新・極楽の読書録
1997年5月・皐月の巻


おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

雷電本紀(らいでんほんぎ) ★★★★☆☆
著者:飯島和一
カバー装丁:ミルキィ・イソベ
表紙デザイン:粟津 潔
(河出文庫・777円・96/9/4発行)
購入日:97/5/1 読破日:97/5/31

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メッセージボードの逍遥軒さんのおすすめ本。序から始まり、蒼竜、朱雀、白虎、玄武と風水術を連想される章立てで展開される長編だが、ヤマ場が二つあって、「一粒で二度おいしい」作品。
とにかく、主人公の雷電と助五郎をはじめ、爽やかな生き様の男たちが続々と登場するのがうれしい。助五郎と番頭の麻吉の主従を超えた関係は、ロバート・B・パーカーのスペンサーとホークの関係を彷彿させて楽しいやら、泣けてくるやら。
谷風や小野川をはじめ、今は年寄名として残る伝説の相撲取りを登場させ、江戸時代の相撲の様子を活写している。意味もよく分からず様式化されたような今の大相撲とオーバーラップさせると、いろいろと興味深い。

●信濃出身の稀代の相撲人雷電為右衛門は、飢えや貧困に苦しむ民衆の偶像であろうと、悩みながらも相撲に真摯に取り組んできた。一方、助五郎は、大火で鉄物問屋鍵屋を営む両親と妹をなくしながらも、小僧の麻吉と助け合いながら、店を再興する。雷電と助五郎の人としての生き様と友情を描く力編。

目次■序/蒼竜篇/朱雀篇/白虎篇/玄武篇/〔インタビュー〕覚醒か、遮蔽か(聞き手)久間十義

物書同心 居眠り紋蔵 ★★★★☆
著者:佐藤 雅美
装幀:村上 豊
装画:熊谷博人
(講談社・1650円・94/12/5発行)
購入日:95/6/18 読破日:97/5/26

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2年前に購入したが、読まずに本棚の奥に仕舞い込んだ本だ。続編を店頭で見つけて急に読みたくなった。
俳優の柄本明さんを彷彿とさせる、冴えない窓際同心が主人公。眠り病がもとで、失敗続き、同僚や上司、お奉行さままで見放される紋蔵を助けるのが、幼なじみの人入れ屋〔八官屋〕の主捨吉と与力蜂屋鉄五郎、そして彼の家族だった。
平岩弓枝さんの「はやぶさ新八御用帳」でも時々登場する、定廻りの同心大竹金吾が本作品でも、登場するが、偶然かなあ。実在の人だったりして、まさか。
佐藤さんの作品の場合、奉行所内のディテールや、裁きの様子など、とても丁寧に描いてくれるので大いに参考になる。
収録話:「お奉行さま」五両余りの大金の入った紙入れが奉行所に届けられた。拾ったのは評判の孝行娘だった…。「不思議な手紙」下馬廻りの役目についた紋蔵は、西国大名の家来にある頼みごとをされる…。「出雲の神さま」婚家から離縁されたおしのは、持参金返却をもとめて公事を起こしたが…。「泣かねえ紋蔵」深川の岡場所で、旗本の中間が殺された…紋蔵の身に一大ピンチが…。「女敵持ち」紋蔵の末娘妙と次男紋次郎が通う手習い師匠は、女敵を討たねばならない身の上だった…。「浮気の後始末」紋蔵の義父六兵衛は下女を孕ませ、金に困っていた…。「浜爺の水茶屋」仕立て屋を営む義母のもとへ盗品らしい黄八丈の小袖が、商家の小僧の手で持ち込まれた…。「おもかげ」駕籠訴をした女は、紋蔵の幼なじみだった…。

●南町奉行所の物書同心藤木紋蔵は、奇病を持っていた。所かまわず居眠りをしてしまうのだ。そのため、三十年勤めながら出世できず、華々しい捕物とも無縁の役所の内勤であった。そんな窓際同心≠フ人情味豊かでペーソス溢れる異色捕物帳。

