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蘭と狗 長英破牢 (らんといぬ・ちょうえいはろう)
中村勝行
カバー装画:百鬼丸 |
♪第六回時代小説大賞受賞作。作者は、俳優の中村敦夫さんの実弟で、TVの「必殺」シリーズや「太陽にほえろ!」の脚本家として活躍された人。別名義・黒崎裕一郎でも、時代小説を発表されている。高野長英ものというと、主人公の悲惨な末路が嫌で、今まで敬遠していたが、文庫化(百鬼丸さんの装画がいい)を機に読む。これが面白い。逃げる蘭=蘭学者・長英、追う狗=岡っ引・瓢六の逃走劇にハラハラドキドキ。同時に、二人の人間像も余すところ描かれていて、深みを与えている。 高野長英を匿うことが、当時の蘭学を学ぶものとってのリトマス試験紙であったり、鳥居の密偵・本庄茂平次や国定忠治が登場したり、と興味深いところも多い。 物語●天保十年五月、岡っ引瓢六は、同心の小林藤太郎と、蘭学者・高野長英捕縛に向かった。二人は、御目付役・鳥居耀蔵の息のかかった南町奉行所与力・大内源兵衛の命により、長英が自首する前に、召し捕ってしまおうという、鳥居の魂胆を実現するためだった。首尾よく瓢六らは、長英を捕縛することができたが…。 目次■第一章 蛮社遭厄/第二章 夢物語/第三章 走狗/第四章 牢名主/第五章 破獄/第六章 護寺院ヶ原/第七章 鳴らない鈴/第八章 追捕/第九章 ひかげ道/第十章 潜行流転/第十一章 雌猫/第十二章 もろともに死す|解説 菊池仁 |
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赤目 ジャックリーの乱 (あかめ・じゃっくりーのらん)
佐藤賢一
装画:森流一郎 |
♪13世紀半ばに、フランスに吹き荒れた農民反乱の嵐、「ジャックリーの乱」を描いた、直木賞作家佐藤賢一さんの第3作目の長編。乱の指導者、ジャック・ル・ボノム(善人ジャック)の側にいた一農民の目から描いている。盲従してきた貴族とその家族を相手に、徒党を組んで、殺戮、強姦、略奪する、農民たちの慈悲もない、残酷さが、中世という時代を感じさせる。一歩間違うと、エログロ趣味に陥りがちな題材をエスプリに富んだ形でまとめた作者の資質を評価したい。 物語●あらすじは、目次をご覧ください。 目次■プロローグ:世直しの気運高まるフィレンツェで、フレデリが二十年ぶりに再会した友ジェロームは、かつてあった灼熱の日々の記憶を持ち出すくせに、真実の“赤目”の行方を知らずにいたため、まさに死ぬほど驚いたという話/第一章:ペルヌ村の惨状をみるにつけ、フレデリが慕う乞食坊主ジャックは、炯眼の知恵者として不条理な貴族の悪政を暴き出し、村人たちを説き伏せて蜂起の武器を取らせるのだが、その実は摩訶不思議な力を持つ“赤目”が怪しく閃いていたという話/第二章:村人たちは領主アンゲランを撲殺するや、それが正義だと“赤目”にたきつけられ、可憐な令嬢シャルロットまで皆で手込めにするのだが、臆病者のフレデリはうろたえて逃げたため、かえって淫らな貴婦人ブリジットに辱められるという話/第三章:暴徒の猛威が荒れ狂い、貴族という貴族が血祭りに上げられる中、フレデリは愛らしく清純な女マリーを守ろうと必死だったが、その白く豊かで官能的な肉体は“赤目”に取り憑かれた凶悪な暴徒に、ついに陵辱されてしまうという話/第四章:人間を見限ったフレデリは新世界の旗手として働くが、重大な使命のために“赤目”の力で「王」に登った怪僧ジャックの下を離れ、復讐の騎士として尊大な女ブリジットを裸で縛り上げはしたものの、若い苦悩はさらに深まる話/第五章:苦悩の末に友と別れ、将来を誓った女まで捨てたフレデリは、無残な処刑を目撃しながら“赤目”にすがって最後まで駆け抜ける覚悟を決め、甘えたがりの少女を犯す禁断の夢に遊んだ果てに、ただ美しい結晶をみつけたという話/エピローグ:混沌としたフィレンツェの片隅に、やっと手にした平和な家庭の団欒で、フレデリは心配性の妻と向き合いながら、愛息子に寄せる期待を熱っぽく語るのだが、それは“赤目”を信奉する男の、新たな予感に他ならなかったという話 |
