新・極楽の読書録
1999年4月・卯月の巻

風の如く 水の如く by 安部龍太郎
瑠璃の寺 by 佐伯泰英
妖怪犯科帳 薩摩暗躍 鳥居甲斐守忠耀事件控 by 宮城賢秀
会津斬鉄風 by 森雅裕
浪華の翔風 by 築山桂
眼鏡屋直次郎 by ねじめ正一
天女の橋 観相師南龍覚え書き by 庄司圭太
残映 by 杉本章子
花と火の帝 上・下 by 隆慶一郎
水鳥の関 上・下 by 平岩弓枝
御書物同心日記 by 出久根達郎
江戸の都市計画 by 童門冬二
天下を呑んだ男 「秀吉」が生れた朝 by 中村隆資



おすすめ度(100点満点):★ひとつは20点、☆ひとつは5点。

天下を呑んだ男 「秀吉」が生れた朝
(てんかをのんだおとこ・ひでよしがうまれたあさ)

中村隆資
(なかむらりゅうすけ)
[戦国]
★★★☆

カバー装画:浅賀行雄
カバーデザイン:コメックス
解説:奥野健男
時代:天文二十二年(1553)
場所:三河国吉田
(講談社文庫・485円・96/09/15第1刷・184P)
購入日:99/02/11
読破日:99/04/30

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天下を呑んだ男 新進作家によるリレー小説『のきばしら』の第一番手で巧みな技を発揮した中村隆資さん。この作品は、NHK大河ドラマ『秀吉』で竹中直人さんがブレイクした頃に、「歴史人物フェア」の一品として刊行されたもの。ちなみにそのフェアのキャラクターは、竹中直人さんだった。ただ、どうも秀吉が苦手で食指が動かなかった。
「丁重なご会釈ありがとうございます。身共は針の担い売りを致しおります藤吉郎と申します」折り目正しい挨拶である。針売りといいながら、武家奉公の経験があると看えた。だが十六、七という歳のわりには顔つきが暗い。黒目がちの両眼に精気がない。
タイトルにあるように秀吉(藤吉郎)の若い頃というわけだが、今までの秀吉とだいぶイメージが違うところが大胆。さらに作者が大胆なのは、この無名時代(もちろん信長に仕える前)の藤吉郎の身に、ある一夜に起こったことのみで、長編に仕立て上げた点である。
秀吉の存在そのものが奇跡的なことを考えると、こういうホラ話っぽいアプローチもありかなと思わせる、不思議な味の作品だ。

物語●東海道吉田宿の諸国御旅人宿「まつみや」に、三年ぶりに縁覚法師という僧がやってきた。何やら宿の主人とは顔見知りのようだが、風変わりな酒好きの破戒僧らしい。その夜、宿には針売りの青年、古手屋と絹布屋、薬売りと荏胡麻油商人、若い百姓夫婦、土倉の小頭と小間物売りと山伏ら…。

目次■第一章 持ち込み/第二章 相部屋/第三章 同朋/第四章 田楽法師/第五章 どん底/第六章 呼び水/第七章 瓢箪/第八章 馬鹿伝染り/第九章 盃上の天/第十章 跡白浪/あとがき/解説 奥野健男

江戸の都市計画
(えどのとしけいかく)

童門冬二
(どうもんふゆじ)
[江戸学]

装幀:坂田政則
(文春新書・680円・99/04/20第1刷・214P)
購入日:99/04/24
読破日:99/04/29

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江戸の都市計画 目黒区役所に勤務後、東京都庁に移り、企画調整局長や政策室長などを歴任し作家活動に専念した、著者らしい書。しかも、石原慎太郎新知事誕生に合わせてということで、発行者の意図を感じる。
江戸の町がどのように形成され、成熟していったかが明快に解かれている。そこには、家康以来の為政者の理念が刻み込まれることで形作られ、江戸の町人によって町として成熟していくのがわかった。