鴻池一族の野望 ★★★★☆
著者:南原 幹雄<
カバーイラスト:西 のぼる
カバーデザイン:秋山 法子
解説:清原康正
時代:享保四(1719)年
(徳間文庫・583円・96/10/15)
購入日:97/4/20 読破日:97/5/24

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映画畑(日活)出身らしく、南原さんの作品は、ストーリーが視覚的でそのままスクリーンを見ているように展開し活写されていてわかりやすく、見せ場がテンコ盛りだ。
本編も、たとえはよくないが、コロンビアの麻薬マフィアに立ち向かうアメリカ政府というようなたたずまいがあり、ハリソン・フォードが出てきそうな感じがする。
豪商と享保の改革で知られる、緊縮財政政策の将軍吉宗の対立、その背景にある江戸中期の経済の矛盾と破綻など、経済小説としても読める。
鴻池を支える影の軍団(新田主家の武装集団 )の出自(戦国尼子・水股衆の末裔)と、その使用する武器、石つぶてと神道夢想流棒術(あの夢想権之助が考案した)の強力さが物語を盛り上げている。
四代目鴻池善右衛門が鴻池一族の総帥のわけだが、今、並行して読んでいる「竜馬が行く」にもその末裔がチラッと出てくるのが興味深い。

●大名貸しで全国を経済的に支配しようとする鴻池一族。その野望を食い止めよ、と中町奉行所与力檜十蔵は大阪に向かう。たちまち十蔵に襲いかかる鴻池の傭兵たち。必殺の棒がうなり、石つぶてが飛ぶ…。

写楽まぼろし  ★★★★☆
著者:杉本章子
カバー:花村 広
解説:白石一郎
時代:明和六(1769)年
(文春文庫・447円・89/01/10)
購入日:97/5/4 読破日:97/5/19

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最近、女性の歴史・時代小説作家が気になる。澤田ふじ子さんや皆川博子さん、北原亞以子さん、そしてこの杉本章子さんも。
写楽の正体探しは、「写楽百面相」(泡坂妻夫・著)など、いろいろな形で描かれているが、本作品での描き方もユニークだ。これ以上はネタばらしになるので書かないが…
この本では、解説の白石さんが、「時代小説のどの背景に関しても、これは共通していえることで、有名人物を作中に点綴して読者を倦かせない手腕は、大切な才能の一つである」と書いて、時代小説の見方を教えている。この作品では、蔦屋重三郎や写楽はもちろん、歌麿、恋川春町、平賀源内、大田南畝、山東京伝、中村仲蔵ら、安永、天明期の文化人が続々登場する。
処女長編だが、江戸文学の研究家らしく、戯作と吉原の風俗や歌舞伎の様子に関しての描写がきめ細かくて見事だ。
直前に読んだ「夕立太平記」と、なんとなく時代が近いなあと感じながら読んでいたが、安永元年の目黒行人坂の大円寺から出火した大火が描かれていてびっくり。

●若き日の蔦屋重三郎は、〔肴や五郎兵へ〕近くの暗がりで、髷を切られた女おしのを助け、成り行きで一夜をともにする。「吉原細見」の小売店になりたくて、地本問屋鱗形屋を訪れ、そこで主人孫兵衛の内儀であるおしのと再会する…。蔦屋重三郎の半生と写楽の謎を描く。

目次■髪切り/おしの/暗影/密告/不吉な家/赤い糸/ふたりだけの祝言/通油町/大当たり/出会い/絆/おれの写楽/あとがき

夕立太平記  ★★★★☆☆
著者:宮本昌孝
カバーデザイン:南 伸坊
時代:明和八(1771)年
(講談社・1650円・96/07/20)
購入日:97/5/15 読破日:97/5/18

