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1999年1月・睦月の巻
幕末暗号戦争 by 永井義男
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雪姫世直し帖 《春色炎の舞》 (ゆきひめよなおしちょう・しゅんしょくほのおのまい)
谷恒生
カバーイラスト:仲村計 |
♪1989年4月、講談社より刊行された『雪姫七変化』を改題したもの。谷さんというと、学生の頃に読んだ『喜望峰』や『マラッカ海峡』などの海洋冒険小説のイメージが強く、時代小説というと、違和感を感じていまう。ずいぶん前から、海洋冒険ものは書かれなくなったことは知っていたが、本作品を読んで作風がまったく違っているのでビックリした。 主人公の雪姫が、鏡心明智流・二代目桃井春蔵直一の門弟という設定であるが、桃井道場が舞台の一つとなって出てくるのは興味深い。 縄田さんの解説によると、「浮世絵師・紫頭巾」と「琴姫七変化」を足して二で割ったものに、「鞍馬天狗・角兵衛獅子」のスパイスを加えたものといえそうだ。
物語●田沼意次の賄賂政治の全盛期、あるときは美人芸者、奇術師の蛍火乱紅、またあるときは謎の剣士紅頭巾と、艶やかに変身をとげ、江戸の悪を懲らしめる美貌の雪姫の正体とは…。 目次■第一章 破戒坊主/第二章 角兵衛獅子/第三章 老女浅丘/第四章 危うし、紅頭巾/解説 縄田一男 |
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瀧桜 (たきざくら)
澤田ふじ子
カバーイラスト:蓬田やすひろ |
♪1994年8月に朝日新聞社より刊行された『閻魔王牒状』を改題したもの。あとがきによると、自然の諸相の中で、作者がもっとも魅せられるものは、瀧の姿であるということ。瀧には、伝説や物語があり、男性的な荒々しさが、一転して静謐にもどる姿に、たまらない好ましさを感じるという。 この作品では、12の瀧が登場し、12の物語を紡ぎ出している。高名な瀧もあれば、無名のものもある。各話とも原稿用紙23枚の制限の中で、スリリングな一編に仕上がっている。とくに、「天空妙音」と「閻魔王牒状」は秀逸。 物語●「熊野の絵師」熊野山中の那智社に“ほっきょう”と呼ばれる絵師が住んでいた…。「仏の橋」暁闇の中、清水寺奥院の音羽瀧に打たれに行く娘がいた…。「天賦冬旅図」作庭師の宗阿弥は、工事現場をぼんやり眺めていたひとりの初老の男に目を留めた…。「嘘は好けれ」大垣藩士が藩主の購入した名画を運ぶ一行を出迎えにいった…。「天空妙音」奥飛騨の寒村に原因不明の熱病が流行した…。「瀧桜」公家・大炊御門経久は、病床で磐城・三春の瀧桜を夢見ていた…。「壷中山居」伊佐蔵は根付師としての腕を持ちながら道楽が過ぎて、借金に追われていた…。「美濃の聖」数人の子供たちが、不審な墨染姿の僧に向けて威嚇の礫を投げつけた…。「比良の水底」葛川の瀧の音にまじり若い修験者が修業をしていた…。「閻魔王牒状」源蔵は愛宕山から丹波を稼ぎ場とする猟師だった…。「わくらば蕪村」六十三歳の蕪村は、布引瀧を見て一句詠んだ…。「水面の顔」太吉は、母の病気の回復を祈って、三日に一度、伏見稲荷の弘法瀧に打たれ、その水を汲んみ、薬として母に飲ませていた…。 目次■熊野の絵師|仏の橋|天賦冬旅図|嘘は好けれ|天空妙音|瀧桜|壷中山居|美濃の聖|比良の水底|閻魔王牒状|わくらば蕪村|水面の顔|あとがき|解説 縄田一男 |
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玄白歌麿捕物帳 (げんぱくうたまろとりものちょう)
笹沢左保
カバー装画:三谷一馬 |
