・去る者 残る者/参考文献/あとがき/解説 縄田一男/八丈島関係地図 磐広人

風流べらぼう剣―続 女泣川ものがたり―

★★★★
著者:都筑道夫


カバー:三井永一
解説:縄田一男
時代:天保の改革後。
舞台:深川・海辺大工町、富岡八幡宮。
(文春文庫・350円・1990/12/10第1刷・254P)
購入日:97/3/15
読破日:98/3/21

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ようやく、「女泣川ものがたり」の第二弾が読む機会がもてた。推理小説の分野で多くの著作をもつ都筑さんらしい時代小説。しかも、早逝した落語家を実兄に持ち、東京で生まれ育った作者らしく、物売りの声や本所・深川の土地鑑など、史料だけに頼らない皮膚感覚で江戸が伝わる作品に仕上がっている。
ダイイング・メッセージを扱った「深川めし」や幽霊話の「あばれ熨斗」、刺青(「ほりもの」と呼ぶ、「いれずみ」というと罪を犯したものに処せられる刑罰になると、都筑さんが別の著作の中で書いていたことがある)をテーマにした「やらずの雨」など、持ち味をいかんなく発揮している。
ひところ、都筑道夫さんの作品のほとんどが、角川文庫と講談社文庫から出されていたことがありました。その当時にまとめて読んだことが思い出されます。パズルを解くような論理のアクロバットが楽しめる作品ばかりでした。

物語●深川の岡場所で男の食いものにされた女たちの涙を集めてできた川だから女泣川。その深川は、小名木川近くの十二軒長屋を舞台に、隠し売女お関の「どうせ地獄なら鬼のいない地獄を」という夢を実現させるため、売女たちの用心棒となった旗本の若隠居左文字小弥太の活躍を描く連作集、第二弾。

目次■深川めし/あばれ熨斗/やらずの雨/猫じゃらし/麦藁へび/笑い閻魔/小弥太は死なず/解説 縄田一男

御宿かわせみ 春の高瀬舟

★★★★☆
著者:平岩弓枝


装丁:蓬田やすひろ
時代:万延元年(1860)三月〜十一月。
舞台:八丁堀、大川端、日暮里、柳橋、富岡八幡、御殿山、今戸。
(文藝春秋・1,095円・1998/3/10第1刷・252P)
購入日:98/3/14
読破日:98/3/19

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最近の平岩弓枝さんの作品の充実ぶり・安定感といったら目を見張るものがある。今回のかわせみの登場人物の出し入れの見事さなど感動的だ。
宿屋「かわせみ」における中心がすっかり千春に移ってしまった。なんとも微笑ましく、作品全体に柔らかいトーンを与えている。
迂闊なことに、神林東吾が斎藤弥九郎(幕末の三大剣客)の門下であったことに、この作品を読むまで気づかなかった。もう一度最初から読み直して作品のデータベースを作ってみたくなった。

物語●「花の雨」畝源三郎は、同役の最古参の同心から岡場所に入り浸る息子のことで相談を受けた…。「春の高瀬舟」江戸で屈指の米屋の主人が高瀬舟で古河から江戸に向かう途中、中継港の関宿で変死した…。「日暮里の殺人」かわせみの泊まり客が日暮里の寺で撲殺された…。「伝通院の僧」長助の知り合いの柳橋の蕎麦屋に、三日に一度は必ず坊さんが来るので気味悪がっているという…。「二軒茶屋の女」富岡八幡宮にある料理屋で、書画骨董の大掛かりな展示会が催された…。「名月や」かわせみに関わり合いのある棒手振の青物商と団子屋は…。「紅葉散る」東吾と麻生宗太郎は、義姉の香苗のお供で御殿山近くの旗本滝川大蔵の隠居所へ向かう途上、事件に遭遇した…。「金波楼の姉妹」るいの幼友達の和光尼(五井和世)のお琴の会が今戸の金波楼という料理屋で開かれた…。

目次■花の雨|春の高瀬舟|日暮里の殺人|伝通院の僧|二軒茶屋の女|名月や|紅葉散る|金波楼の姉妹

雑学「大江戸庶民事情」


著者:石川英輔


カバーデザイン:千代田朗
(講談社文庫・571円・1998/2/15第1刷・366P)
購入日:98/1/15
読破日:98/3/18

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「大江戸えねるぎー事情」「大江戸テクノロジー事情」「大江戸生活事情」「大江戸リサイクル事情」「大江戸泉光院旅日記」(いずれも講談社文庫)の大江戸事情シリーズのダイジェスト版といったところ。
具体的なデータと豊富な挿絵、短い文章でわかりやすく江戸の暮らしを紹介している。筆者のエネルギーの消費という視点からの江戸時代評価が伝わる。
江戸時代の時刻は、現在とまったく違うシステムの不定時法を使っていた。時計を持たずに目安は日の明るさという時代では、最も便利な時刻の計り方だったのである。一刻(いっとき)を約2時間と考えて、明け六つを午前6時と単純に考えていたが、実際には2月後半のわずかな期間にすぎなかった。「時代小説コラム」を訂正しなきゃ。