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ゲストブックの吉澤尚剛さんのおすすめ本。読後の爽快感がたまらんです。ご紹介ありがとうございます。
「剣豪将軍義輝」の作家で、太平記と付いていたので、題材は南北朝ものと勝手に思い込んでいたせいで、軽くフェイントをかけられた。
テーマは、御家騒動。「立川文庫」を念頭に置いたというように、敵役がいて、美しい娘がいて、毒婦がいて、主人公を助ける手下がいて、ものわかりのよい庇護者がいて、謎の黒幕がいるという具合に構図がわかりやすく楽しい。
針ヶ谷夕雲創始の稀剣・無住心剣流が重要な鍵を握るのも、剣法もの好きには見逃せないポイントなので、チェック!
歌舞伎の回り舞台を開発した並木正三や平賀源内も登場して、脇を盛り上げている。

●甲州の山育ちの野生児勘五郎は、偽の敵に父を殺され、敵を追って江戸へ出る。内藤新宿で暴れる悪馬夕立に襲われる老婆と娘を助け、夕立を殺してしまう。しかし、夕立は、出雲松江藩主松平治郷の愛馬だった…。

目次■一 敵持/二 江戸/三 夕立勘五郎/四 松平小僧/五 死神/六 運命の糸/七 機巧御殿/八 出雲へ/九 稲荷渡し/十 風光る

間諜 二葉亭四迷  ★★★★
著者:西木正明
カバーデザイン:長友啓典+K2
解説:清原康正
時代:明治三十一(1898)年三月
(講談社文庫・638円・97/05/15)
購入日:97/5/15/読破日:97/5/17

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明治時代を舞台にした歴史ミステリーなので、本欄で紹介していいかどうか、迷った。まあ、堅いことを云わずに、西木さんは気に入りの作家でもあるので、載せちゃいます。「ルーズベルトの刺客」も実によかった。
戦後の学校教育の影響か、明治から昭和にかけての近・現代史というのはよくわからない。日露戦争といっても、東郷神社の東郷平八郎さんぐらいしかわからない。
言文一致の「浮雲」の二葉亭四迷(「くたばってしまえ」という江戸弁から付けたペンネームらしい)=スパイ、というだけでわくわくしてしまった。
創作活動に行き詰まる二葉亭が、ロシアに癒しをもとめるところが面白い。後の首相田中義一や日本亡命中の孫文、初代ポーランド大統領からユル・ブリンナーのおじいさんや「東洋のマタハリ」のお父さんまで登場し、物識りになった気がする。

●陸軍大学ロシア語学科教授に拝命されたばかりの二葉亭四迷は、参謀本部の明石元二郎少佐のから指令を受ける。ウラジオストックでエスペラント協会の会合に出席し、ポーランド人のアイヌ語研究家ブロニスワフ・ピウスーツキと合うことであった。日露戦争前後に繰り広げられた諜報戦やロシア革命とポーランド独立運動の関わりまで、史実をまじえてスケール大きく描く。

目次■目次■プロローグ/第一章 東京/第二章 ウラジオストック/第三章 ハルピン/第四章 北京/第五章 東京/第六章 樺太/第七章 東京/第八章 ヨーロッパ/第九章 いずこへ/エピローグ/あとがき

舫 鬼九郎(もやいおにくろう) [再読]  ★★★★
著者:高橋克彦
カバー装幀:不二本蒼生
解説:斎藤純(作家)
時代:寛永二十年二月
(新潮文庫・466円・96/02/1)
購入日:97/4/16/読破日:97/5/15

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「侠客」で知られる幡随院長兵衛に、弟分の唐犬権兵衛、「柳生忍法帳」でおなじみの天海僧正、沢庵和尚、柳生十兵衛、庄司甚右衛門に、天竺徳兵衛、高尾太夫と日下開山の相撲取り明石志賀之助、左甚五郎、…、オールスターキャストの東映時代劇って感じ。続編「鬼九郎鬼草子」に続くってところか。
ほとんどが実在の人物で、架空の人物が主人公の舫鬼九郎だ。天竺徳兵衛ばりの南蛮風の装いにフェンシングのサーベルを思わせる細身の剣を使った「緋炎」の技が冴える。何やら高貴な生まれらしいが、背中には愛染明王の刺青が…、謎がいっぱいでワクワクする。
はじめての時代小説らしいが、舫が位牌から手がかりを掴むあたりが、絵に造詣が深い高橋さんらしい仕掛けだ。

