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1997年8月・葉月の巻
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八丁堀同心 加田三七(上・下)
★★★★☆
![]() カバーイラスト:佐多芳郎 カバーデザイン:秋山法子 解説:磯貝勝太郎 時代:嘉永三年(1839年) (徳間文庫・上485円、下505円・上88/5/15第1刷、89/7/25第3刷、下88/5/15第1刷・上343P、下382P) 購入日:97/8/4 読破日:97/8/31 |
いやー、面白かった。まさに「半七捕物帳」の系譜にあるシリーズ。オーソドックスな捕物帳だ。 南町奉行所の加田三七は、三十前の若さで定廻り同心に引き上げられたために、叔父の年番方与力蜂屋五左衛門のお蔭とか、妻女のお民の実家が新川筋の酒問屋で裕福なせいだとか、悪口を言われていた。しかし、その働きぶりと金に淡白な性格を、刺青奉行として有名な遠山左衛門尉景元に買われ、正義感が強く情に厚いことで市井の人たちにも好かれていた。この三七を助けるのが、本所石原の幸助と日本橋銀町の清五郎の二人の御用聞だ。 高野長英の自刃を扱った「いやなやつ」や江戸の下肥事情を描いた「黄金仏」など、テーマの面からも興味深い話がある。 ●「犬と猫と鼠と」岡場所で殺人が行われた…。「色餓鬼亡者」新場の魚市場へ向かう漁師船の男が屋根船の中の男女の死体を見つける…。「夜鷹三味線」夜鷹狩りの子どもたちを懲らしめていた夜鷹の女が…。「犬」岡っ引清五郎の乾分の金助は同じ同輩の留八と捕物に参加するが…。「ぼうふら」チンピラが湯屋で、他の組の親分が殺されるのを目撃する…。「雪駄一足首三つ」木場の材木商が行方不明になり土左衛門で見つかる…。「いやなやつ」四谷鮫河橋の久八は十手を預かるかたわら、夜鷹の元締めをやっていた…。「忘れ霜」堅物の具足商儀兵衛は、隠居したとたん、十六歳の得体の知れない小娘に血道をあげていた…。「生き損ないの女」松の根元で心中くずれの男女が見つかった…。「米を食う狐」浅草御蔵の人足小頭が行方不明になった…。「本所狸」延命寺の境内で、狸と腰元の首くくりが見つかった…。「片腕の骸骨」幽霊がでるという長屋の床下から出てきた骸骨には右腕がなかった…。「鬼灯遊女」三七は吉原に誘われる…。「師走の湯」金のかかった身なりのわりに下帯をしていない刺殺体が見つかった。「ひとり萬歳」三河萬歳の才蔵が牢内で自殺を図った…。「八丁堀貧乏小路」八丁堀の火事で振袖の少年が脇腹を刺された…。「おぼろ月」寺子屋の先生が殺され、その脇に泥酔の男が寝ていた…。「幽霊三味線」金貸しの座頭のもとに、死んだ養妹が幽霊になって現れ、毎晩三味線を弾くという…。「琉球の簪」長髪の若い男の全裸死体が道浄橋の下で見つかった…。「今戸焼の猫」霊験あらたかな猫の置物が市中の話題になっていた…。「親の心子知らず」殺人現場に鳥さしの姿が…。「夏祭宵宮の酒」加賀藩下屋敷から猪が逃げ出した…。「黄金仏」糞尿に窒息した男の死体が見つかった…。「尺八一千両」虚無僧と比丘尼の心中死体が発見された…。「因果小僧」少年たちは、夜鷹狩りを楽しんだ…。「角兵衛獅子」長屋で心中した男の死に様が妙で、角兵衛獅子の逆立ちのようであった。 目次■(上巻)犬と猫と鼠と/色餓鬼亡者/夜鷹三味線/犬/ぼうふら/雪駄一足首三つ/いやなやつ/忘れ霜/生き損ないの女/米を食う狐/本所狸/片腕の骸骨/鬼灯遊女|(下巻)師走の湯/ひとり萬歳/八丁堀貧乏小路/おぼろ月/幽霊三味線/琉球の簪/今戸焼の猫/親の心子知らず/夏祭宵宮の酒/黄金仏/尺八一千両/因果小僧/角兵衛獅子/解説 磯貝勝太郎 |