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捨て子稲荷 (すてごいなり)
半村良/高橋義夫/諸田玲子/佐伯泰英/宮本昌孝/小杉健治/永井義男/高橋直樹/白石一郎
カバーデザイン:中原達治 |
♪どちらかというと、アンソロジーは苦手なのだが、これほど趣味の合ったラインナップを見せられると、入手せずにはいられず、一気に読んだ。短編ながら、それぞれの作家の個性が遺憾なく発揮されていて面白い。 「捨て子稲荷」:『かかし長屋』などに通じる、善意と悪意が融合した、スパイスの効いた市井物。 「奴さん」:武家社会の独自性をこの人らしいタッチで描く。 「瞽女の顔」:今まで読もう読もうと思いながら、ボタンを掛け違えたように、縁がなかった諸田さんの作品が読めてラッキー。ちゃんと長編とも付き合いたい。 「手毬」:時代小説に活躍の場を移して大正解の佐伯さんらしい、武家物。 「紅風子の恋」:和製・美女と野獣といったところか。 「逢引」:江戸を感じさせる捕物帳風市井物。 「小便組始末記」:才気を感じさせる。 「弱味」:この人の描く、家康ってホント狸だなぁ。 「やってきた男」:唯一再読になるが、どの短編集に収められていたか思い出せない。爽やかな読後感は相変わらず。 物語●「捨て子稲荷」捨て子稲荷と呼ばれる小さな稲荷の祠の前に、半纏に包まれた嬰児が捨てられていた。四年後、その子どもがかどわかされた…。「奴さん」清四郎は、口入屋から、奥州のさる家中の武士について、江戸と国許を往復する道中に従う仕事を紹介された…。「瞽女の顔」瞽女のお菊は、茶屋で商家の若旦那風の人がよさそうな男と知り合った…。「手毬」碓氷峠を越える、越後高田十五万石榊原式部大輔政永の一行は、浪人に家紋入りのお鎗の穂先を奪われてしまう…。「紅風子の恋」鬼子として家族や周りから疎まれていた勘助は、放浪して兵法家としての自信を得て、武田信玄に仕えることになった…。「逢引」朝次は、紙漉きの仕事を手伝う傍ら、捕物には目がなかった…。「小便組始末記」焼け跡の整地作業をしていた、鳶人足の弥吉は、土の中から金の詰まった茶壷を掘り当てた…。「弱味」徳川家康の家臣の平松金次郎は、眼をしょぼしょぼさせる癖があった…。「やってきた男」鳥羽港に、江戸を目指す千石船・阿波丸が入港し、“はしりがね”と呼ばれる遊女を乗せた小舟が阿波丸を迎え入れた…。 目次■捨て子稲荷 半村良|奴さん 高橋義夫|瞽女の顔 諸田玲子|手毬 佐伯泰英|紅風子の恋 宮本昌孝|逢引 小杉健治|小便組始末記 永井義男|弱味 高橋直樹|やってきた男 白石一郎 |
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天正十年夏ノ記 (てんしょうじゅうねんなつのき)
岳宏一郎
カバーデザイン:安彦勝博 |
♪安部龍太郎さんの『神々に告ぐ』上下巻(角川書店)を読んで、興味がふつふつと湧いてきた、戦国時代の天皇と公家について、さらに明快に描いたのがこの作品。「言継卿記」の山科言継、「兼見卿記」の吉田兼見、そして、本作品の主人公の「晴豊記」など、記録魔が多い公家の世界が意外にも描かれてこなかったのが不思議なほど。もっとも、腹芸が得意で、本心を明かさず、言行が一致していない人が多いのも、公家の特徴のようで、物語として描くには作者に多大な筆力が要求されるのかもしれない。 本書で描かれる、天皇の秘書官にあたる青年貴族から見た信長像というのが何とも新鮮で面白い。
