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1999年6月・水無月の巻
傭兵ピエール 上・下 by 佐藤賢一 |
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戊辰算学戦記 (ぼしんさんがくせんき)
金重明
装画:「戊辰の役 白河口戦闘図」(財団法人・斎藤報恩会蔵) |
♪『算学武芸帳』(朝日新聞社刊)で第八回朝日新人文学賞受賞作家による、算学もの第2弾。算学のもつ静的な面白さと、戊辰戦争の動的なダイナミズムが融合された会心作。主人公の幕軍新鋒隊隊長・結城勘兵衛は、西洋数学を学んだという設定で、進軍先の地元和算家の智香、その孫娘・はるとの交流がすがすがしい。 故郷を舞台にした戦争ながら、あまり語られることがなく、よくわからなかった戊辰戦争が躍動感あふれる筆致で描かれていて興味深かった。司馬遼太郎さんの『峠』も、再読してみたくなった。
物語●江戸に逃げ帰った徳川慶喜が、恭順の意を込めて上野寛永寺にこもったのを機に、歩兵差図役頭取・結城勘兵衛は、江戸脱走を決意し、数学を学んだ恩師ジャック・ピノーと最後のチェスを楽しんだ。 目次■第一章 新鋒隊/第二章 羅翁方程論攷/第三章 エガリテ/第四章 土埋峠/第五章 榎峠/第六章 落城/第七章 今町/第八章 八丁沖/終章 |
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闇医おげん 謎解き秘帖 (やみいおげん・なぞときひちょう)
川田弥一郎
カバーデザイン:中原達治 時代:時代特定せず 場所:薬研堀、橘町、両国広小路、村松町、池之端仲町、本所相生町、西紺屋町、南鍋町、伊勢町、常磐町ほか (祥伝社文庫・552円・99/06/15第1刷・314P) 購入日:99/06/13 読破日:99/06/27 |
♪『女医者おげん謎解き控 赤い闇』(1994年11月、祥伝社刊)を改題したもの。作者は、『白く長い廊下』で第38回江戸川乱歩賞を受賞した、医学ミステリーの実力者。現役の医師でもある。 ヒロインは、京都の油小路の産科医・賀川蘭斎に学びながら、故あって中条流の堕胎医になったおげん。彼女をサポートするのが、お菊とその情人で、闘犬の元締め政吉。そして何かとおげんにつきまとう岡っ引・角十。 当時の医療事情がわかって興味深く、おげんの施す治療・施術シーンが圧巻。 物語●「血の罠」堕胎術を施した娘が、おげんの家を出てすぐのところで、何者かに襲われた…。「赤い闇」おげんのもとに、乱暴されて秘所を裂傷した娘が施術に訪れた…。「瘡の輪」身なりのいい商家の夫婦が、瘡(梅毒)の治療に訪れた…。「根の毒」商家の女房が夫の消渇病(しょうかつびょう・糖尿病)のことで、おげんに相談した…。「回生術」おげんの前に、かつての兄弟子・貞之助が現れて、あることを頼んだ…。 目次■第一話 血の罠/第二話 赤い闇/第三話 瘡の輪/第四話 根の毒/第五話 回生術 |
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八州廻り桑山十兵衛 (はっしゅうまわりくわやまじゅうべい)
佐藤雅美
装画:風間完 |
♪メッセージボードの長尾武之介さん、KIYOさんの指摘とフォローで知ったのだが、佐藤雅美さんの読み方が「まさみ」から「まさよし」に変わった。「まさみ」では、女性と間違えられることが多いということが原因のようだ。というわけで、以後、「時代小説 SHOW」でも「さとうまさよし」さんということで統一します。この作品で主人公・桑山十兵衛が勤める八州廻り(関東取締出役)は、江戸では小役人ながら出先では駕籠を仕立てて廻るという実力者であるという二面性が面白さを醸し出している。 この二面性は、桑山十兵衛のキャラクター設定にも表れている。剣の名手で、思慮深く大胆に悪党を捕まえ、思いやりの心を持っていながらも、亡き妻の不倫を疑い、幼い娘の扱いに苦慮し、失態も演じるのだ。ちなみに十兵衛の剣術の師は、天真一刀流の寺田五郎右衛門。 物語●「拐かされた女」十兵衛は同僚から拐かされた娘の行方を追うように依頼される…。「木崎の喜三郎」深夜の賭博の現場に踏み込んだ十兵衛は思わぬ獲物を捕まえた…。「怯える目」寒村で十兵衛が見かけた、水呑百姓の目には、何かを恐れているかのような怯えがあった…。「密命」十兵衛は、直属の上司・公事方勘定奉行にある密命を言い渡された…。「密通女の高笑い」十兵衛は、ある事情から密通の裁きをすることになった…。「山下左馬亮の不覚」十兵衛は、同僚の山下左馬亮の不名誉な噂を耳にした…。「平川天神の決闘」関東取締出役の偽者が出回り、八州廻り存亡の危機が訪れた…。「霜柱の立つ朝」老婆から孫を無宿者にしないように懇願された十兵衛は…。 目次■拐かされた女|木崎の喜三郎|怯える目|密命|密通女の高笑い|山下左馬亮の不覚|平川天神の決闘|霜柱の立つ朝|解説 味のある武士像 寺田博 |