読みどころ●江戸は一日にして成らず! 太田道灌、家康、知恵伊豆°g宗、大岡忠相ら、江戸のリーダーたちがまちづくり≠ノかけた知恵と決断をたどる。

目次■第一章 信長が「岐阜」に托した理念(まちづくり≠フ目的/周の武王をめざす/画期的な兵農分離/蓬莱山の思想/常世の国をもとめた親房と将門)|第二章 太田道灌の江戸開発(東京の恩人/古河公方に備える/築城の名人/港を活用する/調略で殺された道灌/家康を苦しめた北条氏の治政/北条早雲の「愛民」)|第三章 埋立て地を拠点にした家康のまちづくり(家康入城/強かった平和志向/分断支配の原則/きめ細かい慰撫策/急いだ「知行割り」/「水の道」の整備/開発の総指揮者・本多正信/実験場としての埋立て地)|第四章 新天地に出現した武家の都(江戸城の大拡張整備/新しい富士山/スピード工事でできた江戸城/外国人が見た江戸/巧みな諸機能の分散/武士の居住地/新しいタイプの武士)|第五章 江戸の構造を変えた明暦の大火(火事とけんかは……/死者十万人/失業武士をどうする/川越を復興させた信綱/見送られた天守閣再建/家光と自前の政策官僚/大名屋敷を城外へ)|第六章 知恵伊豆≠フ「政治都市化」計画(上屋敷、下屋敷/分けられた武士と市民/水野忠邦と遠山金四郎/蛤・あさり事件/保科正之が献策した「三大美事」/水戸黄門と芭蕉)|第七章 吉宗が求めた江戸の健全化(神君の昔に戻る/重農主義と重商主義の二本立て/名君か暗君か/投書でできた小石川養生所/町の俗化部分を除去/桜の名所をつくる)|第八章 防災機能を強化した名奉行大岡(明き地の効用/「いっそ馬場に」/江戸っ子のニーズが町の性格を変える/公認された明き地の転用/夢に終わった不燃都市化)|第九章 江戸っ子の「権利と義務」(大橋の修復/町人に譲り渡された永代橋/権利と義務のけじめ/町年寄の横槍/公共施設の利益者負担/大衆を公衆化する/江戸の交通事故/上水道の再編整備/宗春の吉宗批判)|第十章 三大改革と福祉行政(不況期に行われたまちづくり/定信の七分積立金/鬼平が建議した「更生施設」/定信が始めた「敬老の日」 /天保の改革と忠邦失脚/首都機能をどうする)

御書物同心日記
(おしょもつどうしんにっき)

出久根達郎
(でくねたつろう)
[ユーモア]
★★★☆☆☆

装幀:南伸坊
本文挿絵:中一弥
時代:天保三年(1832)
場所:江戸城紅葉山、本町三丁目、裏四番町通り、土手三番町通り、上野黒門前、茅場町、神楽坂ほか
(講談社・1,600円・99/04/12第1刷・266P)
購入日:99/04/17
読破日:99/04/28

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御書物同心日記 だれよりも珍本を多く収集しているのが、将軍家である。という本書の執筆動機が説得力がある。政治家で本の好きなものは稀であり、まして書物が大事なものと認識するものはさらに少ない。そんな中で、家康が無類の愛書家であった、という記述は何やら嬉しい気がする。
あとがきによると、江戸城の書物は、紅葉山文庫に納められ、御書物奉行を置き、御書物方同心という職掌を設け、彼らに文庫を管理させたという。
主人公の丈太郎は、無類の本好きということが買われて、書物同心の家に養子入りしたぐらいで、まさに天職というべき、職場でどのような活躍をするかが見もの。丈太郎と養父・栄蔵の会話が頬笑ましい。

物語●丈太郎は西の丸奥火乃番組頭の三男坊で厄介者だが、本が好きで古本に関する知識はだれにもひけをとらない。その彼が見込まれて、御書物方同心の跡継ぎとなった。新米同心が出合う本をめぐる事件の数々…。

目次■ぬし|香料|花縁|足音|黒鼠|落鳥|宿直|江戸城内の書物――あとがきにかえて

水鳥の関 上・下
(みずどりのせき・じょうげ)

