新・極楽の読書録
1998年1月・睦月の巻

漆の実のみのる国 上・下 by 藤沢周平
龍馬慕情 by 加野厚志
吉原御免状 by 隆慶一郎
孤島物語 by 白石一郎
江戸は廻灯籠 by 佐江衆一
金沢城嵐の間 by 安部龍太郎
泣きの銀次 by 宇江佐真理
夢魔の森 by 小沢章友
芋奉行 青木昆陽 by 羽太雄平
付き馬屋おえん 暗闇始末 by 南原幹雄
今昔おかね物語 by 神坂次郎
陋巷の狗 by 森村南
くノ一忍法帖 by 山田風太郎


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

くノ一忍法帖

★★★★☆
著者:山田風太郎


カバー装画:百鬼丸
カバーデザイン:熊谷博人
解説:岸田理生
時代:元和元年七月
舞台:駿府、江戸ほか。
(富士見書房・時代小説文庫・620円・93/9/10第1刷、97/4/1第4刷・320P)
購入日:97/12/6
読破日:98/1/23

Amazon.co.jpで購入[文庫版あり=『くノ一忍法帖―山田風太郎忍法帖〈5〉』(講談社文庫)]

この作品が書かれたのは、1960年(ぼくの生まれる前)。ちょっとHっぽくスプラッターな描写と、奇想天外のストーリー展開が斬新。もっとも、今なら出来がいいVシネマになってしまうかも。
「くノ一」とは、「女」という字を分解したもので、山田風太郎さんが発明者らしい。5人のくノ一と伊賀鍔隠れの忍者5人の対決が圧巻。
脇役の長曾我部盛親の寡婦丸橋と竹千代(のちの家光)の乳母阿福の描き方が面白い。千姫をはじめ女性陣が輝いている。「エロ・グロ・ナンセンス」と呼ばれかねない作品だが、不思議と読了感が心地よい。

物語●夏の陣で、落城目前の大阪城で、真田幸村は、配下の五人の女忍者に、秀頼の子種を胎内に残すように命じた…。
千姫の侍女の中に、豊臣家の胤を宿したものがいるということを知った家康は驚愕し、伊賀の服部半蔵を呼んだ。こうして真田の命を受けた信濃忍者と伊賀忍者とのすさまじい性戦が始まった…。

目次■忍法「くノ一化粧」/忍法「天女貝」/忍法「やどかり」/忍法「筒涸らし」/忍法「百夜ぐるま」/忍法「鞘おとこ」/忍法「人鳥黐」/忍法「羅生門」/忍法「夢幻抱影」/解説 「くノ一忍法帖」のこと 岸田理生

陋巷の狗(ろうこうのいぬ)

★★★☆☆
著者:森村南


装幀:芹澤泰偉
イラストレーション:林田洋一
コラージュ・枠の絵:絵師金蔵(絵金)作の芝居絵5点より部分
時代:元治元年(1865)正月二十五日
舞台:京、伏見ほか。
(集英社・1165円・97/1/11第1刷、97/2/28第3刷・206P)
購入日:97/9/28
読破日:98/1/21

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第9回小説すばる新人賞受賞作。著者は受賞当時、大阪芸術大学在学中だった。
帯には「ジャンプ世代の感覚で描き切った強烈弾。…」と書かれていて、ジャンプ世代というのが気になった。まあ、出版元が集英社ということもあるかもしれないが…。
本書を読みながら、京極夏彦さんの「嗤う伊右衛門」が思い出されてならなかった。
坂本竜馬のボディガードを務める主人公・朱楽萬次がどうしても反町隆史(またはTOKIOの長瀬智也)のイメージがしてしまう。しかも、その他に「人斬り以蔵」こと土佐浪人・岡田以蔵と、沖田総司が登場するのだから…。また、新撰組の原田左之助がおいしい役をやっている。
装幀・デザインが新鮮。これがジャンプ世代か。

物語●坂本竜馬は、北野天満宮の初天神の賑わいの中で、沖田総司を含む四人の新撰組に囲まれた。あわやというところで、竜馬の前に助けに入ったのは、用心棒・朱楽萬次(あけらまんじ)だった。朱楽は、茶けた髪を総髪に結い、色白く、目も覚めるような優男で、まだ十七、八歳ぐらいで、まだ少年だったが、すでに人斬りに手を染めていた。