物語●正親町(おおぎまち)天皇の右中弁(秘書官)・勧修寺(かじゅうじ)晴豊は、織田信長の美濃併合成功を祝して、綸旨を発給した。綸旨は、これより1年後、信長が足利義昭を擁して上洛する際の大義名分となった…。 目次■一章 勧修寺家の人々/二章 金色のブヨ/三章 征服者/四章 九十九髪/五章 友情/六章 勇健な姫君/七章 隠者たちの廻廊/八章 巨人奔る/九章 婚礼/十章 砂時計/十一章 嵐の中の島たち/十二章 歓びの月/十三章 湖べの寺/十四章 雨|解説 縄田一男 |
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正倉院の秘宝 (しょうそういんのひほう)
梓澤要
装画:藤原ヨウコウ |
♪『百枚の定家』(新人物往来社)が、超面白かった梓澤さんの長編歴史ミステリー。今回は、正倉院をめぐる聖武天皇と光明皇后の謎、藤原仲麻呂の陰謀が、テーマである。古都奈良の風景が楽しめるミステリーで、土曜ワイド劇場を想起させられる。ドラマ化されても不思議ではない。さしずめ、ヒロインは片平なぎささんだろうか。 古代史は苦手(どうも人物の名前がなかなか覚えられない)なのだが、この本は抵抗なく読めた。歴史の謎と、現代に起こる事件の行方と、物語は二重に楽しめ、推理小説としても第一級である。 物語●美術月刊誌『古美術薫風』編集部の加納理江子は、南大和の草山寺を十二年ぶりに訪れた。今回の訪問は、担当ページの「大和山寺逍遥」の取材と撮影のためであった。草山寺は、最初の訪問のときに同行した先輩編集者に、“仏像の墓場”と思い入れを込めて紹介された場所であった。そこで、理江子とカメラマンの里見圭吾は、黒鞘の刀を胸に抱いた等身大木造座像の仏像を発見した。厨子に封じ込められた、異形の秘仏に関わったことから、理江子の身の回りに事件が起こった…。 目次■第一章 異形の秘仏/第二章 脅迫/第三章 碧瑠璃の数珠/第四章 黒作懸佩刀/第五章 葛城の男/第六章 第一の殺人/第七章 疑惑/第八章 センセーション/第九章 第二の殺人/第十章 庵主の秘密/第十一章 北風の街/第十二章 祈り/あとがき |
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七福盗奇伝 (しちふくとうきでん)
澤田ふじ子
装画:小澤重行 |
♪ヒロインの千手姫は、後醍醐天皇の皇胤で、念阿弥慈恩の流れをくむ山伏から奥山念流の刀術を授けられた、正義感が強い、勝気な気性をした十八歳の娘。その反面、人を慈しむ心をもち、生得の美しさの目立つ女性という、時代小説のヒロインにはぴったりの設定。千手姫は、世の不正を目にするにつけ、南朝の末裔としての自覚からか、腹黒い商人や汚職をする役人たちに天誅を下していく。その過程で、使用されるのが、七福神のお面である。 一話一話連作形式で、物語は展開する。澤田作品の特徴である、京の町の事物への記述も随所にあり、楽しめる。とくに病人や窮者、孤児の救済施設である悲田院の紹介や、施粥の様子など興味深い。 物語●応仁・文明の大乱が終息した翌年、南朝の小倉宮を曽祖父にもつ千手姫は、愛宕山西麓水尾村から土御門万里小路の屋敷に移ってきた。屋敷には南朝遺臣の武士和田黒兵衛、御意見番のような侍臣佐田斎、下女のあこやが同行してきた。京での生活を始めたのは、千手姫にふさわしい婚姻の相手を見つけることであったが…。 目次■鬼あざみ/花扇/軒端の月/銭の花/粥童子/あとの桜/黒塚/解説 藤田昌司 |
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受城異聞記 (じゅじょういぶんき)
池宮彰一郎
カバー:芦澤泰偉 |
