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蛍沢 観相師南龍覚え書き (ほたるざわ・かんそうしなんりゅうおぼえがき)
庄司圭太
カバー:蓬田やすひろ |
♪観相師・神尾南龍を主人公にした連作捕物シリーズ第3弾。今回も北町奉行所臨時廻り同心・堀井勘蔵、両国の茶店の主人・仙三、聖天町の水茶屋川半に勤めるおきぬら、お馴染みの面々が活躍する。「桜雨」では、南龍の兄・神尾弥一郎が登場し、南龍と再会するのが見もの。「蛍沢」では、錦絵が事件の鍵を握る。「大山独楽」では、南龍の加わった総勢十一人の大山詣りの途中で事件が起こり、サスペンスが徐々に高まる趣向。 物語●「桜雨」南龍は、堀井勘蔵に八百善の料理をご馳走されたが、そこで、深川芸者小万に観相を頼まれる…。「蛍沢」南龍は、数日前に体の相を見てくれと、惜しげもなく裸身を自分の眼にさらした名前も居所も明かしてくれなかった女のことにとらわれていた…。「大山独楽」南龍は、堀井勘蔵からある事件に関する探索を頼まれ、大山詣りの一行に加わることになった…。 目次■桜雨|蛍沢|大山独楽|解説―江戸に遊ぶ楽しさ 長谷部史親 |
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御庭番秘聞 (おにわばんひぶん)
小松重男
装画:村上豊 |
♪御庭番というと、派手な忍びのアクションシーンを期待されるが、この作品の主人公の川村清兵衛修就は、後に初代新潟奉行になるなど、ときおりずっこけも見せるが、堅実で能吏である。創設時から時代が経過したせいか、御庭番の存在自体が公然の秘密となってしまい、出世の可能性の高い旗本家のひとつとなっている。勘定奉行についた御庭番家もあるそうだ。艶笑的な要素と評伝的な部分を織りこんだ不思議な味の歴史小説。縄田一男さんの解説によると、作者はこの作品の主人公である、川村清兵衛修就の書き遺した日記などの膨大な史料とであったことにより、「歴史小説」と「読み物」と「時代小説」を書いたという。「歴史小説」が本編で、「読み物」は『幕末遠国奉行の日記―御庭番川村修就の生涯』(中公新書)で、「時代小説」が『秘伝 陰の御庭番』(新潮文庫)だ。 この作品に何ともいえないユーモアを与えているのは、作中の会話で使用される新潟弁だ。新潟市出身の小松さんは、主人公に、新潟のお国訛に、奥州のずうずう弁でもなく、関東のべえ言葉でもない、なんとなく「垢抜けた田舎言葉」とでもいいたくなるような好ましさを感じた、と言わせている。本を読んでいるうちに、友人のお母さんが話す正統派の長岡弁を思い出した。 物語●八代将軍吉宗が創設し、自らの耳目として諸国の情報収集に当たらせた「御庭番」。川村修就(ながたか)は、御庭番家の嫡男に産まれ、初めての「遠国御用」を拝命し、手柄をあげようと張り切るが、同僚の倉地新平と箱根の山の茶店で、毒入り団子の罠に仕掛けられてしまう…。 目次■備急錠/御庭番家筋の者/縁組/女軽業師/影の御庭番/抜荷探索/女の正体/晦まし文/極秘報告書/怪我の功名/抜荷摘発/御不審一件/新潟上知/初代新潟奉行拝命/解説 縄田一男 |
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開化探偵帳 竜馬暗殺からくり (かいかたんていちょう・りょうまあんさつからくり)
稲葉稔
装画:西口司郎 |
