|
地獄の女殺し 玄白歌麿捕物帳 (じごくのおんなごろし・げんぱくうたまろとりものちょう)
笹沢左保
装画:三谷一馬 |
♪蘭学医杉田玄白、絵師喜多川歌麿、剣士平山行蔵が活躍する、連作捕物帳の第2弾。玄白の科学的な推理力、歌麿の人間通ぶり、行蔵の剣技の見事さに、紅一点の船宿の女将お艶が彩りを添え、ますます快調。笹沢さんらしい職人的な筆が冴える。前作では、玄白の活躍ぶりが目立ったが、今回は歌麿と行蔵の持ち味がよく出ている。「ですます」調の文体で、独特の雰囲気を醸し出している。さりげなく江戸の風俗や考証が楽しめるのも笹沢作品の特徴。 物語●「伝通院の参詣人」日本橋南の酒問屋の若主人が殺されたが、第一容疑者は犯行時刻に伝通院にいた…。「怪談を恐れる男」築地に幽霊が出るという噂が広まった…。「回向院の下屋敷」下り酒問屋に盗賊が入ったが、何やら妙な盗賊だった…。「鬼の仏心」蝋燭問屋の前に、ひとりの托鉢僧がたたずみ、店には危難の相が表れているという…。「地獄の女殺し」若い女たちが家から大金を持ち出して、密会場所で刺殺される事件が続発した…。「女が登れる木」バイアグラのような媚薬が大ヒットした唐和薬種問屋の主人で堅物の男が突然、恋の虜になった…。 目次■第一話 伝通院の参詣人/第二話 怪談を恐れる男/第三話 回向院の下屋敷/第四話 鬼の仏心/第五話 地獄の女殺し/第六話 女が登れる木/解説 縄田一男 |
|
密命 見参! 寒月霞斬り (みつめい・けんざん・かんげつかすみぎり)
佐伯泰英
カバーイラスト:古賀政男 |
♪『闘牛士エル・コルドベス一九六九年の反乱』で第1回プレーボーイ・ドキュメント・ファイル大賞を受賞した著者の時代小説。学生時代に『闘牛士〜』を読んだとき、ヘミングウェイの『陽はまた昇る』を思い出して、スペインにあこがれたものである。その著者と時代小説で出会えて感慨深い。下級藩士が御家騒動に巻き込まれ、脱藩して江戸の市井で、日々の糧を何とか得ながら、密命を果たすべく東奔西走する、藤沢周平さんの『用心棒日月抄』を彷彿させる展開が楽しい。 主人公の属する豊後相良藩は、架空の藩だが佐伯藩をモデルにしているようだ。佐伯藩は、現在の大分県佐伯市を領地に、毛利高政が藩祖。八代藩主高標のときに、「佐伯文庫」と呼ばれる八万冊をほこる蔵書を持っていた。2万石の外様大名ということで、地味な存在だが、こんな形でもスポットが当たることはうれしい。 物語●六万冊の蔵書を誇る豊後相良藩に、御禁制の切支丹本所持の嫌疑がかけられた。直心影流の達人金杉惣三郎は、藩主から密命を受けて脱藩し、江戸へ。江戸で食べる手だてと身を潜める場所を必要とした惣三郎は、火事始末御用の手伝いをすることになる。…。 目次■火事始末御用/松造の恋/駆け込み者/抜け参り/渡り燕/龍虎、あい撃つ |
|
秘剣水鏡 (ひけんみつかかみ)
戸部新十郎
写真提供:里文出版「鐔の美」より |
♪剣の流派について、その代表的な剣豪たちのエピソードを綴る短篇集。剣の真髄に触れられて、ためになる。一度、閑ができたら剣の流派のチャート図をまとめてみたいものだ。 柳生宗矩・十兵衛や佐々木小次郎といった、時代小説でよく知られている剣豪ばかりでなく、無外流の辻月丹兵内(剣客商売の秋山小兵衛の師の師・平内)や鳥取藩で普及したローカルな雖井蛙流(せいありゅう)の深尾角馬など、興味深い人物にもスポットを当てている。 物語●「無明」中条流の富田勢源に従う猪口才な少年はやがて…。「善鬼」淀川下りの船頭をしていた善鬼は、廻国の兵法者がいると挑んだ…。「岩柳」小田原の山中で娘と共に藍を染める岩柳斎のもとに、佐々木小次郎が訪れた…。「大休」柳生宗矩の門弟庄田喜左衛門は、師の命で松田織部之助を討つことになった…。「水月」柳生の里を天下一の医師・岡本玄冶が現われた。柳生十兵衛の見舞いのためであった…・「無外」無外流の祖、辻月丹を通して一兵法者の典型を描く…。「牡丹」深尾角馬は、幼き頃、鳥取の城下で高名な荒木又右衛門を見た…。「水鏡」前田家五代藩主綱利の国入りでの兵法御覧で、加賀ゆかりの深甚流が披露されることに…。「空鈍」狩野叶は、兵法修行を重ねるうちに、小出切一雲がまことの達人であることを教えられる…。「花影」位の桃井といわれる、鏡心明智流が隆盛を極めた秘訣とは……。 目次■無明|善鬼|岩柳|大休|水月|無外|牡丹|水鏡|空鈍|花影|解説 縄田一男 |