目次■一 初天神/二 人斬り陰陽/三 修羅破/四 殺陣寺田屋/五 地獄果輪廻恋路之都(じごくのはてわこいじのみやこ)

今昔おかね物語

★★★☆☆
著者:神坂次郎(こうさかじろう)


カバー装幀:村上豊
解説:興津要
(新潮文庫・388円・94/7/1第1刷・259P)
購入日:97/9/23
読破日:98/1/18

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筆者は、「元禄御畳奉行の日記」でおなじみ。どうも江戸時代のお金の換算法が掴めずに、本書を読んでみることにした。(なかなか時代小説コラムが書けないのも、実はお金の話がしたかったからです)
個人の趣味から言うと、全編江戸時代以前のお金の話にしてもらえたら、もっと良かったのだが…。しかし、一段読み終わると思わずニヤっとしていまう筆致は、興味を先へ先へと引っ張ってくれる。

読みどころ●古今東西(第七十五段以降は海外もの)のお金に振り回される悲喜劇と、そこに描かれる人間性を、おもしろくちょっと哀しく描く、神坂版「今昔物語」。

目次■序段 江戸の単身赴任者/第一段 ヘソクリの馬/第二段 陣借り牢人/第三段 浮気の値段表/第四段 逆境≠買う/第五段 死神の支払証文/第六段 猫ばばの代金/第七段 芝浜/第八段 忍者たちの正月/第九段 情けは人の為ならず/第十段 金もうけ舌先三寸で/第十一段 花見女と臭い話/第十二段 換算法/第十三段 虱と盗賊/第十四段 成金ナンバー・ワン/第十五段 富くじ騒動/第十六段 狸がくれた金/第十七段 百七十両の櫛/第十八段 借金あれこれ/第十九段 元禄の貧乏男/第二十段 雁が運んだ財布/第二十一段 秀吉の大盤振る舞い/第二十二段 山賊がくれた十五両/第二十三段 橋上の聖者/第二十四段 高利貸しの車婆/第二十五段 竹ノ子婆/第二十六段 サムライの赤字家計簿/第二十七段 娘売り美談/第二十八段 千両箱の話/第二十九段 一両の墓/第三十段 ちょっとした誇張/第三十一段 鯨と仙人/第三十二段 後家女房の智恵/第三十三段 馬小屋の熊楠/第三十四段 けったいな親分とおかしな子分/第三十五段 夜光るキノコ/第三十六段 糞尿代三万両/第三十七段 八助の辞世/第三十八段 富豪になるための家訓/第三十九段 ホーデン買います/第四十段 家紋は銭/第四十一段 借金踏み倒し公認の法令/第四十二段 この髭三十両/第四十三段 とうせき藤兵衛/第四十四段 妄執/第四十五段 道中師と僧/第四十六段 怪盗・東海佐市/第四十七段 カネのなる木/第四十八段 風に乗った怪盗/第四十九段 分限者と長者と金持ち/第五十段 与三右衛門出世/第五十一段 黄金伝説/第五十二段 トタンの飛脚/第五十三段 一万両の茶人/第五十四段 金銀かんちがい/第五十五段 茶碗騒動/第五十六段 ふんどし成金/第五十七段 欲なし四郎兵衛/第五十八段 わたくし日和/第五十九段 カネをつかむ話/第六十段 金持ちになる妙薬/第六十一段 銭とサムライ/第六十二段 酔いどれ医者・原南陽/第六十三段 江戸っ子の糞尿代/第六十四段 猫ばばとニセ金/第六十五段 怪力女のヘソクリ/第六十六段 銭の降る夜/第六十七段 不運な男/第六十八段 役得の心得/第六十九段 ルソンの壷/第七十段 銭ゲバ豪傑/第七十一段 さむらい株式会社/第七十二段 ゼニを積む話/第七十三段 腹ぺこ戦士/第七十四段 扇子の使い方/第七十五段 ポカンチコ・ヒルズのジョン/第七十六段 ウィッティントンの猫/第七十七段 怪盗マッシュ/第七十八段 陶の朱公/第七十九段 三つ金玉の傭兵隊長/第八十段 食客ふうけん/第八十一段 餞別の稼ぎ方/第八十二段 夢の中の声/第八十三段 舌先三寸/第八十四段 黄河の花嫁/第八十五段 一切向銭看/第八十六段 剣と美女と馬車/第八十七段 トルコ勘定/第八十八段 死馬の骨を買う/第八十九段 晩香坡まで十五銭/第九十段 怪盗・我来也/第九十一段 釈迦のマネービル/第九十二段 夢が呉れた金/第九十三段 お金の唄/解説にかえて 興津要/カット 村上豊