♪坂本竜馬暗殺事件の犯人というと、いろいろな小説などで、見廻組説のほかに、新選組、伊東甲子太郎、薩摩藩黒幕説などが書かれている。「写楽はだれ?」と並んで、歴史ミステリーの恰好の題材のひとつだ。最近では、『龍馬慕情』(加野厚志著・集英社文庫)も意外な結論で面白かった。稲葉さんは、過去の小説(加野さんの作品は読まれていないようだが…)や資料を踏まえて、この謎に取り組んでいる。竜馬ゆかりの幕末維新の有名人がいろいろ登場し、山崎蒸、斎藤一など新選組の面々も絡んでくるので、なかなか楽しい。 主人公の邏卒(警視庁の創設が明治七年で、それ以前は邏卒制度という警察機構になっていた)・鬼木寛次郎が、「坊ちゃん」風で江戸っ子然としていていい。酒と女に目がなく、ぐうたらでおっちょこちょい、女の涙にはからっきし弱い。幼馴染のおゆうにはやさしい言葉ひとつかけてやれず、好きなくせに、親友の道之助にゆずろうとさえする。 巻末で、作者のあげている参考文献が興味深かった。とくに文庫や新書は、手軽に読める資料として作品の背景を知るのに役立つので引用する。 『明治事物起源』(石井研堂・ちくま学芸文庫)、『幕末百話』(篠田鉱造・岩波文庫)、『幕末維新人物辞典』(泉秀樹・講談社プラスアルファ文庫)、『明治百話』(篠田鉱造・岩波文庫)、『新選組物語』(子母沢寛・中公文庫)、『氷川清話』(服部真長編・角川文庫)、『司法卿江藤新平』(佐木隆三・文春文庫)、『英国外交官の見た幕末維新』(A.B.ミットフォード著・長岡祥三訳・講談社学術文庫)、『一外交官が見た明治維新』(アーネスト・サトウ著・坂田清一訳・岩波文庫)、『小説警視庁』(樫原一郎・集英社文庫)、『竜馬がゆく』(司馬遼太郎・文春文庫)、『翔ぶが如く』(司馬遼太郎・文春文庫)、『吉原はこんな所でございました』(福田利子・教養文庫)、『残映』(杉本章子・文春文庫)、『「ザ・タイムズ」に見る幕末維新』(皆村武一・中公新書)、『幕末維新の経済人』(坂本藤良・中公新書)、『新選組実録』(相川司・菊地明・ちくま新書)、『坂本龍馬』(池田敬正・中公新書)、『明治六年政変』(毛利敏彦・中公新書)ほか。 物語●酒と女と眠るのが大好きなで、ずぼらな邏卒(明治初期の警官)・鬼木寛次郎に、ある日、邏卒総長で大警視の川路利良から直々に特命が下る。五年前の坂本竜馬暗殺事件の真犯人を秘密裡に探索せよという。しかし、既に犯人とおぼしき京都見廻組の今井信郎は捕まり、犯行を自供していた。いったいなぜ今ごろ…。 目次■序章/第一章 別れ路/第二章 訪問者/第三章 再会/第四章 京都/第五章 居留地/第六章 証言者/第七章 にわか雨/第八章 張り込み/第九章 日記/終章/あとがき |
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神々に告ぐ 上・下 (かみがみにつぐ・じょうげ)
安部龍太郎
装画:「風神雷神図屏風」酒井抱一(出光美術館所蔵) |
♪『信長燃ゆ』(日経新聞夕刊連載)、『関ヶ原連判状』(新潮社)からなる三部作の幕開けに当たる作品。いわゆる「エピソード1」といったところか。帝と神、朝廷のあり方、そして公家の存在などが大きなテーマになっているだけに、一筋縄で行かない、難しさがある。主人公の近衛前嗣(さきつぐ、後の前久)と、戦国を代表するトリックスターの松永弾正の対決がみもの。 内裏清涼殿の女官が記した『お湯殿上の日記』を引用することで、物語に厚みを与えている。 物語●後奈良天皇の急逝により流動化を始めた朝廷において、大葬の礼の資金調達をめぐって保身か神聖な政事か、時の関白・近衛前嗣の魂は揺さぶられる。朝廷は衰微の窮みにあり、同年齢で従兄弟の将軍・足利義輝は、三好長慶に都を追われて、前嗣の父の稙家らと、朽木谷に逼塞していた…。 目次■第一章 朝廷衰微/第二章 流浪将軍/第三章 松永弾正/第四章 大葬の礼/第五章 西国下向/第六章 将軍出陣/第七章 畿内動乱(以上上巻)|第八章 義輝上洛/第九章 公武一体/第十章 信長登場/第十一章 景虎上洛/第十二章 晴信造反/第十三章 即位の礼(以上下巻) |
