新・極楽の読書録
1997年9月・長月の巻


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

喧嘩侍 勝小吉

★★★☆☆
著者:小松 重男


カバー装画:村上豊
解説:縄田一男
時代:文化五年
舞台:深川油堀、亀沢町、入江町。
(新潮文庫・476円・97/9/1第1刷・286P)
購入日:97/9/7
読破日:97/9/28

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新潮文庫の「歴史・時代小説フェア」の新刊。今回は6タイトルで、ちょっと物足りないラインナップだ。
読んだばかりの永井義男さんの「蛍狩殺人事件(鮮魚師)」で、興味が増した勝海舟の父親、勝小吉を主人公にした作品だ。
放蕩無頼ぶりは、前から知っていたが、あらためて小吉の無軌道ぶりの凄さにびっくり。江戸時代の後半とはいえ、堅苦しいと思われた武家の生活の中で、こんな破天荒な生き方ができるなんて…。
海舟と小吉の親子鷹ぶりは、子母沢寛さんの作品でよく知られているが、本作品での小吉とその父平蔵との親子関係も微笑ましい。随所に小吉の自伝「夢酔独言」から引用しているが、そのかたわらその記述を頭から疑ってかかっているのがまた面白い。

●七歳で旗本小普請組勝家に養子に入った小吉は、学問嫌いの札付きの不良だった。腕っ節の強さで、出世の道を開こうと、喧嘩に明け暮れる毎日を送っていた。父平蔵は孫のような三男・小吉を溺愛し、不行跡の尻拭いを楽しみにしていた…。

目次■男谷の泥亀/憤怒の養祖母/いじめといぢめ/放浪記/喧嘩三昧/道場破り/座敷牢/酔生夢死/解説 縄田一男

江戸職人綺譚

★★★★☆
著者:佐江 衆一


装画・挿画:高橋勲
題字:佐江衆一
装幀:新潮社装幀室

舞台:「開錠綺譚」慶応二年・神田鍛冶町。「笑い凧」深川仙台堀。「一会の雪」浅草三味線堀。「雛の罪」本石町十軒店。「対の鉋」小梅村。「江戸の化粧師」両国橋。「水明り」千住。「昇天の刺青」浅草聖天町。「思案橋の二人」寛政八年・深川扇橋。
(新潮社・1456円・95/9/20第1刷、96/11/15第9刷・268P)
購入日:97/9/21
読破日:97/9/25

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作者の佐江さんは、最近では「黄落」などの老人介護をテーマにした現代ものでも活躍している。
本作品では、第4回中山義秀賞受賞している。職人の生き方を通して、江戸庶民の人生の切絵図を描く9編の佳品を収録している。
とくに、茶室作りに、技と心意気と命を賭ける大工を描いた、「対の鉋」が素晴らしい。澤田ふじ子さんの「幾世の橋」とともに、江戸時代の大工の世界を清冽に見せてくれる。
それぞれの話の中で、職人の世界を面白く教えてくれている。凧師や化粧師、引札師(今でいえば、コピーライター)など珍しい職について、触れていて興味深い。

●「開錠綺譚」錠前師・三五郎は、ある藩の用人ふうの侍に仕事を依頼され、目隠しして駕籠で運ばれた屋敷で見たものは…。「笑い凧」凧師・定吉は、流行らない鳶凧作りの名人だった…。「一会の雪」藤沢の茶店の女主人おすぎは、病に倒れた旅支度の年増の女を助けた…。「雛の罪」裸の市松人形を抱いて、幼い娘が豪華なお雛さまの前で、内裏雛の太刀で喉を突いて死んだ…。「対の鉋」大工・常吉は、初めて茶室の普請を任せられた…。「江戸の化粧師」化粧師・代之吉は、両国橋の雑踏に来て、行き交う女たちを見つめていた…。「水明り」千住宿のはずれの川縁で、おりんは男を待っていた…。「昇天の刺青」彫辰といわれる江戸で名高い刺青師の辰吉は、娘おたえに病んだ自分の体に刺青をしろと命じた…。「思案橋の二人」隠居した半兵衛は、やり遂げてみたい夢をもって、京橋の京伝店に向かった…。

目次■開錠綺譚―錠前師・三五郎|笑い凧―凧師・定吉|一会の雪―葛篭師・伊助|雛の罪―人形師・舟月|対の鉋―大工・常吉|江戸の化粧師―化粧師・代之吉|水明り―桶師・浅吉|昇天の刺青―女刺青師・おたえ|思案橋の二人―引札師・半兵衛

