新・極楽の読書録
1999年5月・皐月の巻

二本の銀杏 by 海音寺潮五郎
江戸の想像力 by 田中優子
まぼろしの城 by 池波正太郎
ちみどろ砂絵 なめくじ長屋捕物さわぎ by 都筑道夫
だましゑ歌麿 by 高橋克彦
木枯し紋次郎 七 木枯しは三度吹く by 笹沢左保
鱗光の剣 深川群狼伝 by 鳥羽亮
老炎 佐伯右馬之介無明抄 by 左近隆
背中の髑髏 公事宿事件書留帳 五 by 澤田ふじ子
朱房の鷹 宝引の辰 捕者帳 by 泡坂妻夫



おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

朱房の鷹 宝引の辰 捕者帳
(しゅぶさのたか・ほうびきのたつ・とりものちょう)

泡坂妻夫
(あわさかつまお)
[捕物]
★★★★☆

装画:東啓三郎
装幀:坂田政則
表紙小紋:泡坂妻夫
時代:文久二年(1862)
場所:川崎、神田鈴町、日本橋馬喰町、神田眼鏡新道、田所町、荏田、向こう柳原、小日向水道町ほか
(文藝春秋・1,429円・99/04/20第1刷・263P)
購入日:99/04/17
読破日:99/05/30

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朱房の鷹 宝引の辰 捕者帳 『鬼女の鱗』『自来也小町』に続く「宝引の辰 捕者帳」シリーズの第三弾。泡坂さんの本職である、上絵師の要素がもっとも現われた作品でもある。読んでいるうちに、家紋への興味がふつふつと湧い4167378116てきた。
本の表紙に、作者の手による角平市松と呼ばれる小紋がプリントされていた。赤と白の正方形の市松模様を眺めているうちに、ひし形が見えてきて、不思議な模様で、見ていて飽きない。作品のもつ、ちょっと不思議なテイストを象徴しているようにも思える。

物語●「朱房の鷹」神田千両町の宝引の辰親分は、一家で川崎大師へお参りに行った。その途中の川崎の宿で、鮎釣りの少年と出会う…。「笠秋草」神田鈴町の紫染屋では、誰もいない部屋で行灯の火が灯ったり、火鉢の中の炭がおこったりする怪現象が発生した…。「角平市松」辰の女房の柳が、流行の角平市松の着物を買った…。「この手かさね」噺家の可也屋文蛙は、噺家出身で糸屋の主人・一扇と吉原で遊んでいた…。「墓磨きの怪」江戸の町で、何者かによって寺の墓を磨かれるという事件が頻発した…。「天狗飛び」辰のひとり娘・景は、荏田で、馬の放屁を笑うものではないと、御幣担ぎの平八に注意される…。「にっころ河岸」畳屋の小僧勇次は、大名と会ったことがあった…。「面影蛍」蛍狩に出かけた辰は、乾物屋の主人から不思議な話を聞いた…。

目次■朱房の鷹|笠秋草|角平市松|この手かさね|墓磨きの怪|天狗飛び|にっころ河岸|面影蛍

背中の髑髏 公事宿事件書留帳 五
(せなかのどくろ・くじやどじけんかきとめちょう・5)

澤田ふじ子
(さわだふじこ)
[捕物]
★★★☆☆

装画:蓬田やすひろ
装幀:原田幸生
時代:文化十三年
場所:京。大宮通り姉小路、三条鴨川東の法林寺脇、新町通り、三条通り、河原町、東山・方広寺前袋町、六角猪熊町ほか
(廣済堂出版・1,600円・99/05/15第1刷・318P)
購入日:99/05/02
読破日:99/05/26

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背中の髑髏 訴訟事件の弁護士的機能と、依頼人のための宿屋機能をもつ、公事宿(くじやど)。そこに居候するのは、異母弟が東町奉行所の同心組頭を務める、田村菊太郎。大好評の公事宿事件書留帳シリーズ第5弾。
今回の特徴は、鯉屋の使用人たちがそれぞれに個性を発揮しだしていること。シリーズに広がりを与えている。澤田節がますます好調といったところ。