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夢裡庵先生捕物帳 からくり富 (むりあんせんせいとりものちょう・からくりとみ)
泡坂妻夫
カバーイラスト:藤山晶子 |
♪『びいどろの筆』(徳間文庫)に続く、シリーズ第2弾。泡坂さんらしい、ストーリーにからくりと、ディテールに仕掛けを盛り込んだユーモア捕物帳。連作形式で、一話一話それぞれ狂言回し役と探偵役がロンド(輪舞)形式で変っていくのが見事。『からくり東海道』(光文社文庫)の解説によると、このシリーズは、年1話ずつ発表される、貴重な作品集らしい。次回の作品集の文庫化は7年後ぐらいだろうか。待ち遠しい。 泡坂作品の大ファンらしい鷲津浩子(アメリカ文学者)の解説も楽しい。泡坂作品を読んでいると、都筑道夫さんを思い出してしまう。お二人とも江戸っ子らしい、粋な形で頭を刺激する作品を発表されるからだろうか。シリーズの主人公である、八丁堀同心・富士宇衛門こと、夢裡庵の裁きも粋だ。 物語●「もひとつ観音」頓鈍が仕掛けた、浅草で三つの乳房を持った生身の観音様が大評判になっていた…。「小判祭」読売の貞次は神田明神の祭で番付を売っていると、愛染明王の彫物をした酔っ払いにからまれた…。「新道の女」嵯峨山流の踊りの師匠白蝶のもとに、美人の新造の弟子が通っていた…。「猿曳駒」道具屋与七は、納豆を買った際に、珍しい古銭を入手した…。「手相拝見」占師車道は、いなせな大工を占うと、地沢臨という卦が出た…。「天正かるた」洲崎で初日の出を拝んだ絵師の聞滋らは人の指を見つけた…。「からくり富」岡っ引・青馬の俵助の地元にある蛤弁天で富突きが行われることになった…。 目次■もひとつ観音|小判祭|新道の女|猿曳駒|手相拝見|天正かるた|からくり富|解説 鷲津浩子 |
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髪結新三事件帳 (かみゆいしんざじけんちょう)
鳴海丈
カバーイラスト:笠井あゆみ |
♪河竹黙阿弥の歌舞伎狂言『曠小袖往昔八丈(はれこそでむかしはちじょう)』の通称として知られる「髪結新三(かみゆいしんざ)」とは、物語の上では関係はない。登場人物の名前を一部借用しているようではあるが…。鳴海丈(じょうかと思っていたがたけしと読む)さんというと、エロチックでバイオレンス色の強い時代小説作家というイメージが強かった。気鋭の作家たちのコラボレーション『のきばしら』(PHP文庫)を読んで以来、その認識が変り今回、はじめて作品を読んだ。 無尽流抜刀術を極めた主人公の鷹見新三郎が、青年マンガ誌のヒーローみたいでカッコ良すぎるが、読後感はスッキリ。寛永期が舞台ということで、家光、大久保彦左衛門、春日局、柳生十兵衛など当時の有名人たちが登場するのもわかりやすい。 物語●三代将軍家光の弟・駿河大納言忠長の遺臣である鷹見新三郎は、主君の介錯をしたという過去を背負い、廻り髪結に身をやつして無頼の日々を送っていた。そんな中で、新三郎が髪を結った妾が斬殺されるという事件が起こった。おりしも、江戸の町では凶賊・六道組が荒らしまわっていた…。 目次■事件ノ一 三日月斬り|事件ノ二 牢人狩り|事件ノ三 闇からの刺客|事件ノ四 黒髪悲恋|事件ノ五 漢の背中|事件ノ六 大奥の牙|事件ノ七 剣の心|解説 縄田一男 |
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秘剣龍牙 (ひけんりょうが)
戸部新十郎
カバーイラスト:西のぼる |