付き馬屋おえん 暗闇始末

★★★★
著者:南原幹雄


カバー:原田維夫
解説:金田浩一呂
時代:天保初年
舞台:浅草田町、吉原、聖天町、深川・島田町、小舟町・中ノ橋、新川ほか。
(新潮文庫・466円・88/9/25第1刷、92/4/10第4刷・342P)
購入日:97/10/30
読破日:98/1/16

Amazon.co.jpで購入[角川文庫版あり]

ここまで凄いピカレスク・ヒロインは始めてである。ヒロインのおえんは、いわば風俗店で遊んだ金を払わない客を対象にした取り立て屋である。遊興代を踏み倒すような、一癖も二癖もある海千山千の相手に対して、20代の初めの小町娘が挑む構図が新鮮。以前、TVで山本陽子さんがおえんを演じていたが、原作のイメージとちょっと違う気がする。
連作形式なのでで、貸し金を払わない客たちがいずれも個性的で(凄く悪い奴ばかりで)面白い。また、おえんの対抗手段もどんどんエスカレートする。
おえんは、特製の鉤縄を携帯武器にしていたが、もう一つの武器は美貌と若い体だった…。

物語●田町小町といわれた美人娘のおえんは、やむにやまれぬ事由から父の跡を継いで、馬屋の主となる。馬屋とは、吉原での遊びの代金を払わない客から店に代って貸し金を取りたて屋である。強談して埒があかなければ、一日もあかさずつきまとい、目的のためには脅し、誘拐、拷問もいとわないし、命を狙われる危険もともなう稼業である。

目次■第一話 付き馬屋おえん/第二話 爪の代金五十両/第三話 暗闇始末/第四話 鉤縄地獄/第五話 かまいたち/第六話 新造あらし/第七話 首吊り女郎/第八話 はらみ文殊/解説 下からの美学 金田浩一呂

芋奉行 青木昆陽

★★★★
著者:羽太雄平(はたゆうへい)


装幀:熊谷博人
装画:堂昌一
時代:元文五年(1740年)
舞台:外神田・井伊兵部小輔上屋敷、日野、八王子ほか。
(光文社・1720円・97/5/30第1刷・279P)
購入日:97/12/28
読破日:98/1/15

Amazon.co.jpで購入[文庫版あり]

青木昆陽の名前は、小学校の頃に何かの本で読んだのだが、その当時なぜ、サツマイモの栽培をすることが偉いことなのかわからなかった。まあ、江戸時代の偉人のはずなのだが、時代小説に描かれることはほとんどなかった。
本編はその昆陽さんが主人公なのだが、四十過ぎで独り者で、これがいたって風采があがらない。顔は天然痘の発疹のあとがブツブツ残り、里芋や山芋に似ていて、そのためにも「いも先生」と呼ばれている。
その「芋奉行」と、古書探しの旅に出る相棒が、御庭番の村垣左吉と、旗本の用心の次男坊で剣の名手、松浦慎次郎だ。道中での三人の掛け合いが楽しい。

物語●青木文蔵(昆陽)は、大岡越前守忠相に認められ、甘藷(さつまいも)の栽培に成功した。町人(魚問屋の倅)から学者、公儀の役人に出世し、人々は彼を「甘藷先生」とか「芋奉行」と呼んでいた。今回、文蔵が大岡忠相に新たに命ぜられた仕事は、諸国に埋もれた古書、古記録、古文書の類を探すことだった。紙魚のような書物好きの文蔵には願ってもない務めなのだが…。