鮮魚師(なまし)

★★★☆☆☆
著者:永井 義男


装画:「千社札 粋のグラフィズム」(マリア書房)より
装丁:菊地信義

時代と場所:「鮮魚師」文化十二年(1815)、松戸。「天保糞尿伝」天保十四年(1843)、三味線堀。「蛍狩殺人事件」天保三年ごろ、本所入江町。
(読売新聞社・1300円・97/10/4第1刷、190P)
購入日:97/9/21
読破日:97/9/23

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「算学奇人伝」(TBSブリタニカ刊)で、97年度開高健賞を受賞した永井さんの受賞後初の書き下ろし作品集。3編を収録。
「鮮魚師(なまし)」は、江戸時代における鮮魚ルート鮮魚(なま)街道を描いた作品。澤田ふじ子さんの「虹の橋」等に描かれている、若狭から京への鯖街道とともに興味深い。
「天保糞尿伝」(タイトルが情けないなあ)は、天保の改革と江戸の糞尿リサイクルを描いた作品。あまり、説明臭くならないのがいい。
「蛍狩殺人事件」捕物帳っぽい出来。勝小吉のキャラクターがいい。小松重男さんの「喧嘩侍 勝小吉」が読みたくなった。
いずれも、ミステリ仕立てで楽しく読める。個人的にはもう少く長編に書いてほしいのだが…。ベッドの中で読むのに適した薄さ・軽さでした。

●「鮮魚師」布佐(千葉県我孫子市)から松戸まで鮮魚を積んで運ぶ鮮魚師が、深編笠の侍に襲われる事件が続出した。解決に乗り出すのは、若き日の千葉周作…。「天保糞尿伝」天保の改革の頃、西丸下で亀有の汚穢屋勘七は素人っぽい同業者を見かけることから事件に巻き込まれる…。「蛍狩殺人事件」美人の常磐津師匠が谷中の蛍沢で何者かによって刺殺された。不良旗本勝小吉のもとになぞ解きが持ち込まれた…。

目次■鮮魚師|天保糞尿伝|蛍狩殺人事件|あとがき

江戸打入り

★★★★☆
著者:半村 良


装画:村上豊
装丁:岡邦彦
三河方言指導:清水義範
時代:天正十八(1590)年
場所:足助(あすけ)、深溝(ふこうず)、金谷、富士川、小田原、江戸汐見坂
(集英社・1800円・97/8/1第1刷、376P)
購入日:97/8/5
読破日:97/9/21

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八月一日を、家康が江戸打入り(討入りではない、打ちは強調の接頭辞か)した日として、八朔(はっさく)と呼び、江戸の市民の祝日していた。この本の発行日も八月一日にあわせている。
その由来がわかる、非常に興味深い一冊だった。三河武士たちがどんな思いをもって、故郷を離れ、江戸に移封されてきたのかを一人の純朴な若者を通して描いている。手垢のついていないユニークな題材で新鮮だ。
江戸時代になれてしまったせいか、国替えを当たり前のこと(ちょうど転勤のように)と思いがちだが、秀吉以前は、武士も土着していたために、ほとんど国替えはなかったのだ。
読んでいる途中で、主人公の鈴木金七郎が、イチロー選手の祖先かもしれないと思えてしまう。また、権謀術策で腹黒い爺として扱われることが多い本多佐渡守が存外いいひとに描かれていたのが面白い。

●父をはじめ兄5人を戦で亡くした鈴木金七郎は、五人の後家と暮らしていた。秀吉の小田原攻めに巻き込まれ、叔父の組する家康の旗本深溝松平家忠家中の夫丸(ぶまる=戦に加わらない雑兵)を務めることになる…。金七が戦死することを恐れた家族や親戚たちの配慮も、やがて…。

目次■三河の風/浅黄の隊列/富士の白雪/棕櫚と舟橋/江尻馬揃え/関白御成橋/茶屋と禅僧/小田原の春/虎口の番人/疑惑の総攻撃/江戸打入り

滅びの将
信長に敗れた男たち

★★★★
著者:羽山 信樹(はやまのぶき)