♪『秘剣水鏡』(徳間文庫)、『秘剣花車』(新潮文庫)に続く漢字二文字の秘剣シリーズ第3弾。簡潔なエピソードの中に、剣法の真髄が盛り込まれており、緊張感あふれる連作剣豪もの。収録作品の中では、「睡猫」に出てくる戦国武将(というのはふさわしくないかもしれないが)今川氏真の力の抜け具合の見事さと、「龍牙」の色彩的な美しさをもった読後感が印象的だ。 登場する剣法(と剣士)は、以下の通り。 「睡猫」:新当流(山本勘助、由比甚九郎) 「浮舟」:富田流(富田越後守重政、関理兵衛) 「燕飛」:柳生新陰流(柳生宗矩、村田与三)、愛洲陰流(善証坊) 「陽炎」:一刀流(小野次郎右衛門忠常、小野典馬)、二階堂流(松山主水大吉) 「足譚」:一刀流(小野次郎右衛門忠常)、柳生新陰流(柳生宗矩、向坊玄智)、鞍馬古流(松林左馬之助) 「龍牙」:中西派一刀流(白井亨、寺田五右衛門宗有、中西忠兵衛子受)、義経神明流(富樫栄) 「芥子」:神道無念流(斎藤弥九郎、斎藤歓之助、桂小五郎、仏生寺弥助) 物語●「睡猫」孤児の甚九郎は、親代わりの道鬼入道山本勘助の命で、今川氏真に仕えることになった…。「浮舟」神通川に架けられた舟橋は、馬での乗打ちを禁止されていたが…。「燕飛」元和偃武以来、牢人が増え、夜な夜な辻斬りが出没するなかで、何者かに柳生家の家士が二人も斬られた…。「陽炎」渋滞する江戸城登城どき、細川忠利の行列だけは、すいすい進むことができた…。「足譚」小野次郎右衛門忠常は、霞ヶ関の柳生但馬守宗矩の屋敷を訪ねたとき、案内の家士に、足元を注意するように言われた…。「龍牙」一刀流中西門の出来物、白井亨のもとに、一人の若者が稽古に通ってきた…。「芥子」弥助は、越中から同郷の大先輩である斎藤弥九郎の神道無念流・錬兵館道場へやってきた…。 目次■睡猫(すいびょう)|浮舟(うきふね)|燕飛(えんぴ)|陽炎(かげろう)|足譚(そくたん)|龍牙(りょうが)|芥子(からしな)|解説 縄田一男 |
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百枚の定家 (ひゃくまいのていか)
梓澤要
装幀:浅野邦夫 |
♪この作品は、時代小説ではないが、時代小説好きを大いに満足させるミステリー小説。ミステリーの分野の一つに、歴史の謎をテーマにしたものがある。高橋克彦さんの『写楽殺人事件』(講談社文庫)や井沢元彦さんの『猿丸幻視行』(講談社文庫)、高木彬光さんの『成吉思汗の秘密』などがその成功例。事件の謎を解くとともに、歴史の謎にも挑戦するので、一粒で2倍も3倍も面白いのである。もっとも、下手な作者の手にかかると、中途半端に終ってしまうのだが…。便宜上、今後、歴史の謎をテーマにした現代小説を「歴史ミステリー」、ミステリー性の高い時代小説(捕物とも、伝奇ものとも、政争ものとも言いきれない作品)を「時代ミステリー」と呼ぶことにする。(ときどき癖でミステリと「ー」なしで、表記してしまうことがあるのは、一頃、早川書房のミステリにはまっていた時期があったせいです)。 百人一首という高尚な遊びをしたことがなく、暗記している歌も2、3首という、まったくの門外漢ながら、この物語はわくわくしながら読めた。膨大な資料を駆使して、読者を定家の世界へと誘う作者の筆力に感動した。 小倉色紙は、百人一首を編纂した藤原定家が自ら一首ずつしたためた、小倉百人一首のオリジナルで、七十四歳の老齢で中風と眼疾に悩まされながらも書き上げたということです。定家の死後、忘れられいつしか行方不明になり、二百五十年後に連歌師宗祇の手で甦り、千利休の師・武野紹鴎らにより賞賛され、それを所持することがステイタスになっていった。信長が、光秀が、細川幽斎が、秀吉が、徳川家が、競って手に入れたという。小倉色紙は大名家や豪商の秘蔵の宝となり、明治・大正時代になると、没落大名家からいっせいに流れ出し、政治家・財界人に買い漁られ、その一方で贋作も次々に出たといういわくのある美術品だ。