目次■蜜の味/草鞋を履いた花嫁/碁石金/目隠し観音/三日血川/甲州遺金/阿蘭陀いろは

夢魔の森

★★★☆☆
著者:小沢章友(おざわあきとも)


カバー:百鬼丸
時代:永承三年(1048年)、正暦五年(994年)
舞台:京一条土御門館、六条万里小路、二条堀河、五条傀儡館、三条坊門ほか。
(集英社文庫・457円・97/10/25第1刷・251P)
購入日:97/10/21
読破日:98/1/14

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平安時代というと、百鬼夜行が当たり前のように登場し、それに対抗すべく、陰陽師が確固たる地位をもつ、現代から見るとフィクション性の強い時代である。そんなわけで、江戸小説に慣れた眼で見ると、何でもありありの世界である。というわけで、幻想時代小説のかっこうな時代設定となるのだが、ぼく自身は想像力が欠けているせいか、幻想小説というと、どうも消化不足に陥ってしまう。
「あとがき」によると、当初、独立した2つの短編「夢魔の森」と「羅城門の鬼」の形で「小説すばる」に発表されたものを大幅に加筆して、1つの長編にしたものである。「羅城門の鬼」の巻は、典明の祖父の龍明が主人公を務めている。土御門一族と夢魔との闘いを描く本書は、龍明〜鏡明(典明の父)〜典明〜飛狼丸と活躍していく。そして次の作品の「闇の大納言」では、飛狼丸改め、狼明が主役になり、この後の最終作では狼明の子、晴明が登場するらしい。ウーン、ファンには堪えられないかもしれない。
ちなみに土御門家の象徴である五芒星というと、水蓮星、金耀星、火翼星、木笛星、土王星をいう。また、北斗七星は、貪狼星、巨門星、禄存星、文曲星、廉貞星、武曲星、破軍星。そういえば、北方謙三さんの作品に「破軍の星」というのがあった。

物語●八角堂夢殿の床で眠る孔雀院は、得体の知れない病にかかり、生気を失っていた。陰陽師土御門典明は、土御門家に伝わる秘術の糸息術を施して、孔雀院の夢の中へ入り込み、そこで彼が見た夢魔の正体とは…。土御門一族と夢魔の戦いを描く王朝幻想ロマン。

目次■巻の序 糸息術 永承三年水無月三日子の刻/巻の一 五芒星 同年同月十五日戌の刻/巻の二 吸魄鬼 正暦五年水無月三十日酉の刻/巻の三 妖月光 永承三年水無月十六日卯の刻/巻の四 白猿首 同年同月同日酉の刻/巻の五 導血糸 同年同月十七日卯の刻/巻の六 鏡面界 同年同月同日 戌の刻/巻の七 転生魂 同年同月同日 亥の刻/巻の終 透光風 同年同月十八日卯の刻/あとがき/解説 縄田一男

泣きの銀次

★★★★☆☆
著者:宇江佐真理(うえざまり)


装画:百鬼丸
装幀:丸尾靖子
時代:寛政九年
舞台:八丁堀・地獄橋、小伝馬町、御徒町、深川浄心寺ほか。
(講談社・1600円・97/12/15第1刷・274P)
購入日:97/12/14
読破日:98/1/13

Amazon.co.jpで購入[文庫版あり]

最近、女性作家の活躍が目立つが、時代小説界も例外ではない。作者の宇江佐さんは、「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞し、直木賞候補にもなっている。本作は初の書き下ろし長編。
文句なしに面白かった。主人公の銀次の設定がいい。もとは小間物問屋坂本屋の長男だったが、妹が非業の死を遂げてからその犯人を捕まえるために岡っ引きになった変わり種。かつては吉原細見と首っ引きで、遊女の品定めをしていっぱしの通人を気取っていた。脇を固める登場人物もまた、うまく書き込まれている。もと深川の料理屋平清で修業した下っ引きの政吉、銀次を陰日なたなく支える実家の坂本屋の番頭卯之助、北町同心・表勘兵衛と息子の慎之介、幼馴染で湯屋の音松、老岡っ引き弥助とその娘で坂本屋で働くお芳など、いずれも個性的である。
ディテールがちゃんと書かれていて、ストーリー展開も巧みで、次回作が期待できる。