●吉原近くで若い女の全裸死体が見つかった。首を切り落とされ、背中の皮が剥がされている。町奴の幡随院長兵衛は事件の真相を探り始めるが、謎は深まるばかり。そこへ、長刀に異風異相のかぶき者、天竺徳兵衛が登場。

霧の橋  ★★★★☆☆
著者:乙川 優三郎
カバー画:小村雪岱
装幀:菊地信義
時代:不明
(講談社・1545円・97/03/10)
購入日:97/3/27/読破日:97/5/12

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第七回時代小説大賞受賞作。ちなみに、第一回は、「雁金屋草紙」(鳥越碧・著)、以降「本多の狐」(羽太雄平)、「西鶴人情橋」(吉村正一郎)、「海鳴りやまず 八丈流人群像」(藤井素介)、「水の砦 福島正則最後の闘い」(大久保智弘)と続く。
そういえば、先ごろTV朝日系で第六回受賞作の「蘭と狗」(中村勝行・著)が、村上弘明主演で放映された。油断していて、TV欄をチェックしていなかったのでちゃんと見れなかったのが残念だ。
武士の誇りと商人の矜持。藤沢周平ライクな作品で、ラストシーンまで端整に描き切った筆力に感動した。次回作がとても楽しみだ。

●陸奥田村家(一関藩三万石)の勘定組頭の江坂惣兵衛は、小料理屋の女将紗綾をめぐって錯乱した同役の林房之助に斬殺される。惣兵衛の次男与惣次は、仇討を果たし、帰国するが兄の公金横領の末の切腹、江坂家断絶により国外追放となる。そして刀を捨てて、浅草田原町で、家付きの娘おいとを娶り、商人紅屋惣兵衛として第二の人生を送っていた。やがて、小さいながらも順調な商いに、黒い陰謀の影が…

禁裏御付武士事件簿 《神無月の女》  ★★★★☆
著者:澤田 ふじ子
装幀:中環
解説:菊地仁
時代:元禄十四年
(徳間文庫・495円・95/07/15)
購入日:97/5/7/読破日:97/5/11

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最新刊のわりに、四軒目の書店をめぐってやっと購入できた。入荷数が少ないのか、隠れ澤田ファンが多いのか、不思議なことだ。
購入したは、いいがどうも読んだことがあるようなないような変な感じがする。タイトルも聞いたことがあるし、登場人物の名前も覚えがある。でも、ストーリーを覚えていない、そうか別の巻を読んでいたんだ。
澤田さん得意の京を舞台にした傑作時代小説。禁裏御付武士とは、所司代配下で、禁裏や仙洞御所を警固する役目で、寛永二十年に設置された。
元禄十四年が舞台というだけあって、赤穂浪士ゆかりの人物も登場する。

●京都御所の警固にあたる御付同心久隅平八は、非番の日には、生薬の行商人に身をやつし〔市歩〕として市中の諜報活動をしていた。ある日、市歩の中で奇妙な話を耳にした。しかも、その翌日話しこんでいた男の一人が鴨川で殺された…(表題作)。
他の収録作品○「短夜の首」(伊豆御蔵島から来た八百比久尼が色茶屋を営むという謎を探る…) 「はかまだれ」(平安時代の公家出身の盗賊袴垂保輔になぞらえ京の町を騒がす盗賊の正体は…) 「名椿の壷」(平八と懇意の信楽の陶工の息子が何者かに襲われそうになった…) 「野狐」(禁裏を舞台にしたあぶな絵の作者と流通ルートを探る…)「鬼の火」(夏風邪をひいて床についた平八を見舞う同僚高田喜四内の顔に翳りが…)「風がくれた赤ん坊」(台風の日、平八は寺の山門で赤ん坊を拾った…)