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草莽枯れ行く 上・下 (そうもうかれゆく・じょうげ)
北方謙三
装画:村上豊 |
♪北方さんの作品の特徴に、年号が明記されないということがある。南北朝もののときは、それほど気にならなかったが、幕末が舞台になると、やはり気になってしまう。従来、幕末の動乱期における狂言回し的な役割しか振られてこなかった相楽総三(さがらそうぞう)にスポットを当てたのは、全共闘世代の作者らしい。また同じく薩摩藩で同様な役割を演じた、益満休之助(ますみつきゅうのすけ)が、総三の親友役で重要な役割を演じるのも面白い。 勝海舟、西郷隆盛、坂本龍馬、土方歳三、岩倉具視、山岡鉄舟、新門辰五郎、清水の次郎長ら同時代の有名人を、総三との関係でいかに描くかも見もの。 物語●江戸の賭場で相楽総三は、丁目ばかりに賭ける男・清水の次郎長と出会う。次郎長は、兇状旅の途次で、江戸の新門辰五郎の家に草鞋を脱いでいた。そこで、次郎長は、辰五郎の頼みで、因縁浅からぬ甲州へ出かけることになった…。一方、総三は、下総の郷士でありながら、金貸し家業への反発からか、攘夷の志をもって動き回っていた…。 目次■第一章 丁目の男/第二章 義挙/第三章 空遠く/第四章 志士の街/第五章 龍馬の海/第六章 空喧嘩/第七章 暗殺の朝/第八章 水面(以上上巻)|第九章 やくざの理由/第十章 薩邸浪士隊/第十一章 官軍一番隊/第十二章 帰洛せよ/第十三章 汚名/第十四章 時の裂け目/第十五章 戦にならず/第十六章 江戸のけじめ/第十七章 丁目しかなく(以上下巻) |
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徳川御三卿 上・下 (とくがわごさんきょう・じょうげ)
南原幹雄
カバーデザイン:安彦勝博 |
♪御三卿(田安家・一橋家・清水家)というと、江戸後期においては重要な役割にあった割に、その創設の頃はあまり時代小説に描かれることがなかった。そのために、その創設の経緯や役割、力、影響などに関心を持つことがなかった。その意味でいうとこの作品は、非常に重要だ。御三卿の創設が水戸の勤皇思想の高まりにつながっていくこと、やがて一橋家の血が水戸家に入り、その子が一橋家を継ぎ最後の将軍になる皮肉。なかなか深い。 この作品でもう一つ貴重なことは、竹内式部(たけのうちしきぶ)による宝暦事変を扱っていることがあげられる。 とはいえ、作者の持ち味である、映画的なエンターテインメント性は失われていない。一橋宗尹が平松小五郎と称して市井で探索活動を行うのは、暴れ将軍っぽくて面白い。
物語●八代将軍吉宗は、長男家重を将軍位につけた。さらに病弱な家重の万一の場合に備え、息子たちをもって、田安家、一橋家の御両卿を創設した。以後将軍に嗣子なきときは御両卿家から将軍を出すことに定めた。だが、吉宗の絶大な権力を持って行われたこれは、御三家の格下げに他ならなかった。自藩の存亡を賭けて、水戸家、尾張家が動き出す。 目次■吉兆屋/御両卿/隠れ家/水戸勤皇党/京都/召喚/御殿女中/虚弱将軍/朝駆け/青綺門院(以上上巻)|尾行/梅林にて/女色/中間奉公/桃園天皇/連判状/明神下/天魔殺法/陰謀/奉答書/宝暦事変/解説 菊池仁(以上下巻) |
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十六武蔵 (じゅうろくむさし)
えとう乱星
カバーイラスト:佐藤美絵 |
♪1年以上前に入手していた本だったが、メッセージボードのjunjunさんのコメントを読むまでは、すっかり忘れていた。どうも武蔵というと、スーパーヒーローのイメージが強すぎて、食指が動かなかったのが本当のところ。タイトルにある“十六武蔵”とは、十六六指とも書き、駒を挟んでとるチェッカーに似た、日本古来のボードゲーム。もちろん、この作品の登場人物でもある宮本武蔵にも掛けている。『螢丸伝奇』(青樹社文庫)で、チラッと登場した、宮本武蔵がアンチヒーローとして、活躍する。 物語は、有名な巌流島(島の名前は、決闘の敗者の流儀の名で有名になっている)の決闘から始まり、巌流と武蔵のその後にテーマを当て、新しい武蔵像を作り出している。 物語●慶長十七年四月、関門海峡に浮かぶ小島「船島」で、巌流・佐々木小次郎と播州牢人・宮本武蔵の試合が行われた。小倉・細川藩の家老・長岡佐渡の立ち会いのもと、勝者には藩の剣法指南役が与えられるという。結果、小次郎が敗れ、九州一円から厳流が消えようとしていた…。 目次■一章 巌流の島/二章 大坂の陣/三章 明石の海/四章 天草の乱/五章 肥後の窟/あとがき |
