|
1999年11月・霜月の巻
虹の刺客 by 森村誠一 |
|
江戸あるき 西ひがし (えどあるき・にしひがし)
早乙女貢
カバーイラスト:菊地ひと美 |
♪著者は、1969年『僑人の檻』で直木賞受賞し、『会津士魂』などの歴史・時代小説でおなじみの早乙女さん。曽祖父は会津藩士とのこと。最近、会社関係の有志と、江戸情緒研究会をスタートした。といっても、まだ2回しか活動していないが…。東京に残る江戸の情緒を掘り起こし、味わうという趣旨のものだ。そのネタ本の一つとして、本書を読んだ。肩の凝らない読み物として、時代小説家の著者が江戸の町々のエピソードを綴っている。 そんな中で、新選組で知られる近藤勇の道場“試衛館”は、“誠衛館”の間違いではないかという指摘は、興味深かった。確かに“試”と“誠(新選組の隊旗の文字として有名)”は、崩してみるとよく似ている。 現在の地図も掲載しているので、江戸歩きガイドとして役立つ。また、巻末に索引がついているのも親切だ。 読みどころ●現在の東京で、書斎から飛び出した時代小説作家の眼がとらえた江戸の名残と風景。浅草奥山の美女のいた茶屋から青山の屋敷町で憤死した高野長英の旧跡まで、足で探った江戸情緒のルポ。知られざる歴史のエピソードを紹介する作者の薀蓄話も楽しい、当世地図入り江戸歩きガイド。 目次■浅草奥山歌仙茶屋/世直し大明神/酉の市鷲明神/恐れ入谷の朝顔市/鶯と日暮しの里/谷中お仙茶屋/谷中延命院/不忍通り根津権現/けころ女の広小路/本郷菊坂あたり/お茶の水忠弥坂/神田ゆうれい坂/神田明神下/向島梅若塚/長命寺桜餅/縛られ地蔵/柴又の帝釈天/亀戸天満宮/亀戸梅屋敷/女郎と時ノ鐘/桜吹雪か金四郎/佃島の人足寄場/新選組と試衛館/振袖火事/四谷界隈忍者寺/四谷お岩稲荷/増上寺心中/狸坂・狐坂/高輪桂坂界隈/東禅寺公使館/麻布善福寺/山王の夏祭り/赤坂豊川稲荷/三分坂と雷電/青山五十人町/長英憤死の地/羅生門横丁/解説 小笠原京/索引 |
|
首売り 天保剣鬼伝 (くびうり・てんぽうきんきでん)
鳥羽亮
カバーイラスト:西口司郎 |
♪乱歩賞作家のお得意・剣術ミステリー。今回は、藩内の権力抗争に巻き込まれて脱藩し、大道芸の集団に身をおくことになった、真抜流の剣士で、今は首売り稼業の島田宗五郎、通称首屋宗五郎が主人公だ。剣豪同士のチャンバラシーンが楽しめるうえに、謎解きの楽しさも満喫できるミステリー仕立てになっている。悪役側もなかなか個性的で、楽しめるが、今回の魅力は宗五郎が属する、芸人集団・堂本座の面々の活躍ぶりだ。芸人として、普通の町人より下に見られながら、団結することで独自の力をもつように描かれているのが興味深い。
物語●「……首屋! 生首だよ。百文出せば、斬るなり、突くなり勝手だよ。さァさ、試し斬りだよ。いないか、腕に覚えの方はいないか!」 真抜流の遣い手、島田宗五郎は、娘の小雪を呼びこみにして、両国広小路で、首売りの大道芸で生計をたてていた。首売りとは、獄門台に見立てた横に渡した板の上に首を乗せ、その手前の部分に布をかけて、首から下を隠して晒し首のように見せているのだ。 目次■第一章 首屋/第二章 狂い犬/第三章 山猫通り/第四章 死霊/第五章 父と娘/第六章 博徒と芸人/解説 縄田一男 |
|
宮本武蔵 (みやもとむさし)
司馬遼太郎
カバー装幀:平隼 |
♪本書は、著名作家による競作シリーズ「日本剣客伝」の一作として発表され、朝日文庫『日本剣客伝・2』に収録されていたものを独立させたもの。宮本武蔵というと、どうも勝ちすぎるイメージが強く、共感を抱きにくいキャラクターだった。最近、ようやく、その武蔵に興味が持ててきた。コミック『バカボンド』のおかげかもしれない。そんな折に、司馬さんの本が発行され、早速読んでみた。1967年に書かれたこの作品は、意外なほど淡々と、武蔵のエピソードを時代順に綴っている。余分なものがないだけに、ストレートに武蔵の生き方、事跡がよくわかり、入門者にはありがたいガイドだ。 そろそろ、吉川英治版の『宮本武蔵』を詠むことにしよう。