物語●「背中の髑髏」公事宿・鯉屋の居候・菊太郎は、風呂屋で、鋳掛け屋の父に刺青を勧める男の子を見かけた…。「醜聞」菊太郎は、香木の匂いに誘われて古道具商の暖簾をくぐった…。「佐介の夜討ち」菊太郎は、人気のない夜道で匕首をもった男に襲われた…。「相続人」鯉屋の主人源十郎は、小間物商の店先で、お父さんと呼ばれた番頭から打擲されている小僧を見かけた…。「因業の瀧」鯉屋の女中のお与根と「手代の喜六は、三条大橋東詰めに運ばれていく心中くずれの罪人を見かけた…。「蝮の銭」菊太郎は、風邪で寝込んでいた同業の帳付け土井式部を見舞った…。「夜寒の辛夷」鯉屋の下代(番頭)の吉左衛門の長屋で、一家心中騒ぎが起こった…。

目次■背中の髑髏|醜聞|佐介の夜討ち|相続人|因業の瀧|蝮の銭|夜寒の辛夷|あとがき

老炎 佐伯右馬之介無明抄
(ろうえん・さえきうまのすけむみょうしょう)

左近隆
(さこんたかし)
[政争]
★★★★

装画:堂昌一
解説:志村有弘
時代:寛政四年四月
場所:本所桐生町一丁目、柳橋、深川三十三間堂、神田明神ほか
(春陽文庫・581円・99/04/20第1刷・309P)
購入日:99/05/02
読破日:99/05/23

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老炎 佐伯右馬之介無明抄 タイトルの枯れ具合やあまりなじみのない作家名から、おそらく今までであったら、手に取っていなかったかもしれない。それでも、帯の本格時代小説と堂昌一さんの渋いタッチの装画からチャレンジしてみた。
「老いるとは何か」という、時代小説では珍しいテーマに取り組んだ作品。随所に、老愁、そして人間の孤独感が感じられる。「春・夏・秋・冬」と名付けられた四つの章から構成され、季節の移り変わりに合わせて、物語の起承転結を綴るとともに、主人公の生きざまを托している。
主人公は、元奥祐筆組頭で、今は隠居しているが松平定信政権確立に何かしらの功績があるらしい、という設定。高齢(といっても60歳だが)で、剣はそれほど使えず、年齢からの持病をもち、そのくせ、異性への欲をを持ち続けているという、現代に通じるキャラクターが面白い。
随所に綴られる食に関する記述が、季節感・江戸情緒を醸し出し、池波正太郎作品を彷彿させていい。

物語●松平定信の時代。佐伯右馬之介は2年前に奥祐筆組頭の要職を辞し、家督を息子に譲り、一年前には最愛の妻を失い、孤独な隠居の身。その右馬之介のもとに、水野出羽守忠成の用人・相良種次と名乗る男が訪れた…。

目次■春の章/夏の章/秋の章/冬の章/解説 志村有弘

鱗光の剣 深川群狼伝
(りんこうのけん・ふかがわぐんろうでん)

鳥羽亮
(とばりょう)
[剣豪]
★★★★

カバー装画:村上豊
解説:菊池仁
時代:天明元年
場所:入船町、門前仲町、北本所馬場町ほか
(講談社文庫・495円・99/05/15第1刷・292P)
購入日:99/05/16
読破日:99/05/22

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鱗光の剣  深川群狼伝>
<FONT class=10j><FONT COLOR=♪1996年1月、講談社より刊行された『深川群狼伝』を改題した作品。
江戸の新興・盛り場深川の裏社会をめぐる暗闘。池波正太郎さんの「藤枝梅安」シリーズを想起させる始末人の世界がとても面白い。しかも、そこに作者得意の剣豪小説の魅力と、ミステリの要素が渾然一体となり、上質のエンターテインメントになっている。
殺しもありという血にまみれた始末人の世界を扱いながら、暗く陰惨にならず、カラッとしているのは作者の資質だろうか。
菊池仁さんの解説が単なる作品の解説にとどまらず、時代小説全般を俯瞰するものになっており、読みごたえがあるのも収穫。