旗本絵師描留め帳 寒桜の恋  ★★★☆☆
著者:小笠原 京
装幀:蓬田やすひろ
時代:元禄元年ごろか
(ベネッセ・1456円・95/07/15)
購入日:97/4/27/読破日:97/5/10

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主人公の藤村新三郎は、時代小説屈指の着道楽のヒーローだ。ただ、読む方に服飾の知識がないので、立居姿を想像するのが難しい。
旗本の三男坊という設定のせいか、あくせくしたところがなく捕物ぶりが若様然としている。人入れ屋の佐野屋源助や、今戸の長兵衛一家などの手を悪びれるところなく使い、自身での地道な探索活動をしないで推理とヤマ場で仕込み筆で美味しいところをさらってしまう。また、難しくなりそうになると、千三百石の旗本で御使番の父親の手を借りてしまう。なんかなあって感じもする。
収録作品のタイトルからもわかるように、江戸前期の四季を描いた風俗描写は見逃せないところ。
●「瑠璃菊の女」に続く、旗本絵師藤村新三郎が活躍する描留め帳シリーズ第二弾。寒桜の名木がある山王権現の石段から墜落死した中間の謎と大名家の役者遊びをめぐる艶聞を描いた表題作ほか四編収録。
他の収録作品○「菖蒲の別れた」(比久尼を助けた新三郎は、お家騒動に巻き込まれる…) 「七夕の恨み」(新三郎の絵のモデルになった長崎にゆかりの美女の正体は…) 「菊酒の名残り」(新三郎が助けた小指を切った初老の男は、羅生門河岸といわれる吉原の最下級の女郎屋をめざした…)

木枯し紋次郎 (一) 赦免花は散った  ★★★★☆☆
著者:笹沢左保
デザイン:亀海昌次
解説:縄田一男
時代:天保六年九月
(光文社文庫・485円・97/01/20)
購入日:97/3/27/読破日:97/5/5

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ゲストブックのおすすめ本。やはり面白かった。ハマりそう。
「木枯し紋次郎」というと中村敦夫、「どこかでだれかが〜」で始まる上條恒彦の歌、縞の合羽に三度笠っていう子どもの頃見た、TVのイメージが強い。食堂の帰りに爪楊枝を口にくわえるのも流行った。
渡世人で、「あっしにはかかわりあいのないことでござんす」という口癖でニヒルで暗い主人公だが、読んでみるとけっこういい奴である。共感も持てる。
でも何でみんなヤクザが好きなのかな。自分にないものへの憧れとか、対岸の火事って感じで楽しめるからなのかな。よくわからない、もうちょっと読んでみよう。
第3話の「湯煙に月は砕けた」が、船戸与一さんの冒険小説やマカロニウエスタンぽくて秀逸。

●三度笠に道中合羽、手甲脚絆。長脇差とトレードマークの長い楊枝。幼なじみの兄弟分、日野の左文治に裏切られ、島流しになった紋次郎が、三宅島から帰ってきて復讐に向かう…。
収録作品○「赦免花は散った」(幼なじみの身代わりに遠島になった紋次郎。信じていた幼なじみに裏切られ…) 「流れ舟は帰らず」(紋次郎は、信州小田井宿で、十五年前に家出した息子を捜す江戸の富商とその娘を、野盗の手から救う…) 「湯煙に月は砕けた」(暴れ馬に襲われた娘を助けて、膝のさらを割り、娘の故郷の伊豆の山間の湯治場でリハビリ中。…) 「童唄を雨に流せ」(甲州・鰍沢で産んだばかりの赤子を間引こうとした母親を助けるが…) 「水神祭に死を呼んだ」(三州街道を高価な杏仁を運ぶ老馬追いと薬種問屋の娘に護衛を頼まれるが…)

縄田一男[編] 半七捕物帳  ★★★★☆
著者:岡本綺堂
デザイン:菊地信義
人と作品:縄田一男
時代:天保十二年、十二月。明治三十一年
(講談社大衆文学館・830円・97/03/20)
購入日:97/3/30/読破日:97/5/4