読後にわかに藤原定家の書への関心が高まり、どこか美術館へ行ってみたくなった。 物語●都心から1時間圏内の通勤圏にある埼玉県磯崎市(架空)に、新しく武蔵野美術館がオープンすることになった。学芸員の秋岡渉らは、そのオープニング展の準備に入っていた。そんな折、ニューヨークのオークションで、百人一首のオリジナルといわれる藤原定家の小倉色紙が出品され、高額で日本人の手によって落札されたというニュースが入ってきた…。失われた定家自筆の“小倉色紙”の謎に挑む異色歴史ミステリー。 目次■プロローグ/第一章 武蔵野美術館/第二章 小倉色紙/第三章 偽作と模作/第四章 海外流出/第五章 十枚の色紙/第六章 巨木斃れる/第七章 谷底の町/第八章 雨の刃/第九章 定家葛/第十章 謎の紙背文字/第十一章 贋作者の真実/第十二章 仕掛けられた罠/第十三章 定家になった男/エピローグ/小倉色紙一覧/あとがき |
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人斬り半次郎 幕末編 (ひときりはんじろう・ばくまつへん)
池波正太郎
カバー装幀:唐仁原教久 時代:文久二年二月 場所:鹿児島・吉野村・実方、京、伏見ほか (新潮文庫・781円・99/08/01第1刷・610P) 購入日:99/07/31 読破日:99/08/14 |
♪角川文庫からも1972年に刊行されている。中村半次郎というと、同じ池波さんの『その男』(文春文庫)での、“人斬り”という異名にそぐわない好漢ぶりが印象に残っている。 この作品でも、半次郎は秀抜な美男子で気がやさしく、豪傑肌として描かれている。“人斬り”の呼び名ほど、バッタバッタと人を斬っていない。そのために、作品全編に明るく、快く読める。もちろん、剣が遣えないわけではない、たとえば、宙に投げ上げた竹の水筒が下に落ちるまでに、竹筒を真っ二つにし、四度剣を抜き、四度鞘に納めるという神業を見せたりするのだ。つまり、剣技や刀、人殺しや血に囚われていないのである。 本編で中村半次郎の生い立ちや人となりはわかるが、この人の真骨頂は、続編にあたる賊将編で見られそうだ。 物語●中村半次郎は、〔唐芋侍〕と卑しめられた貧乏郷士の家に生まれた。父は公金横領の罪で徳之島へ流罪され、そこで病死した。半次郎は、荒地を開墾し、内職の紙漉きをやり、畑仕事をして、一家の柱として母と病弱の妹を養い、「今に見ちょれ!! 俺はな、きっと出世しちゃる。城下侍などに負けもはんど」と、逆境にめげることなく〔示現流〕の剣法を自己流でたゆまず稽古していた。そんなある日、西郷吉之助と出会った…。 目次■なし |
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「鬼平」の江戸 (おにへいのえど)
今川徳三
カバー:倉橋三郎 時代:天明七年(1787)9月 場所:本所花町ほか (中公文庫・629円・99/06/18第1刷・273P) 購入日:99/06/19 読破日:99/08/14 |
♪まえがきに寄せられたTV『鬼平犯科帳』のプロデューサー市川さんの文章によると、筆者はシナリオ修業から考証の世界に転じられ、子母澤寛さんに師事していたとのこと。この本を読むと、捕物の神様ということで、江戸の町民に慕われ、裁きは公平で温情にあついということで、盗賊からも一目置かれていたことがわかる。その反面、平蔵の属していた御先手頭の仲間やライバルからは、妬まれたり、でしゃばりと嫌われたりしたらしい。とくに、平蔵のライバルとして登場する松平左金吾が面白い。 読みどころ●小説やTVでお馴染みの鬼平こと、火付盗賊改め役長谷川平蔵に関する唯一の記録、松平定信のブレーン水野為長の遺した日誌「よしの冊子」をもとに、平蔵の実像と当時の江戸の町を綴った肩の凝らない読み物。 