物語●美作国讃甘郷宮本村にうまれた武蔵は、幼い頃、老父・平田無二斎から兵法の手ほどきを受けた。十三歳にして有馬喜兵衛という兵法者をうち殺した 目次■その生い立ち/吉岡兵法所/一乗寺下り松/宝蔵院流/異種試合/夢想権之助のこと/巌流/燕を斬ること/京の日々/小倉/山桃/決闘/巌流島雑記/大坂ノ陣/北条安房守/晩年/巻末エッセイ 瀬川智子 |
|
武蔵野水滸伝 上・下 (むさしのすいこでん・じょうげ)
山田風太郎
装画:天野喜孝「螺旋王」より |
♪千葉周作、男谷精一郎、島田虎之助ら幕末の剣豪たちが登場する、伝奇もの。北町奉行遠山左衛門尉の次男、銀五郎と南町奉行鳥居甲斐守の娘、お耀が、腐敗しきった関八州の大掃除のために、当時の剣客を結集させた。そのメンツが凄い。千葉周作とその倅、奇蘇太郎、斎藤弥九郎とその倅、新太郎、伊庭軍兵衛、拳骨和尚(物外)、大石進、秋山要助、浅利又七郎、樋口十郎左衛門、男谷精一郎、勝小吉、桃井春蔵、高柳又四郎、島田虎之助、平手造酒。彼らがバトルを繰り広げるばかりでなく、国定忠治、清水の次郎長、武居の吃安、小金井の小次郎、笹川の繁蔵、飯岡の助五郎らの同時代の侠客が関わる。さらに、オリジナルキャラクターとして妖若衆・南無扇子丸と海女のお伏が加わり、途方もないストーリーは展開してゆく。 関八州取締役になった銀五郎が、恋人のお耀に頼まれて、“三年大精進”という父親ばりの刺青を彫らされてしまうのが面白い。
物語●乱を起こし潜伏していた元大坂天満与力・大塩平八郎は、隠れ家で、大振袖に精好(せいごう)の袴という若衆姿の美少年・南無扇子丸(なむせんすまる)と会い、ほかの人に憑くという妖術を見せられた…。 目次■目次なし |
|
魔剣 2 朱雀ノ巻 (めけん・2・すざくのまき)
栗本薫
カバーイラスト:山本タカト |
♪執筆当初は、「玄武ノ巻」「朱雀ノ巻」「白虎ノ巻」「青龍ノ巻」と4巻で完結する予定だったらしい。ところが、発表誌の不定期刊行などのために、2巻目で執筆は止まっている。あとがきによると、当分続きは描かないらしい。未完をもってよしと考えているようである。もっとも読者側としても、続きは読みたいが、終ってほしくなく、謎は謎のままであってほしいという願望があるのも事実だ。「黒の旦那」は、大○○○か、そして「髑髏兵庫」は、剣豪の××××かなどといろいろ想像させてくれる部分があっていい。 一点だけ注文があるとすれば、地名に誤りがあること。越後村上が越前村上と記されているのが残念。江戸からの方向が違ってしまうので、辻褄が合わなくなってしまうのだ。歌舞伎の小説化を目指して、考証を重視しないという考えは理解できるが…。 物語●姫衆と呼ばれる女忍群にさらわれた弓月進八郎が戻ってきた。進八郎の弟弟子で、剣術道場の水谷道場の留守を守る、池田大助は、進八郎の帰還を喜んだが、どこか今までと違う様子に違和感をもった。その大助が根津の流連不動で、多宝院の青道心・日心と怪人・宮比羅重蔵に襲われかけて絶体絶命のピンチ。そこに現われたのは、ぞろりと黒い着物を着流して、髑髏の紋の浪人、髑髏兵庫だった…。 目次■二十一 新月の章(一)/二十二 新月の章(二)/二十三 新月の章(三)/二十四 新月の章(四)/二十五 新月の章(五)/二十六 不動の章(一)/二十七 不動の章(二)/二十八 不動の章(三)/二十九 初音の章(一)/三十 初音の章(二)/三十一 初音の章(三)/三十二 初音の章(四)/三十三 凶星の章(一)/三十四 凶星の章(二)/三十五 凶星の章(三)/三十六 凶星の章(四)/三十七 北辰の章(一)/三十八 北辰の章(二)/三十九 北辰の章(三)/四十 北辰の章(四)/あとがき/解説 日下三蔵 |
|
魔剣 1 玄武ノ巻 (まけん・1・げんぶのまき)
栗本薫
カバーイラスト:山本タカト |