物語●蓮見宗二郎は、渋沢念流の遣い手で、表向きは父の開いている道場の代稽古をつとめていたが、その実、深川門前仲町の始末屋・鳴海屋の腕利きの始末人だった。始末人とは、遊女屋、料理屋から材木問屋、呉服店、札差などから依頼を受けて、揉め事を処理する生業である。ある日、宗二郎の同僚の始末人の一人が全裸で殺される事件が起こった…。

目次■第一章 鉄棒の団六/第二章 彦根の文蔵/第三章 鵺野ノ銀次/第四章 菅笠の甚十/第五章 蓮見宗二郎/菊池仁

木枯し紋次郎 七 木枯しは三度吹く
(こがらしもんじろう・7・こがらしはさんどふく)

笹沢左保
(ささざわさほ)
[股旅]
★★★★☆

カバー写真:GRADE1
カバーデザイン:亀海昌次
解説:細谷正充
時代:天保十二年三月
場所:信州岡田。上州甘楽村。信州油井。甲州初狩。
(光文社文庫・486円・97/07/20第1刷・271P)
購入日:99/05/01
読破日:99/05/19

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木枯し紋次郎  七 解説によると、「唄を数えた鳴神峠」は、第一期シリーズの完結編だったらしい。また、「木枯しは三度吹く」はシリーズ再開第一作ということ。そのせいか、この2編のクォリティの高さ、密度の濃さは、シリーズのTop10に入るものである。

物語●「唄を数えた鳴神峠」信州岡田宿に近い街道の切り通しで、三人の渡世人が一人の女を襲った…。「木枯しは三度吹く」上州甘楽村の隣村一ノ宮の祭礼に江戸相撲がやって来た…。「霧雨に二度哭いた」信州の高原地帯・油井で、一人の渡世人が病に苦しむ女壷振りを助けた…。「四度渡った泪橋」甲州街道・初狩。紋次郎は二年前にこの宿を通ったときに、食あたりの腹痛に苦しみ、通りかかりの百姓に助けられた。その百姓は、その後、土地の親分に殺されたとい。そして、紋次郎は再びその地にやって来た…。

目次■唄を数えた鳴神峠|木枯しは三度吹く|霧雨に二度哭いた|四度渡った泪橋|解説 細谷正充

だましゑ歌麿
(だましえうたまろ)

高橋克彦
(たかはしかつひこ)
[捕物]
★★★★

装画:小泉英里砂
装丁:関口聖司
時代:寛政二年八月
場所:久右衛門町、池之端、通油町、吉原、堀切村、霊岸島、江ノ島ほか
(文藝春秋・1,905円・99/04/30第1刷・526P)
購入日:99/04/24
読破日:99/05/18

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だましゑ歌麿 高橋克彦さんの浮世絵師ものというと、『写楽殺人事件』『北斎殺人事件』など、今までは舞台は現代だった。久々の浮世絵師ものであり、しかも江戸時代が舞台ということで、多いに期待した。
本作では、主人公の歌麿はもちろん、蔦屋重三郎、朋誠堂喜三二などに加え、若き日の北斎こと、春朗も活躍し、ファンにはこたえられないところ。
一方、寛政というと、どうしても避けて通れないのが寛政の改革。これが重要なファクターになっている。

物語●寛政二年、江戸を大嵐による高波が襲い、深川一帯は大きな被害を受けた。南町奉行所同心仙波一之進は、災害の後を見廻りの途中、喜多川歌麿という絵師に出会った。江ノ島から戻った歌麿の留守中に、その妻は何者かに連れ去られた末に惨殺された…。

目次■願いの糸口/深く忍ぶ恋/青楼十二時/歌麿形新模様/自成一家/はなふぶき/常陸帯/いたずら草紙/潮干のつと

ちみどろ砂絵 なめくじ長屋捕物さわぎ
(ちみどろすなえ・なめくじながやとりものさわぎ)

都筑道夫
(つづきみちお)
[捕物]
★★★★☆

カバーイラスト:山田紳
解説:高橋克彦
時代:特定せず
場所:日本橋茅場町、橋本町、三田材木町、牛込舟河原町、新川一丁目、亀沢町、大曲、不忍池ほか
(光文社文庫・533円・97/06/20第1刷・279P)
購入日:99/05/03
読破日:99/05/15