♪『けだもの』(1996年10月、文藝春秋刊)を改題。文庫本の新刊案内を見たとき、池宮さんに、あれ、こんな作品あったかな、と思ったが改題と聞いて納得。収録作品を見ると、「けだもの」が中編で、表題作をはじめとした4編が短編である。タイトルが変るだけで、作品集の感じがまるで変ってしまうものだ。「受城異聞記」は、確かにすばらしい作品。全編に緊張感が漲っている。厳冬の雪山越えという設定が興趣に富んでいる。 「おれも、おまえも」は、作者の家康観が楽しめる一編。『島津奔る』(新潮社)が読みたくなってしまう。 やはり圧巻は、「けだもの」。池宮さんの作品の多くが歴史小説色が強いのに対して、この作品は、典型的な時代小説だ。名脚本家であったこともあり、そのストーリーテリングの見事さと、視覚的なイメージがともなう文章がいい。 解説の菊池仁さんが紹介されているが、作者のエッセイ集『義、我を美しく』の中に収められた「歴史小説における史実と虚構」の中で、「司馬さんの築いた鉄壁のような司馬史観、司馬文学というものに、同じ世代で生まれた人間は一つの義務を持っていると思うんです。それは司馬史観の中に少しでも切れ目をつくりたい。そうしないと、歴史文学は発展していかなくなってしまう。司馬史観が余りにも圧倒的な強みを持っているだけに、それを感じます。これは同時代に生まれあわせた人間の義務ではないか。我々同年代の者の務めとして、司馬史観に少しでも抵抗する新しい歴史観を世に提示する必要がある、そう思っております。」と述べている。この文章を眼にして、鳥肌が立つほど強い感銘を受けた。 物語●「受城異聞記」美濃郡上八幡藩の金森頼錦(よりかね)が改易されることを受けて、加賀大聖寺(だいしょうじ)藩の郡奉行を務める生駒弥八郎以下二十四名が、高山陣屋と故城の接収に向かった…。「絶塵の将」尾張国清洲に、いちという悪餓鬼がいた。あるとき、酒に酔った織田家の足軽小頭と喧嘩になり、その男を噛み切って殺してしまった…。「おれも、おまえも」永禄年間の末頃、茶屋四郎次郎清延は、浜松城に家康を訪ねた…。「割を食う」備前岡山藩の渡部数馬の屋敷内で、当主の実弟で源太夫という者が斬殺された。下手人は同じ家中の者の倅、河合又五郎とわかった…。「けだもの」町方同心三刀谷孝吉は、北町奉行所内で並ぶものなき、捕物名人だった。その彼が“けだもの”とも呼ぶべき凶悪犯に出会った…。 目次■受城異聞記|絶塵の将|おれも、おまえも|割を食う|けだもの|解説 菊池仁 |
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将軍と木乃伊 江戸国学者・山崎美成 (しょうぐんとみいら・えどこくがくしゃ・やまざきよししげ)
永井義男
装画:百鬼丸 |
♪『夜鷹殺し 闇の平仄(ひょうそく)』の漢学者・寺門静軒、『大江戸謎解き帳』(いずれも祥伝社刊)の蘭方医・長崎浩斎と、永井義男さんは、ユニークなキャラクターをもちながら、歴史に埋もれてしまった文化人を次々に発掘し、捕物の主人公に据えている。そして今回は、国学者・山崎美成(やまざきよししげ)を主人公にしている。山崎美成は、童門冬二さんが描く上田秋成(『冬の火花』)のように、気位が高くて、皮肉屋で自己顕示欲が強い人物で、共感を持ちにくいタイプの主人公だ。捕物の探偵役としては、ちょっと無理があるかもしれないが、その人間像はなかなか興味深い。
物語●山崎美成らは、正月早々、隅田川のほとりの料理屋で、穢細工(きたなざいく)の料理比べを行った。ちゃんと食べられることが条件で、外見が汚ければ汚いほどよく、見ただけで胸が悪くなるような凝ったもので、最も汚いものが一等というもの。口が肥えた連中が行う、趣味の悪い遊びである。その穢細工の自慢料理に女の陰部が出てきた。あまりに猟奇的な趣向に座は白ける、仕掛けた張本人が誰もいないという…。 目次■第一章 江戸文化繚乱/第二章 天狗小僧登場/第三章 解けた謎 |
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密命 弦月三十二人斬り (みつめい・げんげつさんじゅうににんぎり)
佐伯泰英
カバーイラスト:古賀政男 |