目次■鬼平と私―今川徳三さんの著書に寄せて 市川久夫|羽振りが利いた改め役方与力同心|平蔵の父長谷川宣雄|捕まるのはコソ泥と巾着切り|隠密の黒幕は水野為長|売り込み上手の田沼意次|天明飢饉と世直し大明神|毒殺といわれた将軍家治の死|平蔵打ち壊しの鎮圧に乗り出す|素人でも勤まる町奉行|田沼にとり入った平蔵|平蔵のライバル松平左金吾(一)(二)|本所の平蔵様|怪盗稲葉小僧新助|平蔵に捕まった岡っ引きの大物|歌舞伎役者を捕まえた平蔵|あいつぐ手柄で人気上昇の平蔵|二人に一人は隠し目付か隠密|隠密の大流行|長屋住まいの四百俵取り|町奉行と平蔵|与力に噛みついた座頭|佐渡へ送られた無宿人たち|鬼平犯科帳|左金吾は学が自慢、平蔵は捕りものの神様|十手の使用を禁じた平蔵|平蔵と人足寄場(一)(二)|長谷川平蔵略年譜/参考書/あとがき |
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白浪五人男 (しらなみごにんおとこ)
鈴木輝一郎
装画:百鬼丸 装幀:藤井美樹 本文挿画:浅賀行雄 時代:延享元年(1744) 場所:三州豊橋、江戸・神田鍛冶町、駿府、神田明神下、江戸城ほか (双葉社・1,800円・99/07/01第1刷・343P) 購入日:99/07/03 読破日:99/08/08 |
♪あとがきによると、「…このところやや硬めの歴史小説が続いて若干肩も凝ったせいもあって、『白浪五人男』では“食って斬って姦りまくる”という、娯楽時代小説の基本に立ち返ることにした」と書いている通り、破天荒な作品。もとになっている『白浪五人男』は、河竹黙阿弥作で、日本左衛門、弁天小僧、忠信利平、南郷力丸、赤星十三郎の五人のことで、池波正太郎さんの『雲霧仁左衛門』(新潮文庫)のモデルともいわれている。ちなみに、本作品では、同じ池波さんの『おとこの秘図』の主人公である徳山五兵衛が、日本左衛門の敵役として登場するのも楽しい。 TVなどのイメージのせいか、日本左衛門というと、中年のギャングスターを考えていたが、実際は、尾張藩の七里役所(飛脚の中継所)の人夫・浜島友右衛門の子で、五尺八寸の長身の美男で、お縄についたときには29歳だったという。 物語●延享元年十月、日本左衛門の一党は、豊橋宿の材木商・井筒屋を襲撃した。大胆不敵にも襲撃を前に、豊橋宿の代官所に盗みの予告を入れ、挑発していた。襲撃の前に、三枝高之助ら三人の無宿者が一党に加わった。押し込むと、日本左衛門は、「義賊」を標榜し、不善をただし、租税を徴収すると宣言した。また、日本党の掟として、「火の用心」と「犯さず殺さず傷つけず」を命と心得ていた。しかし、…。 目次■壱 東海賊徒班揚幕(とうかいぞくとむれのあげまく)/弐 江戸城緑林蔦絡(えどじょうぬすみのつたがらみ)/参 白浪稿花紅柝頭(しらなみぞうしはなきのかしら)/あとがき |
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陋巷に在り 5 妨の巻 (ろうこうにあり・5・ぼうのまき)
酒見賢一
カバー装画:諸星大二郎 |
♪シリーズ第5作。いよいよ、物語は混沌としてきた。次号の展開がますます気になるところ。またこの巻では、シリーズの主人公である、孔子の弟子・顔回の扱いが何とも大胆で、やきもきさせられる。その代わり、五六と、の関係がどう変化していくかがみどころの一つ。今回初めて、巻末にイラスト付きの登場人物紹介が掲載されていてファンにはうれしいところ。
