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1999年3月・弥生の巻
道誉なり (上・下) by 北方謙三 |
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剣士の名言 (けんしのめいげん)
戸部新十郎
(廣済堂文庫・552円・98/04/01第1刷・338P) |
♪この本自体は、逆境をしたたかに生き抜くための人生訓として、ビジネスマン向けに編集されている。しかし、作者の意図は、剣豪たちの名言を中心に据えながらも、その足跡を簡明に綴ることに終始している。したがって取り上げられている名言も、箴言というべきものよりは、流祖として、その流儀を象徴するものや、人となりを表すものが多い。つまり、肩の凝らない本といえる。たとえば、白井亨の「剣先より輪が出る」とか、岩間小熊・土子泥之助の「悪霊とならん」など。 ほぼ年代順に剣豪が紹介されているので、剣術の流れを掴むのにも役立つ。 読みどころ●塚原卜伝、柳生石舟斎宗厳、宮本武蔵、千葉周作、近藤勇ら、42人の剣豪たちの名言を通してその生きざまを簡明に綴る剣豪列伝。 目次■飯篠長威斎/塚原卜伝/斎藤伝鬼坊/岩間小熊・土子泥之助/信太大和守朝勝/上泉伊勢守/柳生石舟斎宗厳/柳生但馬守宗矩/柳生十兵衛三厳/柳生兵庫助利厳/柳生連也斎厳包/丸目蔵人長恵/富田勢源/富田越後守重政/伊東一刀斎/小野次郎右衛門忠明/東郷藤兵衛重位/宮本武蔵/宝蔵院胤栄/川崎鑰之助/林崎甚助重信/樋口定次/関口氏業/針ヶ谷夕雲/小田切一雲/吉田大蔵/辻月丹/三浦源右衛門政為/長沼四郎左衛門国郷/桃井八郎左衛門/伊庭是水軒/平山行蔵/千葉周作/白井亨/斎藤弥九郎/男谷精一郎信友/島田虎之助/近藤周助邦武/近藤勇/山岡鉄舟/高野佐三郎/中山博道 |
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螢丸伝奇 (ほたるまるでんき)
えとう乱星
イラスト:百鬼丸 |
♪えとうさんの処女長篇の待望の文庫化。百鬼丸さんの画は、ほんとうに伝奇小説によく合う。以前、作者のえとうさんからメールをいただいたことがあるが、そのとき、『柳生武芸帳』に言及されていたことがあった。武芸帳自体は、未完ということもあり、ぼく自身はうまく消化できていなかったのだが、今回、えとうさんの本を読んだことにより、少しわかりかけた。この本は、五味康祐さんや隆慶一郎さんのファンの方にぜひ読んでほしい伝奇小説だ。 主人公の化龍は、沢庵和尚に育てられ、俊才として期待され明国に渡りながら、五年後に日本にもどってきたときには、呆けていた。ペルシャ猫のスジャータを連れ、墨染めの衣ながら、有髪のまま、首には水晶玉でできた二重の数珠をかけていた。この呆けるといった設定が、作者の「ほうけ奉行」にも通じるようで面白い。 物語●世の乱れを嘆き、阿蘇に眠る伝説の神刀“螢丸”を求めて旅立った沢庵和尚の弟子化龍(かりゅう)。だが、彼の思いとは裏腹に前途には血の匂いが…。柳生十兵衛が、宮本武蔵が、荒木又右衛門が剣戟の火花を散らす! 目次■螢丸由来/化龍出廬/八瀬無情/剣士往来/阿修羅山/幻塵螢丸/解説 宗肖之介 |
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海援隊烈風録 (かいえんたいれっぷうろく)
二宮隆雄
装丁:西口司郎 |
♪白石一郎さんの後を継ぐ海洋時代小説の書き手・二宮さんが描く海援隊。面白くならないわけがないといったところか。主人公を、幕末の英雄や明治の高官ではなく、塩飽諸島の佐柳島(さなぎしま)出身の船乗り・高次(たかじ)としたのが、嬉しい。この高次は、終始海の男らしく筋が通っているので、読後感が快い。現役ヨットマン作家らしく、咸臨丸で、暴風雨に遭遇するシーンの描写が圧巻。 白石さんも時期をほぼ同じくして、塩飽諸島出身の咸臨丸の乗組員を描いた作品『海の夜明け』(徳間書店)を発表されているので、読み比べてみたい。 物語●瀬戸内海、塩飽諸島生まれの船乗り、高次は、勝海舟、ジョン万次郎らと咸臨丸で太平洋を横断。アメリカの先進文明に衝撃を受け、開国の必要性を実感する。だが日本には、攘夷の風が吹き荒れていた。高次は、坂本龍馬と出会い、運命をともにしてゆく…。 目次■第一章 咸臨丸/第二章 脱藩浪人/第三章 神戸海軍操練所/第四章 亀山社中/第五章 海援隊/第六章 明治維新 |
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汚名 (おめい)