♪本がカバーよりも一回り小さいのは、返品になった本の回りにグラインダーで磨きをかけたせいだろうか。あきらめかけていた本だけに、八重洲ブックセンターで見つけたときはうれしかった。江戸情緒を伝える三谷さんの装画も趣きがある。主人公は、タイトルにあるように蘭学者の杉田玄白と、喜多川歌麿、そして、御家人で、真貫流、神道一心流、講武実用流の剣術の達人・平山行蔵(こうぞう)と船宿の美人女将・お艶の四人。この四人のメンバーが、お艶の経営する柳橋の船宿“桜桃亭”の二階の角部屋“風流洞”に集まり、難事件に取り組む連作捕物帳。 笹沢さんの職人的な技が楽しめる、肩の凝らない作品。有名人が登場することで親しみやすく、当時の文化の一端も知ることができる。また、ダイイングメッセージがあったり、アリバイ崩しがあったりして、扱う事件にもバラエティが富んでいる。 物語●「酔った養女」目隠しをした盗賊が、悪評高い豪商を襲った…。「街道の柔肌」桜桃亭を贔屓にする旦那が心臓を矢で射抜かれて殺された…。「粗忽な悪人」小銭しか狙わない追い剥ぎが江戸市中のあちこちに出現した…。「大川端心中」桜桃亭の屋形船で、男女の心中のような死体が発見された…。「雪の判じ絵」歌麿は、同業の絵師の仲介で、男女の睦み合いを描くことになった…。「裏切りの紅梅」夜鷹が兄弟のような二人組の侍に襲われる事件が続出した…。 目次■第一話 酔った養女/第二話 街道の柔肌/第三話 粗忽な悪人/第四話 大川端心中/第五話 雪の判じ絵/第六話 裏切りの紅梅/解説 縄田一男 |
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柳生武芸帳 上・下 (やぎゅうぶげいちょう・じょうげ)
五味康祐
カバー:岩田専太郎 |
♪上下巻合わせて1400ページ余りを通勤途中に読みはじめ、読了までに20日近くかかってしまった。多彩な人物が登場し、挿話に挿話を重ねているために、ストーリーと人間関係を頭の中で整理するのに難渋した。もちろん、各挿話をパーツごとに取り出すと、それぞれが独立してもかなり面白いのだが…。時代小説の古典といわれ、多くの方が名作として上げられているだけに、もう少しわかりやすい作品と勝手に思っていた。恥ずかしい話だが、巻末の縄田さんの解説を読んで、ようやく全体像がつかめた。読み終えてみると、隆慶一郎さんの一連の作品が、この作品の影響を受けていると批評される訳がよくわかった。『吉原御免状』(新潮文庫)は、未完で終わったこの作品のアンサーソングなのだ。奇しくもともに、『週刊新潮』に連載されることになる。 また、作者自身が、隆さんの場合とは違い、時間的な余裕を持ちながらも、完結させなかったのもなんとなくわかる気がする。 物語●唐津藩主寺沢堅高が自殺する六日前に、自刃をすべきか否か評定が行われた。そこで、武芸者山田浮月斎は、自害を勧めた。その理由として、公儀隠密を務める柳生の正体を暴露した…。 目次■なし |
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大江戸仙女暦 (おおえどせんじょれき)
石川英輔
カバー装画:村上豊 |
♪『いな吉江戸暦』改題。洋書に、『Then and Now』というシリーズがある。歴史的な建造物(たとえば、パルテノン神殿やコロッセウムなど)の現在の姿と、建造直後の姿を比較して見せるものである。その比較の仕方がユニークで、現在の姿の写真の上に、透明シートの上にかつての様子を伝える絵を描き、現在とかつてで共通する部分は透明のまま残すというスタイルで、どの部分がどのように変化したかがわかる仕組になっていた。『Then and Now: Cities』は、その都市編であり、ロンドンと東京も含まれていた。ロンドンなどのヨーロッパの街が、昔の建造物も大切に遺しているのに対して、東京は一変してしまっていた。 『大江戸』シリーズの最新作では、主人公の速見洋介は、遂にロンドンの昔にも行くことになる。ふと、『Then and Now』を思い出してしまった。作者は、今までの作品で、現在と江戸時代を比較し、エネルギー事情を中心に江戸時代を評価してきた。今回は、論をさらに進めて、江戸時代と同時代のロンドンと比較し、江戸時代を評価している。 こんな風に書くと、難しい本に思えるが、物語はお気楽である。現代から江戸へ転時(タイムトラベル)した男が、芸者と贅を凝らして、江戸の名所を巡るお話である。歌舞伎の顔見世興行の初日を特等席で見物したり、大川の舟遊びを楽しんだり、愛宕山で雪見をしたりと。
物語●速見洋介は、博物館の取材でロンドンに来ていた。シティからロンドン橋まで歩く間に、洋介は、約百六十年前のロンドンの世界を透視してみた…。 目次■ロンドン橋/流子/いな吉/周の春/顔見世/団十郎/白魚/テームズ川/大川/春着/夏と春/東と西/二人/愛宕山/紅と白/あとがき/文庫版あとがき/解説 新井素子/参考文献について |