物語●八丁堀、地獄橋近くの裏店に住む岡っ引きの銀次は、死体をみると泣き出してしまう癖があった。それは、十年前に習い事の帰りに襲われ身ぐるみを剥がされて乱暴されて大川端に捨てられた妹のお菊の死体を見てからだった。
ある朝、下っ引きの政吉が銀次の家へやってきた。大川に若い女の土左衛門があがったという。「泣きの銀次」と呼ばれる若手岡っ引きの推理は冴えるか!? 目次■なし

金沢城嵐の間

★★★☆☆☆
著者:安部龍太郎


装丁:西のぼる
時代:「残された男」慶長二十年。「伊賀越えの道」慶長十三年。「義によって」慶長十七年。「金沢城嵐の間」慶長七年。「萩城の石」慶長十年。「生きすぎたりや」慶長九年。
舞台:「残された男」筑後柳河。「伊賀越えの道」伊賀上野。「義によって」越前北ノ庄。「金沢城嵐の間」金沢。「萩城の石」萩・指月山。「生きすぎたりや」豊前中津。
(文藝春秋・1600円・97/8/30第1刷・251P)
購入日:97/11/9
読破日:98/1/12

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世田谷文学館で開かれた「時代小説ヒーローたち展」の安部龍太郎さんと縄田一男さんの対談を見に行って、購入した一冊。対談終了後、安部さんからサインもいただいた。墨痕鮮やかな筆跡が作者の作品のイメージと合致していた。
うかつにも読みはじめるまで、短篇集とは気づかなかった。いずれも関ケ原の戦い直後の、武士たちの生き方・死に方を描いているので、作品集としての統一感はある。
関ケ原の戦い〜大阪の陣にかけて、徳川政権は全国の大名に対して、さまざまな圧力をかけ、その牙を抜き、従わせてきた。そんな中であちこちでいろいろな事件が起きていたことは容易に想像できる。取り潰された藩も生き残った藩もあり興味深かった。

物語●「残された男」藤崎六衛門は、筑後藩主田中忠政の勘気を被り蟄居させられていた…。「伊賀越えの道」中坊飛騨守秀祐は、茶屋帰りに黒装束の男に襲われた…。「義によって」大木十左衛門は、罪を犯した重臣久世但馬守の足軽を追っていた…。「金沢城嵐の間」前田家一番家老太田但馬守長知は、変装して街で隠れ遊びをしていた…。「萩城の石」関ケ原の戦いでの敗戦により、減封された毛利家は新たなる居城を築くことになった…。「生きすぎたりや」細川家の重臣長岡肥後守宗信の妻、花江は夫を疎み、幼い娘を邪険して、道場通いをしていた…。

目次■残された男|伊賀越えの道|義によって|金沢城嵐の間|萩城の石|生きすぎたりや

江戸は廻灯籠

★★★★☆☆
著者:佐江衆一


装画:東啓三郎
装丁:熊谷博人
題字:佐江衆一
時代:文政のはじめ
舞台:元鳥越、小梅町、根津門前町、不忍池之端、三味線堀、道灌山ほか
(講談社・1600円・97/5/25第1刷・269P)
購入日:97/10/3
読破日:98/1/11

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昔TVで深夜に観た、1着の礼服がいろいろな人々の手をめぐりめぐって、一連のドラマを紡ぐというオムニバス形式のフランス映画を思い出した。監督はジュリアン・デヴィヴィエだったと思う。
で一つの作品の脇役やちょっとした風景が次の作品では主役や主な風景になる小説、「あとがき」で作者は連鎖小説または円環小説と名付けている。まさに廻灯籠である。作者の類稀な職人的な腕の冴えとエンタテイメント気質を見せた作品である。
また、各話ごとに主人公が異なることにより、市井人情ものだったり、剣客ものだったり、はたまた鬼平を彷彿させる盗賊ものだったりと、いろいろな種類の時代小説が一冊の中で味わえるお得な一冊。

物語●屋根職人の留八は、新築の隠居所の屋根仕事をしていたが、頭の中は、苦境にある倅を救うために五十両の算段にとらわれっていた。留八の倅、吉蔵は呉服屋に奉公して番頭になっていたが、店の金に手をつけたという…。
屋根職人、剣士、銀細工師、盗賊、目明し、大店の隠居…。八百八町の片隅で懸命に生きぬく人々を鮮やかに描く、連作短篇集。