読みどころ●千両が一日で消えた芝居町、大工は四時間半働くだけで一日の手間賃を稼ぎ、魚屋は朝夕二度の仕入れで商いに励む。江戸の人口は、享保十八年に男100に対して、女57.6人、幕末でようやく同数になったという。毎日を楽しみながら生きる庶民の知恵と江戸の町の暮らしぶりをいきいきとよみがえらせる「雑学」の本。

目次■はじめに/職業(個性的/武士/職人/商人/女性/魚屋)|暮らし(生活白書/長屋/裏長屋/時/新春/あかり/暖房)|教養(識字率/寺子屋/ベストセラー/医学/写真/多才)|匠(水道/橋)|娯楽(歓楽街/遊里/芝居とスポーツ/遊山/花見/花火)|旅(東海道/道/飛脚/馬/日記)|心(ユートピア/お迎えお迎え/夜明け)|対談 下平利夫氏と|挿絵の出典|あとがき

海の螢―伊勢・大和路恋歌―

★★★☆☆☆
著者:澤田ふじ子


カバー装幀:蓬田やすひろ
解説:縄田一男
時代:五世紀から江戸時代まで。
舞台:伊勢・伊賀・大和。
(廣済堂文庫・524円・1998/3/1第1刷・265P)
購入日:98/2/28
読破日:98/3/17

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あとがきによると、月刊女性誌「ラ・セーヌ」(学習研究社)の1992年7月号〜1993年12月号に、400字詰原稿用紙16枚、1話完結、舞台は三重県と奈良県という、限定された条件下で書かれた短篇集。
五世紀の雄略天皇の時代や、聖徳太子、十世紀の章明親王の娘などから、戦国、江戸時代までいろいろな時代を取り上げており、作者の引き出しの多さを感じさせてくれる。雄略天皇というと、神話に近い世界で、安部龍太郎さんの「血の日本史」(新潮文庫)以外に読んだことがなかったので、新鮮だった。
個人的には「伊勢の椿」「菊の門」「磯笛の玉」が好きだ。

物語●「伊勢の椿」於根は、あぶな絵を画いたために狩野派を破門になった父に伴われて伊勢路村に移り住んでいた…。「多度の狐」美鹿村に住む貧農の娘お鈴は、不作続きのために両親から宿場女郎に売られることを打診された…。「神贄斎王」雄略天皇の娘稚足姫皇女(わかたらしひめみこ)は、父に対して批判的だった…。「やぶれ袋」甲賀に近い丸柱村。お千代の恋人の定七は、伊賀の上忍・藤林長門に仕える忍びであり、陶工の名人だった…。「海底の旗」いさの許婚・小弥太は、九鬼嘉隆の軍に徴用され、朝鮮に連れて行かれた…。「斑鳩の雨」そのとき聖徳太子は、四十八歳だった…。「寒夜の酒」興福寺東金堂の堂衆として仕える俊照は、木辻遊廓にいる幼馴染のかなのことが気がかりだった…。「菊の門」津藩士井沢弥兵衛と妻の登世は、姑の快気祝の茶会の準備のために嵯峨菊を求めに寺に出かけた…。「磯笛の玉」海女稼ぎをするお竹は、毎朝陰膳を一つ作っていた…。「父娘街道」赤福が名物の茶店に、奇妙な二人連れがやってきた…。「鬼桜」今井村の紺屋に働く伊佐は、型紙の売人に恋していた…。「哀しい宿」亀山宿に薬商の女子衆がやってきた…。「奈良の団扇」伊賀上野城下で雑貨屋を営む文蔵は、その年の団扇の仕入れで頭を悩ましていた…。「伊勢の聖」伊勢山田・寂照寺の住職月僊(げっせん)は、絵の巧者として知られていたが、「乞食月僊」と呼ばれていた…。「霧の中」関ケ原に近い古田村の村人たちは、東西両軍の激突の後に備えていた…。「海の蛍」お伊勢参りの旅客を載せた船が漂流していた娘を助けた…。「野宮の恋」済子女王は、潔斎の暮らしをするために、嵯峨野の野宮での生活をはじめた…。「炎の遷宮」安土城に、伊勢神宮の神官とその娘が信長への面会を求めてやってきた…。