カバー装画:毛利彰
解説:岡本好古
時代:第一話天正八年、第二話天正十四年、第三話天正九年、第四話慶長十八年、第五話天正十年
舞台:第一話播州、第二話摂津、第三話因幡、第四話大和、第五話備中
(時代小説文庫・600円・92/11/10第1刷、308P)
購入日:97/4/29
読破日:97/9/20

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「歴史ピープル」の新聞広告を見てビックリした。「羽山信樹絶筆250枚! 追悼…縄田一男…」 直ちに、書店に奔る。羽山さんの作品は未読だったが、昔、「小説王」(角川書店発行。文庫本サイズであの「帝都物語」も連載されていた)という雑誌が創刊された頃、「流され者」を連載していた頃から気になっていた作家だった。
羽山信樹氏は、1997年6月10日、肝臓癌のために逝去。享年52歳、遅くなりましたが、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

本書のあとがきで、「武将の滅びは城の滅びでもあるとの感を深くする。…本連作はいわば落城記であるかもしれない。」と記している通り、けっこう暗く重たいテーマだ。落城といえば、切腹、処刑、焼死など死がつきもの。作者の死を知った後に読むというのは何ともつらい。
ただし、滅びの将たちが、それぞれ信念を貫いて、出処進退を決めていくので、一服の清涼感があり、救いになっている。
題材を時系列で示すと、
松永久秀焼死、信貴城落城。天正五年十月
荒木村重、有岡城脱出。天正七年九月
別所長治切腹、三木城落城。天正八年一月
吉川経家切腹、鳥取城落城。天正九年十月
清水宗治切腹、高松城落城。天正十年六月

●信長および織田軍団によって滅ぼされた武将たちの最期を描く連作。信長に反旗を翻す東播の雄・別所長治、織田軍の花形武将・摂津の荒木村重、ご存知悪名高き松永弾正。そして毛利方の鳥取城主吉川経家、悲運の備中高松城主清水宗治。

目次■第一話 今はただ恨みもあらず―別所長治/第二話 我やさき、人やさき―荒木村重/第三話 ものがたり、御さきあるべく候―吉川経家/第四話 おみなえし、藤袴―松永久秀/第五話 名を高松の苔に残して―清水宗治/あとがき/解説

海の街道 上・下

★★★★
著者:童門 冬二


装画:水戸成幸
解説:清原康正
時代:嘉永元年夏
舞台:酒田、箱館、金沢、越前大野、江戸日本橋蠣殻町ほか
(学陽書房人物文庫・上下各660円・上下97/7/23第1刷、上348P、下355P)
購入日:97/6/25
読破日:97/9/16

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童門冬二さんというと、「小説上杉鷹山」の作者という印象が強い。感動的な人間ドラマに、経営者向けの処世訓を盛り込むという筆さばきが絶妙だった。
最近、江戸時代の海運について関心を持ちはじめたので、今回はその視点から読んだ。面白かった。とくに、幕末の激動期に先駆けて“海の街道”を歩んだ、領地に海のない小藩、越前大野藩(藩主・土井利忠)の軌跡は、新鮮だ。今の言葉で言えば、国際化の最先端をいくといったところか。
「からくり弁吉」こと、大野弁吉が主人公として登場する。作中でも、からくり人形がいくつか紹介されている。別の本で弁吉作のからくり人形を写真で見ると、本当に精巧でよくできている。木製のロボットのようだ。
坂本龍馬、勝海舟、川路聖謨、橋本左内、三岡八郎、岡田以蔵、千葉重太郎など、幕末の有名人も出るので、ファンの方はどうぞ。
銭屋五兵衛の登場する作品では、「抜け荷百万石」(南原幹雄著、新潮文庫)があった。他に「美男狩」には、銭屋五兵衛の孫娘が出ていた。

「海に国境はない」という本多利明(当時の学者)の理念をもとに、鎖国の時代に積極的に北方交易を行う加賀の海商銭屋五兵衛。そしてその番頭の大野弁吉を中心に、鎖国から開国と、激動する時代を生きた海の男たちの話。

目次■(上巻)酒田港/ニシンの国/箱館/若い鯨たち/五兵衛の決断/弁吉と兵六/本当の北前交易/湖に死魚が浮いた/銭屋滅亡/追いつめられて/山の開国者たち/商会大野屋/日の丸とおもだかの旗/江戸へ|(下巻)勝麟太郎/攘夷論者の坂本龍馬/有道の国と無道の国/友愛の灯/対露交渉と対米交渉/海防掛大久保の悩み/市中の山居/弁吉に殺到する大名家/椿の海/“道”の実現/経世済民/大野丸/時代の嵐/あとがき/解説