|
紫紺のつばめ 髪結い伊三次捕物余話 (しこんのつばめ・かみゆいいさじとりものよばなし)
宇江佐真理
装画:東啓三郎 |
♪'99年4月よりフジテレビ系で、ドラマ化が決定した。主役の廻り髪結い伊三次は、中村橋之助さんが演じる。恋人役のお文は、大河ドラマで活躍する元宝塚の涼風真世さん。新進作家であり、シリーズもまだ2作ということで、ドラマ化が少し早いような気もするが、何とも楽しみだ。さて、シリーズ第2弾の本作だが、登場人物たちがいよいよ個性を発揮しだして、面白さがグッとました。女性作家ということもあり、平岩弓枝さんの「かわせみ」シリーズや北原亞以子さんの作品に通じる、江戸の四季の中に、人と人の繋がりの温かさが堪能できる。 伊三次とお文の関係を見ていて、ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズを思い出した。 物語●「紫紺のつばめ」深川芸者のお文は、かつて世話になった旦那の息子の援助で家を改築することになった…。「ひで」伊三次の幼なじみの日出吉は、料理屋を辞めて大工の修業をはじめた…。「菜の花の戦ぐ岸辺」伊三次は世話になった大店の隠居を久しぶりに訪ねた。その夜、その隠居が殺された…。「鳥瞰図」伊三次は、歌川派の絵師の家で、鳥の眼で江戸の町を眺める構図の絵を見た…。「摩利支天横丁の月」深川芸者のお文の家の女中・おみつが姿を消した…。 目次■紫紺のつばめ|ひで|菜の花の戦ぐ岸辺|鳥瞰図|摩利支天横丁の月 |
|
運命の剣 のきばしら (うんめいのけん・のきばしら)
中村隆資、鳴海丈、火坂雅志、宮部みゆき、安部龍太郎、宮本昌孝、東郷隆
装丁:菊地信義 |
♪中村隆資、鳴海丈、火坂雅志、宮部みゆき、安部龍太郎、宮本昌孝、東郷隆の七人が、書き継ぐちょっと豪華なリレー小説。一振りの太刀の変遷を、それぞれの作家たちが個性を生かして綴る快作。それぞれの作家の登場順も実によく考えられている。とくに、真ん中で、バランスをとった宮部さんと最後をうまく納めた東郷さんは、うまい。鳴海さんについて、エロスとバイオレンスのイメージがあったので懸念していたが、この話についてはそういう要素が見られずに、メリハリが利いた面白い作品に仕上がっている。 個人的には宮本さんの話がいちばん好きだ。「姿三四郎」のモデルも登場したり、ヒロインの爽やかでけなげな感じが何とも好ましい。 物語●「敢えて銘を刻まず」備前の刀匠助平は、若武者のために太刀を打ち贈ることにした…。「犬死将軍」宮下勝四郎と名乗る若者が馬借の用心棒となり、襲撃してきた盗賊を撃退した…。「利休燈籠斬り」千利休のもとに古道具屋が一振りの刀を持参した…。「あかね転生」質屋を営む角治郎とお福の夫婦は、小さな女の子をもらい子した…。「斬奸刀」岡田以蔵は、糺河原で野犬を斬りまくった…。「明治烈婦剣」阿賀野川を下る舟の中で子守り少女・おけいは、西洋服に身を包んだ若い男と知り合った…。「残欠」敗戦を目前に控え、近衛第一連隊では特別作戦が執り行われた…。 目次■第一話 敢えて銘を刻まず―中村隆資|第二話 犬死将軍―鳴海丈|第三話 利休燈籠斬り―火坂雅志|第四話 あかね転生―宮城みゆき|第五話 斬奸刀―安部龍太郎|第六話 明治烈婦剣―宮本昌孝|最終話 残欠―東郷隆|解説 縄田一男 |
|
朱紋様 (あけもよう)
皆川博子
装画:鈴木春信「牛に乗る遊女」 |