♪栗本さんの伝奇時代小説のデビュー作。『神州纐纈城』の国枝史郎さんと都筑道夫さんと歌舞伎の影響を受けた作品。美少年、美少女、美男美女と醜悪な怪人ばかりが登場し、おどろおどろしいトーンが全体に漂い、甘く危険な香りがする。次が読めないストーリー展開が魅力。根謬多(こんぴゅーた)や風留素比度(ふるすぴーど)、細留(ざいる)など、都筑さんばりの当て字にニヤリとした。 物語●十七歳の少年掏摸・直次郎は、三河島の多宝院の祈祷所に忍び込もうとするとき、柔弱と贅沢と悪趣味を絵に描いたようないでたちの無頼の旗本・弓月進八郎と出会い、闘った挙句、意気投合した。直次郎は、弟分の敵討のために、進八郎は彼をなぶった武家小姓の九重優之助(なんと、直次郎と瓜ふたつ)の行方をおって、祈祷所の前にやってきたのだった。 目次■一 路上の章(一)/二 路上の章(二)/三 路上の章(三)/四 弁天の章(一)/五 弁天の章(二)/六 怪異の章(一)/七 怪異の章(二)/八 怪異の章(三)/九 女賊の章(一)/十 女賊の章(二)/十一 女賊の章(三)/十二 女賊の章(四)/十三 まゆらの章(一)/十四 まゆらの章(二)/十五 蛟龍の章(一)/十六 蛟龍の章(二)/十七 奇々の章(一)/十八 奇々の章(二)/十九 髑髏の章(一)/二十 髑髏の章(二)/あとがき |
|
島津奔る 上・下 (しまづはしる・じょうげ)
池宮彰一郎
装画:田屋幸男 |
♪評判に違わぬ傑作。基本的に時代小説主義者で、歴史小説を苦手としていたが、やはり面白いものは面白い。全編に、司馬史観を超えようとする作者の熱い思いが感じられた。関ヶ原合戦で敗者側の西軍に与しながら、本領を安堵された島津家の謎に、作者なりの回答を示してくれたので、スッキリとした。今まで薩摩藩というのは秘密主義でよくわからなくて、どちらかといえば嫌いだったのだが、この作品で一変した。映画『梟の城』を観ていて、篠田正浩監督もこの本を読んだようなふしが見られる。 また、作者が描く家康像(=小心者で臆病)が新鮮で面白い。最新作『遁げろ家康』(朝日新聞社)がますます読みたくなった。 物語●慶長ノ役で朝鮮に出兵していた島津義弘は、泗川新城にいた。その義弘のもとに、甥の豊久と藩の外交役・新納旅庵がやって来た。太閤秀吉他界の秘事を携えてである。それにともない、明・朝鮮軍と講和し、撤退、帰国しなければならなかった。義弘は、薩摩島津四百年の武名のために、あえて三十倍の敵を相手に撤退戦に臨むのだった…。 目次■玄鳥帰/海峡万里/遠慮近憂/腥風崩雲/狼子野心/同床異夢/以火救火(以上上巻)|星火燎原/円鑿方柄/天道是邪非邪/女委子(わいし)看戯/修羅八荒/死灰復燃/遊刃有余地(以上下巻) |
|
大江戸死体考 人斬り浅右衛門の時代 (おおえどしたいこう・ひときりあさえもんのじだい)
氏家幹人
装幀:菊地信義 |
♪竜藤さんからメールでおすすめいただいて、早速読むことにした。1ヵ月ほど前に、小塚原の刑場跡や回向院に行って来たばかりということもあり、とても興味深く読むことができた。小塚原からの帰りに、かつて高杉晋作らが、夜中に斬首された吉田松陰の首を取り返しにきたことを思い浮かべて、度胸あるなあと思ったのだが…。当時は、死体というのはもっと身近で、そんなに気味が悪いものではなかったようだ。山田浅右衛門家が、とても裕福だったという話が興味深かった。 『御家人斬九郎』(柴田錬三郎著・新潮文庫)や『介錯人・野晒唐十郎』(鳥羽亮著・祥伝社文庫)など、人斬りに関する本を読んできたが、今度は山田浅右衛門を主人公としたものを読んでみたい。 読みどころ●江戸には、意外に死体がゴロゴロしていたようだ。水辺には土左衛門、道端には行き倒れが…。また、江戸で評判の薬屋では、珍しい薬材の虫干し・一般公開が人気であったそうだ。そこでは、八尺の黒檀、象歯、狼頭、鼈甲、角水晶と並んで、人の陰茎、人の陰嚢、人の頭などが誇らしげに展示公開されていた。そして江戸の死体にもっとも深く関わった人物が人斬り浅右衛門こと、山田浅右衛門だった。 