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木枯し紋次郎(四) 無縁仏に明日をみた
★★★☆☆☆
![]() カバーデザイン:亀海昌次 カバー写真:GRADE1 解説:菊地仁 時代:天保十年(1839年)二月 (光文社文庫・486円・97/4/20第1刷・253P) 購入日:97/6/18 読破日:97/8/31 |
「木枯し紋次郎」を月に1冊ずつ読むことを決めてから四ヵ月目、何とか滑り込みで読了する。別に読む気が起こらないというのではないが、他に読みたい本が多すぎて…。(^^; 「木枯し紋次郎」シリーズの特徴として、書き出しの見事さがあげられる。この巻でも、紋次郎はいろいろな形で登場する。十人余りの無宿人に襲われたり、茶屋で若い酔っ払いの女に絡まれたり、草むらで寝転んでいると、男女が濡れ場を始めたりと、いろいろな形でわれわれの前に現れる。 ●「無縁仏に明日をみた」紋次郎は、信州小県郡大日向村で十人余りの男たちに襲われて死に、無縁仏として葬られる夢を見た…。「暁の追分に立つ」紋次郎は、木曽・須原宿で長煙管の女に頼みごとをされるが…。「女郎蜘蛛が泥に這う」紋次郎は、信州高遠で追い剥ぎに教われている夫婦を助ける…。「水車は夕映えに軋んだ」紋次郎は、八王子・横山宿で酔っ払いの女に絡まれる…。「獣道に涙を棄てた」紋次郎は、上州藤岡で男女の濡れ場を見る…。 目次■無縁仏に明日をみた/暁の追分に立つ/女郎蜘蛛が泥に這う/水車は夕映えに軋んだ/獣道に涙を棄てた/解説 菊地仁 |
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仕立屋銀次隠し台帳
★★★★☆
![]() 表紙・扉:白井晟一 カバー画:尾竹々坡筆「年の暮」 時代:明治三十七年(1904年) 舞台:入谷ほか (中公文庫・524円・83/11/10第1刷、93/8/30第5刷・296P) 購入日:97/8/21 読破日:97/8/24 |
八重洲ブックセンター(他の書店で見つからないような本が在庫されていて、たまに行くとついいろいろ買ってしまう)で、品薄目の本を漁っていて見つけた。隠れた名作ってところか。 時代は、日露戦争頃ということで、作品の随所に戦争の影響、爪痕が見られるが、太平洋戦争ほど生々しくなく、冷静に読める。幸徳秋水とかも登場してびっくり。 主人公は、スリ全盛時代の明治末期を代表するスリの大親分、仕立屋銀次こと富田銀次。男気があり、頭もよく、度胸があるキャラクターがいい。また、多くのスリが登場するが、その綽名がユニークだ。〔江戸見の辰=江戸見物に出てスリにあい、逆にスリの道にはいったことから〕〔けむ秀=けむりのように酒席からいなくなることから〕〔三食肉=三食肉を食っているとうそぶいていることから〕etc. 警察と持ちつ持たれつで、かつシステマチックな当時のスリの世界が面白い。また、東京の街を縦断する路面電車が描かれていて興味深く、学生の頃住んでいた入谷が作品の舞台になっていて少し懐かしかった。 ●日露戦争に沸く世相を背景に、スリの大親分仕立屋銀次をめぐる子分たちの心意気と市井の人情の機微を描く推理連作。 目次■第一話 目細の安吉恋の中抜き/第二話 けむ秀と万年小町/第三話 デコ政の死/第四話 死ぬな下駄清/第五話 豚花の千人針/第六話 のんべ勝の薮入り/第七話 猫半の古傷/第八話 南無妙法華の鉄五郎/実録・仕立屋銀次―あとがきに代えて |