杉本苑子
カバー装画:粟屋充 |
♪永井路子さんとこの人の作品は、ずっと読みたいと思っていた。ようやく読む機会に恵まれた。期待に違わず、丹念に書かれたオーソドックスな時代小説って感じ。羽太雄平さんの『本多の狐』(講談社文庫)などの影響で、本多正純については、奸臣というマイナスのイメージは持っていなかったので、スッと胸に落ちる心地いい作品だった。しかし、この本が書かれるまでは、本多正純というと、謀臣、野心家、奸臣という悪役のイメージ一色と思われるだけに、この作品の価値は高いと思う。実はこの本を読もうと思ったのも、『本多の狐』の解説で杉本さんの本について触れられていたせいだ。 本多正純の感情が表されることなく、正純の不正、罪科を探る隠密の眼から描かれているのも面白い。 本多正純の失脚を扱った作品としては、時代小説大賞を受賞した『水の砦』(大久保智弘著・講談社文庫)が思い出される。 物語●家康に重用されて、幕府草創期にらつ腕を揮った能吏本多上野介正純。家康が亡くなり、二代秀忠の世になり、下野小山三万三千石から宇都宮十五万石五千石に国替えになった…。正純に怨みを抱く、古河・奥平家の加納御前(家康の長女)と堀伊賀守利重は、隠密を宇都宮に派遣することにした。堀利重の近侍の若侍・越ヶ谷謙作は、賄方の小者として宇都宮城に潜入した…。 目次■諜者ふたり/大久保事件/たけのこ/穴の中の女/はぐれ蛍/沼のほとり/伊賀組与力/成敗/若ぎみ姫ぎみ/念五郎地蔵/正月の客/お成り御殿/裏切り/土偶/肩すかし/暗転/走狗烹らる/みちのくへの道/あとがき/解説 縄田一男 |
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東京城残影 (とうけいじょうざんえい)
平山壽三郎
カバー画:井上安治「蠣殻町川岸の図」(神奈川県立歴史博物館) |
♪第九回時代小説大賞受賞作「東京城の夕映え」を単行本化にあたり改題し、加筆したもの。やったね。というところか。明治初頭という、あまり荒らされていない時代に着目したのがいい。「夫が箱館戦争から生還した夜、妻は大川に身を投げた。」と書かれた帯のコピーで、もう引きつけられてしまった。 作中に紹介された江戸から東京の間には、目に見えない橋が懸かっている」という渋沢の御前(栄一)の言葉が印象に残る。 昭和8年生まれということで、遅れてきた新人だが、確かな実力を見せている。体に気をつけて、一編でも多くの作品を書いてほしい。 物語●箱館戦争に加わっていた向井信一郎は、二年五カ月ぶりに江戸、いや東京(とうけい)に帰ってきた。残してきた家族を探し当てた。再会した夜、妻のお篠は、大川に身を投げた…。 目次■第一章 箱館くずれ/第二章 茂平の御一新/第三章 稲垣楼の女将/第四章 幕臣と官員/第五章 俥宿の親方/第六章 東京に渡る橋 |
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長江落日賦 (ちょうこうらくじつふ)
田中芳樹
装画:伊丹シナ子 |
♪お風呂で読んでいて、湯船に本を落としてしまう。久々の失敗。水気をたっぷり含んだ本って、かわいそう。田中芳樹さんの本で、中国時代小説を好きになる人って多いんだろうな。この作品集では、5つの話を収めているが、中国史に詳しい人でないとわからないような人たちが主人公になっている。しかし、確実にその描かれている時代の空気を感じることができる。 とくに「黒竜の城」のホラーぶりと「天山の舞姫」のエキゾチズムが印象に残る。 物語●「黒竜の城」明の都指揮使イシハは、黒竜江北岸の荒野で迷子になってしまった…。「天山の舞姫」安西都護府の武人・李炎は、サラセン軍が本営を構えるフェルガナに潜入して動静を探るために、カシュガルの街にやってきた…。「長安妖月記」唐の二人の武将・尉遅恭と薛仁貴が夜半に、宰相と国防大臣を兼ねる李靖の邸宅を訪ねた…。「白日、斜めなり」司馬氏によるクーデターが起き、魏の右将軍であった夏侯覇が蜀漢に亡命してきた…。「長江落日賦」梁の高官の息子・子鵬は、山中に隠棲する、南北朝時代の高名な学者、陶弘景のもとに、父の命で参上した…。 目次■黒竜の城/天山の舞姫/長安妖月記/白日、斜めなり/長江落日賦/解説 森福都 |
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御宿かわせみ 宝船まつり (おんやどかわせみ・たからぶねまつり)
平岩弓枝
装丁:蓬田やすひろ |