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鶴屋南北闇狂言 櫓の正夢 (つるやなんぼくやみきょうげん・やぐらのまさゆめ)
星川清司
カバー装画:広重「名所江戸百景」より「猿わか町よるの景」 |
♪大映および日活で、活躍した映画脚本家。「新選組始末記」「眠狂四郎シリーズ」「座頭市シリーズ」などを手がける。小説家転身第1作の『小伝抄』で直木賞を受賞。歌舞伎を、ちゃんと最後まで見たことはないが、なぜか歌舞伎界を描いた作品は、戸板康二さんの「中村雅楽」シリーズ以来、なぜか読まずにはいられなくなる。この作品では、歌舞伎ファンにはおなじみの渡辺保さんが解説をされているのも嬉しい。 鶴屋南北が、あの名作「**」を描くに当たって、こんな創作秘話があるかもしれないと思わせる、星川さんの技も見事。 物語●歌舞伎作者の鶴屋南北は、しのつく雨の中で、一人の浪人者を見かけた。人気盛りの三世菊五郎にも劣らぬ男ぶりながら、双眸には暗澹たる光、屍のように蒼ざめた顔色…、たやすく忘れられる顔立ちではなく、不吉めいた予感、胸騒ぎを感じた。身なりは、着古した黒羽二重の裾は花色で、帯は献上博多、落し差しにした長刀は鞘に象嵌散らしの意匠を凝らした業物で、浪人暮らしに似合わぬ洒落者に見えた。この浪人が、作者南北の興味に火を付ける…。 目次■なし |
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傭兵ピエール 上・下 (ようへいぴえーる・じょうげ)
佐藤賢一
装画:横山明 |
♪『双頭の鷲』や『王妃の離婚』で注目される、佐藤賢一さんの『モンテクリスト伯』や『三銃士』を想起させるロマンあふれるフランス時代小説。前作の『ジャガーになった男』(集英社文庫)は、支倉常長遣欧使節に随行した仙台藩士が、スペインでの波瀾万丈の冒険をするという、お話だった。しかし、今回は、完全に主人公も舞台もヨーロッパに置くという形で、和製西洋時代小説ともいうべき、新しい分野の作品を作り上げている。しかも魔女狩りや十字軍など中世の雰囲気を残す時代で、日本人には馴染みの薄い世紀を扱っていて新鮮だ。「百年戦争」と呼ばれる戦乱で、荒廃していたフランスを救うために現われた、聖女ジャンヌ・ダルクと一人の傭兵の長い長い物語。歴史物語というよりは、伝奇小説って感じで、忘れかけていた物語小説の復権でもある。青ひげ公ジル・ドゥ・レが登場するのも嬉しい。 作品の主人公の傭兵ピエールが何とも魅力。作者が意識してかどうかはわからないし、ストーリーに類似性があるわけではないが、なぜか忠臣蔵における大石内蔵助像と共通点が多い人物に思われてならないのが不思議だ。 物語●時は1429年、イングランド王の侵略により、フランス王国は戦火にさいなまれていた。 王国屈指の大貴族ドゥ・ラ・フルトの私生児ピエールは、傭兵のシェフ(頭目)に落ちぶれていた。戦乱の中で、ピエールは、運命の女・ジャンヌ・ダルクに出会った…。 目次■一の巻、傭兵も生きていかねばならない話(夜/出会い/朝がきて/いざ出陣)|二の巻、悪辣非道の傭兵が十字軍になる話(閲兵/父の肖像/入城/宿舎/再会/ルイーズ/救世主は女/波紋/開戦/十字軍の巷では/休日/攻防/捕虜/決戦前夜/トゥーレル決戦/オルレアン解放/燃えない連中/進軍/ランスの戴冠式/展開/サン・ドニ/ヴィベット/ラ・ビュセルがおかしい/犬の目/パリ/戦い終えて/荷造り/北風)|三の巻、根無し草の傭兵が、ねぐらを得る話(帰還/俺たちにまかせろ/作戦会議/準備万端/戦い/小さな救世主/家)(以上上巻)|四の巻、下賎の傭兵が偉大な神のご意志を全うする話(無駄話/ふた冬がすぎて/不意の客人/北へ/ルーアン潜入/再会/司教の女/奈落/魔手/牢/鉄槌/ラ・ピュセル昇天/仮面の騎士/昔話/ジル・ドゥ・レの城/明るいきざし/秘密/怒りおさえられず/青髭/逃亡/思わぬ失敗/故郷/ソフィー/嘘/神がみえた日/ジャン/旅の終わり)|五の巻、傭兵が死にかけたところで貴族になる話(死人/トマ登る/みえたもの/襲え/急転/ヨランド・ダラゴン)|六の巻、後の話(四年がたって/ルイの話/仕事/笑み)|解説 井家上隆幸(以上下巻) |