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TVドラマが気に入って、続編も読むことにした。今度の編者は、時代小説解説の第一人者縄田さんだ。北原亞以子さん編にあった挿絵の趣も捨て難いが、本編の方が収録作品数が多く、第1作や、半七の初捕物、最終作品など記念碑的な作品を収録しているのでお得感がある。
本書を購入した当時は、店頭になかった光文社文庫版がまた、店頭に並んでいるので、ハマりたい人は、そちらがおすすめだ。この大衆文学館版はCDのベスト盤のようなところか。
「石灯籠」のなかで、捕物帳の定義をきっちりしていて、多いに参考になる。岡っ引、小者、御用聞き、目明しの違い、使い方がよくわかる。
明治から見た江戸の社会、風俗をたっぷり書き込んでいるので、かび臭く感じるところもあるかもしれないが、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」ものを読むつもりで取り組むと面白く読める

●続編ながらも、シリーズ第1作の「お文の魂」から、大正期に書かれた最後の半七物語の「三つの声」まで、前期の作品から13編を収録。
収録作品○「お文の魂」(旗本の妹が、幽霊に悩まされて嫁ぎ先から娘を連れて戻ってきた…) 「石灯籠」(行方不明になった小間物屋の娘が戻ってきたが、すぐまたいなくなり、おかみが殺された…。半七初手柄) 「勘平の死」(素人芝居の忠臣蔵の六段目で、勘平役の若旦那がすりかえられた小道具の本身の刀で殺された…) 「湯屋の二階」(手先の熊蔵の営む湯屋に怪しい二人組の武士が入りびったっていた…) 「お化け師匠」(お化け師匠とあだ名される踊りの女師匠が養女の一周忌に殺された…) 「春の雪解」(春の雪の夕方、半七は贔屓の寮からのお呼びを断る按摩を見かける…) 「三河万歳」(師走の寒い朝、田舎者の若い男が懐に赤子を抱いたまま死んでいた…) 「熊の死骸」(火事のなか現れた熊に襲われる若い娘を助けたのは…) 「張子の虎」(捕物に助勢した遊女が殺された…) 「弁天娘」(質屋の小僧が口中を腫らした末に死んだ…) 「冬の金魚」(俳諧の師匠其月は湯の中で泳ぐ金魚を売ることになった…) 「むらさき鯉」(殺生禁断の御留川で紫鯉を釣った男にまつわる話) 「三つの声」(川崎大師へ参詣するために早出した男は、待ち合わせ場所で同行の従弟と友人に出会えなかった?!)

震える岩 霊験お初捕物控  ★★★★☆
著者:宮部みゆき
装幀:熊田正男
時代:享和二(1802)年
(新人物往来社・1456円・93/9/30)
購入日:97/4/26/読破日:97/5/2

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時代長編小説ながらも紛れもなく宮部ワールド。江戸を舞台にしていながら、不思議と読んでいると現代を感じる。また、サービス精神旺盛ぶりがこの作品でも随所に出ている。筆者なりの忠臣蔵観を綴っているのも時代小説ファンとしてはうれしいところだ。
「はやぶさ新八御用帳」(平岩弓枝著)でおなじみの、南町奉行根岸肥前守鎮衛の著した「耳袋」の逸話が本編の題材になっている。浅野内匠頭が切腹した田村家の庭の石が鳴動する話だ。ちなみに、本編に奉行は登場するが、新八郎やお鯉(登場する女中はお松)は出てこない。当たり前か。

●ふつうの人間にはない不思議な力をもつ〔姉妹屋〕のお初。奇怪な幼児殺しの謎を追うお初の前に100年前の赤穂浪士討ち入り事件が…。兄の岡っ引き六蔵、〔姉妹屋〕を切り盛りする兄嫁およし、与力見習いの古沢右京之介、南町奉行根岸肥前守らが物語に絡み、事件解決に乗り出すお初を助ける。