平岩弓枝
(ひらいわゆみえ)
[武家]
★★★★☆☆

カバー:蓬田やすひろ
解説:藤田昌司
時代:天明七年五月
場所:東海道新居宿、三州渥美郡吉田、舞坂、大知波、三ヶ日、細江
(文春文庫・上巻476円・99/04/10第1刷・325P|下巻476円・99/04/10第1刷・325P)
購入日:99/04/11
読破日:99/04/25

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水鳥の関 時代小説では、意外に少ない恋愛をメインテーマにした作品。『水鳥の関』というタイトルにも托されたように、何ともせつなくでドラマチックな作品。平岩さんの作品の場合、よく舞台シーンが頭に思い浮かぶ。この作品も例外ではない。各場面を切り取ると一場の舞台劇となる。
読後に土地鑑がつかめず、『地図で訪ねる歴史の舞台』(帝国書院)で、作品の舞台となった、吉田、新居、舞坂(西からこの順)の位置関係を調べる。なるほど、新居(今切)と舞坂は、ホントに近い。

物語●東海道新居宿の本陣・汐見家では、今切の渡しを越えて来た松平伊豆守信明(三河国吉田藩主)の一行を迎えて、活気づいていた。一行の中には、本陣の娘お美也の義弟・遊佐清次郎がいた。清次郎は、四年ぶりにお美也と再会し、お美也が、夫と死別し、幼子を取り上げられて、婚家を追い出されたも同然の身となった実状を知る…。

目次■本陣の娘/遊佐家の人々/新居の関所/恋車/母と子/新春/気賀の関所/湖北の夏/時の流れ/裏切り/月光/恋人/初雪/新之助の死/方広寺(以上上巻)|変節/女夫/桔梗屋の娘/去り行く日/春のたより/難破/逆怨み/国学者/寺子屋/遠い人/柿/初冬/合縁/湖の春|解説 藤田昌司(以上下巻)

花と火の帝 上・下
(はなとひのみかど・じょうげ)

隆慶一郎
(りゅうけいいちろう)
[伝奇]
★★★★☆☆☆ [再読]

カバーデザイン:菊地信義
解説:浦田憲治/縄田一男
時代:慶長三年八月
場所:八瀬、禁裏、大坂城、京都所司代、六条三筋町、四条河原ほか
(講談社文庫・上巻648円・93/09/15第1刷・98/09/01第11刷・428P|下巻648円・93/09/15第1刷・98/09/01第9刷・426P)
購入日:99/04/03
読破日:99/04/22

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花と火の帝 10年ぶりの再読になる。隆さんの作品の中で、いちばん好きなので、とっておきの本にしている。初読のときは、話の先がとても気になったが、今回はこの未完のところが伝奇小説としての威力を倍加させているのに気付いた。
帝と柳生というテーマでは、五味康祐さんの『柳生武芸帳』(新潮文庫)が初代で、本書が二代目で、その息子がえとう乱星さんの『螢丸伝奇』(青樹社文庫)といったところか。
岩介が敵を次々に破りながらも、仲間に加えていくといった姿勢が、かつての少年ジャンプのヒーローものっぽくて痛快。でもやっぱり、もっと続きがよみたいよー。

物語●「鬼の子孫」といわれる八瀬童子の流れをくむ駕輿丁(かよちょう)岩兵衛の息子、岩介は、五歳のときに天狗と出会い、弟子入りするために故郷を離れた。その岩介が十一年ぶりに帰ってきた。岩介は、三宮政仁親王(後の後水尾天皇)と出会い、「途轍もない一生を送」るであろうことが予測されて、一生従うことに決める。そのころ、徳川幕府は、さまざまな形で公家と天皇に干渉しはじめた…。

目次■騒乱/官女密通/御譲位/和子入内(以上上巻)|和子入内(つづき)/御譲位まで/仙洞御所/解説 浦田憲治/文庫版解説 縄田一男(以上下巻)