源氏物語人殺し絵巻

★★★☆☆
著者:長尾誠夫


カバー:玉井ヒロテル
時代:紫式部22歳のとき
舞台:京
(文春文庫・388円・89/8/10第1刷、316P)
購入日:97/6/4
読破日:97/9/12

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ちょっと前の本です。八重洲ブックセンターと並んで、品切れ本が見つかりやすい、三省堂書店本店で見つけた。最近は、なるべく、財布が許す限り、品切れっぽい本は見つかったら購入するようにしている。第四回サントリーミステリー大賞読者賞受賞作品。
「源氏物語」というと、学生時代苦手だった古典を思い出す。ちゃんと読んだのは、小林信彦さんの「唐獅子源氏物語」くらいなもの。(^^;
本書は、ミステリー仕立てで「源氏物語」の世界が楽しめる、逸品。葵上、頭中将、六条御息所など、おなじみのキャラクターに加えて、陰陽師阿部晴明も登場して物語を盛り上げてくれる。

●桐壷帝の御代。帝に寵愛される桐壷更衣が毒殺された…。ご存知「源氏物語」の世界で次々に起こる殺人事件。光源氏は事件の渦中に巻き込まれていく。探偵役には紫式部が…。

目次■序(桐壷)/夕顔/藤壷/葵/葎(むぐら)/とわずがたり/須磨/花宴

その夜の雪

★★★★
著者:北原亞以子


カバー装幀:蓬田やすひろ
時代:「うさぎ」英泉が活躍していた頃。「夜鷹蕎麦十六文」安政四年
舞台:「うさぎ」馬喰町。「夜鷹蕎麦十六文」神田佐久間町
(新潮文庫・438円・97/9/1第1刷、272P)
購入日:97/8/31
読破日:97/9/11

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短編小説はあまり好きではないのだが、藤沢さんと北原さんのものは気に入っている。おそらく、人生の機微をスライスした、市井ものだからであろう。アクションが多い、剣豪ものや、主人公への思い入れや登場キャラクターと馴染むことが魅力の捕物帳とかはあまり短編向きではないように思う。
というわけで、表題作の「慶次郎シリーズ」の第一作は、ちょっと物足りない。早く長編の「雪の夜のあと」(読売新聞社刊)が読みたいな。
逆に「吹きだまり」と「侘助」が舞台劇のようで見事。

●「うさぎ」摺師の名人峯吉は、女房に駆落ちされて、男手ひとつで娘を育てたが…。「その夜の雪」愛娘を手篭めにされ復讐に燃える同心森口慶次郎シリーズの第一作。「吹きだまり」日傭取りの作蔵の唯一の楽しみとは…。「橋を渡って」深川佐賀町の干鰯問屋の嫁おりきは、夫の浮気に頭を悩ましていた…。「夜鷹蕎麦十六文」初代志ん生の弟子の噺家かん生は粋と野暮が口癖だった…。「侘助」下谷山崎町の棟割長屋に住む杢助は無銭飲食を生業にしていた…。「束の間の話」おしまは、嫁に追い出され、浅草阿部川町に一人暮らしをしていた…。

目次■うさぎ|その夜の雪|吹きだまり|橋を渡って|夜鷹蕎麦十六文|侘助|束の間の話|解説 佐藤愛子

尼首二十万石

★★★★
著者:宮本 昌孝


装幀:南伸坊
時代:「尼首二十万石」享保九年。「はては嵐の」応仁元年
舞台:「尼首二十万石」下谷御徒町。鎌倉東慶寺
(講談社・1700円・97/8/25第1刷、283P)
購入日:97/8/31
読破日:97/9/9

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南伸坊さんの装幀が読む気をそそる。宮本さん独特のケレン味のない文体、ストーリー展開の妙がまた楽しい。なかでも、「尼首二十万石」と「袖簾」が爽やかでいい。
「黒い川」では、時代小説でおなじみのあの人の子供時代が楽しめる。「袖簾」は歴史小説では、描かれることが少ない早すぎた戦国大名のK氏が登場する。
「雨の大炊殿橋」のタイトルにある、大炊殿橋は、土井大炊頭利勝の屋敷が近くにあることから名付けられた、後の神田一ツ橋のこと。
「はては嵐の」の三好之長は、魅力的なキャラクターだ。また室町時代についてあまり知識がないので、こういう作品は歓迎。