目次■伊勢の椿|多度の狐|神贄斎王|やぶれ袋|海底の旗|斑鳩の雨|寒夜の酒|菊の門|磯笛の玉|父娘街道|鬼桜|哀しい宿|奈良の団扇|伊勢の聖|霧の中|海の蛍|野宮の恋|炎の遷宮|あとがき|解説 縄田一男

洛中の露―金森宗和覚え書―

★★★★
著者:東郷隆


装画:巻白
装幀:新潮社装幀室
時代:慶長二十年(元和元年)。
舞台:烏丸今出川御所八幡上半町。
(新潮社・1500円・98/1/20第1刷・305P)
購入日:98/1/20
読破日:98/3/14

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大河ドラマ「秀吉」でも登場したが、信長の家来に黒人がいるのがずっと不思議だった。その経緯がこの本を読んでわかった。ちなみに彼は、弥助という名前をもっていた。
そのほか、家康の伊賀越えと穴山梅雪の死の謎。古田織部正の反乱。大坂の陣をめぐる東西の駆け引き。など、興味深い事件を背後に扱っている。ちょうど茶室で交わされる武功や合戦譚のように。
また、幻術を扱った作品もあり、東郷さんの面目躍如といった感じで、ちょっと贅沢な連作小説となっている。
主人公は、金森宗和(かなもりそうわ)で当時三十二歳。飛騨高山城主金森可重の嫡男で、慶長十三年に従五位下飛騨守に叙せられるが、大坂冬の陣の最中に、突如廃嫡される。京の町衆灰屋甚助の計らいで、烏丸今出川御所八幡上半町に数寄屋を定めていた。家人はかつて乱波であった源五衛門ひとりだった。
茶人武将というと「花鳥の乱」(岳宏一郎著・マガジンハウス)で登場した、利休の七哲が有名だ。宗和は、これからというところで政治の表舞台を退いたために描かれなかったのであろう。

物語●「弥助」金森宗和は、仁和寺搭頭跡の竹薮に住む老人・おむく斎が信長所縁のものらしいとわかり、茶会に招いた…。「茶筅」都に風流踊りが流行る中、宗和は、茶筅売りを茶をふるまった…。「讃岐簾」宗和の家人源五衛門は、禁裏出入りの簾職人・讃岐の頼包のもとに、簾買いに行く途中で幻術にたぶらかされてしまう…。「鉄線蓮」宗和の母が拾った行き倒れの男が持っていたのは…。「共筒」宗和の茶仲間で関ケ原牢人・越智喜左衛門は、寺男を勤める友人を訪ね、洛南の寺で大工の中井家の所縁のものが難民になっているのを見かけた…。「白昼夢」宗和のもとに、金森一族の老僧の訪問を受けた。金森家の危機を救えといわれる…。「灰天目」宗和は交遊のある後藤又兵衛基次の持つ、灰被天目茶碗を借りるために…。

目次■弥助|茶筅|讃岐簾|鉄線蓮|共筒|白昼夢|灰天目|あとがき

謎の団十郎

★★★☆☆☆
著者:南原幹雄


カバーイラスト:蓬田やすひろ
カバーデザイン:蓬田やすひろ
時代:「初代団十郎暗殺事件」「死絵六枚揃」「油地獄団十郎殺し」嘉永六年〜安政元年。「伝説歌まくら」天明八年。
舞台:「初代団十郎暗殺事件」猿若町。「死絵六枚揃」本所柳島。「油地獄団十郎殺し」佐賀町。「長州を破った男」大坂今橋二丁目、萩。「伝説歌まくら」日本橋通油町「北国五色墨」湯島天神、吉原。
(徳間文庫・552円・98/2/15第1刷・346P)
購入日:98/2/7
読破日:98/3/12

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昔、戸板康二さんの作品で団十郎の怪死を扱った推理小説を読んだことがある。歌舞伎役者の中村雅楽(亡くなられた中村勘三郎さんがドラマでは演じていた)が探偵役だった。歌舞伎を一回も見たことがないくせに、どうも歌舞伎界を描いた芸道小説には惹かれるものがある。
最初の三作品は、八代目団十郎がキーを握る連作であるが、とくに「油地獄団十郎殺し」は、作者ならではの趣向が詰まっていて面白い。
「長州を破った男」は、大坂の豪商鴻池の力と、ルーツを描いた、南原さんの得意のネタ。
後の二編は、歌麿のモデルたちを通して、歌麿像に迫る一種の芸道もの。読んでいるうちに実際の画が見たくなった。朝日新聞社から本が出ているようなので買おうかなあ。