♪最近、新しい「かわせみ」を読むたびに、自分も年を取ったなあと思う。登場人物たちが年を重ねるとともに、その子どもたちがずいぶん大きくなってきた。と言うこともあるのかもしれないが、この巻では、表題作をはじめ、子どもをテーマにした話が多い。いじめや犯罪の低年齢化など現代にも通じる問題を扱っている。神林通之進と香苗の息子となった麻太郎(香苗の妹七重の友人・琴江の息子)とるいの初対面のシーンもみもの。 物語●「冬鳥の恋」るいは、歳暮の挨拶に神林家を訪れた。そこで、養子となった麻太郎と初めて対面した…。「西行法師の短冊」東吾が講部所から帰ってくると、居間の障子が一枚はずされていて、お吉と見慣れない若い男が顔を突き合わせるようにして何かやっていた。娘の千春が悪戯をしたという…。「宝船まつり」亀戸村の宝船祭で幼児がさらわれた。時を同じくして「かわせみ」に逗留していた名主の嫁が失踪した…。「神明ノ原の血闘」軍艦操練所の同僚にもてなされて夜遅くなった東吾は、湯島天神の裏で盗賊と出会った…。「大力お石」所沢から新しい奉公人お石がかわせみにやってきた…。「女師匠」深川へ出かけたお吉は、混雑する団子屋の前で、人とぶつかった。十五、六の娘が転んでいて、連れのもう一人の娘が騒ぎ出した…。「長崎から来た女」東吾は幕府の練習艦で長崎へ行った…。「大山まいり」岡っ引きの長助は、深川の町内の連中と一緒に大山まいりに出かけた…。 目次■冬鳥の恋|西行法師の短冊|宝船まつり|神明ノ原の血闘|大力お石|女師匠|長崎から来た女|大山まいり |
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妖し陽炎の剣 介錯人・野晒唐十郎 (あやしかげろうのけん・かいしゃくにん・のざらしとうじゅうろう)
鳥羽亮
カバーデザイン:中原達治 |
♪『鬼哭の剣』(祥伝社文庫)に続くシリーズ第二弾。シリーズものは、二作目がポイントである。そういう意味から言えば、この作品は成功だと思う。一作目で登場した人物をうまくさばきながら、新しいキャラクターもとりいれている。大塩平八郎の残党に着目したのが面白い。鳥羽さんの作品には、タイトルに“剣”が付くものが多い。作者自身剣道三段ということもあり、剣の立ち会いの場面が圧巻である。主人公が時折、斬られて怪我をしてしまうのもハードボイルドっぽい感じを出している。 早くシリーズ第三弾が読みたい。 物語●南町奉行所同心と岡っ引きが本所相生町の夜道で辻斬りに遭った。同じ夜、「大塩救民党」と名乗る黒覆面の武士集団が、浅草諏訪町の米問屋を襲い、千二百両を強奪した。その翌日、切腹の介錯や試し斬りによる試刀を生業にする狩谷唐十郎は、幕府大目付の要職にある二千石の旗本の屋敷で試刀をすることになっていた。そこで、唐十郎が見た刀は…。 目次■第一章 京女鬼丸/第二章 三龍包囲陣/第三章 大塩救民党/第四章 槍と居合/第五章 化身/第六章 大川残映 |
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道誉なり 上・下 (どうよなり・じょうげ)
北方謙三
カバー:西のぼる |
♪「毀すこと―それがばさら」と、南北朝時代の荒波を乗り越えた「ばさら大名」佐々木道誉の半生を描いた歴史巨編。この時代は、悪党がいて、バサラがいてと、なかなか興味深い時代である。道誉というと、NHK大河ドラマの影響から、陣内孝則さんのイメージ(豊臣秀次など、この人、エキセントリックな配役が多く好きな役者の一人だ)が浮かび、ハマリ役と密かに思っている。この本も陣内さんを思い浮かべながら、読んだのだが、少し違和感を持った。バランス感覚が優れていて優等生というか完璧というか如才がないというか、「ばさら」という外見に騙されてはいけないスケールの大きな人物なのである。 時代の中心にいる足利尊氏が、現代人のように複雑な人物像として描かれているために、物語としてのスッキリ感(カタルシス)がいまいちである。エンターテイメント性を失わずに、尊氏を描くのは難しい。 また、北方さんの作品は、歴史小説っぽくない。年号がはっきり出てこないし、登場人物も官職名などを使わず、姓名のみの表記のせいか、新鮮。この点で逆に読みにくく感じる人もいるのかも。 物語●南北の六波羅探題が京を捨て、北条時益は逃亡の途中で射殺され、北条仲時が一族郎党と持明院統の天子、上皇を連れて近江に逃げ込んでいた…。佐々木道誉は、配下の悪党を使って、六波羅の一行を止めようとした…。 目次■第一章 激流/第二章 京より遠く/第三章 いかなる旗のもとに/第四章 征夷大将軍/第五章 猿の皮(以上上巻)、第六章 花一揆/第七章 橋勧進/第八章 騒擾やまず/第九章 無窮/第十章 尊氏は死なず/解説 縄田一男(以上下巻) |