●「尼首二十万石」女好きの旗本の用人は、敵持ちだった…。「最後の赤備え」信長の子、坊丸は父に疎まれ、八歳で東美濃恵那郡の名家岩村遠山家へ養子に出される…。「袖簾」身の丈五尺九寸の尼僧の恋の結末は…。「雨の大炊殿橋」小浜藩の三人の若侍の行末と、武芸者との出会いを描く。「黒い川」上総と下総の国境を流れる栗山川沿いで遊ぶ子どもたちの大きな冒険とは…。「はては嵐の」室町時代後期に活躍する三好之長の数奇な人生を活写する。

目次■尼首二十万石|最後の赤備え|袖簾|雨の大炊殿橋|黒い川|はては嵐の

寺子屋ゆめ指南

★★★
著者:大川 タケシ


装画、装幀:灘本唯人
レイアウト:北原準之輔
時代:化成年間
舞台:日本橋数寄屋町。呉服町。南茅場町。大川端町など。
(NHK出版・1400円・97/8/30第1刷、253P)
購入日:97/8/31
読破日:97/9/7

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'97年後期のNHKドラマ「金曜時代劇」の原作。プロフィールによると、著者は、「暴れん坊将軍」や「銭形平次」などで活躍する脚本家で、日本橋生まれ。
脚本家らしく要領よくまとめたストーリー展開で、また読みやすかった。「坊ちゃん」の時代小説版といった感じがする。
タイトルの「寺子屋」が気になった。以前読んだ本では、大坂では「寺子屋」と呼ぶが、江戸では「手跡指南」ということが多いと書かれていたが…。TVなのでわかりやすくしたのだろうか。

●桂木正二郎は、旗本五百石の次男に生まれ部屋住みの身で、今は泉水道場の師範代を務めている。ひょんなことから寺子屋の師匠を引き受けることになり、野放図な子供たちに振り回され、さまざまな事件に巻き込まれ、人間として成長していく…。

目次■はめられた正二郎/尿筒騒動/殿様の手習い/雨垂れおりん/子守りの少女/平太の簪/女賊の恋

ドラマ配役◇桂木正二郎(高橋和也)、良庵(愛川欽也)、卯女(中村玉緒)、泉水又十郎(千葉真一)、森川源之助(東幹久)、宍倉兵之進、泉水美雪(西田尚美)、お吉(小林幸子)、徳次(中条きよし)、おりん(美保純)ほか

人造記

★★★★
著者:東郷隆(とうごうりゅう)


カバー:門坂流
解説:縄田一男
時代:「水阿弥陀仏」長享二年。「上海魚水石」昭和七年。「放屁権介」文久二年。「蟻通し」明治四十三年。「人造記」仁平元年

(文春文庫・437円・93/11/10第1刷、313P)
購入日:97/8/21
読破日:97/9/6

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東郷さんというと、最近は時代小説で活躍しているが、以前は007のパロディの「殺人丁稚・定吉シリーズ」など怪作を書いている。本書は、それらとはまた一味違う奇談ものを5編収録している。
5編は、舞台となる時代を平安時代末期から昭和のはじめまでとバラエティ豊かに書き分けていて、作者の力量を感じさせる。幕末を舞台にした「放屁権介」には、大坂西町奉行所与力内山彦次郎や近藤勇、桂小五郎らも登場して楽しい。
「人造記」は西行ものだが、火坂雅志さんの「花月秘拳行」のスーパーヒーローものとは、別の面が描かれていて興味深かった。

●「水阿弥陀仏」アル中の将軍義尚が招いた水阿弥とは…。「上海魚水石」海兵隊に入り上海に渡った石工が住む下宿屋の入口の路地がいつもビショビショに濡れていたのは…・「放屁権介」大坂で、天才屁芸人〔ひり出し権介〕がデビューした…。「蟻通し」“神狩り”合祀が促進する和歌山県で、南方熊楠は反対運動の先頭に立っていた…。「人造記」西行の事跡の中で、研究家の多くから荒唐無稽と切り捨てられてきた人骨から人をつくる話。

目次■水阿弥陀仏|上海魚水石|放屁権介|蟻通し|人造記|あとがき|解説 縄田一男

投げ銛千吉廻船帖 [再読]