物語●「初代団十郎暗殺事件」舞台上で、出演者に殺された初代団十郎殺人事件の謎に、八代目の団十郎が挑む…。「死絵六枚揃」歌川派の絵師国房は、死絵をやっているために苦労が絶えない…。「油地獄団十郎殺し」団十郎のスポンサーの一人の油問屋遠州屋八十吉は、上方からの油の供給を止められ窮地に…。
「長州を破った男」長州藩主毛利大膳太夫吉元の参勤交代の一行は、鴻池市兵衛からの資金提供を止められ、京で立ち往生していた…。
「伝説歌まくら」売れっ子芸者の富本豊雛は、お金に惹かれて駆け出し絵師の歌麿のモデルとなった…。「北国五色墨」湯島天神の水茶屋の娘おゆきは、同じ歌麿の描いた団扇絵のモデルに選ばれた浅草随身門の水茶屋の娘おきたをライバル視していた…。

目次■初代団十郎暗殺事件|死絵六枚揃|油地獄団十郎殺し|長州を破った男|伝説歌まくら|北国五色墨|解説 菊池仁

futo 風刀―武季と紅燕―

★★★☆☆
著者:藤水名子


装画:吉野朔美
装丁:菅沼画
時代:唐・安禄山の乱の前。
舞台:幽州・陽華里。易水のほとり。
(集英社文庫・476円・98/2/25第1刷・223P)
購入日:98/2/21
読破日:98/3/5

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久々に中国ものを読む。宮城谷昌光さんの作品も読みたいところだが…。
ローマ字がタイトルに入っている中国時代小説って初めてじゃないだろうか?
ともかく、肩の凝らない、気安く読める一冊。長編を読んだ後などには心地いい。タイトルにも入っている武季と紅燕の二人が爽やか。堂本剛とともさかりえの、金田一少年コンビをイメージしながら読んだ。作者によると、武季は、デビュー当時の吉田拓郎(今やLOVE LOVE 愛してるのかわいいおじさん)か石橋正次(「夜明けの停車場」という曲があった)をイメージしてつくったキャラクターだそうだ。
幽州刺史の鄭徳の描き方がもったいない。

物語●易水(えきすい)のほとりの小さな町、陽華里で、童顔の風来坊・武季(ぶき)は、唐の都・長安で人気の女軽業師・紅燕と思いがけなく再会する。大天閙(だいてんどう)と呼ばれる武季は、行く先々で喧嘩や殺傷騒ぎを起こしたお尋ね者。紅燕(こうえん)の旅の一座は、洛陽の金持ちに、新しく平蘆(へいろ)節度使になった安禄山への贈り物を運ぶ途中だった…。

目次■プロローグ/1・再会の街角/2・刺史からの誘い/3・その夜――/4・易水寒く……/5・暁の死闘/6・秋冷/7・惜別風/あとがき

鳴門秘帖(一)〜(三)

★★★★
著者:吉川英治


装画:佐多芳郎
装丁:熊谷博人
時代:明和四年(1767年)
舞台:大坂渡辺町、住吉村。江戸本郷妻恋、駿河台。木曽・もちの木坂。剣山ほか。
(講談社 吉川英治歴史時代文庫・各641円・一:89/9/11第1刷、96/1/25第十二刷・429P、二:89/9/11第1刷、96/1/10第十一刷・443P、:89/9/11第1刷、92/2/24第四刷・427P)
購入日:97/11/15
読破日:98/3/4