♪ミステリー『死の泉』でブレイクした観のある皆川さんの最新短篇集。作者得意の歌舞伎役者、火消し、遊女などを描き、江戸の情念があふれる作品集。「朱紋様」では、習作時代の式亭三馬が登場するのも興味深い。 「恋すてふ」や「露とこたへて」、「木蓮寺|、「炎魔」、「仲秋に」などちょっと不思議で幻想的な短編も収められ、作者の別の特徴もいかんなく発揮されている。「恋すてふ」は、国枝史郎の『染吉の朱盆』の本歌取りである。 物語●「雨夜叉」鬘屋の友九郎は若い男客にゆすりをかけられた…。「影かくし」十一代目中村勘三郎は、都伝内と名乗る男の火事見舞いを受けた…。「炎魔」鶴屋南北を父にもつ重兵衛は、深川櫓下で女郎屋を開いた…。「朱紋様」おしのは、あこがれの纏持ちと祝言を挙げたが、纏持ちには血のつながらない妹がいた…。「雲母橋」お梅とお藤の姉妹は突っ込み人形で遊んでいた…。 目次■雨夜叉|影かくし|炎魔|朱紋様|雲母橋|恋すてふ|露とこたへて|木蓮寺|仲秋に|春情指人形|みぞれ橋 |
|
長脇差大名 (ながどすだいみょう)
高木彬光
装画:堂昌一 時代:不明 場所:鉄砲洲、深川十万坪、門前仲町、天城峠、神田鍛冶町 (春陽文庫・467円・98/12/20第1刷・232P) 購入日:98/12/19 読破日:99/02/08 |
♪高木彬光さんというと、15年ぐらい前までは推理小説界を代表する作家の一人で、『白昼の死角』などで知られた方である。中学生の頃に読んだ、義経=ジンギスカン説を扱った『成吉思汗の秘密』が印象に残る。そのため、本作のようなオールドスタイルの時代小説を書かれていたことが意外だった。「大名五郎蔵」と呼ばれる侠客を描いた連作形式の時代小説で、春陽文庫らしいつくりになっている。五郎蔵って聞くと、『鬼平犯科帳』の密偵・大滝の五郎蔵がまず頭に浮かぶが。こちらの五郎蔵さんもなかなかユニークだ。武州川越十八万五千石、松平大和守の長男麻若丸が、世子の座を捨て、人入れ稼業の元締めになったのである。そんな彼の周りには、剣難女難がつきまとう…。 物語●「花の千両肌」川越藩に奉公にあがっているお小夜の父で、人入れ稼業の大和屋が何者かによって辻斬りにあった…。「大名五郎蔵」ばくち帰りの侠客が大名五郎蔵と名乗る男に斬殺された…。「名月安宅丸」大名五郎蔵は、夜道で、刃物をもった男に襲われかかった御殿女中を助けた…。「異聞髑髏屋敷」ばくち帰りの五郎蔵は、夜道で武家娘に仇と斬りかかられた…。「長脇差あらし」五郎蔵は子分といっしょに湯ガ島の温泉に来ていた…。「妖説鬼女屋敷」五郎蔵は骨董商の男からばくちのかたに唐獅子の置物を預かった…。 目次■花の千両肌|大名五郎蔵|名月安宅丸|異聞髑髏屋敷|長脇差あらし|妖説鬼女屋敷 |
|
漢学者・寺門静軒の謎解き帳 夜鷹殺し 闇の平仄 (かんがくしゃ・てらかどせいけんのなぞときちょう・よたかごろし・やみのひょうそく)
永井義男
装画:百鬼丸 |
♪寺門静軒(てらかどせいけん)というと、江戸後期に活躍した漢学者で、戯作『江戸繁昌記』の作者として知られる。杉本章子さんの「男の軌跡」(『名主の裔』文春文庫収録)で、主人公として描かれている。杉本さんは、卒論でも寺門静軒を扱われたそうだ。永井さんの本の魅力というと、(1)ミステリーの筋立ての面白さ (2)配役の斬新さ、とくに意外な有名人を起用すること (3)時代考証のわかりやすさがあげられる。この作品はその特徴がいかんなく発揮されている。
物語●夜鷹が奇怪な姿で殺される事件が続発した…。 目次■序/第一章 静軒登場―七百五十両の惨殺/第二章 静軒疾る―漢詩と石灯籠/第三章 静軒閃く―過去焼失 |
|
南海血風録 (なんかいけっぷうろく)
高橋義夫
カバーイラスト:西のぼる |