残映
(ざんえい)

杉本章子
(すぎもとあきこ)
[短篇]
★★★★

カバー:蓬田やすひろ
解説:由里幸子(朝日新聞記者)
時代:「残映」明治八年。「影男」明治十五年。「供先割り」万延元年。
場所:「残映」築地入船町、下谷中根岸町、赤坂田町、木挽町。「影男」神田雉子町、須田町。「供先割り」兼房町、三河町、西お丸下
(文春文庫・448円・98/07/10第1刷・228P)
購入日:98/07/11
読破日:99/04/18

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残映 中編の「残映」と短編の「影男」と「供先割り」の三編を収録。「影男」は、直木賞受賞作『東京新大橋雨中図』(文春文庫)の後日談といったところ。
表題作の「残映」が秀逸。読みはじめるまで、帯に「心中事件の真相を探る…元旗本…新聞社…」と書いてあるのを早合点して、成島柳北を描いた作品と思い込んでいた。成島は、松井今朝子さんの『幕末あどれさん』(PHP研究所)でチラッと出てきて、気にかかっていたからだ。
ところが、この作品を読んでもっと気になる人物を発見した。佐久間鐇五郎だ。元旗本でありながら、御一新後は指物師に転身したのだ。本編から伺える明治以降の活躍はもとより、旗本時代の活躍ぶりをぜひ知りたい。彼は、旧幕時代に火附盗賊改役や南町奉行を務め、勝海舟とも親交があったのである。「杉本さん、よくぞ光を当ててくれました」ってところでしょうか。

物語●「残映」築地の旅館で三人の男女の心中死体が発見された。そのうちの一人は、先妻の妹の夫だったことから、元旗本で今は指物師の鐇五郎は事件の真相解明に乗り出すことになった…。「影男」新政府の自由民権運動への弾圧に抵抗して、小林清親が描いた肖像絵は、旧知の絵草紙屋の主人の配慮で名前を消されていた…。「供先割り」地見の正八は、ふとしたことから磐城平五万石藩主・安藤対馬守信行家の陸尺(駕籠かき)をする羽目になった…。

目次■残映|影男|供先割り|解説 由里幸子

天女の橋 観相師南龍覚え書き
(てんにょのはし・かんそうしなんりゅうおぼえがき)

庄司圭太
(しょうじけいた)
[捕物]
★★★★

カバー:蓬田やすひろ
解説:長谷部史親
時代:天保十三年(1842)
場所:「てんつく」上野池之端、日本橋通三丁目。「天狐」上野車坂町、本所石原町。「天女の橋」浅草寺奥山、木更津ほか
(集英社文庫・514円・99/03/25第1刷・270P)
購入日:99/03/21
読破日:99/04/12

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天女の橋 『沈丁花』(集英社文庫)に続く、観相師南龍覚え書きシリーズの第2弾。捕物に観相を取り入れた新着想に加え、今回は、新薬をめぐる疑惑や新興宗教による布教活動の問題、幼児誘拐などを巧みに話に織り込んでいる。しかも、天保期の権力抗争も描かれていて、面白さに加速度が付いてきた。シリーズものには、最初がいちばん面白いものと、巻が進むほど熟成されていくものがあるが、これは後者の方かもしれない。

物語●「てんつく」南龍に観相を見てもらいに、えびす顔をした紙問屋の主がやって来た。商売がうまくゆうかずに店をたたもうかという相談だった…。「天狐」南龍は、北町奉行所臨時廻り同心、堀井勘蔵から呼び出されて、親類の娘の観相をすることになった。その娘は三日前に、血のべっとりと付いた短刀を持って放心したように歩いているところを見つかったという…。「天女の橋」南町奉行鳥居耀蔵が見世物小屋を一掃すると噂が立ち、浅草奥山は、小屋がなくなってしまう前に一目見ておこうと江戸っ子でにぎわった。その雑踏の中で、南龍は千人にひとりいるかどうかという天女の相をもった女を見かけた…。

