新・極楽の読書録
1997年11月・霜月の巻


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

妖臣蔵

★★★☆☆☆
著者:朝松健


カバーイラスト:小島文美
解説:二上洋一(文芸評論家)
時代:元禄十四年
舞台:お浜御殿、伏見、山科、回向院、本所松坂町ほか。
(光文社文庫・1000円・97/11/20第1刷・731P)
購入日:97/11/15
読破日:97/11/25

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トンデモナイ作品だ。
「山田風太郎の高峰にせまる伝奇小説の新傑作」というキャッチフレーズと、「田中芳樹氏絶賛!」の帯のコピーに惹かれて一気に読む。700ページを超える、京極夏彦さんのレンガ本を彷彿させる部厚い本だったが…。
忠臣蔵をベースに、四谷怪談と祐天(東急東横線の祐天寺に名前を残す)上人の女人救済などを換骨奪胎したホラー風伝奇小説。
柳沢吉保や隆光に加え、四十七士まで敵役にまわり、面白さを倍加している。新井白石や若き日の大岡越前も登場する。豪華オールスターキャストが楽しい。
解説によると、この作品は、「元禄霊異伝」「元禄百足盗」に続く「祐天上人奇瑞シリーズ」の第三作にあたるということで、何ヵ所か前作のエピソードが散りばめられている。というわけで、ぜひ前作が読みたいのだが、なかなか見つからない。

●五代将軍綱吉の御代。権勢の中心にあった側用人柳沢吉保と護持院大僧正隆光が魔界から召喚した魔神巨旦将来より分かれた〈因子〉が、赤穂浪士四十七人に憑依した。以来、血生臭い騒動が…。江戸を守るため、悪霊祓い師・祐天、弟子のあば安、大岡市十郎らが彼らと死闘を演じる。

目次■発端 淫雨降り止まず/第一章 祐天と伊左衛門/第二章 秘戯筝の爪/第三章 夜舟魔界のあば安/第四章 あば安 地獄行/第五章 遺念余執/第六章 妖変 疫病車/第七章 地火明夷/第八章 大審判/第九章 春夏秋念仏百万遍/第十章 妖神祓冬討入/第十一章 利他冥合/解説 二上洋一

天狗風 霊験お初捕物控〈二〉

★★★★☆☆
著者:宮部みゆき


装幀:熊田正男
時代:享和三(1803)年
舞台:日本橋通町、深川山本町、中之橋、駒形堂。
(新人物往来社・1800円・97/11/15第1刷・474P)
購入日:97/11/16
読破日:97/11/23

Amazon.co.jpで購入 [講談社文庫]

ずーっと待っていた、宮部さんの長編、期待を裏切らない宮部ワールドの時代小説版、堪能した。
お初、古沢右京之介はもとより、お初の兄で岡っ引きの六蔵、その女房で一膳飯屋〔姉妹屋〕を切り盛りするおよし、下っ引きの文吉、料理人加吉、根岸肥前守ら、主要登場人物がますます生き生きと描かれていて、しっくり馴染んできている。
時代小説では、焦点が当たりにくい、少年や少女をしっかり描いていて、宮部さんの眼差しの温かさを感じる。
「道を歩いていていきなり大福餅をぶつけられたかのような顔」(p.159)や「満月が手ぬぐいさげて湯屋ののれんをくぐってゆくのを見たというような顔」(p.214)、「包丁を振りおろして大根の頭を落とすときのように、すっぱりと言った」(p.297)のような、宮部さんらしいレトリックが楽しい。
作品の背景に、谷中の延明院の女犯事件が関わってくるのが興味深い。
お初と右京之介の今後の成り行きとともに、早くも次回作が期待されるところか。

●嫁入り前の若い娘が次々と神隠しに…。忽然と姿を消した娘たちの謎を追うお初と右京之介。「震える岩」に続く“霊験お初シリーズ”第二弾。待望の長編時代ミステリー。(帯のキャッチフレーズそのままでスミマセン)

目次■第一章 かどわかし/第二章 消える人々/第三章 お初と鉄/第四章 武家娘/第五章 対決

関ヶ原連判状

★★★★☆☆
著者:安部龍太郎


装画:西のぼる
時代:慶長五(1600)年三月
舞台:京、金沢、丹後田辺。
(新潮社・2330円・96/10/20第1刷、97/1/25第4刷・645P)
購入日:97/7/27
読破日:97/11/16

Amazon.co.jpで購入 [新潮文庫版=上下巻に2分冊]