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地獄島
お役者捕物帖
★★★☆☆☆
![]() カバーイラスト:奥村靫正 解説:川戸貞吉(TBSラジオ・プロデューサー) 時代:明示せず。「四谷怪談」初演後 舞台:浅草奥山、芳町、小梅、伊奈国平野(架空)ほか (新潮文庫・621円・88/11/10第1刷、94/7/15第7刷・573P) 購入日:97/8/21 読破日:97/8/22 |
「捕物帖」とついているが、まぎれもない伝奇小説だ。題名に偽りありって感じだが、これには訳がある。前作にして第一作の「吸血鬼」が連作形式の純然たる捕物帖らしい。(というのも、その作品が現在入手困難で未読。新潮社さん、何とかして!)で、この捕物帖の探偵役であるお役者嵐夢之丞にスポットを当てたのが本書だ。 ウーン、でも、第一作を読んでいないのって大きなハンデだなぁ。少なくともあと1.5倍くらいは楽しめたのに。 栗本さんというと、超大河小説作家っていうイメージだが、本書もその片鱗が垣間見れる。気持ちいいくらいストーリーが広がりをもって展開していく。 ヒロインの切支丹お蝶のキャラクターが魅力的だ。 地獄島のある伊奈国平野って、栗本さんはどこを想定しているのかな。西国で二十万石で、海と山があり、島があるっていうと、和歌山とか徳島あたりかな。 ●人気女形嵐夢之丞が忽然と消えた。江戸市中で夢之丞に似た美女が次々惨殺されていく。夢之丞を慕う女スリ切支丹お蝶は、夢之丞と瓜ふたつの商家の女房お時の難事を救ったことから事件に巻き込まれていく…。 目次■琅かんの女/浅草奥山あたり/碧眼の鬼/廊下の怪/花の色/血まみれ百合/蝶の道行/死の家/おさよ登場/地獄屋敷/地獄の番人/水牢/死の顎/幽霊太夫/謎の浪人/雨の夜話/めぐる糸/夢の浮橋/紅蓮地獄/鬼たちの夜/紅毛鬼/旅立ち―地獄島へ/謎の老人/平野の夜/むかしがたり/お蓮地獄/火の島/船を出す/嵐の夜/月下繚乱/再会/地獄花/紅蓮の果/浄玻璃の鏡/呪いの島/大団円/あとがき/解説 |
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浜町河岸夕暮れ
★★★☆☆☆
![]() カバーイラスト:堂昌一 カバーデザイン:鈴木邦治 解説:長谷部史親 時代:明示せず 舞台:日本橋村松町、浜町河岸ほか (双葉文庫・350円・94/10/15第1刷・275P) 購入日:97/8/21 読破日:97/8/21 |
この本は、タイトルで損をしている。安直なようだが、「捕物」って言葉を題名に入れたら絶対もっと読まれるはずなのに。と、思っていたら、単行本刊行時には、『浜町河岸夕暮れ―市蔵、情けの手織り帖』という題名だった。 収録作「夜の道行」で、第12回「小説推理」新人賞受賞。 連作形式で、雰囲気的には藤沢周平さんの捕物帳に似ていて、ちょっと切ない作品だ。 本書の主人公市蔵は、木更津の漁師の息子で、今は日本橋界隈を縄張りに岡っ引きとして活躍していた。女房のお秀に小料理屋「きさらづ」を任せて、一人娘のおゆきはもうすぐ嫁にいくところ。女好きで酒好きだが、骨惜しみしない直次を手先に使っている。 捕物を縦糸に、市蔵の家族との交流を横糸に話は綴られていく。 ●「夜の道行」薬研堀で呉服屋の通いの女中の絞殺体があがった…。「浜町河岸夕暮れ」独り者の大工が長屋で切腹していた…。「風のゆくえ」大きな商いを控えた材木屋の女房の前に七年ぶりに恨みを抱いた弟が帰ってきた…。「闇の向こう」老舗の履物屋の跡取り息子が雪の日にかどわかされた…。「春霖に消えた影」地廻りの子分をしていた十六、七の男が、裏通りで刺殺された…。 目次■夜の道行/浜町河岸夕暮れ/風のゆくえ/闇の向こう/春霖に消えた影/解説 長谷部史親 |