目次■てんつく|天狐|天女の橋|解説―面白さを加速した物語 長谷部史親

眼鏡屋直次郎
(めがねやなおじろう)

ねじめ正一
(ねじめしょういち)
[ユーモア]
★★★★☆☆

カバー画:高橋常政
装幀:みるきぃ・いそべ
時代:文政九年
場所:日本橋、吉原、本石町、黒門町、神田同朋町、長崎ほか
(集英社・1,800円・99/03/30第1刷・405P)
購入日:99/03/27
読破日:99/04/11

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眼鏡屋直次郎 ねじめさんというと、高円寺を舞台にしたユーモア小説の作家で、時代小説とは縁がないと思っていた。しかし、そのねじめ氏が書かれた初の長編時代小説が本書だ。読んでみて納得できた、まさしく作者の個性が発揮された作品に仕上がっている。
日本橋の眼鏡屋(大店である)のひとり息子・直次郎が、いかにも江戸っ子然としていていい。江戸っ子の美点と欠点を体現するキャラクターで、痛快感とユーモアを作品にもたらしている。
かんざし眼鏡をはじめ、江戸時代の眼鏡の事情が描かれていて面白かった。また、背景にシーボルト事件が扱われているのも興味深かった。
表紙の高橋常政さんのイラストとみるきぃ・いそべさんのデザインがなかなか新鮮。

物語●眼鏡屋浜田屋のひとり息子・直次郎は、祖父・善兵衛の命で、長崎のシーボルト先生のもとで蘭学の勉強に行き、鳴滝塾で落ちこぼれて江戸に帰って来た。以来、怠けグセがつき、善兵衛の愚痴を繰り返し聞かされるようになった。その浜田屋に『南総里見八犬傳』の曲亭馬琴がやって来た。鳴滝塾で勉強した眼鏡屋に眼鏡を見立ててもらいに来たのだった…。

目次■第一話 薄雲太夫/第二話 長崎屋/第三話 かんざし眼鏡/第四話 白皙/第五話 嵐の前/第六話 別れの空/第七話 戻り恋/第八話 海の遠眼鏡/第九話 旅の途中に/第十話 大井川雨情/第十一話 火事場の花嫁/第十二話 三太の母/第十三話 善兵衛の死

浪華の翔風
(なにわのかぜ)

築山桂
(つきやまけい)
[捕物]
★★★★☆

カバー画:『浪花百景』の内「筋鐘御門」(国貞画)―大阪市立博物館所蔵
装幀:野村美枝子
時代:天保元年(1830)
場所:大坂城
(鳥影社/星雲社発売・1,800円・98/09/20第1刷・304P)
購入日:98/11/06
読破日:99/04/10

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浪華の翔風 江戸時代の大坂を舞台にした、時代小説は少なく貴重。江戸期の中で、大坂が注目を浴びるのは、慶長の大坂冬・夏の陣を除くと、大塩平八郎の乱があった天保期まで待たなければならない。しかも、書き手も少ない。大阪出身の司馬遼太郎さんや、最近、作品を読むことが難しくなっている、有明夏夫さんぐらいしか思い浮かばない。
そんなおり、この本と出合えたことは本当にラッキーだった。著者紹介によると、作者は京都生まれで、大阪大学大学院博士課程在学中(1998年9月現在)、日本史専攻とのこと。また、発行元の島影社は、長野県諏訪に編集室があるようだが、どういう経緯で上梓されたのかも興味あるところだ。
作品は、中央権力の代表である大坂城代と地元民の対立がテーマになっている、一種の伝奇小説である。今まで大坂城代の役割が浮き彫りになるような作品は、ほとんどなかっただけに新鮮である。
不幸な生い立ちをしながら、健気に生きるヒロイン、優等生のあこがれの人の存在、謎の美形キャラ、ヒロインを助ける世間を知り尽くした老人…。ひところの少女マンガ風の展開に好感が持てる。