♪日本史の年表を見ていると、不思議な事件を発見することがある。「浜田弥兵衛、オランダ人ヌイツを台湾に捕縛、平戸に拘禁す」(「日本史年表・地図」吉川弘文館より)という記事が、以前から気になっていた。ホント、どうして? こんなことが可能なの?この本は、この事件を描いている。しかも、明国秘伝の拳法の使い手の日蘭混血児や関ヶ原の生き残りの海商ら架空の人物を主人公に据え、伝奇色を盛り込んで、エンターテインメント度たっぷりで楽しめる。 物語●長崎代官・末次平蔵の御朱印船で、美麗島(フォルモサ=台湾)へ渡った淡水(天野屋太郎左衛門)は、そこで六道(ろくどう)と名乗る日蘭混血の青年と出会い、長崎へ連れ戻ることになる。六道は、明国拳法の使い手であった…。 目次■美麗島(フォルモサ)の六道/長崎の六道/大江戸の六道/海に還る六道/新港社(シヌカンしゃ)の六道/ゼーランジャ城の六道/闇夜の六道/解説 石井冨士弥 |
|
妖怪 (ようかい)
平岩弓枝
装画:松本高明「トマト」 |
♪へそ曲がりのせいか、歴史上の人物を世評通りに見ないようになってしまった。田沼意次や吉良上野介、徳川綱吉などは評価を変えてつつある。そんな中で、鳥居甲斐守忠耀だけは、悪役に描かれていない作品を見つけるのは難しかった。平岩さんが鳥居忠耀を描くというのは、意外な感じもするが、「かわせみ」や「はやぶさ新八」などの捕物帳の取材を通じて、いろいろな資料を読まれたのであろう。とても中身の濃い作品で、新しい鳥居像が確立できたように思う。 失脚後の鳥居の姿が感動ものだ。 物語●水野忠邦の懐刀として天保の改革に辣腕を揮い、世人の怨嗟の的となった能吏の悲劇の生涯を描く。鳥居甲斐守忠耀は、本当に悪人だったのか…。 目次■なし |
|
鬼哭の剣 介錯人・野晒唐十郎 (きこくのけん・かいしゃくにん・のざらしとうじゅうろう)
鳥羽亮
カバーデザイン:中原達治 |
♪備前長船派の名工として名高い曾我弥五郎清国の名刀をめぐる鳥居甲斐守一派と老中土井利位派の抗争劇。そこに巻き込まれるのは、小宮山流居合の道場主で、十年前に何者かに父を殺された介錯人・狩谷唐十郎だ。唐十郎は、一人介錯するたびに、庭に野晒のように小さな石仏を置いていくのだった…。鳥羽さんの作品の面白さは、剣戟シーンの迫力とその剣技の確かさ。本作でも、居合いと甲源一刀流の対決は圧巻。 金にうるさい岡っ引き・貉の弐平、明屋敷番伊賀者組頭・相良甲蔵とその娘咲、大猿次郎など、魅力的なキャラクターが脇を固めることで、話を盛り上げている。
物語●介錯人、狩谷唐十郎は、旗本の屋敷で切腹の介錯と名刀・五郎清国の試刀を依頼された。試刀した五郎清国は贋作であったが、依頼人にはそのことを伝えなかった…。 目次■第一章 五郎清国/第二章 鬼哭啾啾/第三章 逆襲/第四章 暗闘/第五章 怪鳥失墜 |
|
海の往還記 近世国際人列伝 (うみのおうかんき・きんせいこくさいじんれつでん)
泉秀樹
装幀:武田信乃 |
♪小西行長、山田長政、鄭成功ら、白石一郎さんの小説でおなじみのキャラクターも多数登場して、その事跡をおさらいするのにピッタリの好著。「パクス・トクガワナの映像」の章を読んで、鎖国というの制度のよい点があったことを今更ながら知った。大きな収穫である。 読みどころ●ザビエル、フロイス、天正少年使節、三浦按針、ケンペル…。波涛万里を越えて日本を往還した男たちに光を当て、その足跡をエピソード豊かに辿る読み物。戦国〜江戸期の国際交流の先駆者たちの実像が浮かび上がる…。 目次■美しい日本人 フランシスコ・ザビエルの極東体験|日本占領計画 ルイス・フロイスの生涯|栄光と挫折 天正少年使節・その後|豪商一代記 宗室と宗湛の黄金の日々|九州がほしかった男 小西行長の詐術|武士と茶と神 高山右近という生き方|望郷と計算 ウィリアム・アダムズと三浦按針|波瀾万丈物語 『国姓爺合戦』の背景|棄てられた日本人 山田長政の挑戦|パクス・トクガワナの映像 ケンペルの碧眼元禄旅日記|星条旗と日本の関係 吉田松陰とペリー|時代の空気 イギリス士官暗殺事件|『歩む人』の生涯 川路聖謨とプチャーチン|あとがき/参考文献 |