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江戸藩邸物語
戦場から街角へ 著者:氏家 幹人(うじいえみきと)
![]() 図版提供:出光美術館・城西大学水田美術館 切絵:小泉恵子 時代:寛文元年(1661)から元禄十六年(1703) 舞台:小石川大塚 (中公新書・680円・88/6/25第1刷、97/6/30第13刷・222P) 購入日:97/7/23 読破日:97/8/20 |
ゲストブックで、まつださんから紹介していただいて以来、ずーっと気になっていた著者・氏家幹人さん。帰省中に読了。本書は、時代小説ではないが、時代小説に馴染んだ頭には格好の刺激となる一冊。 水戸藩の支藩である守山藩の(福島・守山)の江戸藩邸の公式記録「守山御日記」(寛文元年から元禄十六年)と旗本天野弥五右衛門長重が日々書き留めた教訓的備忘録「思忠志集」からのエピソードを元に、武家の生活の実態を紹介している。 藩邸=サンクチュアリ(避難所、隠れ家)、法衣=サンクチュアリ(超法規的処置)という考察が面白かった。 ●“十七世紀後半以降における武士社会の新しい作法の形成”をテーマに、殉死や自刃、喧嘩などの武士としての出処進退の仕方、武士たちの職場である藩邸での勤務ぶり、男色などについて、史料による具体的なエピソードを添えて鮮やかに浮かび上がらせている。 目次■武士としては/〈職場〉の作法/路上の平和/駆け込む者たち/火事と生類をめぐる政治/小姓と草履取り/死の領域/見いだされた老い/あとがき |
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炎の塔
小説大内義弘
★★★☆☆
![]() 装画:大島 哲以 AD:上野 和子 時代:応安四年(1371)年 舞台:周防・山口、京、堺 (文春文庫・350円・91/6/10第1刷・211P) 購入日:97/7/30 読破日:97/8/18 |
今夏の高校野球に、西京という高校が出場したが、最初、てっきり京都代表だと思っていた。京の西ではなく、西の京、すなわち小京都、山口の代表だった。本書で読んでどうして、西の京都っていわれるのかがよくわかった。 京にかつて暮らし、京に憧れを抱き続けた大内氏が、心血と財力を注いで町作りをしたのだった。大内氏というと、今川氏と並んで貴族かぶれした、古いタイプの大名のイメージがあるが、結構血生臭い歴史をもっている。また、祖先が源氏や平家ではなく、百済の王族というのが意外だった。 本書の描かれている時代が、北方謙三さんの「武王の門」のちょうど後ぐらいから始まるので、なかなか興味深かった。「武王の門」では、三国志の司馬仲達ぽかった今川了俊の別の面が見れた点も収穫だ。 著者の古川さんは、白石一郎さんと並んで、西国に生活し、西国の人物を描き続けた作家だが、今まであまり作品を読む機会がなかった。 ●南北朝後期。周防・長門の守護大名、大内弘世の嫡男・孫太郎(のちの義弘)は、西下してきた九州探題今川了俊への助勢のために、父とともに太宰府攻略に加わる。やがてこのことから、父と子の対立が始まる…。 目次■第一章 父子相剋(瑠璃光寺にて/筑紫野/小京都山口/歌びとの戦野/義弘朝臣/骨肉の争い) 第二章 曠野の夢(女人来迎/九州探題/周防の饗宴/二条大宮合戦) 第三章 野望の砦(新領土/追風/七州の太守/王族の土/応永の乱/堺燃ゆ) 解説 縄田一男 |