♪第1作の『密命 見参!寒月霞斬り』(祥伝社文庫)から7年後、吉宗の八代将軍宣下を1ヵ月後に控えた頃が、作品の描かれている時代。この7年間にいろいろなこと(もちろん作中で描かれている)が起こり、主人公の金杉惣三郎は、なんと、藩の留守居役という重職についていた。というわけで、今回は、相良藩にとどまらず、御三家や将軍家も巻き込む、スケールの大きな政争劇に発展し、その陰謀に金杉惣三郎が挑むことになる。藤沢周平さんの『用心棒日月抄』(新潮文庫)を思わせるような、脱藩して事件解決に働く主人公が泣かせる。
物語●豊後相良藩二万石の下屋敷で、正室のお麻紀の方を迎えて二十六夜待ちの月見の宴を催された。黒装束の一団が乱入し、女中たちを襲った。幸い、藩留守居役・金杉惣三郎らの手で賊は撃退され、お麻紀の方に怪我はなかったが、乳母・刀祢が殺害された。黒装束たちは何者なのか? 盗賊か、公儀の隠密か? 目次■一章 二十六夜待ち/二章 お杏狂乱/三章 紀州の影/四章 宣下前夜/五章 菊屋敷のしの/六章 長屋暮らし/七章 愛宕山八十六段三十二人斬り/解説 細谷正充 |
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クイーンズ海流 (くいーんずかいりゅう)
佐江衆一
装画:百鬼丸 |
♪アヘン戦争前後の香港、ロンドンを舞台にした、スケールの大きな冒険歴史小説。大国の陰謀に立ち向かう若き海賊、周時珍の波乱万丈の生涯を描く傑作。杖術の達人の作者らしい、剣戟シーンもふんだんにあって、エンターテインメント性も高い魅力あふれる作品。この本で、初めてアヘン戦争とはどういうものであったかが、わかった。 また、昔、旅行したことがある香港の風景が懐かしく思い出された。
物語●孤児の周時珍は、目の前に広がる南シナ海を母と思い、香港島の近くの長洲島の入江に浮かぶサンパンと呼ばれる舟で、蛋民(水上生活者)の老婆と海賊たちに育てられた。時珍の名付け親は、「紅旗幇(パン)」を率いる女海賊海賊の香姑(こうこ)で、時珍は、海の天妃と崇拝していた…。 目次■第一章 女海賊/第二章 ロンドン・ホワイトホール/第三章 若き龍虎/第四章 鴉片戦争/第五章 香港ヴィクトリア市/第六章 剣と薔薇/第七章 陰謀/第八章 天の毒/第九章 上海の風/第十章 海嘯/後記/主な参考文献 |
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戯作者銘々伝 (げさくしゃめいめいでん)
井上ひさし
カバー装画:山藤章二 |
♪十数年ぶりに再読した。初読時は、中公文庫版だった。当時は江戸に関する知識が全くなく、まして戯作者など式亭三馬と山東京伝ぐらいしか知らなかった。にもかかわらず、面白かったことだけを記憶していた。再読してみて、やはり面白かった。12人の戯作者の生態をひねりの利いた筆で綴る技は、現代の戯作者といったところか。個人的には、「恋川春町」の章が好きだ。 物語●「鼻山人」手妻の柳川花蝶斎は、東里山人のことで北町奉行の吟味を受けた…。「半返舎一朱」十返舎一九の未亡人のお民と娘の舞は、六阿弥陀詣にでかけた…。「三文舎自楽」筆耕彫師の茂七を深川芸者のお米が仕事場が見たいと訪ねてきた…。「平秩東作」四谷大木戸の煙草問屋に強盗が入り、内儀を人質にした…。「松亭金水」町医者の永井鶴友のところに、これから医者を開業しようという男が訪ねてきた…。「式亭三馬」四谷塩町の湯屋に目の不自由な隠居がやってきた…。「唐来参和」吉原のしんこ指作りのお信を定廻りの同心が訪ねてきた…。「恋川春町」恋川春町の墓の前で、未亡人のお園と秋田佐竹藩の平沢平格が再会した…。「山東京伝」京伝の女房のお百合は座敷牢に入れられることになった…。「芝全交」能楽者の伝八郎は水戸家の重役と会っていた…。「馬場文耕」講釈師の志道軒は、同業の馬場文耕をネタに辻講釈をした…。「烏亭焉馬」三笑亭可楽は、差配人を相手に『遣繰軍談』の一席をはなした…。 目次■鼻山人|半返舎一朱|三文舎自楽|平秩東作|松亭金水|式亭三馬|唐来参和|恋川春町|山東京伝|芝全交|馬場文耕|烏亭焉馬|解説 中野三敏 |