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昔、田村正和さんの主演で、NHKでドラマ化(当時は時代小説のよさがわからずに見逃しているが)されて以来、ずっと気になっていた古典的名作をやっと読むことができた。読む前はなぜかダシル・ハメットの「マルタの鷹」の時代小説版と想像していたが…。
この物語の背景には、宝暦七〜九年の竹内式部、山県大弐らによる討幕の動き(宝暦事件)がある。そして、阿波徳島の藩主・蜂須賀重喜(しげよし)をその黒幕として設定している。
講談調の文体に、なかなか読むリズムがつかめなくて往生したが、ようやく慣れた二巻めの中盤から加速度をつけて面白さが増した。新聞連載用に書かれたもの(高橋克彦さんは、実際に原稿用紙に書き写して、新聞の原稿量を体得したそうだ)らしく、一定周期でヤマ場があって、グングン引き込まれる。
主人公の法月弦之丞は、戸ヶ崎夕雲に師事した夕雲流(せきうんりゅう)の剣士として描かれている。この夕雲流と、「三鬼の剣」(鳥羽亮・講談社文庫)や「江戸は廻燈籠」(佐江衆一・講談社)で描かれる、針ヶ谷夕雲を流祖とする無住心剣流(むじゅうしんけんりゅう)は、同一のものだろうか。創始者の姓と作品の中での描かれ方が違っているが、その本質は同じように思われる。
ともかく、忍びではない、本格的な隠密剣士ものというのは、南原幹雄さんの作品以外あまりないので貴重だ。
ドラマ化するなら、こんな配役でどうだろうか。
法月弦之丞(木村拓哉)、見返りお綱(松たか子)、お十夜孫兵衛(豊川悦史)、旅川周馬(草なぎ剛)、天堂一角(宍戸開)、竹屋三位卿(松岡昌宏)、蜂須賀重喜(寺脇康文)、目明かし万吉(きたろう)、常木鴻山(渡哲也)、お千絵(松本恵)、森啓之助(稲垣吾郎)、川長のお米(中谷美紀)、お久良(萬田久子)、甲賀世阿弥(松本幸四郎)

物語●他国者入れない鎖国を続ける阿波国に潜入した幕府隠密・甲賀世阿弥(よあみ)が消息を絶って十年。家名断絶を目前にして、悲嘆にくれる娘お千絵を見かねて、お千絵の乳母の兄・唐草銀五郎と子分の待乳(まつち)の多市が阿波入国を図るが…。
阿波・蜂須賀家と幕府の暗闘。虚無僧姿の法月(のりづき)弦之丞、怪人お十夜(じゅうや)孫兵衛、女スリの見返りお綱ら、多彩な登場人物が関わり、話はもつれにもつれる。

目次■(一)上方の巻/江戸の巻/註解/「鳴門秘帖」の思い出 原田伴彦/鳴門秘帖の旅 黒部亨|(二)江戸の巻(つづき)/木曽の巻/船路の巻/註解/なんという偶然 高橋克彦/スパイ小説としての「鳴門秘帖」 向井敏|船路の巻(つづき)/剣山の巻/鳴門の巻/関連図/註解/吉川先生との巡り合い 東山魁夷/大衆文学の記念碑的作品 磯貝勝太郎

青嵐の馬

★★★★
著者:宮本昌孝


装丁:南伸坊
時代:「白日の鹿」弘治二年。「紅蓮の狼」天正四年。「青嵐の馬」慶長五年。
舞台:「白日の鹿」尾張愛智郡。「紅蓮の狼」武蔵国忍。「青嵐の馬」浜松、三方ケ原。
(文藝春秋・1714円・98/2/20第1刷・314P)
購入日:98/2/19
読破日:98/3/1

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宮本さんのよさというと、何といっても読み味のよさだ。読了感をよくしているのは、魅力的に描かれる主人公によるところが大きい。本書では、信長・秀吉・家康といった戦国の世を制覇した巨人たちと関わりをもち、魅了した三人の男女が、三つの中編に描かれている。
「白日の鹿」の勝子、「紅蓮の狼」の甲斐姫、「青嵐の馬」の久太郎のいずれも、宮本作品でおなじみの純真一途でけれん味のないヒロイン・ヒーローだ。
3話の中では、「紅蓮の狼」が一番印象的だ。風魔小太郎や上泉信綱らも登場する。

物語●「白日の鹿」信長に叛旗を翻した、織田勘十郎信行が立て篭もる末盛城。その勘十郎に仕え、寄せ手の鯨波の声に動揺する城内の女たちを鼓舞するのは、牝鹿を思わせる戦支度の乙女・勝子だった。勝子は、白皙美男の近習・津田八弥を柔弱者と軽侮していた…。
「紅蓮の狼」忍城に姫が生まれた。父は成田下総守氏長で母は太田三楽斎資正の娘北の方である。生まれたばかりの母子に抜き身の短刀を向けるのは、姉姫の甲斐であった…。
「青嵐の馬」二万五千石を領する松平忠頼は、伯父の家康より、保科久太郎を預かるように命じられた。久太郎は、信濃国高遠の保科正直の四男で、忠頼と生母を同じくする十三歳下の弟で、兄弟の生母の多劫(たけ)は、家康の異父妹だった…。

目次■白日の鹿|紅蓮の狼|青嵐の馬