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陋巷に在り2
呪の巻
★★★☆☆
![]() カバー装画:諸星 大二郎 時代:魯の定公八年(前502)年 舞台:春秋時代の魯 (新潮文庫・514円・97/8/1第1刷・349P) 購入日:97/7/30 読破日:97/8/15 |
久しぶりの中国もの(ルビが必要な難しい漢字が多い)のせいか、第1巻のストーリーをすっかり忘れてしまったせいか、ペースを掴むまで、ちょっと辛かった。主人公の顔回と女予(よ=一字です)が登場するあたりから、加速度がついて面白く思えてくる。 目次にあるように、饕餮やら八いつ(にんべんに八と月を書く字で表される。八人八列、六十四人による舞楽で、天子のみに許される礼)やら、酒見さんは、今回も凄いものをひっぱりだしてきたなぁ。 でも、個人的には、謎の美女・子容に惹かれています。 ゲストブックのおがさわらなるひこさんが、書いていたように、ちょっと長めの「あとがき」が面白かった。
●顔儒との廩丘の戦いの後、陽虎は、三桓家を乗っ取り、魯を牛耳(この本に語源も記述されていた)ろうと、謀略をめぐらし軍事行動を起こした…。 目次■放逐/饕餮/八いつ/魯国妖風/あとがき |
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ずっこけ侍
★★★★☆
![]() カバー:村上豊 時代:寛政元年 舞台:愛宕下、越後長岡藩 (新潮文庫・505円・86/9/25第1刷、95/8/20第14刷・364P) 購入日:97/7/6 読破日:97/8/11 |
「どえがら(どういうことだ)?!」 田中真紀子さんがTVに登場しなくなってからしばらくぶりに触れる長岡弁が懐かしい。「峠」をはじめ、幕末の長岡藩を取り上げた作品は幾つかあるが、それ以外の時代の越後・長岡を扱った作品は貴重。作者の小松さんは新潟市生まれということで納得。 もうすぐ、お盆。久々に長岡弁をたっぷり聞いてこようと思う。 好色小説ながら、ちっともいやらしくない。ほのぼのとしたユーモアがある不思議な作品。主人公は、三毛蘭次郎(=ミケランジェロ)と言うふざけた名前ながら、藩士の子弟にごく初歩の学問を教え、藩主や側用人などもその教え子という堅物の五十石どりの初老の武士。家康ゆかりの秘宝をめぐる謎があり、伊賀の忍びが登場したり、御殿芝居のシーンがあったりと、エンターテインメントの要素に事欠かない快作。 ●三毛蘭次郎は、初めての江戸勤番で浮かれて、奥女中に惚れ後妻に迎えようとするが、ふとしたことから藩主・牧野備前守忠精の不興を買い、暇を出される。この武家社会を「ずっこけ」た蘭次郎は、食わんがために繁盛屋(スケールは違いうが、一種の総会屋のようなもの)、枕絵のモデル、みそかお屋(出張ホストのようなもの)の抱えなどを転々とするが…。 目次■発端/繁盛屋/枕絵/みそかお屋/元の木阿弥/飴売り/惑い/居候/寺男/湯汲み/隠し目付/御殿芝居/忍びの者/祝言/上覧/解説・藤沢周平 |
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花鳥の乱
利休の七哲
★★★☆☆
![]() 装幀:細山田光宣/米倉英弘 装画:北小路延子 時代:「風の武士」天正四年。「美の巡礼」慶長二十年 (マガジンハウス・1400円・97/5/22第1刷、・216P) 購入日:97/8/2 読破日:97/8/10 |