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大江戸路地裏人間図鑑 (おおえどろじうらにんげんずかん)
岸井良衞
カバー絵:政演画 たなぐひあわせ |
♪『江戸街談』(1976年5月、毎日新聞社刊)を改題、再構成したもの。作者は、名著『江戸の町』(中公新書)でおなじみの岸井さん。岡本綺堂の門下生で、惜しくも1983年に亡くなられている。正月の松飾りや七不思議の話など、興味深い事柄について紹介している。江戸情緒のある図版を多数収録し、とっつきやすい本で、江戸入門者におすすめか。 読みどころ●江戸の町で見聞された噂の人物、ちょっと笑える話、不思議な事件などを収集したかわら版。江戸情緒を気軽に感じたい方向けの一冊。 目次■江戸のかわら版 第一面 江戸の売り声 旨いものを売る(八百善のお茶漬/お亀だんご/長命寺の桜餅/ぎうひ餅の始め/いくよ餅)|のんびり稼ぐ(夫婦の石像/栄螺売り)|水辺の商い(竹屋の渡/亀有の曳船)|夢を売る(慶安/看板書きの始め/世襲の絵馬屋)|艶を売る(茶屋女さまざま/風呂屋の始め/鳥籠の鳥)||第二面 侍のくしゃみ 親の敵忘れるまじ(築地の仇討/武士の情け)|武家の忌事(辻番の武辺/葡萄の模様/酒井家の荷駄)|正月縁起づくし(九鬼家の正月と節分/諸家の松飾り)|武家屋敷の怪(蟇と干菓子/大蟇/静かなる怪異/片目の大蛇)|侍稼業のつらさ(婚儀/侍、中間などの給金/コノシロと河豚)|体面なし(暑中御見舞/侍と猿)|江戸の自衛隊||第三面 恋の急所 愛は待つもの(無縁をかこつ夫婦/金子百七十両)|尼の春姿(歩行禁煙/網代の乗物に比丘尼)|奢侈にご用心(白木屋おくま/女房の名香)|悋気の火加減(急所の灸/浜松町の娘殺し/愛妾の呪い)|扱いは慎重に(女房の箪笥の中/道行思案の不足)||第四面 百万都市の怪談 狐狸、人をあやかす(長屋の狸/獣類なれども/狐火)|涌き水の不思議(野中の清水/酒という泉)|江戸の華(振袖火事/貂の皮の火除け/石蔵の怪)|善人を救った奇跡(三両の金子)|怪奇談(冥土から帰った老女/善国寺の夜談義/八幡の藪しらず/鈴と擂粉木は禁制)|七不思議(越後の七不思議/姫路の七不思議/本所の七不思議/霊巌島の七不思議/吉原の七不思議)||第五面 慶安口と湯屋の噂 奇人たちの履歴書(とげ抜き万蔵/主人が主人なら/気らくな世界/酒は酒/竜水の子は蛇水)|変人たちの履歴書(雷嫌いの市右衛門/胡麻塩八左衛門/堀部妙海尼/念願の往生/直助権兵衛)|縁起かついで太平(疝気と寸白に奇妙/咳のまじない/縁切り榎/水難除け/地震うらない)|習わぬ悪知恵(坊様の遊び/合わせて金十両/盗人と僧/髪切り)|仏と傾城(久米の平内/高尾十一代)|こぼれ話(おぼこ娘/御新造様など/芋の値段/かくや/傍の手桶)||第六面 明日の神頼み 不思議な石像めぐり(縛られ地蔵/豆腐地蔵/右向きの石仏)|どんな門じゃ(医者と門/定紋のある長屋門)|江戸に小町の墓|庶民信仰(観音さまの鶏/カンカンノウ)|稲荷と狐(無官の稲荷/老婆と狐/王子の狐)|かさもり稲荷|時の鐘||あとがき/江戸「かわら版」と平成「新聞」事情 東京新聞記者 森洋三 |
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秘伝 陰の御庭番 (ひでん・かげのおにわばん)
小松重男
カバー装画:村上豊 |