物語●顔回のボディーガード役である五六(ごろく)は、顔回の恋人・、(よ)が、ふいに家からいなくなることに悩まされていた。、の家の出入口を見張っているのだが、家の中にいるはずの、は、いつの間にか外出してしまうのだ。悩んだ五六は、孔子の弟子で鳥の言葉に通じる公冶長(こうやちょう)に相談する…。 目次■鏡蠱/費城/騒擾/局面/登場人物紹介/巻末地図(春秋時代全図) |
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御宿かわせみ 長助の女房 (おんやどかわせみ・ちょうすけのにょうぼう)
平岩弓枝
装丁:蓬田やすひろ |
♪「御宿かわせみ」シリーズ第23巻。ようやく、蓬田やすひろさんの装幀の「かわせみ」に慣れ、絵を見ただけで作品のイメージが広がってきた。カバーの絵とカバーを取ったときの絵が違い、遊びがあって粋だ。表題作にあるように、シリーズの脇役である、岡っ引きで長寿庵の主人長助とその女房・おえい(実は初めて名前を認識した)にスポットが当たっているのが、人情味にあふれていて温かい気持ちにさせてくれる。 かわせみの魅力の一つに、江戸情緒があげられる。この巻では、「湯舟」と「鵜飼」が興味深かった。甲州街道の府中の先、日野の宿場から玉川のやや上流へいったところで、鵜飼見物ができた、というくだりは「へえー」って感じでちょっと驚いた。 物語●「老いの坂道」八丁堀で畝源三郎の同僚の祝言があった。婚儀が済み、隠居した元定廻り同心が、その後も町廻りをしているという…。「江戸の湯舟」夏の夜更け、神林東吾と畝源三郎は、屋根舟から裸で出てきた若い女を見かけた…。「千手観音の謎」重陽の節句を前に、香苗は、神林家の祖先が紀州侯から拝領したという千手観音像を落として壊してしまった…。「長助の女房」町奉行所では、長年功績のあった御手先に褒美を与えて、その労をねぎらうことになり、長寿庵の長助も表彰されることになった…。「嫁入り舟」八丁堀では、神林通之進の養子・麻太郎が通之進の隠し子ではないかという噂が流れていた…。「人魚の宝珠」お吉は、大久保の姿見橋の向こうにある人魚神様の不思議な霊験を東吾に伝えた…。「玉川の鵜飼」るいは、畝源三郎の妻・お千絵に誘われて、玉川の鵜飼見物に出かけることになった…。「唐獅子の産着」たまたま、神林家の土用干しを手伝った東吾は、帰りに唐獅子の産着を着た小さい子と、それを追いかけ回す子どもたちと、子どもにぶつかり倒された老婆を見かけた…。 目次■老いの坂道|江戸の湯舟|千手観音の謎|長助の女房|嫁入り舟|人魚の宝珠|玉川の鵜飼|唐獅子の産着 |
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藩校早春賦 (はんこうそうしゅんふ)
宮本昌孝
装幀:南伸坊 絵:南伸坊 時代:江戸後期 場所:東海の三万石の小藩 (集英社・1,900円・99/07/30第1刷・382P) 購入日:99/07/23 読破日:99/08/04 |
♪読み味のよさ、読後の清涼感で定評のある、宮本作品。この本も、何回も読んでみたい快い物語だ。南伸坊さんの素敵な絵(挿絵もあり)とあいまって、ユーモアに満ちた、過ぎ去った若き日のの郷愁がよみがえる青春小説。主人公の少年たちは、もちろん、脇役まで登場人物が個性的に描かれていて楽しい。続編が読みたい。 物語●新吾十五歳、仙之助十五歳、太郎左十六歳、ともに直心影流高田道場に通う仲間である。その身の上に、大事件が起こった。藩校ができることになったのである。藩校剣術所の教授の座を巡って、藩の軽輩の子弟が門弟の大半を占める高田道場と、同じ直心影流で、中・上級藩士の子弟が通う興津道場の間で、御前仕合を行うことになった。対戦するのは、道場主同士ではなく、双方から十五歳から十八歳までの門弟五人ずつ…。 目次■学びて時にこれを習う/巧笑倩たり、美目へん(目+分の一字)たり/剛毅木訥、仁に近し/幸いにして免るるなり/たれか学を好むとなす/知者は水を楽しむ/君子は下流に居ることを悪む |