マガジンハウス社らしいおしゃれな装幀の本。写真ではわかりにくいが、表紙に利休と七哲がエッチング風に描かれている。 反乱の理由がわかりにくかった荒木村重や、いつもチラッとしか登場しない青年武将・蒲生氏郷、名前しか知らなかった古田織部らの生きざまがきっちり描かれていて面白かった。 七哲を通して、利休をはじめ、信長、秀吉、家康の実像が浮き彫りにされている。 ●桃山時代は茶の湯という文化が、政治や経済より上位だった。茶頭である利休の影響力は、関白秀吉と匹敵するほどであった。この激動の時代に「利休の七哲」と呼ばれる大名の高弟たちがいた。そんな男たちの生き方を綴った物語だ。 目次■巻の一 風の武士 荒木村重/巻の二 天上の城 高山右近/巻の三 花の下 織田有楽斎/巻の四 早舟の客 蒲生氏郷/巻の五 雨の中の犬 細川忠興/巻の六 加賀の狐 前田利長/巻の七 美の巡礼 古田織部 |
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江戸切絵図貼交屏風 (えどきりえずはりまぜ びょうぶ)
★★★★☆☆
![]() 装幀:中島かほる カバー絵:(株)人文社蔵版 江戸切絵図より 表紙絵:大名千代紙「柑子文韋」 菊寿堂いせ辰 各章扉絵:幹英生 時代:「武州浮城美人図下絵」のみ文政六(1823)年で、ほかの章は蔦屋重三郎が活躍することから考えて享和から文化にかけてか。 印象的な場所:山王下、御殿山、湯島妻恋坂、向島 (文藝春秋・1553円・92/7/30第1刷、96/7/15第5刷・355P) 購入日:97/7/13 読破日:97/8/6 |
「ページを吹きぬける 粋でいなせな江戸の風。―「江戸時代が面白いフェア」 最近、文藝春秋さんは時代小説のセールスに力を入れているようだ。腰巻き(帯)のキャッチに惹かれて思わず手にとってしまった。単純だからな。 辻邦生さんというと、純文学っぽいイメージがあって近寄りがたかったのだが、この作品は肩の力が抜けていて辻さん自体が楽しんで書かれている印象を受けた。端正な文体で、叙情的な風景描写が主人公の貞芳の絵の雰囲気とマッチしていた。 連作形式で、毎回貞芳の絵の造主(モデル)になる美女たちにかかわる事件を捕物帳風に綴っている。小笠原京さんの「旗本絵師シリーズ」と似た設定になっている。 事件の背景には、幕藩体制の矛盾により財政で苦しむ諸藩(最後の章の忍藩以外は架空の藩が登場)とその犠牲となる武家の家族が描かれていて、それと対照するように美への追求に賭ける絵師の姿が合わせて描かれている。 ナポレオン時代の鳥居耀蔵のような人物を描いているらしい、辻さんの「フーシェ革命暦」が読んでみたくなった。 最近、江戸切絵図に興味を持ちはじめたせいか、(メッセージボードにでてきたCD-ROMも探しているのだが見つからない)、本書の的確なロケーションの描写が嬉しい。各章の扉に付いている幹さんのミニミニマップがまた味わいがある。
●歌川貞芳は、旗本の嫡男に生まれたが、家督を弟に譲り、家を出て山王下に画室を構えて、花鳥画、風景画を得意とする絵師として活躍していた。武家育ちのせいか、美人画がうまく描けずに才能の限界のようなものを感じ始めていた…。 目次■その一 山王花下美人図/その二 美南見高楼図前後/その三 湯島妻恋坂心中異聞/その四 無量寺門前双蝶図縁起/その五 根津権現弦月図由来/その六 向島百花譜転生縁起/その七 墨堤幻花夫婦屏風/その八 神仙三圍初午扇/その九 武州浮城美人図下絵/藍いろに暮れてゆく江戸に―「あとがき」にかえて |