物語●闇の中で、茶染の装束で頭まで覆い隠した集団が大坂城の外堀に浮かぶ何かを引き上げようとしていた。指揮をとっていたのは、奇妙な鬼の面をつけた長身の影であった。大坂城代配下の御城影役と呼ばれる忍び働きを務める若い娘あやは、その鬼の面の曲者に立ち向かったが…。

目次■序 大塩平八郎/一 鬼面/二 お千代/三 闕所/四 城代下屋敷/五 道修町/六 千貫櫓/七 長崎/八 太秦広隆寺/九 新吉/十 島場所/十一 大坂城代/十二 中之島蔵屋敷/十三 阿片/十四 四天王寺

会津斬鉄風
(あいづざんてつかぜ)

森雅裕
(もりまさひろ)
[幕末]
★★★★☆☆

カバーデザイン:金城秀明
刀剣写真:オリオン・プレス
解説:大野義光(刀鍛冶)
時代:「会津斬鉄風」安政三年(1856)。「妖刀愁訴」慶応二年(1866)。「風色流光」慶応三年(1867)。「開戦前夜」慶応三年(1867)。「北の秘宝」明治元年(1868)。
場所:「会津斬鉄風」会津若松。「妖刀愁訴」京。「風色流光」京。「開戦前夜」伏見。「北の秘宝」松前。
(集英社文庫・514円・99/03/25第1刷・268P)
購入日:99/03/21
読破日:99/04/09

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会津斬鉄風 寸分違わぬ二枚の鐔の秘密から始まる幕末から明治にかけて展開する連鎖時代小説。連環小説というと、佐江衆一さんの『江戸は廻灯籠』(講談社)を思い出すが、こちらは、作中で出会った主要人物たちがバトンタッチするように話を繋いでいく形式で、興趣が倍増する。
薩長同盟、坂本龍馬暗殺事件や鳥羽伏見の戦い、箱館戦争など、時代のターニングポイントとなった事件を、ユニークな視点から捉える、質の高い幕末小説である。
愛刀家でもある作者の友人で、刀鍛冶の大野さんの解説が、文章のプロではないと思われるが、芸を極められた人らしく、わかりやすく、温かくて何ともいえずにいい。

物語●「会津斬鉄風」金工の河野春明は、古川友弥と名乗る刀鍛冶に鐔の鑑定を頼まれる。母の形見というその鐔は、春明の作によく似ていたが…。「妖刀愁訴」刀鍛冶の友弥は、十一代兼定と改名し和泉守を受領し、京にいた。その和泉守兼定の刀が祟るという噂がたった…。「風色流光」会津藩士・佐川官兵衛は、鴨川近くの書肆に寄った帰りに、包丁を持った女に襲われた…。「開戦前夜」伏見の旅館で吉は、新選組にいる夫に会うために、下田から出てきた身重の女の面倒をみることになった…。「北の秘宝」…。

目次■会津斬鉄風|妖刀愁訴|風色流光|開戦前夜|北の秘宝|解説 大野義光

妖怪犯科帳 薩摩暗躍 鳥居甲斐守忠耀事件控
(ようかいはんかちょう・さつまあんやく・とりいかいのかみただあきひけんひかえ)

宮城賢秀
(みやぎけんしゅう)
[伝奇]
★★★☆☆

カバーイラスト:宇野亞喜良
カバーデザイン:宇野亞喜良
時代:天保十一年四月
場所:深川熊井町、下谷新屋敷表門通り、薬師小路、長崎、三田四国町ほか
(徳間文庫・552円・98/07/15第1刷・344P)
購入日:98/07/05
読破日:99/04/06

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妖怪犯科帳  薩摩暗躍 鳥居甲斐守忠耀事件控 最近、鳥居甲斐守忠耀の時代を扱った、作品を読むことが多い。気になる人物ではあるが、とくに選んでいるわけではないのだが…。
結果、例外なくどれも面白いのである。“妖怪”と呼ばれるほど凄みのある、鳥居のキャラクター(どうしても俳優の石橋蓮司さんを目に浮かべてしまう)もさることながら、この時代(天保期)自体がもっている何ともいえない怪しさ、いい加減さ、現代に通じる部分が、何ともいえない面白さを醸し出すのかもしれない。
シリーズ第三弾の本編では、これも怪しい薩摩藩が登場している。とくに薩摩藩家老の調所笑左衛門(ずしょしょうざえもん)が、鳥居の敵役として立ちはだかるのがいい。この人が出てくる本をもっと読んでみたくなった。