世田谷文学館で、縄田一男さんとの対談を見て以来、ますます安部さんのファンになってしまった。容貌に似合わぬ軽妙な語り口と、対談後にいただいたサインがダメ押しになったようだ。
本書は、対談の中でも取り上げられ、また安部さんが現在執筆中の作品も関連するということで、石田三成がかわいそうなので、関ヶ原ものは苦手で、買うだけ買っておいて3ヵ月以上も放っておいたのだが、帰宅すると無性に読みたくなった。
期待を裏切らない、快作。古今和歌集の伝授が、関ヶ原の合戦の行方に影響を与えたという、設定の奇想天外さが600ページを超えるボリュームたっぷりの作品を最後まで一気に読み通させてくれる。
戦国時代屈指の謀略家細川幽斎や、蒲生氏郷(いつもチョイ役なので個人的に非常に興味ある武将)の侍大将・蒲生源兵衛郷舎、公家の西洞院時慶や中院通勝ら、一癖もふた癖もあるキャラクターが奥行きを与えている。
かつて病床の隆慶一郎さんが、「血の日本史」を読み、当時無名の安部さんに会いたい、といったのは有名なエピソードだが、そういえば「関ヶ原連判状」というタイトルは「吉原御免状」と似ているなぁ。

●前田利家の死後、家康と三成の間で一触即発の状態の頃、加賀白山神社直属の戦闘集団・牛首一族の石堂多門は、藤色の包みをほおかむりの男に奪われかけた若い女を助けた。その女は、前田利家の未亡人・芳春院の侍女で、京の細川幽斎のもとへ、前田家家老の横山大膳とともに訪れるところだった…。
ちょうどその頃、細川幽斎は、後陽成天皇の弟・八条宮智仁親王に古今伝授を行っていた…。

目次■第一章 細川幽斎/第二章 石田三成/第三章 智仁親王/第四章 加賀百万石/第五章 牛首一族/第六章 前田利長/第七章 幽斎帰国/第八章 細川ガラシア/第九章 大坂屋敷炎上/第十章 田辺城篭城/第十一章 激戦初日/第十二章 古今伝授/第十三章 第三の道/第十四章 前田家、西へ/第十五章 和議の使者/第十六章 停戦三日/第十七章 朝廷工作/第十八章 緊急陣定/第十九章 勅命和議/第二十章 天下無事の義/第二十一章 岐阜城陥落/第二十二章 秘策/第二十三章 信長供養/第二十四章 東への使者/第二十五章 密謀の行方

奈落の水
公事宿事件書留帳 四

★★★★☆
著者:澤田 ふじ子


題字・装画:蓬田やすひろ
カバー装幀:原田幸生
時代:文化十二(1815)年
舞台:大宮通り姉小路界隈、三条・樵木町、法林寺裏。
(廣済堂出版・1600円・97/11/15第1刷・310P)
購入日:97/11/1
読破日:97/11/11

Amazon.co.jpで購入 [幻冬舎文庫]

公事宿・鯉屋の居候・田村菊太郎が活躍するシリーズ第4弾。シリーズもこのあたりに入ると、かなり登場人物たちが個性を発揮して自由に動き回ってきて楽しい。
主人公の菊太郎は、かつての東町奉行所同心組頭を父にもつが、祇園の茶屋娘を母にもち、若い頃に(いまでも十分若いのだが)わざと遊蕩を尽くした末に、家から金を持ち出し、京を逐電し、七年ほど諸国を放浪した末に、現在は、父に恩をもつ鯉屋に厄介になっている。その父は、中風で病床につき、田村家は本妻の子で弟の銕蔵が家督を継ぎ、与力組頭を務めていた。
菊太郎は、かつて町道場を開く岩佐昌雲に新影流を習い、戻り橋の綱と異名されるほどの剣の名手で、差料は師から譲られた千手院康重である。
弟の銕蔵、鯉屋の主・源十郎や禁裏付きの赤松綱、隣の公事宿・蔦屋に帳付けとして雇われている浪人・土井式部らが、菊太郎を助ける。とくに源十郎と菊太郎の掛け合いが楽しい。
清水の舞台から飛び降りる―という言葉があるが、江戸時代に実際に清水寺で実際に舞台から飛び降りた人の記録を取っていたとは驚きだ。元禄九年には、一年間に6人が飛び降りたらしい。しかも、そのうち一人は無事だったらしい。澤田さんの本を読むと、人間ドラマが堪能できるばかりでなく、自分の知らなかった京のことがいろいろわかり、ありがたい。