目次■縁の五十両/落花一輪の剣/いぶし銀の雪/いぬふぐり/千住大橋五月闇/風の鬼灯/老木の花/あとがき

孤島物語

★★★★
著者:白石一郎


カバー装画:佐藤三千彦
解説:藤田昌司
時代:「江戸山狼」安永七年。「鳥もかよわぬ」慶長五年。「三年奉公」文化元年ごろ。「金印」天明四年。
舞台:「江戸山狼」佐渡・相川。「鳥もかよわぬ」堺。「三年奉公」五島列島・嵯峨ノ島。「金印」志賀島。「悪童」能島。「倭館」対馬、釜山。「入墨」隠岐島。
(新潮文庫・705円・98/1/1第1刷・251P)
購入日:97/12/28
読破日:98/1/7

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海洋時代小説の第一人者、白石さんの面目躍如の一冊。海と孤島に生きる人間たちのドラマ7編を収録したのが本作品。
五島藩第二十五代藩主・五島盛道の定めた悪法“三年奉公”制を描いた「三年奉公」、志賀島の金印発見をめぐる事件を「金印」、米を朝鮮に依存している対馬藩の苦悩を背景にした「倭館」など、そのディテールが面白い作品が多い。

物語●「江戸山狼」佐渡・相川の金銀山へ“江戸山狼”と呼ばれる無宿人たちがやってきた…。「鳥もかよわぬ」関ケ原の戦いに敗れた宇喜多秀家と残された家族・家臣たちの物語。「三年奉公」嵐の後、若い漁師は田舟で漂着した半死半生の娘を助ける…。「金印」志賀島の農民が漢委奴国王の金印を発見した…。「悪童」ガキ大将が庄屋の娘をいたずらして田舟に乗せてしまう…。「倭館」釜山の倭館に赴任した代官がみたものは…。「入墨」隠岐島の流人がある日、小舟で漂着した男女を発見して助ける…。

目次■江戸山狼 佐渡島|鳥もかよわぬ 八丈島|三年奉公 五島列島|金印 志賀島|悪童 能島|倭館 対馬|入墨 隠岐島/解説・藤田昌司

吉原御免状

★★★★☆☆☆ [再読]
著者:隆慶一郎


カバー:西のぼる
解説:磯貝勝太郎
時代:明暦三年(1657)年八月十四日
舞台:吉原周辺、柳橋ほか。
(新潮文庫・544円・89/9/25第1刷、97/1/10第24刷・429P)
購入日:97/6/20
読破日:98/1/5

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「かわら版」にも書いたが、今年は、隆慶一郎さんの作品をもう一度読み返してみたいと思っている。ぼくが時代小説の面白さを初めて知ったのは、池波正太郎さんの作品のキャラクターたちのせいである。時代小説の深さを知ったのは、藤沢周平さんの作品に出合えたおかげである。そして、時代小説の自由さ、新しさを知り、ハマッてしまったのは隆さんの作品があったからだ。
そんな隆さんの作品の中でも、「吉原御免状」はもっとも思い入れ深い一冊である。衝撃的でさえある。写楽の浮世絵を見た江戸の町人たちもこんなだったのかもしれない。
時代小説に独自の史観(網野善彦さんの歴史学がベースになっている)を持ち込み、虚構の中でその史観を再構築してみせる。なんて書くと、難しそうに聞こえるが、エンターテインメント性たっぷりにわかりやすく読ませてくれるのである。本当に頭が下がる。
再読してみて気が付いたのだが、吉原内の地図と周辺の地図が挿入されていた。これは、時代小説を読むときに大いに参考になる。

物語●明暦三年、二十六歳の松永誠一郎は、師の宮本武蔵の遺言により、肥後より江戸・吉原へ庄司甚右衛門を訪ねて行った…。奇しくもその日は、新吉原の営業初日だった。誠一郎は、そこで謎の老人・幻斎に親切にされるが、知らず知らずのうちに柳生一族と吉原の抗争に巻き込まれることになる…。