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乱世を斬る (らんせいをきる)
白石一郎
カバー装画:西のぼる |
♪『天命を知る―乱世に輝く男たち』(PHP文庫、1995年3月刊)に、歴史紀行エッセイを2編加えて、改題したもの。立花道雪や高橋紹運、黒田家など、白石作品でおなじみの人物たちを取り上げているほか、薩摩がらみの人物も多く取り上げている。とくに、中村半次郎が気になった。ちょうど、『人斬り半次郎』(池波正太郎著)も新潮文庫から発刊されたばかりなので…。 福岡を中心に九州で活躍する作者が、北の果て・野付半島に、海底に沈んだ幻の歓楽郷の謎を求めて旅する、歴史紀行もおもしろかった。 読みどころ●戦国時代に光彩を放った男たちや、波乱のときに、己の信念に生きた男たち、はたまた、変革に取り残された古いタイプの男たちなど、歴史・時代小説を面白くする男たちへの思いとエピソードを綴る、吉川英治文学賞に輝く筆者の歴史エッセイ。 目次■戦国の世に輝いた男たち(奇策好きの合戦嫌い―毛利元就/合戦にもあらわれた慎重さ―徳川家康/実を取るか名を取るか―秀吉と家康の選択/商業的感覚を持った軍略家―黒田官兵衛/乱世を生きぬいたスクラムの力―島津家の四兄弟)|信念が支える波乱の人生(ただ一刀の技を磨きぬいた男―東郷藤兵衛重位/命取りとなった自尊心と商才―千利休/部下の勇猛心を育てる秘術―立花道雪/強烈な美意識が培う最強軍団―薩摩の士魂教育/主君の意地にみな殉じた城―高橋紹運とその家臣たち)|変革に取り残された男たち(名剣士、名大将にあらず―中村半次郎/人望が男を英雄に押し上げた―西郷隆盛/烏合の衆を強力な軍団にした信仰―島原の乱/新旧の個性がぶつかった黒田騒動―栗山大膳/御家人の欲求を理解しない二代目―源頼家/無謀無策な防衛戦、不可解な撤退―蒙古襲来・文永の役)|〈文庫オリジナル収録〉歴史紀行(野付半島 幻の歓楽郷キラクの謎/富貴寺へ 西国巡礼の旅) |
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朝鮮出兵異聞 李舜臣将軍を暗殺せよ 高麗秘帖 (ちょうせんしゅっぺいぶん・りしゅんしんしょうぐんをあんさつせよ・こうらいひちょう)
荒山徹
装幀:矢島高光 |
♪タブーのように今まで描かれることが少なかった、秀吉の朝鮮出兵をテーマにした作品。豊富な史料・調査(プロフィールによると、本書執筆のために韓国留学をしたとのこと)による裏付けと伝奇性が絶妙に融合した快作、隆慶一郎さんの作品に匹敵する圧倒的なスケールに感動した。降倭武将(朝鮮側で戦った日本人武将)の沙也可(さやか)が登場するのも興味深かった。 物語●慶長2年、再び朝鮮の地に上陸した豊臣秀吉の征明軍は雪辱に燃えていた。5年前(文禄の役)、亀船(コプクソン)を操り、日本軍を撃破した敵将・李舜臣(イ・スンシン)を必ず倒す…。水軍の藤堂高虎、来島通総らは、舜臣を暗殺すべく刺客を放った。一方、李舜臣は、朝鮮朝廷の謀臣たちのでっちあげによって、水軍の最高指揮官の地位を剥奪され白衣従軍と呼ばれる一兵卒に落とされていた…。 目次■第一章 暁の凶報/第二章 アゴスティーニュの裏切り/第三章 謀略大名 藤堂高虎/第四章 閑山島軍議/第五章 漢城、震撼す/第六章 暗殺者、西へ/第七章 決行前夜/第八章 襲撃/第九章 セミナリオの戦士/第十章 殺戮の順天/第十一章 月光のアラベスク/第十二章 亀船爆破指令/第十三章 我になお戦船十二あり/第十四章 ウルドルモクに撃滅せよ/終章 |