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源内先生舟出祝 (げんないせんせいふなでのいわい)
★★★☆☆
![]() カバーデザイン:菊地信義 カバー装幀:中島かほる カバー装画:岸勤 表紙デザイン:粟津潔 時代:安永八(1779)年二月 (河出文庫・524円・95/11/2第1刷、174P) 購入日:97/7/20 読破日:97/8/3 |
今まで、平賀源内というと、昔、NHKで観た「天下御免」の教育的効果と、「土用の丑」で知られるコピーライターの草分けで、「江戸のダヴィンチ」っていう感じかな…。 本書では、源内の奇人ぶり、天才のメッキ落しを嫌みにならない洒脱な語り口で綴っている。以前に脱疽の歌舞伎役者・沢村田之助を描いた「江戸役者異聞」(河出文庫)を読んだが、山本さんは、戯作者的な雰囲気をもった作家だと思う。 源内先生からみた玄白君、玄白君からみた源内先生、また、弟子からみた源内先生、源内先生からみた周りの人たち。それぞれの視点からの見方のズレが、人間性を鋭く洞察していて面白い。 高橋克彦さんの浮世絵師殺人事件シリーズに出てくる秋田南画と、源内先生が絡む秋田藩の南蘋画って同じものかな? ところで、河出文庫の奥付のクレジットでは、カバーデザインと表紙デザインとカバー装幀が分かれているが、どう違うのだろうか? 気になるなぁ。 ●平賀源内の謎の多い晩年を、同時代人の杉田玄白や司馬江漢らとの交流の中に描く…。さて、源内先生の船出はいずこへ…。 目次■源内先生舟出祝/殺人という業績―井坂洋子 |
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玄界灘
★★★★
![]() 装幀:西のぼる 時代:「玄界灘」文永十一(1274)年十月 (文藝春秋・1524円・97/7/20第1刷、283P) 購入日:97/7/20 読破日:97/8/1 |
「海の日」を記念して買った一冊。白石さんの久々の短編集。「魔笛」以外は海をテーマにした作品ばかりである。基本的に短編は、主人公に感情移入する直前で終わってしまうので苦手なのだが、この作品集は全編通して、白石海洋小説のエッセンスが詰まっていて楽しかった。 とくに、「さいごの奉行」の河津の出処進退の鮮やかさと、「航海者」の三浦按針こと、ウィリアム・アダムズの孤高さが、印象に残った。ぜひ、長編の中で扱ってほしい。 以前から気になっていた「白石一郎海洋小説ベスト10」を発表。 ●「妖女譚」文久二年の幕府貿易船千歳丸(あの高杉晋作が上海へ渡った船)に、妻を亡くして気鬱になった、長崎商人が乗り込んでいた…。「鎖ざされた海」宝暦六年、長崎に入港した唐船から、日本人が発見されたことから、ある事件が廻船で栄える筑前浜崎浦を見舞う…。「魔笛」紀伊の山中に住む猟師の父娘の話…。「玄界灘」蒙古軍の大船団に敢然と立ち向かう松浦党の佐志一族の若者…。「霧の中」文政二年、長崎の遠見番の名人が霧の中で抜荷船の発見を告げる…。「さいごの奉行」第百二十五代長崎奉行に任じられた河津伊豆守祐邦は、慶応三年十月に長崎に着任した。実はその二日前に大政奉還がなされていた…。「シャムから来た男」鎖国から五十年、林一官が船頭を務める唐船が長崎に入港した。その船でシャムの若者がやってきた…。「航海者」慶長五年三月、イギリス人航海士ウィリアム・アダムズが豊後臼杵湾の港町・佐志生に漂流するように到着した…。 目次■妖女譚|鎖ざされた海|魔笛|玄界灘|霧の中|さいごの奉行|シャムから来た男|航海者 |