目次■日本堤/みせすががき/仲の町/水戸尻/待合の辻/大三浦屋/亡八/皇子暗殺/首代/猪牙/初会/鼓/野分/大和笠置山/土手の道哲/三ノ輪/御免色里/馴染/おしげり/中田圃/柴垣節/八百比丘尼/傀儡子一族/紀州攻め/苦界/大鴉/影武者/関ケ原/北西航路/杜鵑/勾坂甚内/三州吉良/樹々の音/勝山最期/凍鶴/傀儡子舞/歳の市/後記/解説 磯貝勝太郎

龍馬慕情

★★★★
著者:加野厚志(かのあつし)


カバー:相良常廣
AD:スタジオ・ギブ
解説:縄田一男
時代:慶応二年(1866)年
舞台:京・伏見、長崎、長府、土佐、江戸・本郷筋蓬莱町ほか。
(集英社文庫・705円・97/12/20第1刷・378P)
購入日:97/12/14
読破日:98/1/3

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リョウマについて、その表記がずっと気になっていた。司馬作品の印象が強いせいか「竜馬」だと思っていたが、どうやら「龍馬」という方が正しいらしい。司馬さんはフィクション性を強調するためにあえて「竜馬」にしたとのこと。
さて、その龍馬の暗殺についてであるが、縄田さんの解説によると、「別冊歴史読本 完全検証・龍馬暗殺」では、暗殺の真相を8つに絞ってあげている。本書では、そのどれにも該当しない答えを用意している。
あとがきで作者の加野さんは「お龍に惚れた。それが執筆の動機のすべてである」と書 いている。そのとおり、本作品ではお龍の眼を通して龍馬や友人の三吉慎蔵らがビビッドに描かれている。単なる時代ミステリーではなく、恋愛小説のカラーも濃く、最後まで面白く読ませてくれる。最新作「鮫」は、本作品の姉妹編らしい、ぜひ読んでみたい。

物語●慶応三年十一月十五日、京・三条の醤油商近江屋の二階で、坂本龍馬と中岡慎太郎が何者かの凶刃に倒れる…。幕末最大のミステリーといわれる、龍馬暗殺事件の真犯人を追い求めて、龍馬の愛妻・お龍が西へ東へ…。

目次■一章 寺田屋襲撃/二章 やすらい花/三章 遥かなる旅路/四章 二人の女/五章 洛中に死す/六章 雪割草/七章 土佐の潮風/八章 伏見哀歌/九章 新都/十章 奈落の燈/十一章 月の桂/終章 決闘/あとがき/解説・縄田一男

漆の実のみのる国 上・下

★★★☆☆☆
著者:藤沢周平


装画:歌麿「画本虫撰」より(国立国会図書館所蔵)
時代:宝暦十二年(1762)年
舞台:外桜田御堀通り米沢藩江戸藩邸、米沢ほか。
(文藝春秋・各1714円・各97/5/20第1刷、上97/7/15第10刷、下97/10/20第12刷・上250P、下267P)
購入日:97/12/18
読破日:98/1/2

Amazon.co.jpで購入[文庫版あり]

年末年始を迎える本として、どうしてもこの本が読みたかった。97年に亡くなった藤沢周平さんの遺作(完結しているのが嬉しい)であり、書評等でも好評であり、また正月2日に、童門冬二さんの原作の方だが、「上杉鷹山」がNHKでドラマ化されるということもあったからである。ただ、箱入りでセロハン紙のカバーがかかった上製本という体裁は、庶民派のイメージがある作者らしくなくて気に入らなかった。
読んでみると、新井白石を描いた「市塵」のような評伝風の作品に仕上がっていて意外だった。正直言って、読み手が未熟なせいか、ビジネス書に置き換えて読むこともできず、期待していたほど楽しめなかった。もう少したったら、再読してみたい。

物語●米沢藩江戸家老・竹俣美作当綱は、藩政改革のため、藩政を一手に切り回す藩最大の権力者森平右衛門利真の排除を画策していた。その当時の米沢藩の財政は、窮乏のどん底にあって、藩の体面が保てるかどうかというところまで追いつめられていた。そんな中でかすかな光明は、当綱の学問の師である藁科松伯から伝えられる世子・直丸の明敏さだった…。

目次■なし