目次■プロローグ―江戸のアンダーワールドへ、ようこそ|第一章 屍都周遊(帝都の憂鬱/漂着死体は突き流せ/公方様も見て見ぬふり/妖しい屍/腐臭漂う井戸水/「膝付首縊」/江戸の検死官/検使マニュアル/『無冤録述』を見るべし/心優しき検使たち/なんでもありの情死コレクション/据物師山田浅右衛門/御様御用は晴れの舞台)|第二章 様斬(ためしぎり)(股肉をそぎ取った忠義者/私、売ります/股肉切りのもう一つの意味/川路の外交手腕/ポピュラーだった試し斬り/キリシタン受難/見学と実習/「ためし者場」利用規則/路上や川原で死体捜し/感嘆と喝采/マニアックな殿様たち/若き日の黄門様/変化する武士の気風/プロフェッショナルが登場/次第に高まる忌避の感情/重罪への付加刑として/不足する死体/鴎外と浅右衛門の奇妙な縁)|第三章 ヒトキリアサエモン(幽霊屋敷/中川左平太と山野勘十郎/泣く子も黙る鵜飼十郎右衛門/そして浅右衛門だけが残った/供養塔の建立/俳諧を学んだ理由/江戸の名物男/客筋は最上級/穢れと誉れ/山田家はとても裕福だった/富をもたらしたもの/なぜ浪人だったのか/「芸者」浅右衛門/クビキリかヒトキリか)|第四章 胆を取る話(臀肉切り取り事件/人間の脂肪を薬に?/キモを抜かれた少年/生ギモ信仰/ある東洋史家の“誤解”/「ひえもんとり」/文明開化の決断/キモ蔵があった浅右衛門邸/人胆売ります、「胴」も売ります/ジンタンかニンタンか/明治以降も絶えなかったキモ信仰/山田家にたかる小役人/上質のキモは健康な死体から/死体商売/小塚原に死体保管小屋を!)|第五章 仕置人稼業―浅右衛門の弟子たち(ひさしぶりの切腹/臨時雇用の介錯スタッフ/浅右衛門の弟子は何人いたか/不可欠な人材/川越藩据物師・長畑家の場合/親子で据物斬り/太平ボケ/かさむ出費/組織の中で/土壇の土を江戸から運ぶ/浅右衛門のコネで就職活動/お仕置きアルバイト/御家人残九郎と首打ち人左源太/修行も兼ねたアルバイト/究極のプロ集団)|エピローグ―もっと闇を!/あとがき/付録 山田浅右衛門の代々/主な参考文献と史料 |
|
虹の刺客 上・下 小説・伊達騒動 (にじのしかく・じょうげ・しょうせつだてそうどう)
森村誠一
カバー画・デザイン:熊谷博人 |
♪歌舞伎の「伽羅先代萩」や『樅の木は残った』(山本周五郎著)でおなじみの伊達騒動。実はこの本ではじめて発端から結末まで全体像がよくわかった。収拾まで意外に長い年月がかかり、その間、激しい権力抗争があったのだなあという印象を持った。現代的な筆致で壮大な権力抗争劇が描かれていて、スピード感をもって読むことができた。殺伐とした色になりがちな政争劇に、絵師畑虎之助とまいの愛情物語が虹色をそえている。森村さんの傑作『忠臣蔵』を再読してみたくなった。 巻頭に主な登場人物の紹介が記されているが、これはストーリーに関わる記述もあるので、興ざめにならないように、読後に整理のために読むことを勧める。 物語●伊達政宗を超える大器といわれた三代藩主綱宗は、奔放豪気な派手好みの性格で、吉原の薫に入れ揚げていた。老中酒井忠清は、伊達藩をリモートコントロールで操ることで、幕閣での権力強化を狙い、綱宗の叔父・伊達兵部宗勝は伊達藩乗っ取りを企み、姻戚関係を結んで、綱宗を隠居に追いこんだ…。 目次■序章/大廈の内分け/指名の真意/暗殺の黒幕/不気味な追い沙汰/分けぬ皮算用/檻の獣/墓穴の歌/走りだした馬/花の肥料/武士の一義/正義の死相/野獣の夢/仏衣の袖の花/花の刺客/昼行灯の光/老諫/遠謀の構図/真の敵/蓋女/美形の使途/毒の後遺/遺児の行方/助勢のおもわく/春の空の迷い凧/落橋の策/返し罠/仕掛けられた謀叛/生臭い前途/瀕死の密命/縛られた苦忠/天敵の目(以上上巻)|大老の影/ただ一枚の絵/中継された遺託/夢の変質/末恐ろしき結末/仕掛けられた検地/弱い旗/交替した主敵/正念場の正体/孫傘/忠衣を着た私憤/日付のない密約/飼い犬の裏切り/両刃の抹消/野心の乱心/新たなる死地/残された仕掛け/野心の犠牲/べつの命/権威ある定石/化け物の尻尾/血の源流/許さざる故郷/翳れる権勢/対決の時/流れの終末/新しい止め/権力の輪廻/青春の共有者/主な参考文献/『虹の刺客』執筆を終えて/巻末エッセイ(八尋舜右)(以上下巻) |