●「奈落の水」研ぎに出していた大刀を取りに出かけた帰りに、菊太郎は、若い女から刺を含んだ鋭い言葉をかけられた…。「厄介な虫」関東御呉服所の後藤家の総番頭を務め隠居した老人が、かつて懇ろにしていた女子を行方を尋ねるが…。「いずこの銭」下京の長屋に小判が投げ込まれる事件が頻発する…。「黄金の朝顔」鯉屋の同業の公事宿の女中が黄金の花が咲くという朝顔を入手した…。「飛落人一件」六波羅道に清水寺の舞台から墜落死した、身元不明の男がさらされた…。「末の松山」奈良大工の元締めと彦根二十万石が、井伊家京屋敷の普請をめぐって訴訟騒ぎになる…。「狐の扇」伏見稲荷で大店の旦那がならず者めいた男から、光悦と宗達の合作の古びた扇子を騙しとった…。

目次■奈落の水|厄介な虫|いずこの銭|黄金の朝顔|飛落人一件|末の松山|狐の扇|あとがき

幕府隠密帳

★★★☆☆
著者:南原幹雄


カバー装幀:西のぼる
解説:清原康正
時代:享保元年
舞台:桜田御用屋敷、増上寺、江戸城本丸、尾張家菩提寺天徳寺。
(新潮文庫・466円・95/7/1第1刷、96/12/15第5刷・314P)
購入日:97/9/7
読破日:97/11/9

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清原さんの解説によると、作者の南原さんのお父さんも時代小説作家だったらしい。南條三郎というペンネームで昭和十年代から二十年代にかけて活躍されたそうだ。
また、南原さんの時代小説を5つに分類されているのが参考になった。いつも感じることだが、清原さんは、実にわかりやすい解説を書かれるので、読後のまとめとして解説を読むことが多いので実にありがたい。
御庭番というと、同じ南原さんのオムニバス形式の快作「御庭番十七家」(徳間文庫)を思い出す。御庭番の活躍の幅がよくわかり面白かった。そういえば、先月読んだえとう乱星さんの「あばれ奉行」の中にも、御庭番の藪田助八が登場していた。
また、重要な傍役として登場する、服部半蔵の末裔の老忍・服部十蔵がなかなかいい味を出している。伊賀忍法の松葉しぐれ、砂吹雪、空蝉、扇隠れ、月遁の術や甲賀忍法の霧隠れ、根来流忍法ススキの絮などの、山田風太郎ばりの忍法のオンパレードがなかなかいい。

●紀州藩主吉宗が八代将軍となって徳川宗家を継ぐとともに、紀州御庭方から藪田助八以下十七人が選りすぐられて、将軍直属の隠密役御庭番となる…。それにともない、隠密復権を狙った伊賀と甲賀の悲願は潰え去った…。そんな中で、一人の御庭番が桜田御用屋敷内で四肢を切り離された残虐な手口で殺された…。

目次■甲賀の挑戦/三月の風に散る/決闘増上寺/顔のない男/伊賀忍法空蝉/忍法〈花の匂い〉/御庭番秘伝/解説・清原康正

五稜郭残党伝

★★★★
著者:佐々木 譲


イラスト:茂利勝彦
AD:我孫子悦丈
解説:荒山徹
時代:明治二年
舞台:蝦夷地五稜郭、勇払、大津、野付。
(集英社文庫・583円・94/2/25第1版・372P)
購入日:97/8/23
読破日:97/11/5

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帯広出張に際して、蝦夷地ものを読みたくて、未読のものから本書を選んだ。佐々木譲さんというと、「エトロフ発緊急電」など、冒険小説やハードボイルド小説で知られる作家だ。現代もののイメージが強く、時代ものは意外だったので、購入した。札幌出身ということで、蝦夷地ものを書く素地は十分か。
解説の荒山さんが書かれている通り、まさに西部劇だ。敗残兵くずれのガンマン(実際、登場人物は刀より銃で決着させることが多い)あり、それをどこまでも追う討伐隊があり、先住民(アイヌ)があり、信仰のために新天地を目指す家族があり、という具合だ。
原田康子さんの「風の砦」や佐江衆一さんの「北の海明け」など、蝦夷地を舞台にした時代小説は、さほど多くないが名作ぞろいである。そういえば、冒険小説作家の船戸与一さんの「蝦夷別件地」も名作らしい。(未読なので、読んでみたい)

●昭和45年、北海道東部、別海町・床丹の海岸近くで、奇妙な塚が発掘された…。
伝習歩兵隊・蘇武源次郎と名木野勇作は、所属する軍が五稜郭で新政府軍に降伏に際し、蝦夷地へ逃れることになる…。

目次■はじめに/第一章/第二章/第三章/第四章/第五章/第六章/第七章/第八章/付記/解説・荒山徹