物語●俵物問屋「万代屋」の押し込み探索に当たった鳥居耀蔵の家来・明智惣五郎は、一家惨殺の現場を横目に、同店が唐物の抜け荷を扱っていたことを嗅ぎつける。下手人の追及とともに抜け荷の実態を明らかにするべく、鳥居・明智の主従は探索をはじめる…。

目次■贓物故売/牧野家中/長崎奉行/崎陽出張/刺客狩り/仮装戎克/調所広郷/生き証人/薩摩の剣/工作終了/あとがき

瑠璃の寺
(るりのてら)

佐伯泰英
(さえきやすひで)
[伝奇]
★★★★☆

装画:小村雪岱「鳥辺山」(埼玉県立近代美術館所蔵)
装幀:芦澤泰偉
時代:享保四年
場所:浅草寺、日本堤、吉原、溜池、赤坂中ノ町、浅草今戸町ほか
(角川春樹事務所・1,600円・99/02/08第1刷・243P)
購入日:99/01/30
読破日:99/04/03

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瑠璃の寺 長崎出身の放浪の南蛮絵師・通吏辰次郎(とおりしんじろう)を主人公に据えた新感覚時代小説。スペインをテーマにした著作が多い、佐伯さんらしい、異国の香りのする作品だ。
抜け荷の罪で、罠にかけられ没落した長崎代官季次家(末次家)の再興を図るために、遺児を連れて江戸にやってきた辰次郎。彼を助けるのは、非人頭の車善七ら社会に虐げられた人たち。
かつての和製冒険小説によく見られる男臭くて無国籍的でセンチメンタルなヒーローが、時代小説に現われた感じで好ましい。

物語●何者かに仕掛けられた罠で没落した、親友の家の汚名を雪ぐために、江戸へやったきた放浪の南蛮画絵師・通吏辰次郎。親友とかつての恋人の間に生れた幼子を連れて、食べるところも寝るところもない状態だったが、非人頭車善七の危難を救ったことから、江戸での生活が始まる…。

目次■第一章 浅草溜め/第二章 南蛮絵師/第三章 暗闘/第四章 黒い絵/第五章 思慕の女/第六章 浅草瑠璃堂/終章 炎上

風の如く 水の如く
(かぜのごとくみずのごとく)

安部龍太郎
(あべりゅうたろう)
[戦国]
★★★★

カバー:西のぼる
解説:縄田一男
時代:慶長五年(1600)年
場所:豊前中津、天満、大和郡山、大坂城西の丸、関ヶ原ほか
(集英社文庫・517円・99/03/25第1刷・340P)
購入日:99/03/21
読破日:99/04/02

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風の如く 水の如く 『関ヶ原連判状』(新潮社)に先立って、安部さんがさまざまな謎をもつ関ケ原の戦いに新しい解釈で挑んだ歴史小説。黒田如水・長政、本多正信・正純ら戦国武将の親子の情を絡めて、虚々実々の政治駆け引きが堪能できる。
家康の腹心・正純が関係する武将らを尋問してまわり、真相を明らかにしてゆく方法が面白く、明らかになっていく真相が面白い。

物語●関ケ原の戦い後、徳川新政権は恩賞問題に苦悩していた。多くの武将たちから届けられる訴状のなかに「黒田如水に謀反の疑いあり」というものがあった。これを重く見た家康は、本多正純にその真偽を確かめるように命じた…。

目次■第一章 治部失脚/第二章 家康暗殺/第三章 加賀征伐/第四章 上杉挙兵/第五章 小山会議/第六章 両軍激突/解説・縄田一男