★★★☆☆☆
著者:白石 一郎


カバー:西のぼる
解説:清原康正
時代:特定されず。市村座が葺屋町にあった頃
舞台:深川北川町。洲崎。瀬戸内海。遠州灘。
(文春文庫・438円・97/8/10第1刷、286P)
購入日:97/8/10
読破日:97/9/5

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3年ぐらい前に単行本で読んだが、ストーリーをすっかり忘れていた。ただ、船の中でのシーンが印象的だったのを覚えていて、「海を感じるベスト10」を考えたときに候補にあげたのだが、正確なタイトルが思い出せなかった。我ながら情けない。
文庫版では、単行本未収録の「江戸芝居」を収録している。解説も付いているから得した感じがする。文春文庫の新刊広告で、白石さんが林真理子さんと並んで目玉になっているので、前からの白石ファンとしては嬉しかった。
主人公千吉は、暗い過去をもつフリーランスの沖船頭。表仕(おもてし。舵取兼航海士)の石兵衛とコンビを組みいわくのある船をとりまわすなかで、いろいろな事件を解決する連作。千吉の隠し武器は、末尾に茶褐色の細い紐がついた、長さ八寸、幅一寸ほどの銛。
最後に一編加わったことによって、単行本のときに感じた深い余韻が、わかりやすさに変わった。ぼくとしては歓迎です。

●「家船」岡山の廻船問屋の当て逃げされた船を廻送する…。あわせて本作品の登場人物を紹介する。「初日の出」御城米を積んで破損した徳島藩の御雇船を廻送する…。「三保の松原」同じ長屋に住む絵師の卵音次郎に富士山を見せるために、清水湊の新興の廻船問屋の四百五十石の塩船を廻送する…。「子連れ船」筑前福岡の千石船に、同じ長屋に住むおみやの息子を載せる新七を乗せて航海にでる…。「新七の夢」新七の体験した船上での生活を描く。「流人船」三宅島へ罪人を運ぶ流人船を廻送する…。「江戸芝居」長屋で世話になっている人たちを芝居に招待する…。

目次■家船(えぶね)/初日の出/三保の松原/子連れ船/新七の夢/流人船/江戸芝居/解説 清原康正

花暦(はなごよみ)

★★★☆☆☆
著者:澤田 ふじ子


カバー装幀:蓬田やすひろ
解説:藤田昌司
時代:「寒椿」文化十三(1816)年ほか
舞台:京。大垣藩。若狭小浜藩。近江膳所藩。
(廣済堂文庫・524円・97/9/1第1刷、255P)
購入日:97/8/16
読破日:97/9/2

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ダイアナ妃の交通事故死のニュースが飛び込んで来てショックを受けた夜、本書を読みはじめた。最初の短編「寒椿」がいいようのない気持ちの落ち込みを和らげてくれた。
澤田作品によく見られる、逆境に対して前向きに明るく立ち向かう登場人物に励まされた。
本書では、四季の花(椿、梅、鬘、桜、藤、燕子花、蓮、桔梗、朝顔、芒、菊、茶)が各編で印象的に登場し、人間ドラマを彩っている。

●「寒椿」病身の父と幼い弟の世話で嫁に行き遅れた娘が、椿の花で染める秘伝の草木染が縁で…。「転生の梅」絵屋の養女は、養父母に生木を裂くように夫と別れさせられた…。「月の鬘」真夜中の逢瀬のために、娘は…。「桜狐」夜中に幼い子どもに厠に起こされる母親が子どもに話した作り話とは…。「重畳の藤」京の老舗の麩饅頭屋の自慢は藤だった…。「みどりのつるぎ」祝言直前に婚約者を喪った娘が気晴らしに三年ぶりに外出した…。「蓮見船」長屋にいわくありげな年増の女が移ってきた…。「定家狂乱」小浜藩のお納戸奉行で道具の目利きが京の山中で見つけたものは…。「夏花比翼図」池坊立花の女師匠が嫁がない訳は…。「野ざらし」俳句にハマった婚約者を待つ娘に…。「菊日和」北嵯峨野の大沢池周辺にぶらぶらする若い男の姿が見かけられるようになった…。「雪の花」京の饅頭処の隠居は了徳寺の〔大根炊き〕の法要の準備に追われていた…。

目次■寒椿|転生の梅|月の鬘|桜狐|重畳の藤|みどりのつるぎ|蓮見船|定家狂乱|夏花比翼図|野ざらし|菊日和|雪の花