♪『御庭番秘聞外伝』改題。『御庭番秘聞』(新潮文庫)で、主人公の御庭番川村修就を助ける信濃屋芳兵衛(こと陰の御庭番・鷹取俊太郎)が活躍するのが本編。いわばSPY WARSエピソード1といったところか。前作で、チラッと紹介された芳兵衛が陰の御庭番組織を作り上げる苦労のお話を余すところなく、披露している。また、“唐変木の孝次”や公事師・伴彦左衛門、八王子の信松院の和尚・蔵輝、清国からさらわれてきたお妙など、素敵な仲間たちも登場する。 作者自身は、『御庭番秘聞』を歴史小説、本書を時代小説と位置付けておられる。歴史小説と時代小説の違いについての解答例の一つと言えそうだ。
物語●八王子千人同心の組頭の総領息子・鷹取俊太郎は、十五歳のときに『論語』の解釈の鋭さが認められて第十代将軍家治の御小姓に登用された。その後、とんでもない不祥事を引き起こして、“阿呆払い”と呼ばれる、御役御免・身分剥奪の不名誉な追放刑に処せられた…。 目次■阿呆払い/七つ目小僧/ちんこ切り/ぺつぽつ/大陰謀発覚/将軍毒殺/将軍の遺命/抜荷探索/裏切り/組織拡大/宰領志願/跡継ぎ息子/解説 清原康正 |
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凧をみる武士 宝引の辰 捕者帳 (たこをみるぶし・ほうびきのたつ・とりものちょう)
泡坂妻夫
装画:「江戸図屏風」より(国立歴史民俗博物館所蔵) |
♪『鬼女の鱗』、『自来也小町』に続くシリーズの第3弾。この後、単行本に『朱房の鷹』という作品がある。このシリーズの特徴の一つに、各話の語り手が代るという趣向がある。今回の語り手は、「とんぼ玉異聞」辰の子分の算治、「雛の宵宮」大和屋の女中お栄、「幽霊大夫」辰の子分の松吉、「凧をみる武士」さごさいの九造という具合である。語り手が代ることにより、お話の調子や視点、辰との距離感が異なることになり、マンネリ化に陥ることなく、毎回、新鮮な感じを与える効果があるようだ。 物語●「とんぼ玉異聞」亀戸天神社の門前の道具屋で、宝引の辰は美しいとんぼ玉を見つけた…。「雛の宵宮」大和屋で雛人形を飾った翌朝、女雛と左大臣が横倒しにされているのが発見され…。「幽霊大夫」松吉は、吉原の紀の字屋で、心中事件に遭遇した…。「凧をみる武士」さごさいの九造は、湯島天神で、宝引の仕事をしていると、羽織袴という立派な身なりの子どもが何回も宝引を引くのを不審に思った…。 目次■とんぼ玉異聞|雛の宵宮|幽霊大夫|凧をみる武士|解説 長谷部史親 |
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ながい坂 上・下 (ながいさか・じょうげ)
山本周五郎
カバー:小泉智英 |
♪「ゲストブック」の書き込みを読んでいて無性に読んでみたくなった本のひとつ。黒澤明監督の遺作として、『雨上がる』に注目が集まっているが…。本書は、山本周五郎さんの最後の長編小説。解説によると、自身の半生の総決算として、自叙伝を書くつもりで取り組んだ意欲作とのこと。「人生は重い荷を持ってながい坂を歩くに似たり」という“徳川家康”的な生きかたが全編のモチーフとなっている。 読み進むうちに、いつしか主人公の三浦主水正に共感を覚え、ともにながい坂である人生を送っていくような、第一級のビルドゥングロマンス(青春小説)の醍醐味を満喫できた。人生の晩年にこんな作品を遺せる山本周五郎さんはやはり偉大だったのだと、再認識した次第だ。 また、読んでいる途中で、藤沢周平さんの『蝉しぐれ』や『風の果て』、乙川優三郎さんの『椿山』のことも思い出した。気分が滅入って落ち込んだときにまた読んでみたい。 舞台となった七万八千石の藩は、明示されていず、架空のもののようだが、美濃国加納藩あたりがモデルであろうか。 物語●徒歩組二十石ばかりの組頭(平侍=下級武士)の子に生まれた小三郎(後の三浦主水正)は、八歳の時に偶然経験した屈辱的な事件に深く憤り、人間として目覚める。学問と武芸に励むことでその屈辱をはね返そうとした小三郎は、さまざまな羨望や嫉妬、妨害にもめげずに、成長して藩中でも異例の抜擢をうける…。 目次■なし |