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ちみどろ砂絵 学生時代に推理小説が好きでハマった都筑道夫さんの名作を十数年ぶりの再読。当時(角川文庫版)は推理小説の視点から読み、事件設定の意外性と論理的な解決に舌を巻き、なめくじ長屋のメンバーのチームプレーを大いに楽しんだ。
今回は、時代小説のアプローチから読ませてもらった。昔は読み飛ばしていたが、確かな江戸情緒の描写にすっかり参ってしまった。やはり、ぼくのセンセーである。

物語●「よろいの渡し」鎧の渡しで、渡し舟に乗り込んだ男が、岡っ引きや下っ引きが岸の両岸で見守る中、川の上で消えた…。「ろくろっ首」商家の娘が首を切り落とされて殺されていた。そしてその5日後に若い男の首だけが発見された…。「春暁八幡鐘」アラクマが見ず知らずの若い男から風呂桶ドロボーの依頼を受けたが…。「三番倉」倉の中で二人の男が争い、瀕死の被害者が倉から転げ出した後、加害者を閉じ込め錠をかけた。報せを聞き、やってきた親分は倉の中を見たが誰もいなかった…。「本所七不思議」本所の横十間川に、一艘の舟がただよい、舟の上には男の死体と狸の死骸が横たえられていた…。「いのしし屋敷」なめくじ長屋の面々に、無頼の旗本にさらわれた隠居の妾を取り戻す仕事が依頼された…。「心中不忍池」上野不忍池の茶屋で、奇妙な心中があった。年増盛りの女の方が息をひきとったとたん、皺だらけの老婆になってしまったのだ…。

目次■第一席 よろいの渡し|第二席 ろくろっ首|第三席 春暁八幡鐘|第四席 三番倉|第五席 本所七不思議|第六席 いのしし屋敷|第七席 心中不忍池|解説 高橋克彦

まぼろしの城
(まぼろしのしろ)

池波正太郎
(いけなみしょうたろう)
[戦国]
★★★☆

カバー装画:川田幹
時代:天文二十年
場所:上野国・追貝村、沼田、小川、川場ほか
(講談社文庫・448円・83/01/15第1刷・98/10/23第35刷・241P)
購入日:99/05/03
読破日:99/05/09

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まぼろしの城 最初に好きになった作家ということで、一時かなり集中して池波作品を読んだ。しかし、この本は地味なイメージがあったせいか、未読だった。池波さんらしい、一筋縄ではいかないひねった書き出しで物語は始まる。思わずニヤリとしてしまう。
場所は、上野国の沼田城。主人公は、沼田万鬼斎(顕泰)とその一族。上杉と武田と北条の強力な大名の圧力を受けるかの場所。池波ファンには、真田家がらみの場所としておなじみの場所。この作品でも真田昌幸が登場する。

物語●上野国追貝村の名主で地侍の金子新左衛門のむすめ・ゆのみと、近接する平原村の名主の末弟・平滝源太郎は、婚約中で半月後に夫婦になる仲であった。それを待ちきれずにゆのみと逢い引きした源太郎は、その帰りに、ゆのみの父に射殺された。何故、半月後にむすめの婿になるべき若者を、新左衛門は殺したのか? それも犯行がわからぬように密かに…。

目次■なし

江戸の想像力
(えどのそうぞうりょく)

田中優子
(たなかゆうこ)
[江戸学]

カバー装画:鈴木春信「清水の舞台より飛ぶ美人」より
カバー装幀:菊地信義
解説:松田修
(ちくま学芸文庫・880円・92/06/26第1刷・97/01/30第3刷・316P)
購入日:99/04/29
読破日:99/05/08

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江戸の想像力 1986年度芸術選奨文部大臣新人賞受賞作。
かつての江戸ブームの起こりとなった、名著を読む機会をようやく得た。成功の半分は、タイトルのネーミングの奇抜さにあるように思われたが、読みはじめてみると、評論には珍しく、その論理の展開の自由奔放さとグローバリズムが知的好奇心をくすぐり、心地いいのである。
平賀源内と上田秋成という同時代人ながら、まったく異質の個性を持つ二人の文化人を軸に据えたのがよかった。
童門冬二さんの『冬の火花 上田秋成とその妻』(講談社文庫)を読んだときには、うすぼんやりとした感じで、ピントがずれた感じだった、上田秋成像がようやくはっきりとしてきた。たぶんに秋成のことを知らなすぎたせいだろう。