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おれは権現 (おれはごんげん)
司馬遼太郎
カバー装画:井伊家美術館蔵「大坂夏の陣屏風」部分 |
♪フジテレビの正月時代劇の放映の話を聞いたとき、司馬遼太郎さんに『けろり道頓』という作品があったかなあ、と首をひねった。念のために、書店で本を調べたが見つけられなかった。『司馬遼太郎全作品事典』(新人物往来社)によると、『おれは権現』と『最後の伊賀者』(講談社文庫)に収録されていることがわかり、Get!した。読みはじめてみて、テレビ関係者は、よくドラマ化したと思った。この作品集自体、肩の力が抜けていて、軽妙洒脱で不思議な明るさを持っている。古き良き時代小説って感じがしてうれしい。 物語●「愛染明王」十四歳のとき、市松は、尾張清洲城下で、泥酔した足軽を庖丁で殺した… 。「おれは権現」福島正則の家中に、可児才蔵という豪傑がいた。彼には奇癖があった…。「助兵衛物語」宇喜多家の侍大将・花房助兵衛は、小田原討伐の際に、早雲寺で出雲の歩き巫女を助けた…。「覚兵衛物語」肥後加藤家の老臣飯田覚兵衛は、孫ほどに幼い妾をもつことになった…。「若江堤の霧」薬師寺閑斎のもとに、秀頼の家宰大野修理治長の使者があった…。「信九郎物語」百姓の孫・信九郎は十六歳のときに、三人の武士の手によって元服した…。「けろり道頓」関白秀吉は、大坂・天満の青物市を見物していた。そこで、彼が見たものは…。 目次■愛染明王|おれは権現|助兵衛物語|覚兵衛物語|若江堤の霧|信九郎物語|けろり道頓|小説のうまさ 津本陽|年譜 |
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怒涛のごとく 上・下 (どとうのごとく・じょうげ)
白石一郎
装幀・画:西のぼる |
♪海洋時代小説の第一人者、白石さんの久々の中国もの。主人公は、日明混血児で、国姓爺(こくせんや)と呼ばれた鄭成功。彼は、建国の祖として、民族の英雄として、現在の台湾、中国の双方でその評価は高い。近松の戯曲で描かれたほか、日本との関わりも深い。あとがきによると、作者は太閤記などのように、史上の英雄を、誕生から死亡まで書き通すという物語としてもっとも素朴な手法で、読者に喜んでもらうことを考えたという。歴史エンターテインメントとして大いに楽しめた。 作者お得意の海洋シーンが圧巻であったほか、意外なことに当時の明の試験制度が詳しく描かれていて興味深かった。 物語●1624年、落日の平戸の浜で、日中混血の運命の子・鄭森(後の鄭成功、日本名田川福松)が生れた。母は日本人医師田川七左衛門の娘・マツ、父は明国人の海賊の幹部・鄭芝龍。動乱の東アジアの海を舞台に、鄭芝龍・成功親子の活躍が始まる…。 目次■夕日の子/海上王/平戸/飛虹将軍(以上上巻)/南京の嵐/鄭成功/思明州/遠征/台湾海峡/あとがき(以上下巻) |
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幕末暗号戦争 (ばくまつあんごうせんそう)
永井義男
装幀:菊地信義 時代:安政五年(1858) 場所:外桜田、新宿(葛飾)、赤坂田町、千住、水戸 (幻冬舎・1,600円・99/01/05第1刷・300P) 購入日:98/12/23 読破日:99/01/02 |
♪いつも感心するところだが、永井さんの目の付け所はいい。今回もタイトルを見た瞬間読んでみたくなった。しかも題材は、「桜田門外の変」にまつわる暗号といえば…。時代小説とミステリーの融合が楽しめる。徳川斉昭が考案した神発仮名(しんぱつがな)というのが面白かった。従来の史観のせいか、井伊直弼というと、どうも悪いイメージしかないが、今度は舟橋聖一さんの『花の生涯』を読んでみようと思う。 物語●関東取締出役の石毛市之丞と佐々木銀四郎は、大老・井伊直弼の側近・宇津木六之丞の命で、水戸街道の新宿に訪れた。水戸街道筋で水戸家の情報収集に当たれというものだった。そこで、二人は、近在の百姓の老人・伝兵衛と知り合う。彼には不思議な能力があった…。 目次■なし |