読みどころ●近世的なるものとは何だったのか。平賀源内と上田秋成という同時代人ながらまったく正反対の個性を軸にしながら、博物学・浮世絵・俳諧・世界図・読本といったさまざまなジャンルの地殻変動を織り込んで、18世紀江戸の外国文化受容のありようとダイナミックな近世の運動を描いた評論。

目次■はじめに――近代的なるものへ|第一章 金唐革は世界をめぐる――近世を流通するもの(一 世紀末天明様態/二 天明元年のかばやき/三 金唐革は世界をめぐる/四 紙から見た美術史/五 本草学は借金錬金術/六 源内伝説と密貿易)|第二章 「連」がつくる江戸十八世紀――行動本草学から落語まで(一 動く本草学へ/二 俳諧のネットワーク/三 作ったものの連・作る場の連/四 狂歌連と落語/五 連の生み出したもの――解体新書・東錦絵・銅版画)|第三章 説話の変容――中国と日本の小説(一 宋の説話人/二 俗文学の流入/三 呼び起こされる神々/四 浮世草子『白娘子永鎮雷峰塔』の世界/五 生命的なるものをめぐって)|第四章 世界の国尽し――近世の世界像(一 はなしと江戸文学/二 近世世界地図遍歴/三 マテオ神父の冒険/四 白石の懐疑/五 複数の世界像/六 羅列の形式――尽し・競べ・道行・双六・絵巻)|第五章 愚者たちの宇宙――『春雨物語』の世界(一 列挙が可能にするもの/二 意味づけからの奔走/三 境界を生きる者たち――愚者・悪漢・人間もどき/四 源内と秋成――江戸十八世紀の両極)|あとがき/『江戸の想像力』文庫版によせて/解説 創造としての想像力 松田修

二本の銀杏 上・下
(ふたもとのぎんなん)

海音寺潮五郎
(かいおうんじちょうごろう)
[幕末]
★★★★☆


カバー:木本百子
解説:磯貝勝太郎
時代:天保八年
場所:薩摩、長崎
(文春文庫・各505円・98/02/10第1刷・上388P、下421P)
購入日:98/02/11
読破日:99/05/04

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二本の銀杏 海音寺さんというと、どうも大家のイメージが強くて、今まで敬遠していた。しかし、この本の解説で、司馬遼太郎さんがこの作品を高く評価していたという箇所を読んで、にわかに興味が湧いた。
読みはじめてみて、いい意味で期待を裏切られた。重厚さや息苦しさが全然なく、先へ先へと読み進めたくなるストーリーテリング見事だった。主人公の源昌房が、山伏という設定もよかった。
この源昌房は、作者の郷里(鹿児島・大口)の英雄・堀ノ内良眼坊をモデルにしているということ。郷士として重税に苦しみ悲惨な生活を送る農民の救済事業で活躍する反面、女性に対してバイタリティー旺盛な山伏の不気味さが渾然としていて魅力的であった。また、天保時代ではおなじみの藩家老調所笑左衛門が登場し、いい味を出している。

物語●赤塚村の郷士頭・北郷隼人介(ほんごうはやとのすけ)の屋敷で、部落の郷士らの主だった連中が十数人並んでいた。関所を守る任務を帯びた彼らは、領内の百姓らが逃散するところを取り締まり、抵抗するものを斬ろうとしたところを、同じ郷士の源昌房(げんしょうぼう)に邪魔されたのだ。そして、源昌房のしたことをめぐり、当事者を呼び出して、その陳述を聞くことになった…。

目次■逃散/夜這星/お国とあぐり/蒔いた種/魂のふれあい/海の風/先祖たずね/桃李の春/山寒む/新しい計画/月おぼろ/雨晴る/丸山の月/お香/忘れ貝/曼珠沙華/ささやき/紅い椿/渦(以上上巻)|魚によする心/暈を着た月の夜/呪術/その夜/日暮れの雨/蛇/亢龍の悔/その前夜/遠雷/花を砕く/共犯者/月に思う/人こそ知らね/雨しとど/光と暗/梢の星/解説 磯貝勝太郎(以上下巻)